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CIOの役割は、CxOをはじめとする社内ステークホルダーの説得にある

日本のリサーチ専門家の見解

企業にとって最適な開発アプローチをCEOや他CxOに説き、適切なタイミングで投資を決断させるのは CIOの力量にかかっている。特に、テクノロジーを理解する経営トップが少ないといわれる日本において、大きなインパクトを与えるテクノロジートレンドをいち早く見通すCIOの役割はますます大きくなる。

機運が高まるデジタル化や新技術の採用

日本企業が今後2年間に自社のビジネスに影響を与えると認識している3大テクノロジーとして、デジタル、サイバーセキュリティ、先端テクノロジーがあげられた。グローバルの全体平均では、上位2つにデジタルとアナリティクスが、次にクラウドとサイバーセキュリティが並ぶ結果となった(Appendix 質問24)。

こうした領域において、CIOの眼ではいずれも現状は投資不足と判断されている(Appendix 質問25)。

日本では「攻めと守りのIT投資」と表現されるように、自社のシステム環境の安全性・堅牢性を確保しつつ、デジタル化を推進し、AI、IoT、AR/VRなどの新たなテクノロジーを取り入れ、経営や製造・サービス現場、また新規事業開発に活かそうとする機運が高まっている。また、日本のCIOのイノベーションや成長に対する積極的な関心が過去1年間で急伸している傾向が、今回のサーベイ結果でも判明した。

企業ITの現状

IT予算の大半は既存システムを維持するために長らく費やされ、新規投資には全体予算のせいぜい3割以下しか充てられていないという7:3ルールは、国・地域を問わず未だに多くあてはまる。また、3つのCIOパターンの中では「頼りになるオペレータ」が最多層である本サーベイ結果から、CxOやビジネス部門がIT部門に対して期待する役割は、まず現行システムの安定稼働の担い手であることが根底に見えてくる。

本サーベイ参加企業の9割が、自社の基幹系アプリケーションを今後再生、リプレイス、または刷新(一部は撤去)すると回答し、現状維持のままで良いとした回答企業は1割にすぎなかった(Appendix 質問27)。こうした傾向は海外と日本で違いがなく、老朽化した基幹システムの再構築という長年かつ一朝一夕には解決できない課題は、どのCIOにとっても共通の悩みの種である。

大企業であるほど、肥大化した社内システムを時代のニーズに合わせて刷新しなければならない緊急度も高まっている。ビジネス要件や法規制は頻繁に変わることを前提とし、それらに対応できるよう、企業システムも柔軟性を高めておかなければならない。しかし実際は、「基幹システムの刷新・再構築」が自社ビジネスへの影響も大きいと回答した企業の中で、現行システムの問題点として「柔軟性の欠如」を指摘する割合が最も高かった(Appendix 質問24に続く分岐質問)。

また、標準化や自動化などを通じて保守・運用業務を省力化し、ITコスト構造を転換させない限り、現状は変えられない。CIOこそがこのような構造転換によって新規IT投資のための原資を確保し、次世代に向けた企業ITのあるべき姿を描くことができる。

日本のCIOの特徴

海外のCIOは、イノベーションやその影響について、まず自社の業績や成長にどのくらい寄与する想定なのか経営層への説明が求められる。それに対して、日本のCIOは業績に対する感度が低く、効果を測定するべき「IT投資」を、毎年確保する「IT予算」もしくは年間費用として捉えがちな傾向が垣間見られる。

しかし、先天的な「生まれ(Nature)」とキャリア経験の中で後天的に培われる「育ち(Nurture)」の特性を見る限り、日本のCIOもグローバルトレンドからかけ離れてはいない(第1章)。どのCIOも自身が持つべき理想の能力と、現状の能力とのギャップを認識している。外部環境の変化に適応し、リスクを想定した上で行動し、そして物事を大局的に捉えて数字やファクトで説明する、といった能力が日本のCIOにも一定レベルは備わっていると結論づけることができる。 

国籍を問わず、CIOは先端テクノロジーを積極的に活用する意欲がありながら、社内のステークホルダーを説得し、次の計画・実行を主導するリーダーシップを十分発揮できていない傾向が共通している。日本のCIOに特有なのは、他国のCIOよりもコンセンサスと調和を重視する点である。そのため、自身の権限範囲では迅速な意思決定に努めるものの、経営層の承認を要する自社の大きな決断には時間を要さざるを得ない状況に多々直面していると考えられる。

CIOに求められるのはビジネス価値を追求する姿勢とリーダーシップ

一見すると開発アプローチや投資評価基準が真逆の新旧テクノロジーを理解し、自社にとって両者の最適なミックス(組み合わせ)の必要性と価値をCEOや他のCxOに説き、適切なタイミングで自社の投資を決断する(させる)かは、ひとえにCIOの力量にかかっている。“Every company is a technology company”(全ての企業は「テクノロジーカンパニー」である)といわれるように、テクノロジーを駆使する者がビジネスを制するといわれるほど、今日の企業経営やビジネスはITありきで成り立っている。高価なテクノロジーはもはや過去の産物と化し、IT製品・サービスの低廉化と大衆化が進んでいる。資産を持たないスタートアップ企業が斬新なビジネスモデルと先進技術を使いこなし、いつの間にか老舗企業を脅かす存在となる現実を我々は目のあたりにしている。

特に日本では、テクノロジーを理解する経営トップは稀である。だからこそ、ビジネスを理解し、自社や業界に影響を与えるテクノロジートレンドをいち早く見通せるCIOの役割は大きい。ビジネスリーダーとしての素養を持ち、ビジネス価値を語ることのできるCIOこそが、自社の事業戦略と整合がとれたIT構想・導入の指揮をとり、テクノロジーミックスを攻略し、自社が「テクノロジーカンパニー」となるためのナビゲーターとして欠かせない存在となるであろう。

市場や競合の動向把握に時間をかけ、いつまでも実行に踏み切れないようでは、破壊力と創造力を持って迫りくるデジタル化の波や、業界を揺るがすような大きなうねりに飲みこまれ、企業としての存続さえ危ぶまれてしまう。そうした高波が押し寄せるのをただ待つのではなく、周囲を巻き込みながら変革をリードし、至難を乗り越えるための行動を起こすことこそ、日本企業が熾烈なグローバル競争に打ち勝つ一手となるのではないだろうか。

寄稿者

柏木 成美 リサーチマネジャー

米系のコンサルティング会社及び調査会社を経て現職。テクノロジーリサーチのチームリーダーを務める。国内外のテクノロジートレンド、IT投資動向、テクノロジー戦略、ITソリューションに関する豊富なリサーチ経験を有する。