テクノロジーの再構築

Deloitte Insights

テクノロジーの再構築

トップダウンとボトムアップから進める新しいIT導入モデル

テクノロジーとビジネス戦略が密接に紐づけられた今日において、先進企業ではテクノロジーによる変革の構想、導入、展開の各段階におけるアプローチを抜本的に再検討し、IT部門をビジネスの成長エンジンへと変革させ、その影響範囲はバックオフィスやシステム運用だけでなく、製品開発やプラットフォームでのサービス提供にも及んでいる。テクノロジーの再構築が今求められているのだ。

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>> Reengineering technology <<

Tech Trends 2018 | Deloitte Insights

日本のコンサルタントの見解

はじめに

「テクノロジー再構築」に対する関心は、近年世界中で非常に高まっており、本編の中で取り上げられた各地域のデロイトのリーダーを対象とした調査でも、技術投資のスピードとインパクトを高める機会を模索している企業が増えているという回答が目立つ。一方、日本の企業はこのようなテクノロジー再構築に関して興味を示すものの、実際には技術投資を行うまでには至らないというケースが多く見受けられてきた。その原因として、縦割りの組織や硬直的なルール・プロセス、柔軟性に欠けるシステム環境などにより迅速な意思決定ができないといった点が挙げられる。これらを解消し、テクノロジー再構築を成し遂げるためには、本編で提唱された組織全体のストラクチャを刷新する「トップダウン」アプローチとインフラやアーキテクチャを最適化させる「ボトムアップ」アプローチの二つを組合わせていく必要がある。この二つのアプローチに沿って、日本企業の再構築を成功させるには、トップダウン目線からは「攻守一体の組織形成」・「企業特性に合わせたアジャイル手法の組み込み」を実現すること、そしてボトムアップ目線からは「SoR(System of Records)とSoE(System of Engagement)の融合を見据えたアーキテクチャの再編」を実現することが不可欠であり、本稿ではここに重点を当てて論じていきたいと思う。

攻守一体の組織形成

2017年1月に実施されたガートナージャパン社の調査結果によると、新しい技術を投入する際に、今後の企業のIT戦略はバイモーダルのフレームワークでとらえることが重要であるとされる1。バイモーダルフレームワークは二つのアプローチに分けられ、企業ITを「システムの維持とコスト削減の要件に応え、高品質で安定的な運用を目指す」守りのITと、「ビジネスの成長と革新の要件に応え、変化対応型のアジャイルアプローチを取る」攻めのITに分類しており、前者がSoR、後者がSoEと一般的に定義されている。ウォーターフォール型開発手法が基本となる守りのITに対して、攻めのITを実現するにはアジャイル型開発手法の導入の必要性がまず思い浮かぶが、トップダウン目線からは組織も合わせて見直す必要がある。なぜなら迅速にビジネスの革新をもたらすには、ビジネス部門やIT部門の垣根を越えて協働しないといけないからだ。

日本企業に目を向けてみるとどうであろうか。アジャイル型開発手法の導入を試み、攻めの姿勢を見せている企業も中にはあるが、縦割りの組織設計・ルール・慣習に縛られているため、小さなアジャイル型開発は運用できたとしても、スケールアウトできずにもがき苦しんでいる印象が強い。攻守を揃えるには、組織・ルールの変革が欠かせないのであるが、ここにメスを入れるとなるとCIOのみならずCxO全体の理解と決断が必要である。ただ残念ながら世界と比べると日本の経営層はテクノロジー再構築に組織変革が不可欠であることを実感として持っていないようだ。

したがって、CxOの組織改編に対する理解が不足している企業については、役員レベルの啓蒙を速やかに実行することが不可欠である。そして次の段階として組織変革を実現することになるのだが、そこにリスクとハードルを感じ二の足を踏んでいるケースでは、試験的な施策を「バーチャルな組織」で実施し、小さな成功体験を社内で積み上げてから、組織とルールを漸進的に見直すことをお勧めしたい。例えば、最初は社内ポータルやユーザを限定したアプリケーションなど、小さな開発プロジェクトをいくつか選定した上で、ビジネス部門、IT部門の枠を越えた組織を構築し、段階的に開発対象を広げながら自律的にサービスリリースできるケイパビリティを向上させていくモデルが考えられる。

企業特性に合わせたアジャイル手法の組み込み

「アジャイル」という言葉は企業においてかなり認知が進んだと思われるが、その運用と定着は道半ばである。例えばアジャイルと一言でいっても、そこにはあらゆるプラクティス(例:ペアプログラミング、テスト駆動開発、カンバン、レトロスペクティブなど)が包含されており、画一的に適用してもあまり上手くいかない。そのため、その企業の文化や開発対象に合わせてプラクティスを選択していくことが必要であり、その企業に根差す手法を模索することが重要である。また中にはフロントエンドの開発だけでなく、バックエンドとのシステム連携が必要なケースにおいて、簡単にアジャイルと割り切れず、ウォーターフォールと組合わせたハイブリッドアジャイルといった手法も取り入れなければいけないことに注意が必要である。一見単なるスマホアプリの開発のように見えても、その裏では古いレガシーシステムとの相互連携が必要となることもあり、アジャイルとウォーターフォールの両手法を巧みに駆使しながら、プロジェクトを推進する局面が少なからずあるのである。ウォーターフォールと比べ柔軟性が高いがために、中々最適解が導けないかもしれないが、迅速なサービスリリースを念頭において、実践を繰り返しながらその企業に適した手法を勝ち取ることが期待される。

SoRとSoEの融合を見据えたアーキテクチャの再編

本編でも触れられているが、ボトムアップ目線で対応を要するものの一つとして挙げられているのが、アーキテクチャの再構築である。これまでの企業システムはウォーターフォールに沿って構築された基幹システム、すなわち信頼性と安定性をコアバリューとするSoRが中心であった。しかしマーケットの変化が激しくなるにしたがい、顧客との関係強化を目的とした、より柔軟性を要するSoEに対するニーズが非常に高まってきたのが現在である。但し、SoRとSoEを両立させるためには、疎結合によって両者を融合させたり、SoEの要素をこれまでの古いレガシーシステムから分離したりと、一筋縄にはいかない。特に日本のシステムの特徴として、標準機能がプリセットされているERPであったとしても、カスタマイズによって複雑な作りになってしまっているものが多いため、SoRからSoEの要素を分割してシステム基盤を再構築することが難しい。そこで例えば、大型ERPの保守切れをきっかけとして、単なるシステムアップグレードではなく、ゼロベースでシステム構想を練り直し、SoRとSoEを整理してシステム再編を検討することも一考であろう。もしくは基幹システムのアップグレードやリプレイスを待てない場合は、早急にビジネスの付加価値を高めるSoEシステムの取組みを先行し、既存の基幹システムとはMDMやESBなどを通して間接的に結合して、両立を図ることも考えられる。いずれにしても日本企業にとっては簡単な取組みではないが、ビジネスに迅速に付加価値をもたらすためには、早急に着手することが求められる。

最後に

「テクノロジーの再構築」を説くには、今回俎上に上がった二つのアプローチを効果的に利用する必要がある。まずは、「トップダウン」アプローチにより、変化し続けるビジネスニーズにフレキシブルに調整していくことができる、バイモーダル組織体制へのシフトと、自身の企業に即したプロジェクト管理手法の定着化を促進していくことだ。それと並行して「ボトムアップ」アプローチにより、ビジネスをスムーズに動かす基盤を整えるために、アーキテクチャの再編も考える必要がある。大きなチャレンジが待っているが、ここを乗り越えない限り海外の競合他社からは引き離されてしまう。日本企業の再興もしくは更なる発展のために、ともにテクノロジーの再構築を実現したいと願ってやまない。

 

参考文献

1. ガートナージャパン株式会社 2017年プレースリリース「ガートナー、日本におけるクラウド・コンピューティングに関する調査結果を発表」(外部リンク)
http://www.gartner.co.jp/press/html/pr20170404-01.html

テクノロジーの再構築(全文) Tech Trends 2018 〔PDF, 2.35MB〕

執筆者

石綿 眞亊 シニアマネジャー

米系および日系のコンサルティング会社を経て現職。グローバル企業を中心に、大型クロスボーダー案件に主に従事。多くの業務改革・IT構築プロジェクトに関与し、基本構想、企画、導入、保守運用までの幅広い経験を有する。

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