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Blockchain:トラスト経済圏

デジタルアイデンティティの制御

ブロックチェーンは、数年前まではビットコインのような仮想通貨に関連する単なる共有台帳技術にすぎないと世間から認識されていた。それが今、分散型台帳においてスマートコントラクトが執行できるようになったことで、「未成熟な仮想通貨」という世間の認識から脱却しつつあり、「トラスト経済圏」の守護者という新たな役割を担おうとしている。

実用化の検討段階にあるブロックチェーン

 ここでは、我が国におけるブロックチェーンの取組みの変遷と今後の展望について紹介していきたい。

 一昨年は未だ実証段階だったブロックチェーンは、急速な技術革新により、実業務に適用されるまでに成長した。日本においても研究が日進月歩で進み、大手金融機関・製造業・システムベンダによるブロックチェーンを用いたサービスが登場しつつある。まずは、この一年の動きを見てみよう。

 ブロックチェーンは大別するとパブリック型・コンソーシアム型・プライベート型の3種のタイプに分類されるが、それぞれのタイプのビジネスへの適用範囲が明確になってきた。パブリック型は管理者を置かず、誰でも参加できるオープンなネットワークとなるが、管理者がいないためトラブル発生時の対応が難しいこと、改ざん耐性を確保するためのコンセンサスアルゴリズムの処理速度が遅くなることなどの課題がある。これに対して、コンソーシアム型やプライベート型は、管理者を置いて参加者を絞ることで悪質な参加者を排除し、あわせてコンセンサスアルゴリズムを簡略化することで処理速度とコストの問題を解決しようとしている。特にR3コンソーシアム(金融機関によるブロックチェーンプラットフォーム)上で開発された、ripple connectを用いた国際送金のソリューションは、実用化に向けた検証が進んでおり、普及まであと一歩の状態まできている。

 また、スマートコントラクトの実用化に向けた検討が進んだ点もあげられる。ブロックチェーンの基盤技術上で自律分散型のアプリケーション:Decentralized Applications(DApps)を用いれば、スマートコントラクトの実現が可能になり、この分野の検討が大きく前進したといえる。
 

普及に向けて取り組むべき課題は?

 現時点で分かっている課題を整理してみよう。

1.実業務での運用実績の蓄積不足

 ブロックチェーンの実証実験の結果が、金融市場が求める信頼性を担保できる実績まで到達していないことは事実である。国内大手銀行では、ブロックチェーンを用いた電子マネーを発行して自行内の決済・送金・金融商品取引に利用することで、事務コストの削減を検討しており、大手証券会社では、株式・債券・デリバティブ取引業務にスマートコントラクトの利活用を検討しているが、未だ実業務での運用実績を積むには至っていない。

 また、各国中央銀行でデジタル通貨への関心が高まっており、日本銀行でもブロックチェーンの可能性に注目し研究も進んでいるが、それはブロックチェーン技術やその技術を利用したデジタル通貨への理解を深めることが目的であって、デジタル通貨を発行するような具体的な計画を持っているわけではない。

 非金融分野への応用も検討され始めた。ブロックチェーンの持つ改ざん耐性は著作権保護の用途に適合するため、著作権管理システムへの活用が検討されている。また、ブロックチェーンの持つ情報のトレーサビリティは、物流分野で生産・流通経路を記録する仕組みへ活用できる。しかし、いずれの活用方法も検討が始まったばかりであり、ユースケースの実証実験と実業務での実績を積み重ねることで、普及は加速するであろう。 

2.処理性能と公開範囲のトレードオフ

 ブロックチェーンは、現在の技術レベルでは処理性能を維持しつつセキュリティを確保するのは難しいと考えられている。これを解決するためには、参加者を絞ることで悪意のある参加者を排除し、その代わりにコンセンサスアルゴリズムを簡略化して計算処理の負荷を下げる方法が考えられる。この場合、処理性能と公開範囲の間にはトレードオフが発生するため、実業務への適用においては、求められる処理性能とセキュリティ要件に応じてブロックチェーンのタイプを選択する必要がある。 

3.信頼性を保証する技術の確立

 ブロックチェーンを用いた分散型台帳技術(DLT:Distributed Ledger Technology)によって、国際送金システムであるSWIFTを代替する検討が進んでおり、大手金融機関・IT企業・決済機関などが共同研究と実証実験を行っている。DLTは信頼性の高さ、効率的な情報共有、データの改ざん耐性や完全性、システムの耐障害性などの点でSWIFTより優れているが、データの機密性、セキュリティ、拡張性など、金融業務に必要な要件を実証できていない課題も多い。

 スマートコントラクトに関するトラブル事例としては、2016年6月に発生したDAO Attack事件が記憶に新しい。DAO(Decentralized Autonomous Organization)のプラットフォームであるEthereumに脆弱性はなかったが、DAOのプログラムに脆弱性があったため、不正送金が行われてしまった。この事件は、不正な取引が、あたかも正当な取引として全ての参加者のコンピューターに書き込まれてしまう危険性を明らかにし、ブロックチェーンのプラットフォームだけでなく、その上で実行されるプログラムの安全性の担保のあり方についての課題を突き付けた。

 ブロックチェーンの技術は発展途上であり、オンライン処理性能やセキュリティの安全性、スマートコントラクトの実現を可能とするためには、いま一歩の技術革新が必要といえる。

4.技術の進歩に合わせた法制面の検討

 ビットコインに代表されるブロックチェーンの技術を用いた仮想通貨は、その特性からマネーロンダリングの温床になる懸念があるが、これまでは実世界のような法規制が存在しなかった。しかし、ブロックチェーンの技術自体は改ざん耐性・透明性を備え、かつスマートコントラクトを実現し得る優れた技術であるため、技術の健全な利活用に向け、適用されるサービスのSLA(Service Level Agreement)を整備する必要がある。

 特にスマートコントラクトの実現のためには、資金決済法・犯罪収益移転防止法・個人情報保護法・電子署名法などにSLAが対応できているか、十分な検証が必要となる。現行の法律がスマートコントラクトの先進性を網羅できていないことを踏まえると、法整備の推進が必要なことも確かであろう。

5.スマートコントラクトの適用範囲

 ブロックチェーンにスマートコントラクトの仕組みを実装するにあたり、その適用範囲の定義の難しさが明らかになりつつある。スマートコントラクトでは、「契約」が「資産」に紐づいた取引情報として扱われるが、その内容は「契約」によって異なり、画一的に定義できるものではない。個々の「契約」の締結、履行といったビジネスプロセスは関係者間の合意のもとに、局面に応じてそれぞれ定義するものだからである。

 そのため、全ての契約を同じプロセスで実行することはできず、「契約」プロセスのどの部分をスマートコントラクトに適用するか、という課題に取り組む必要がある。さらに、IoT、AIの技術革新によって業務効率化が飛躍的に進み、その条件でのスマートコントラクト実現の検討という、より包括的なビジョンを描くことが求められる。
 

業界の先駆者となるためには

 ブロックチェーンを用いたサービスで業界の先駆者となるためにはどのような取組みが必要なのだろうか。

1.国内3大メガバンクと共同で進める「ブロックチェーン研究会」の取組み

 デロイト トーマツ コンサルティングは、みずほフィナンシャルグループ、三井住友銀行、三菱UFJフィナンシャル・グループの3社と共同でブロックチェーン研究会を発足し、研究を進めている。3社と共同で実施した国内の銀行間振込業務の実証実験について解説しよう。銀行間の決済システムの一部にブロックチェーン技術を適用した結果、送金業務に求められるオンライン処理性能が実運用の適用水準を満たしていることと、コスト削減が期待できることが実証できた。今回の実験はブロックチェーンの適用領域を一部に絞ったため、実用化に向けた検証が必要だが、ブロックチェーンの将来性を再確認できた。今後、実証実験や実用化検証の更なる推進が求められる。

FinTech、ブロックチェーンにおけるデロイトの取り組み

2.プラットフォームとしてのブロックチェーンの活用

 ブロックチェーンの技術は、改ざん耐性や完全性、耐障害性などの特性により、SalesforceやAWS 、Azureといったクラウド基盤のようなプラットフォームになり得る可能性を秘めている。しかし、DAO Attack事件によって、ブロックチェーン基盤のEthreum上で使われるプログラム言語であるSolidityの自由度が高すぎたことと、アプリケーションの構築および運用の方法が未成熟であることが明確になった。ブロックチェーンをプラットフォームとして適切に活用するためには、アプリケーションを構築する自由度を減らして不具合が発生するリスクを抑えつつ、より使いやすくすることが必要だといえる。

3.ブロックチェーンの拡大に向けて

 日本のブロックチェーンの利活用に向けた取組みは、特定の業界でコンソーシアムを組成して、その枠組みの中で検討する流れで進んでいる。これまでは金融業界での検討が中心であったが、今後は製造・物流業界で検討が進んでいくであろう。サプライチェーン業務において企業レベルのシステムを公益レベルの企業間を跨いだシステムに置き換えることができれば、透明性が高まり効率化が可能になると考えられているため、ブロックチェーンが持つ情報のトレーサビリティの活用が注目されている。また、サプライチェーン業務のトレーサビリティが高まれば、その情報を用いて金融サービスを高度化できると考えられている。ブロックチェーンの活用範囲をサプライチェーン業務に拡大していくことは、製造・物流に関わる様々な企業に影響する、非常に大きなテーマである。

 かつて、インターネットがその基盤技術ではなく、電子メールというアプリケーションによってビジネスのあり方を変えたように、ブロックチェーンもその基盤技術上で稼働するアプリケーションがビジネスのあり方を一変させる可能性がある。我々が為すべきことは、革新的なサービスにいち早く着目し、標準化したサービスとしてビジネスに適用させることである。

 

 

寄稿者

デロイト トーマツ コンサルティング テクノロジー

渡辺 馨 シニアマネジャー

流通、製造系を中心に多様なインダストリーに対して、業務プロセスと新旧テクノロジーの知見を活かし、ビジネス変革時やIT構想策定時におけるアーキテクチャー・トランスフォーメーションに関するアドバイザリーサービスを提供。

 

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