最新動向/市場予測

Tech Trends 2016 - アナリティクスの「産業化」

掘り当てた石油をどのように精製するか

データはデジタル革新の基礎である。しかしながら、未だこの領域で人材獲得/育成や基盤整備、そして情報から洞察(Insight)を得るためのプロセスの整備に本気で取組んできた企業は殆ど無い。いま漸く数々の企業がデータの潜在的な力を引き出そうとして、新たな情報ガバナンスを考案し、データの活用方法を工夫し、イノベーティブな分析の方法論を見出し適用しようと動き始めた。

アナリティクスの道標

日本のコンサルタントの見解

日本企業のアナリティクスに関する位置づけ

グローバル企業において今後2年間でビジネスに重要な影響を及ぼす3大テクノロジーとして、「アナリティクス」、「デジタル」、「クラウド」が挙げられる。テクノロジー予算の3分の2は定型業務を維持する目的に費やされている一方、多くのCIOにはもっとビジネスイノベーションに予算を割くようプレッシャーがかかっている。そうした背景がある中で、今後2年間で大きな影響があるものとして、グローバルのCIOの77%が「アナリティクス」を選択した*1

一方、日本企業においては、「アナリティクス」を高いポジションに位置づけているものの、アナリティクスは「デジタル」「クラウド」「サイバーセキュリティ」に次ぐ4番手となっている。またビッグデータを活用している企業は約7%で、取組が進まない阻害要因として、“ビッグデータなどを使用しアナリティクスを行った結果得られる価値がわからない”というものである。

そうした背景から、ビックデータなどを使ったアナリティクスにおける最大の課題は「導入する目的の明確化」とされてきた。しかし、近年では徐々に課題が具体的になってきており、「人材(データサイエンティスト)の育成」や「データ分析・活用のための体制・組織」整備の必要性の割合が高くなってきている*2

日本企業のアナリティクスに対する考察

上記の調査結果から、“テクノロジーへの投資”、“効果を生むべき投資対象の認識”という2つの観点から日本企業のアナリティクスに対する考察を述べる。

◆ テクノロジーへの投資
現在のグローバル企業におけるIT予算配分は、「基幹システム刷新・再構築といった定常業務をサポート」が57%であり、「全社ビジネス変化・変革のサポート」は約30%である。一方、「基幹システムの刷新、再構築」への投資は多いにも関わらず今後2年でビジネス変化に影響を及ぼすと回答したCIOは47%に過ぎない。よって、従来の定常業務の維持を行いながら、アナリティクスなどを使用した全社ビジネス変化・変革をサポートできる投資へシフトしてきていると考えられる。

一方で、日本企業の7割超がデジタルビジネス、アナリティクスビジネスの必要性を感じ準備を進めているにも関わらず、全社的な活動と位置付けているのは僅か2割程度であり、IT部門、ビジネス部門単独の活動と位置付けられている。5年後のIT部門の役割として、全社に向けたテクノロジー基盤構築を担うべきとIT部門管理下で投資しようと考えている企業が多いのが現状である*3

しかしながら、先に述べた、近年徐々にアナリティクスに対し具体的になっていきている課題「人材(データサイエンティスト)の育成」や「データ分析・活用のための体制・組織」については、整備の必要性や問題意識は持っているものの投資に踏み切れていないことに鑑みると、「人材育成」や「体制・組織整備」といった経営レベル課題は、IT部門管理下だけで取組むのではなく、企業全体として明確なビジョン・目的意識を持った上で効果的な取組み(投資)を行うべきであると考えられる。

◆ 効果を生むべき投資対象の認識
多くのグローバル企業は、データはあくまで「石油」であり、アナリティクスという「精製」作業を行う事で大きな効果を生み出す対象であるという事を既に本質的に理解している。一方で、日本企業のITに対するプライオリティは、「ITコスト削減」や「生産性の向上」となっており、ITはあくまで支出の極小化の手段に過ぎないものと位置付けている。つまり、効果を生むためにアナリティクスをIT投資対象にすべきということが本質的に理解できておらず、コストカットのみに注力しているのが現実である。

このように、アナリティクスに対する理解や認識、スピードは、グローバル企業と日本企業において大きな違いがあるといえる。日本企業は早期にこの事実を理解し、アナリティクスの「産業化」を企業戦略の一つとして位置づけ、ビジネス改革を伴うIT投資に対しては、最初から大きな即効性を求めず、まずは小さく始め、スピーディな効果の刈取りを行いながら、複数の効果が将来にわたって複合的に大きな効果をもたらしていくことを理解、認識しなければならない。


日本企業の実行すべき2つの行動

上記を踏まえ、日本企業がアナリティクスの「産業化」を行うにあたって取るべき施策は何であるか。グローバルの動向、日本企業のアナリティクスに対する現状を踏まえ、大きく、「アナリティクスを実施することによる目標値(効果)をできるだけ定量的に定義すること」、そして「早期に効果の刈取りを行う仕組み作り」が効果的な投資の必須条件であると考える。

◆ 目標値(効果)を定量的に定義する
これまで多くの企業でBIシステムの導入やダッシュボード構築実績はあるものの、それらの主目的はいわゆる「見える化」という表現一括りで定義されてきた。しかしながら、「見えた」事による効果、それをビジネス上どう活かしていくか、いわゆる「伝える(伝わる)化」については明確に定義し実践している企業は少ないのではないかと考えられる。単にデータを溜め込む仕組みや不要な(ビジネス上効果を生み出すきっかけとならない)レポート構築に投資し、企業戦略やビジネスに活かしきれずにいる日本企業をいくつも見てきた。そういった企業は、結果としてBIの仕組みそのものが形骸化してしまい、それらをどう活用していくのか模索しているというのが現状なのである。

日本企業は、これまでのアプローチを見直し、単にアナリティクスを行うための仕組み作りを目的とするのではなく、アナリティクスの導入時には投資効果を定義し、導入後はその投資効果をベースに、定期的かつ定量的にモニタリング・改善を行うことが必要である。その上で、企業のトップマネジメントがアナリティクスが効果を生み出す一つの手段であることを理解、認識し、社内の啓蒙活動を行いながら必要性を理解、腹落ちさせた上で着手(投資)すべきである。

◆ 早期に効果の刈取りができる仕組み作りを行う
早期な効果の刈取りを行うための仕組み作りとして、上記で定量化した効果を高度なデータ解析を使用しながら素早く評価し、その結果を経営層へ遡及、経営者自身が理解し全社レベルでフィードバックする仕組みが必要である。

そのためには、「最新テクノロジーの採用(インメモリ技術や統計解析ツールなど)」、「データマネジメント(データガバナンス、データセキュリティ、マスタデータの統合・一元化など)」、「社内もしくはソーシングを含めた人材(データサイエンティストなど)の確保、育成、チェンジマネジメントなど」、そしてそれらの活動を下支えする「Analytics CoEの設立」、ノウハウを持つ社外の人材を活用する事も一つの手段である。

社外の人材を活用し、外部の分析サービスを使用してきたケースは、これまで日本企業でも実績があるが、最も重要なのは、そこで出た効果をその場限りで満足し終わらせるのではなく、全社規模で「産業化」していくことである。

これらはアナリティクスの「産業化」とは別ものではなく、まさにアナリティクスの「産業化」そのものであり、アナリティクスを行う上での重要な要素である。

ただしそれらを社内リソースだけで実現する事は容易な事ではなく、社外の人材のノウハウを活用しながら早期に実現し、結果を出していくことが非常に有用な手段であると考えられる。
勿論言わずもがな、社外のリソースに任せきりではなく、企業側が強い意志と覚悟をもって、アナリティクスの「産業化」を企業戦略の一つとして位置づけることこそが重要である。

日本の企業が、単なる情報の見える化に留まらないアナリティクスを積極的に導入していく事が期待される。そのためには、繰り返しになるが、効果を明確に定義し、定期的に見直しを行うこと、および早期に効果の刈取りができる仕組みを作ること、すなわちアナリティクスの「産業化」を実現することこそが重要である。
 

*1 Deloitte, “Global CIO Survey 2015”
*2 JUAS「企業IT動向調査2015」
*3 ガートナー/調査2015年7-8月
 

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