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複合現実(MR)

より直感的で没入感のある今までにない体験へ

拡張現実(AR)とバーチャルリアリティ(VR)を活用したビジネスの可能性は高まっており、一時的かつパイロット的な取組みだけではなく、日常の業務に適用される事例が日々生み出されている状況になりつつある。複合現実(MR:Mixed reality)は、AR/VRとIoTという異なる技術分野の融和によって作り上げられており、仮想と現実の世界が結びつき、デジタルと現実世界が共存しながら相互作用する、新たな世界が生まれている。

市民権を得つつあるMR

 MRの利用シーンについては、以前はゲームなどのエンターテインメントの世界が中心だったが、ここに来てビジネスでの利用も明らかに増加している。「MR」(あるいは「AR/VR」)という言葉を目や耳にする機会が、1年前と比べても圧倒的に増えていると感じる方も多いのではないだろうか。

 こうした昨年までと違う背景として、2つのポイントがある。1つ目はデバイスの普及である。ゲーム機に接続することを前提としたPlayStation VRに限ってみても、販売開始から4ヶ月を迎えた2017年2月末時点で、販売台数は90万台を超えている。こういったHMD単体で使う形態以外にも、スマートフォンやディスプレイなどの以前から存在するデバイスを活用する方法など、MRを実現できる環境は広がりを見せている。

 2点目は、デバイスの普及以上に、ゲームを中心としたコンテンツの充実がMRの拡大を後押ししているという点である。読者の方も実際にプレイされたかもしれないが、2016年に大ヒットしたポケモンGoは、ARの技術を個人のスマートフォンで実現したコンテンツの好例といえる。

 こうした環境の変化を受け、仮想・拡張世界は「現実とは別物」という見方も変わり、両世界の境界はより曖昧になってきている。これこそが、「AR/VR」に替わって「MR」という言葉が市民権を得てきている背景である。
 

鍵となるのはコンテンツとスピード

 3年後に東京オリンピック・パラリンピックを迎える日本は、まさにこうしたMRのコンテンツの充実を図る良いタイミングにあるといえる。お家芸として世界に輸出してきたアニメやゲームなどと同様に、世界にアピールする格好の機会になるからだ。

 また、こうしたバーチャルな世界に違和感を持たない、ミレニアル世代が消費の中心あるいは企業の中堅を担うステージに来ていることも、MRの普及に一役買うであろう。

 このモメンタムを加速する際の鍵はどこにあるのか。それは、新しいコンテンツをいかに早く世の中に出していけるかという点にあると私は考える。
 

どのようなコンテンツを揃えるべきか?

 疑似体験を超える没入感こそが、MRを選択したことで得られる醍醐味である。

 その効果を、人間から見た場合の、情報の「インプット」「プロセス(処理)」「アウトプット」という切り口で見てみよう。MRの没入感によって効果を高めることのできるステップは、限定的な範囲に留まると言わざるを得ない。MRは、人の感じる「インプット」を強めることには寄与するものの、それ以外の2つの要素については、MR単体でカバーすることは難しい。

 例えば、MRを通じて体験できた、拡張空間で得られる感動や興奮は、それ自体を他者への伝達(アウトプット)に結び付けることは難しい。まさに人間としての思考や表現力そのものが問われるステップであるからだ。これを補うには、IoTによるデータ収集や、AIによるデータ解析などの組合わせを検討する必要がある。没入感の中で味わった、人間の生理的な反応をデータとして収集し、その反応をAIで解析して、次のインプットになるコンテンツを出し分けるといったような形で、人と情報のやり取りのステップのすべてをカバーできることが望ましい。

 こうした方法は、例えば日本においては教育における地方格差をなくすためのプログラムの開発に活かせる。単に遠隔地で映像による授業を受けるというだけでなく、合奏や実験といった、自分が複数の相手と一緒に力を合わせ、物事を生み出す体験もできるようになる。

 また、日本では100歳を超えるセンテニアル世代は46年連続で増え、2016年時点でも6万5千人を超えている。この状況は今後より一層進むと予想されるが、そうした中で、先達の過去の経験を蓄積し、時空を超えてその体験を次の世代に遺すといったコンテンツも考えられるだろう。副次的には、高齢者の社会との結びつきの機会の提供にもつながる。
 

MRによるイノベーションの創出を

 コンテンツを準備する上では、映像を撮り、インタラクティブにやり取りするための情報を重ね…というステップを経ることが必要となる。これには相応の時間と労力がかかる。映像に違和感がない状態にするためには、撮影した静止画とセンサーやビーコンから得られた情報を組合わせて、座標情報を補正しながら360度の高解像度な世界を仮想空間に作り上げる作業が必要になるためである。

 ただし、こういったテクニカルな課題についても、解消できる環境が徐々に整いつつあるし、映像については、段階的に完成度を上げていくアプローチも取りやすい。いくつかのマイナス面を差し引いても、デバイスが1つあれば小規模からでも始められるという点に、MRの良さがある。

 最近では、ビジネスニーズの実現手段や課題の解決手段としての役割を超え、テクノロジーそのものが、イノベーションをリードする主役としての注目を集める機会も増えている。これを最も実現しやすいのがMR関連であろう。同じ最新テクノロジーの中でも、AIやIoTは扱うデータの量があってこそ価値が増す側面が強く、スモールスタートが難しい領域だからである。

 手に入れやすくなったデバイスを利用し、その中で活かすコンテンツをビジネス視点で考える。この計画と実証を繰り返すといったアジャイル型のアプローチを用いて、ぜひMRを使ったイノベーションの検討に着手しようではないか。2020年のショウケースに並ぶ、日本の次の輸出産業になることを目指して。
 

寄稿者

デロイト トーマツ コンサルティング テクノロジー

箱嶋 俊哉 シニアマネジャー

金融および公共インダストリーを中心に、テクノロジーを軸としたコンサルティングサービスを担当。企業統合や基幹システム再構築などの、グローバルおよび大規模プロジェクトに従事。ITをはじめとした人材育成も得意としており、外部講演や執筆も多数手掛けている。

 

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