飛躍的進化が期待されるテクノロジー

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飛躍的進化が期待されるテクノロジー

見え始めたイノベーションの兆候

量子コンピューティングはデータ暗号化技術の脅威になるだろうか。もしそうならば、いつまでに情報を量子暗号で保証できるようにすべきか。また汎用人工知能の実用化が進んだとき、人間と機械の均衡は崩れ、各業界に多大な影響を及ぼしてしまうのだろうか。こうしたテクノロジーの飛躍的進化に直面する中で、先進企業はスタートアップ企業や大学と連携しながら、イノベーション技法の開発に加え、飛躍的進化が期待される技術の実験検証やビジネス適用の準備に取組んでいる。

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>> Exponential technology watch list <<

Tech Trends 2018 | Deloitte Insights

日本のコンサルタントの見解

汎用人工知能(AGI)および量子コンピュータに関する日本の取組み

今年の「Exponential technology watch list」では、AGIおよび量子コンピュータを取り上げている。

特にAGIは、古くからSFでも取り上げられてきた夢のある分野であるとともに、いわゆるシンギュラリティ(AIが人類の知能を超える転換点)に関する議論など、メディアでも耳にする機会の多いトピックではないだろうか。

これらの技術については、もちろん日本でも研究開発が続けられている。AGIであれば全脳アーキテクチャ・イニシアティブ1など、量子コンピュータであればNTTが開発したニューラルネットワーク型のQNN2などがその代表例となるだろう。

いずれの領域も、学術的な分類も含め研究と議論が継続されており、これらの技術がいつ、どのようにブレークスルーを迎えるかは、それ自体が非常に興味深いテーマである。しかしながら、多くの企業にとってより高い関心があるのは「それが我々のビジネスにどう影響するか、何を準備しておくべきなのか」ということであろう。本編でも記載の通り、これらの技術の実用化にはまだ5年以上を要する可能性がある。その中で、始めておくべきことは何であろうか。

これらの飛躍的な技術の進化に対する準備を考えるにあたり、例えば、過去に起こった事例から考えてみるのはどうだろうか。

過去に起こった「技術の飛躍的進化」:スマートフォンの場合

初代のiPhoneが発売されたのは2007年、その翌年の2008年にandroidがリリースされている。その後急速に普及が進んだことは周知の通りだが、他の情報通信機器と比較するとその構図はより鮮明になるだろう。

今日のビジネスにおいて、顧客接点としてはもちろん、社員が利用する情報端末という面においても、スマートフォンなくしてビジネスを考えることは難しい。特に10代の若者にとっては、生活の一部と言っても過言ではないほどに大きな影響を与えている。まさに、時代を一変させた「飛躍的進化」といって差支え無い事例であろう。

では、もし仮に、我々がiPhoneの発売からさらに5年前、2002年に居たとしたら、将来訪れるスマートフォンの時代に備え、どのような対応を取るべきだろうか。

飛躍的進化が期待されるテクノロジー(全文) Tech Trends 2018 〔PDF, 1.89MB〕
図表1-1-1-1 我が国の情報通信機器の保有状況の推移
図表1-1-1-2 スマートフォン個人保有率の推移

「新しく始めること」と「すでにあるもの」

もちろん、スマートフォンに関連したビジネスやコンテンツへの先行投資を行う、という対応は考えられるだろう。あるいは、Apple社やGoogle社と早期に協力体制を組みエコシステムの構築を目指すべき、という方向性もあるかもしれない。

まずはこのような、スマートフォンやその周辺技術に直接関連するような領域での新しい取組みが挙げられることだろう。これを仮に、「新しく始めること」と分類しておこう。では一方で、「すでにあるもの」に目を向けてみるとどうだろう。例えば、既存の業務や組織、システムは、スマートフォンの到来に備えて何を準備しておくべきだろうか。例えば、スマートフォンの普及により顧客との関係そのものが変わることを考慮し、業務の在り方や社内組織を段階的に変えていく必要があるかもしれない。

また、クラウドなどインターネットのシステム群と柔軟な情報連携が必要となることを踏まえ、基幹システムの拡張性や連携性を高めておく必要があるかもしれない。あるいは、情報の双方向性が増していくことを考えると、企業倫理やコンプライアンス、セキュリティについて、より高度な教育の準備をしておくべきかもしれない。

これらの「すでにあるもの」に対する対応は、一見すると直接的な利益につながらない地味なものに映るかもしれない。しかし、こういった土壌が無ければ「新しく始めること」が根を張り、花を開かせることも難しく、その必要性に気づいてから準備をするにも時間が掛かりすぎる。

むしろ、対応に時間が掛かるこのような地味な要素こそ、早期に着手しておくべきなのではないだろうか。

着眼大局、着手小局(大きな視点から見て、小さなことから実践する)

もちろんこれは一つの仮説に過ぎず、全く違う考えを持っている人もいるだろう。しかし、そういったことを考えてから改めて本編を読むと、新たな気づきがあるかもしれない。

「新しく始めること」の探し方と見ると、まだ検討を始めるには早いように思われるだろう。しかし、「すでにあるもの」の行く先として見ると、今から始めるべきものに気づくこともあるのではないだろうか。

加えて、日本固有の事情も考慮する必要がある。世界初の携帯電話IP接続サービスであるi-modeはiPhoneの発売より8年前、1999年に日本で発売されている。これがスマートフォンにつながる大きな流れの一つとなっているが、後に「ガラパゴス」と比喩される日本独自の進化を遂げたことも周知の通りである。応用技術分野における日本の競争力の高さや、言語を含むマーケットの特殊性について考慮すると、今後も、単純にグローバルと同じ戦略を取ることは難しいと考えるべきであろう。

「着眼大局、着手小局(物事を大きな視点から見て小さなことから実践する)」とは古くから言われるところであるが、いつの時代の経営層にとっても難しい命題の一つであろう。しかし、未来を考え、将来像を描くというのは人にとって本来楽しい活動であるはずで、企業においてもそうあるべきではないだろうか。

本編が、技術の大局を見定め、議論を深めていくための一助となれば幸いである。


参考文献

1. 全脳アーキテクチャ・イニシアティブ(WBAI)
https://wba-initiative.org/
2. QNN cloud
https://qnncloud.com/
図表: 「平成29年版 情報通信白書」P.3 より抜粋
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/pdf/index.html

執筆者

小川 貴弘 シニアマネジャー

流通、製造系を中心に多様なインダストリーに対して、業務プロセスと新旧テクノロジーの知見を活かし、ビジネス変革時やIT構想策定時におけるアーキテチャ・トランスフォーメーションに関するアドバイザリーサービスを提供。

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