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新しいテクノロジーには、継続的かつ“アジャイル”で取組むべきである

日本のコンサルタントの見解(3)

テクノロジーを武器とするために、まずは己を知れ。現在抱えるテクノロジー(“枯れた”テクノロジーを含む)やIT資産を正しく知り、管理することがまず求められる一歩である。新しいテクノロジーに踏み出す次の一歩は、方針や計画の軌道修正を前提としたアジャイル型のアプローチが不可欠となるだろう。

日本企業を取り巻く現状からの焦燥感

みなさんが現時点でどのタイプのCIOであるか、次にどのタイプに進むのかを問わず、現在の日本企業が置かれている状況を、CIOの視点で改めて客観的に理解しておくことが、次の一手を考える上で最初のステップとなろう。
CIOとしてテクノロジー主導のビジネスを推進する好機が今そこに訪れているものの、私はそのスピード感に対しては強い焦燥感を覚えている。

新しいテクノロジーの活用により、規模が小さい企業であってもマーケットに参入しやすい環境が整いつつあるが、これは一方で他業種による参入の敷居を下げることにもつながる。今やグループや系列企業への依存度の高さが足かせになり、「自前でできる」ことも、もはや強みとはいい切れなくなっているのが現状である。
また、グローバル基準での規制や標準化への対応、海外と比べて極めて低いとされる日本の労働生産性の改善は、国内あるいは海外企業とのM&Aという選択につながる主な要因の1つである。こうした内外の変化の速さに対して、日本企業は適切に対応できているのだろうか。

無論、私たちも手をこまねいていたわけではなく、一定のシステム投資によって、部分的にはデジタル化を進めてきた。ただし、自社業務の最適化を目的とする、カスタマイズを前提としたシステム開発・システム統合は、あまりにも作業量が大きく、時間がかかり過ぎる。これでは外部の変化のスピードとの差を縮めることはできない。また、新しいテクノロジーへの投資も二の次とされてしまい、近い将来の競争力を損う結果を招く。「年度単位」を前提としたウォーターフォール型の業務・システム改革だけでは、前述のような日本企業を取り巻く環境に立ち向かっていくのは、非常に厳しい戦いであるといわざるを得ない。

今こそ、変化のスピードへの適応力を高めるため、計画・実行・検証のサイクルを短縮化し、方針や計画の軌道修正を前提としたアジャイル型のアプローチで取組むべきではないか。そしてこのプロセスの上で、テクノロジーを「武器」として、自社の成長に向けてプロアクティブに取組む態勢の構築が不可欠な時である。

まず行うべきは自社のIT資産(レガシー)の把握

「テクノロジーを武器とする」。そのためには、まず己を知る必要がある。具体的には、現在の自社で採用している「枯れた」テクノロジーを含めた、保有するIT資産を正しく知ることである。これは何も「頼りになるオペレータ」に限って必要となるものではない。

例えば、IT資産の管理1つをとっても、かつてのように自社のIT部門だけで完結するようなケースは多くない。
日本国内でもシェアードサービス化が進み、グループ内で求められるシステムの機能を、サービスという形で共有あるいは利用しているケースも少なくない。

また、テクノロジーは決してIT部門の独占物ではない。全社的なEA(エンタープライズアーキテクチャ)の構築を推し進めている中でも、例えばビジネス部門によって作られたサブシステムやツールが残っているケースも依然として多い。日本人ならではの、サービスレベルに対する意識の高さから、日々の現場業務に適応するため、むしろ増加している場合すらあるかもしれない。

ITガバナンスの強化が必要とされながらも、足もとを見ると、自社が保有するソフトウェアのライセンスの使用状況や保守期限、次回の更新サイクルを把握できている企業はどれほどあるのだろうか。外部から調達したものだけでなく、自社のシステムがどのように業務をサポートしているかという機能配置の整理や、システムアーキテクチャなど、開発した現行システムを理解するための最低限のドキュメンテーションもIT資産の把握には不可欠である。

こうしたIT資産の特定や把握を確実に行っておかないと、次世代のシステムへの切り替えはおろか、将来いつ起こるかわからないM&Aの対応や、それらに向けた正しい投資判断の材料すら、CIOとして提示できなくなってしまう。今こそ自社の「レガシー」の把握と、それに使われている「枯れた」テクノロジーの再評価をすべき時である。

不可欠となる新しいテクノロジーへの継続的な取組み

自社が持つIT資産やテクノロジーを把握できたとして、次のカギは、新しいテクノロジーにいつ踏み出せるかである。これは、雑誌やインターネットで目にする言葉を学ぶような、キャッチアップする(追いかける)というレベルの話ではない。

自社が採用していない、あるいは業界としても手を出していないテクノロジーこそが、新しいビジネスの創出や、自社の変革を助けてくれる可能性は高い。したがって、自社で適用できる可能性があるかの見極めや、いつ取り組むのかといったロードマップを用意しておくことは最低限必要である。あるいは、部分的な範囲であっても、パイロット検証を行い、自社への適用について具体的な検証を開始してみる準備が必要である。そのためには、新しいテクノロジー関連の取組みへの優先順位を下げてはならない。

例えば「FinTech」を例に見てみよう。欧米では既に実用化が進んでいる中で、日本ではようやく勉強会が始まり、自社の戦略と組み合わせられそうな、スタートアップ企業との提携が模索されているレベルに過ぎない。実際に私たちが一顧客としてサービスの恩恵を受けるのは、まだまだ先であるばかりか、ひょっとするとその先が見えていないのが実情ではないだろうか。これまでの十数年における国内金融業界での再編や、その結果として残ってしまったレガシーの運用やシステム改修・再構築に、人と予算を優先的に振り向けてしまったことも一つの要因である。

この例から学ぶべきことは、「気づいた時には既に手遅れ」ということである。仮に、周囲の動向を見極めた上で行動に踏み出せる瞬発力があったとしても、連携できそうなテクノロジー企業は、既に他社と別のエコシステムを形成してしまっているだろう。他者を追随し、二匹目のドジョウを狙うか、別の土俵で勝負するしか道が残されていないのである。

軌道修正を前提とした、アジャイル型の仕組み作りを

自社が先んじる必要性は容易に理解できよう。だが、どのように手を打つべきか。研究・調査のためのタスクフォースを組むようなことは、その場しのぎの対応であり、あまり意味をなさない。今の業務やパートナーシップの延長線上と捉え、その場その場で取組むには、重たいテーマばかりである。
一部の企業では、CTOのロールを設置したり、POC(実証実験)を行うケースもあるが、今こそより本気を見せる時である。

私の提案する4つのステップは次の通りである。(1)テクノロジーの潮流を掴み、自社における新技術の適用領域を見極めておくこと、(2)これらに取組むためのパートナーを把握し、複数のケースでエコシステムの形成に向けた準備をしておくこと、(3)小規模でもエコシステムを用いたパイロットプロジェクトを行い、その実効性を検証すること、(4)実行に移すための仕組み作りと実行計画を立てること。

重要なのは、こうした一連の流れを定常的なCIOの業務として組み込んでおくことである。そうすることで、時流を捉えた軌道修正を可能とする、挑戦の機会を複数持つことができる。システム開発だけでなく、新しいテクノロジーの活用や、ビジネス変革の取組み自体に、アジャイル型のアプローチを適用していくのである。

ぜひCIOとして、自社のビジネスや業界に対して、テクノロジー主導のイノベーションをこの日本から起こそうではないか。そのためにも、前掲のようなエコシステムを含む仕組みの構築や、ロードマップ策定に向けた投資を、積極的かつ継続的に行うべきである。「先行逃げ切り」こそが、現代の勝ちパターンなのだから。

寄稿者

箱嶋 俊哉 シニアマネジャー

金融および公共インダストリーを中心に、テクノロジーを軸としたコンサルティングサービスを担当。企業統合や基幹システム再構築などの、グローバルおよび大規模プロジェクトに従事。ITをはじめとした人材育成も得意としており、外部講演や執筆も多数手掛けている。