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組織の垣根を超えるIT

IT変革におけるビジネスのポテンシャル

システムの運用管理と導入方法が進化するにつれ、一部の企業は部門横断的なチームを組成し、IT間のサイロ(縦割り構造)を取り除く試みを始めている。2000年代におけるCIOの仕事に対する社会の共通認識は、単純に「火を灯し続けること」だったが、今日は違う。先見の明のあるCIOは、今後数ヶ月の間にIT部門をより柔軟で組織の垣根を超えるものへと変革させるだろう。

はじめに

 デジタル化時代の昨今においては、日々創出される先端技術をどのようにビジネスの競争力強化につなげていくのかが主要な論点となっている。最近ではIT組織による活動を、明確なビジネス要件に基づいてソリューションを決める“要件先導型”(いわゆる従来のやり方)と、先端技術の活用ありきでビジネスの変革を創造する“技術先導型”に分類するようになってきているが、各企業においては、技術先導型という新しい取組みにどのように対処すべきかが、重要な経営課題として認識され始めている。

 先を行くグローバル企業はどう対応しているのであろうか。これらの企業はまずAI/IoTなどの分野で先端技術を導入し、各ビジネス部門と強く連携しながら、変革に寄与するソリューションをクイックに検証・実装するといった取組みを着実に増やしてきている。このような企業のCIOの多くは、ビジネスに対する組織横断的な支援体制を強化し、リスクを取りながら、先端技術がビジネスにもたらす変革の可能性を探求している。

 一方、日本企業の多くは、未だITの理解に乏しいビジネス部門の要望に基づき、複雑なシステムを導入し、IT部門はそのシステムを多大なリソースと時間を割いて保守・運用に奔走している。そのため、十分な知見の獲得やビジネスとの連携体制の下でリスクを伴う創造的な取組みを実行するといった組織やプロセスの整備が進んでいない。

 ここでは、日本企業がこうした現実を打破して、組織の垣根を越えてビジネスの変革に迫るためのポイントを「組織・プロセス」、「人材」という観点で検討していきたい。
 

変革を探求する組織の構築とプロセスの整備

 2016年6月に実施されたガートナージャパンの調査結果によると、新しいテクノロジーを利用する予定・実績がある日本企業は回答した企業のうち約5割にのぼった。1 つまり、日本企業はITによるビジネス変革を望んでいないわけではないが、組織の変革まで達成している企業はまだ少ないのではないだろうか。

 先端技術によるビジネスの変革を探求・実現する組織は、ビジネスとITの両面から俯瞰できることが大前提となる。その上で、潜在的なニーズに対する先端技術の適用可否を見極め、ビジネス部門と連携し、試行錯誤をクイックに繰り返すことのできるプロセスと人材を有している必要がある。

 先のガートナージャパンの調査結果では、新しいテクノロジーを利用する予定・実績があると回答した日本企業のうち、新しいテクノロジーを実装させる部隊として、従来のIT部門内の専門チームに役割を持たせると回答した企業が約4割、従来のIT組織とは別の新組織を設置すると回答した企業が約3割、残りがプロジェクトチームを設置すると答えているが、どの組織形態を採用するかは、個々の企業の業界、規模、文化などを踏まえることになるであろう。

 ただしどのような形態であれ組織において重要なことは、これまで述べてきたようなビジネスとITの両面の視野を持つことは言うまでもなく、早期にスタートアップすること、そして責任と権限を持たせることである。部門間の垣根が高く、協力関係の薄さや軋轢などにより、責任と権限の明確化や調整に時間を要する印象が強い日本企業においては、部門横断的な組織を、さらにそれを速やかに設立することが変革に向けた第一歩となる。

 部門調整に時間がかかれば新しい技術によるビジネス変革は他社に先を越され、誰も責任をとらない単なる寄り合い所帯となれば、変革を起こせないばかりか、最悪途中で瓦解する。

 ビジネスとの強い連携を持ち、最新の技術を理解したIT組織を構築しても、技術をビジネスに転化できるプロセスがなければ意味がない。現在ではネット企業だけでなく、グローバルの一般企業にも導入され始めた、アジャイルやDevOpsといった手法を積極的に採用することが日本企業でも必要だ。

 欧米ではアジャイルを導入することで、ビジネスとITの垣根が現場レベルで解消され、要件の特定から実装までのスピードアップに一役買っており、DevOpsの導入に成功した企業では、開発からリリースまでのプロセスが高速化された。

 日本では馴染まないという偏見を持ったり、あまりコアではないビジネス領域への導入で満足したりする向きも見られるが、それではグローバル企業に遅れを取るばかりだ。世界では既に常識化している手法は躊躇せずに取り込むことが求められる。

1. ガートナー ジャパン株式会社 2016年プレスリリース
ガートナー、「バイモーダル」なIT組織に関する調査結果を発表」(外部サイト)

 

変革を支える人材の配備

 また、この新しい組織・プロセスを支える人材の観点でも一考が必要だ。ビジネスの潜在ニーズに対して先端技術を素早く導入し、試行錯誤を繰り返すには、これまでのIT要員に期待されたスキルや知見だけでは変革の創出ができず、組織として立ち行かなくなる可能性がある。一般的に欧米企業はITの内製化が進み、新しい技術も自立的に消化しているが、日本企業は欧米企業と比べて、社内のIT要員が少なく、新しい技術への対応が遅れていると言われている。この状態が続けば、ますます欧米企業に差を広げられるばかりだ。

 しかし優秀なIT人材をマーケットから採用しようにも、日本においては長くIT人材が不足しており、また一企業の努力で人材を短期間で育成するには限界がある。日本企業は不足する要員、知見をどのように補い、先端技術による変革を探求する組織を作り上げていけば良いのだろうか。 

 まず考えられるのが外部の人材活用だ。日本企業では設計、開発、運用・保守のあらゆる場面でSIerなどの外部業者を利用するシーンが見られるが、新たなIT技術に関する知見を外部から積極的に取込むところまで実現している企業は多くない。この点、これまで付き合いのある外部業者だけでなく、新たなIT技術の活用を積極的に推進、検討しているコンサルティング企業やSIerとの提携を模索し、そこから得られる知見やサポートを活用するのも一つの手であろう。

 また、従来のような請負契約の前提では、新しいテクノロジーを生かして変革を創出するには馴染まないことも考えられるため、日本のIT契約では一般的ではないが、タイムアンドマテリアル、成功報酬、さらには出向といった、新しい契約形態で外部のスキルや知見を取り込むことも考えてみてはどうだろうか。

 ちなみに、グローバル企業では、外部の知恵を得るべく、サービスベンダ、ベンチャー企業、教育機関などとの新しいパートナーシップの締結に目を向けているが、これらについても当然のことながら考慮してもらいたい。 

 しかし、外部の人材活用だけでは物足りない。更に考えるべきは、ビジネス部門とIT組織の意識改革と教育だ。日本の企業においては特に、新しいシステムを導入する際、現業が忙しいという理由で中々ビジネス部門の関与が得られないことが多い。そういうときは概して、業務プロセスに精通していないIT組織やベンダに任せっきりとなり、改革や改善には十分ではないシステムが構築されてしまう。

 先述の通り、新しい技術を伴うビジネス変革には、これまで以上にビジネスとIT双方の深い理解が不可欠である。所属する部門に関わらず、ビジネスとITのトレーニングを展開することや、ビジネス部門とIT部門相互のジョブローテーションの実現などがアイデアとしてよく挙げられる。重要なのは双方が知見を広げ、同じ目線をもってビジネスの変革を探求できるようになることであり、そうなって初めて草の根レベルで組織の垣根が越えられたと言えるのである。
 

最後に

 「組織の垣根を越えるIT」を説くには、ビジネスとITを横断的に俯瞰できる、責任と権限を持った組織体制へ速やかにシフトする必要がある。その上で、アジャイルやDevOpsなどの手法を定着させ、組織間の連携強化、潜在ニーズの発掘、試行錯誤による先端技術の活用を探求するプロセスを整備していくことが求められる。

 さらには外部の人材を柔軟に活用し、社内ではITかビジネスかの所属に関係なく、双方分け隔てなく知識を持たせることが重要だ。デジタル化に取り残された日本企業が、今一度グローバル市場で息を吹き返すには、本腰を入れて、組織の垣根を越えるIT組織体制へのシフトに取組むべきではないだろうか。
 

寄稿者

デロイト トーマツ コンサルティング テクノロジー 

石綿 眞亊 シニアマネジャー

米系および日系のコンサルティング会社を経て現職。グローバル企業を中心に、大型クロスボーダー案件に主に従事。多くの業務改革・IT構築プロジェクトに関与し、基本構想、企画、導入、保守運用までの幅広い経験を有する。

 

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