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機械知能(MI)時代の到来

テクノロジーがヒトの認知を模倣して価値を生む

AIは、その急速な発展により、無数かつ多様なケイパビリティを生み出してきた。しかし、その姿については正しく理解されていないこともある。また、AIは、コグニティブ・コンピューティング領域における大きな発展の中で、一部を成すに過ぎない。間もなく、これらと関連するツールが組み合わさり、新しいコグニティブ時代の進化を総称してマシンインテリジェンスつまり機械知能(MI: Machine Intelligence)を構成する世界がやってくるだろう。

Machine Intelligence(MI)の意味するところ

 「Machine Intelligence」、国内においてはまだ聞きなれない言葉ではないだろうか。ArtificialIntelligence(AI)、機械学習などの用語は、新聞紙上の記事で取り上げられることも多くなっている。

 本編にある通りではあるが、MIとは簡単にいうとAI、アナリティクス、ビッグデータなどの個別進化した技術が関連性を持って、我々の生活や仕事に入り込んでいる状態を示しており、より広い技術範囲を対象とした概念として位置付けられる。

 様々な用語が生まれては消えていく状況がありつつも、企業にとってのMIの目的は、カスタマエクスペリエンスの向上や業務の効率化などによるビジネス価値向上であり、AIなどの関連する個別技術の目的と同じである。MIはその目的を実現するための思考の方向性や技術の捉え方を定義していると言える。

 日本では、アナリティクス、AI、RPA、ビッグデータなどの技術の適合性を個別に検討する企業が多いと捉えている。それぞれの技術を組合わせ、駆使し、具体的なビジネス課題の解決を実現する主眼を置いた視点が、国内企業においてはまだまだ不足しているのではないかと考える。

 また、MIの実現に向けては企業におけるデータは企業運営の根幹である資産として捉えるべきであり、データマネジメントの巧拙がMI実現の可否を決定付ける。日本企業においては、複雑化したレガシーシステムからの移行が思うように進まない、マスタデータやコード体系の統一ができずデータが分断している、あるいはデータは存在するものの入力ルール不徹底で信憑性が低いなど、多くの課題を抱えている事例が多い。新たな技術を活用してビジネス貢献を行う前提として、企業のITシステム部門は、データガバナンスやデータアーキテクチャ等の観点に対して企業全体のデータマネジメントのあり方を見直すことが求められている。

 一方、企業側の取組みだけではなく、国レベルでの課題解決もMI実現に向けては必要となる。AIなどの活用による国際競争力強化を目的とした技術開発においては、産学官の連携は国内において進みつつある。しかし、国内の法整備、利用者のリテラシー・倫理観の問題、国内専門家の育成など、技術進歩と歩調を合わせたマクロ的な課題解決についてはこれからといった状況ではないだろうか。

 音声認識・画像認識の正確性が近年、飛躍的に向上した例をとっても、技術進化のスピードは我々の想像を超えるものがある一方、活用を円滑にするための環境面の整備がどの程度技術進化についていけるかという点が、国際競争力を高めることの成否につながる。
 

情報システム部門が抱える課題へのMI活用

 MIの実用局面については、医療・製薬業界の研究開発業務における活用や、小売・金融業界の店頭サービス、コールセンタ支援などのビジネス価値向上に直結した取組みが注目を集めやすい。ツールやクラウドサービスの充実によりAIなどの技術が一層利用しやすくなる環境になっており、情報システム部門の方々はビジネス部門からの相談や検討に対して多くの時間を割いているというのが現状ではないだろうか。

 企業の情報システム部門における課題を考えてみると、将来的にはMIを活用した高度化を実現できる領域がいくつか思い当たる。

 一つは、企業のIT業務、主には定常業務の高度化と効率化の実現である。本編の事例であったように、既に米国の企業ではネットワーク維持・運用業務において機械学習やRPAによる高度化・効率化を実現している。日本における今後のIT人材の不足傾向を見据えると、IT業務のMI化は課題解決に向けた取組みの一つと捉えることができる。維持・運用業務の効率化にとどまらず、ITマネジメント、システム開発業務などのMIへの代替は、将来的に実現できる領域だろう。企業のIT業務においても、インハウス・アウトソース、あるいはコボットという選択を行う時代が来るだろう。

 さらに別のアイデアとして、ストレートコンバージョンといったITプロジェクトに対してのMI技術の活用が考えられる。四半世紀を優に超える期間にわたってシステムを利用しており、新システムへの移行に際し100億円弱の投資が必要と見積もられたケースもある。

 技術の老朽化によるリプレイス、古い開発言語に対する技術者不足、設計書のドキュメント不備、歴史を重ねたことによるロジックの複雑化など、技術的には非常に難易度の高い取組みであるということは理解できる。しかし、経営的な観点から見ると、ビジネス改善に直結しない取組みに映り、多大な投資をすることに対して経営層の納得を得ることが難しいテーマの一つではないだろうか。

 コンバージョンプログラムの提供など、これまで自動化や効率化のツールや方法論は各ベンダで整備しているものの、最終的には人海戦術でのコード解析や検証が必要になるというのが現実である。

 引退した開発者のコーディングの癖を読み、機能間の関連性に着眼し、静的に組込まれたパラメータを認知してコードの変更を加えるレベルまでの能力を備えた仮想的な開発者が、近い将来登場するだろう。

 ITサービス事業者、企業の情報システム部門などのITの現場においては、労働集約型の業務が多い。将来的なMIのさらなる進化によって、ITに関連したビジネスや組織体制のあり方をも変革する有効なテクノロジーになることが期待される。
 

寄稿者

デロイト トーマツ コンサルティング テクノロジー

山本 有志 シニアマネジャー

多様なインダストリーに対して、業務改革、組織改革、ITコスト削減などのアドバイザリーサービスを提供。経営、業務、ITの知見を活用し、経営層に対してコンサルティングサービスを提供している。

 

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