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Everything-as-a-service(XaaS):サービス化されていくシステム

サービス化による基幹システムの再創造

多くの企業において既存ビジネスの再整理が進められている。直近で到来しているデジタル化のトレンドの中で、さらなる将来を見据えて、中長期的にビジネスの基盤となりうる「顧客主義・成果ベースのサービス指向プラットフォーム」を実現するロードマップを描くことが必要なのである。こうした状況において、Everything-as-a-service(XaaS)がビジネス上大きなインパクトを与えうるトレンドとして、昨今本格的に検討され始めてきている。

基幹システムの再創造に乗り出すのは今だ

 Gartnerのテクノロジー領域における投資状況に関するレポートによると、近年の日本企業におけるテクノロジー領域への投資は、ERPが最も多く、次にクラウド及びBI/アナリティクスとなっている。一方で、海外企業はBI/アナリティクスが最上位、次にインフラ、クラウドが続いている。1 つまり、グローバルでは、既にERPの再構築、クラウドの導入が一巡し、ビッグデータを活用したアナリティクスなど、次のステージに進んでいる企業が多数であるのに対し、多くの日本企業がいまだERPに多くの投資をせざるをえない、トレンドから大きく立ち遅れてしまっている状況にあるといえる。

 日本企業のクラウド投資の状況に目を移すと、2016年のクラウド採用率は16%であり、ここ5年間での増加を見ても、わずか6ポイントに留まっている。2 これは、クラウドサービスの利用率が60%を超えるグローバルの状況とは依然大きくかけ離れたものとなっている。3

 「デジタル化」、「クラウド」、「ビッグデータ」といった、今後のビジネスにおいて重要な競争力の源泉となりうる領域において、日本企業はグローバルから取り残されてしまっている。この差は年々縮まっていくというより、むしろ拡大しており、先駆者に引き離され続けているのだ。この状況を打破するために、クラウド活用・サービス化を含む基幹システムの再生を喫緊の課題として、本格的に取組むべきタイミングが到来しているといえるのではないだろうか。少なくとも基幹システムの再生を一定のレベルで達成しない限り、グローバル企業と同じ土俵で競争する準備が整ったとは考えられないのである。

1. Gartner 2016 CIO Agenda: A Japan Perspective
2. ガートナージャパンプレス発表「クラウド・コンピューティングに関する調査結果を発表」
3. Gartner Survey Analysis: How Cloud Adoption-Trends Differ by Organization Size April 2016

 

日本における基幹システム再創造の取組み(5つの「R」)

 とは言え、日本企業の中でもクラウドを活用し、サービス化を含めた基幹システム再創造に意欲的に挑戦している企業もある。我々は本論で基幹システムの再生の手段として5つの「R」を提示したが、この要素を取り入れて導入を推進している実例をいくつか紹介したい。

 あるITサービス企業では、急激なビジネス環境の変化に柔軟に対応し追随していくために、基幹システムの再構築を、クラウドベースのプラットフォームへの置き換えを基本スタンスとして進めている。特徴的なのは、会計業務など、現状ではERPパッケージでの対応を継続するのが一般的と考えられるコア領域においても、例外なくクラウドサービスへの置き換えを検討する対象としていることだ。必要なときに必要なものを取捨選択できるプラットフォームの実現を目指し、聖域なき改革を推し進めているのである。( プラットフォーム刷新、ソリューション改修)

 また、あるグローバル製薬企業では、オンプレミスのERPパッケージとクラウドベースのフロント業務システムで構成されたグローバル標準のテンプレート構築と展開に着手した。各地域への展開を中長期計画に基づいて進めているが、テンプレートからの逸脱を極小化するアプローチが採用されている。クラウドソリューションについてはもちろん、ERPパッケージについてもローカライズを原則的になくすことにより、スピーディな展開と導入後の柔軟性・拡張性を実現しようとしている。( プラットフォーム刷新、ソリューションリプレイス)

 更に、ある自動車メーカーでは、グローバルでの会計業務標準化と業績管理業務の効率化のために、クラウドプラットフォームで会計システムを再構築し、次フェーズとして各地域の関係会社のシステムを統合するプロジェクトの構想策定を進めている。クラウドサービスの優位性である拡張性を生かしてグローバル展開を進める計画を検討している。また、各個社のレガシー基幹システムを一旦維持したままでグローバルレベルの統合元帳を導入するセントラルファイナンスモデルの活用も検討されている。( プラットフォーム刷新、ソリューション活性化)

 これらの事例は、クラウドの活用を基調としているが、その態様は一律のものではない。それぞれの企業の状況に応じたクラウドソリューションの活用方法を模索・検討し、基幹システム再創造の具体的なアプローチの中に組込んでいくことが重要なのである。
 

ロードマップ策定の視点

 サービス化を含む基幹システムの再創造を効果的・効率的に推進するためには、変化するビジネス環境の中で、自社の状況、市場・競合の状況などを踏まえて、中長期的な視点に立ったロードマップを策定することが重要となる。以下に、ロードマップ策定にあたり、考慮すべきと考えられる論点と考察を述べておきたい。

・ハードルの低い周辺領域から攻める

 本論でも語られている点だが、基幹システム再創造において、最初にターゲットとすべきなのは、ハードルが低く着手しやすい周辺領域である。SCMや生産管理など、企業の競争力の源泉となるコア業務は、要件が複雑になりやすく、他領域との依存性も高いため、プロジェクトの難易度が高くなりがちである。一方、経営管理用のレポーティング機能など、独立性の高い周辺領域の業務であれば、既存業務を変更してクラウドサービスに切り替えることも比較的容易なのである。

 日本企業の場合には、こうした傾向がさらに顕著になるといえる。コア業務には、こだわりのあるユーザがステークホルダーとして幅を利かせ、彼らは業務の要求に合わせてシステムを作りこむことに慣れているため、クラウドサービスをそのまま受け入れるアプローチに対する抵抗勢力となってしまうことがままある。周辺領域で実績を積み重ね、それを以て本丸であるコア領域に歩を進めるという、ある種慎重な進め方は、性急な変化を好まない日本企業の文化にマッチしているといえるかもしれない。

 また、投資判断を行う日本企業の経営層にとっても、周辺領域からスモールに進めるアプローチは好ましいものと考えられる。日本企業においては、リスク回避の性向が高く、意思決定においては過去の実績・前例が重要視される傾向がある。まず周辺領域で実績を作るという進め方は、実際にリスクを低減することが可能ともなり、意思決定の心理的な抵抗を少なくすることにもつながるだろう。

 さらに言えば、クラウドサービス自体が投資判断をしやすい特性を具備している。サブスクリプションのクラウドサービスであれば、気軽に利用を始め、気に入らなければ止めてしまうことが簡単にでき、そこには大それた意思決定は不要なのである。

 忘れてはならない重要な観点は、基幹システム再構築を進めるスピードである。先に述べた通り、着手しやすい周辺領域をまずターゲットとするというアプローチは、とりあえず第一歩を踏み出して動き始めるために有効なものと言える。

 ただ、それが本命であるコア領域の革新につながらなければ全く意味のないものになってしまう。周辺領域で実績を積み重ねるのは、より重要なコア領域に進むための助走とも言うべきものであり、そこにいつまでも時間とコストをかけて全体的な改革のスピードが上がらなければ本末転倒になってしまうのである。

 基幹システム再構築のロードマップを描く際には、マイルストーンとして、重要なコア領域への展開のタイミングを明確にしておく必要がある。かつ、そのタイミングを実現可能な範囲でできる限り早く、設定すべきなのである。

・システム構築に対する意識改革を同時進行させる

 日本企業では、システムに対して作りこみを行って業務に合わせてカスタマイズする、という意識が根強く持たれている。これは、ERPパッケージが一般的に浸透した現状であっても依然として散見される状況である。標準機能をそのまま使うのが理想的である、とわかっていても、ユーザの利便性向上を理由にカスタマイズを行ってしまう、といったことが実際に起こり得るのだ。

 できる限りの行き届いた高品質なサービスを提供したいという日本人の気質・文化によるものなのかもしれないが、こうしたシステムに対する意識の持ち方はクラウドサービスの活用においては、障害ともなりうる。既定のサービスを組合わせて業務を構成する、という意識を持てなければ、スピーディに新しいソリューションを導入できるクラウドサービスの強みを活かすことはできないのである。

 このテーマに関連する興味深い統計がある。日本におけるIT技術者の75%はITサービス企業に所属しており、25%がユーザ企業に所属している。一方で、米国では状況が逆転しており、72%がユーザ企業所属、28%がITサービス企業の所属となっている。4 つまり、日本は外注主体、米国は内製主体という構造となっているといえる。

 外注主体となると、どうしてもシステム導入の際に作りこみがちになるのは一面の事実といえるだろう。導入を行うITサービス企業からすれば、ある程度の作りこみを行わないと自社のビジネスが縮小してしまうのである。

 過去、作りこみを是としてきたことが現状の外注主体という状況を作り出し、外注主体の状況であるがゆえに作りこみから脱却できない、という、「ニワトリと卵」にあたる状況になっているといえるのだが、クラウドサービス活用に進んでいくには、この状況を何とか克服しなくてはならない。

 当然、一朝一夕にこの状況を変えていくのは不可能である。一つの解となりうるのは、やはり、前項でも述べた、いずれかの領域でスモールスタートする、というアプローチであろう。最初は外部リソースに頼る必要があるかもしれないが、クラウドサービスを導入した実績を作り、これを積み重ねていくことで、ITに対する意識改革とクラウド活用の知見とスキルを持った内部リソース育成を進めていくのである。

4. 独立行政法人 情報処理推進機構「グローバル化を支えるIT人材確保・育成 施策に関する調査」概要報告書

 

寄稿者

デロイト トーマツ コンサルティング テクノロジー

鈴木 雄大 シニアマネジャー

多岐にわたる業種における、ERPを活用した基幹システム導入・再構築プロジェクトを10年以上経験、特に、会計・経営管理領域における業務改革に強みを持つ。グローバル企業を対象としたクロスボーダー案件の経験も豊富。

 

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