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デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2023 #1 プロローグ

デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド/境界の無い世界のための新たな原理

これからの境界のない世界では、仕事はジョブによって定義されず、職場は特定の場所を意味せず、多くの労働者が従来型の組織に属する従業員とはなりません。今後は、そのような彼らと協働し、あらゆることを試行できるリーダーが、持続可能なワークモデルと高い成果を生み出します。

境界の無い世界のための新たな原理

過去1世紀の間、私たちは機械論的な仕事観に支配されてきました。作業は固定的で反復可能であり、個別のタスクに容易に切り分けられ、明確に定義されたジョブにグループ化されると考えていました。コストと生産性の変革、すなわちより速く、より効率的な方法で同じ結果をもたらすという取り組みに焦点が当てられていました。しかし、組織や労働者がこれまで以上に大きな非連続的な変化や混乱に挑んでいる近年では、これらのモデルは課題を抱えています。

 

「新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まった当初、誰もが半年この状況に耐えられれば終息すると考えていた。しかし、これは短期的なものではなく、長期的なものだということが、すぐに現実として見えてきた。そして、仕事とは何か、仕事はどこで行われるのか、異なる環境でどのように仕事をリードするのか、根本的に考え直さなければならなかった。」

– Terry Shaw ,AdventHealth, 社長兼CEO

 

物事の自然な秩序として考えられていた境界、すなわち、仕事は明確に定義されたプロセスにまとめることができ、ジョブは分類され組織内に必ず含めることができ、仕事は職場の壁の内側で発生し、そして組織は株主と収益を中心に意思決定を行うことができると考えられていたことは、崩れ去っています。これによる影響で、組織は物事をパッケージ化して整然と維持していた従来の境界線を失い、新たな原理を定義するための実験、試み、変革を許され、新しいランドスケープを旅する必要が出てきました。同様に、労働者にとっては、組織との関わり方のルールが変化しており、組織とより大きく、より意味のあるコラボレーションと共創をするための扉が開かれています。

 

「仕事を構造化していた境界の多くは解体された。現在残っている境界では、より一層ヒューマンダイナミクスや、人々が仕事とどのように関わるかに焦点が当てられている。」

-Chris Ernst, Workday, CLO

 

人間は本能的に、境界が崩れると圧倒されたり躊躇したりします。今年のグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査の1万人の回答者は、組織が成果を達成するための大きな障壁は、一度にあまりに多くの変化が起きたことで、圧倒されていることであると述べています。しかし、この境界の解消は、これまでと根本的に異なる方法でビジネスの世界に姿を現す準備が整っている組織や労働者に対しては、新しい機会を創出します。これはもはや、過去の分類や境界に対して新しい戦略を展開することで、市場の刺激に対し単純に反応するだけではないことを意味します。その代わりに、組織や労働者は先の仮説に挑戦し、私たちが残ったままの安定的な区画化された世界より、動的で境界の無い世界のために構築された新しい一連の原理を採用すべきでしょう。

これらの新たな原理は、組織と労働者が課題を異なる方法で組み立て、研究者のように考えることで、どのようにビジネスと要員戦略にアプローチし、全ての新しい障害を刺激的な実験として扱い、そこから学び、適応し、改善することができるようにするかを求めています。新たな原理は、組織と労働者に別の道を示し、新しく進化する目的、イノベーション、再創造を追求するために関係を共創することを求めています。そして、組織や労働者には、人が生み出す成果のインパクトを、人の目線から戦略的にアプローチしてデザインすることを求めています。

課題を設定する:研究者のように考える

この境界の無い世界をリードするためには、組織と労働者は好奇心を活性化させ、それぞれの意思決定をインパクトと新しい洞察を生み出すことを促進する実験として見るべきです。差別化と成功は、いつも最初の時点で正しい答えを持っているべきと信じることから生まれるのではなく、伝統的慣行に挑戦し、謙虚さと共感をもって行動し、新しい情報から学び、できるだけ早く洗練できるようにすることでもたらされます。2023年のグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査のデータによると、回答者の59%が今後2~4年で再創造に焦点を当てると示しており、これはパンデミック前のレベルから2倍に相当します (2021年のレポートにて報告) 。

 

「私たちは新しいことに挑戦し、早く失敗し、そこから学び、前進する許可をチームに与えました。その結果、多くの新しいベンチャーや戦略が生まれています。」

– Olesea Azevedo, Chief People Officer, AdventHealth

 

このレポートにおける以下3つのトレンドは、組織や労働者が研究者のように考える必要性を示しています。

  • ジョブの終焉への先導:ジョブとジョブを区別し、タスクをグループ化し、労働者を狭い役割と責任に分類していた境界線は、現在、イノベーションや機敏性等の組織の成果を制限しています。多くの組織が労働力に関する意思決定のベースラインとして、ジョブではなくスキルを使用することを試みています。労働者はジョブから解放されると、組織や労働者の成果の向上に向けて、その能力、経験、興味をより活用していく機会を得られます。
  • テクノロジーで人間そのものの能力を高める:人間が行う作業を自動化・拡張するだけでなく、実際に人間やチームのパフォーマンスを向上させる新しいテクノロジーが職場に登場するにつれて、人間とテクノロジーを区分してきた境界は消滅しつつあります。先進的な組織は、人々が最高の自分でいられ、より良い仕事をすることを奨励するようなテクノロジーの使い方を模索しています。
  • 未来の職場の活性化:デジタルや仮想技術の進歩とメタバースの新たな役割は、物理空間としての職場の概念を再定義しています。現在では、相互接続性が高まり、在宅勤務とオンサイト勤務の境界が曖昧になっているため、組織は “どこで” ではなく “どのように” 仕事を行うべきかを実験するユニークな機会を得ています。場所と様式は、仕事と労働者のニーズにおいて二の次となっています。

     

新しい道を描く:関係を共創する

成功に向けて、組織と労働者は、新しいルール、新しい境界、新しい関係を共創し、この新しい世界を一緒に先導することを学ぶべきです。すなわち、所有モデルと価値は変化しなければなりません。労働者が組織や社会の成果に対してより大きな影響力と説明責任を持ち、組織と手を携えて主導的役割を担うようになるにつれ、組織は完全にコントロールされているという以前の幻想を捨て、進化するエコシステムにおいて果たす役割を認識すべきです。

今年のグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査では、組織変革のデザインと実行に労働者が関与している割合が高い組織ほど、肯定的な結果が得られる傾向にありました。具体的には、組織と従業員が共創していると回答した人は、エンゲージメントの高い労働力を持つ可能性が1.8倍、革新的である可能性は2倍高く、変化を効果的に予測し対応する可能性は1.6倍高いと述べています。

 

「私たちは人事機能を変革しています。今、私たちはどのように共創するかについて自問しています。ユーザーと労働者を意思決定に参加させています。人間をデザインの中心に据えたいのです。」

- Global HR leader, Financial services organization

 

このレポートにおける以下3つの章は、組織と労働者が関係を共創しなければならないポイントを示しています。

  • 労働者データの交渉:組織と労働者におけるデータの所有権の境界、すなわち労働者が所有するデータなのか組織が所有するデータなのかという2つの区分は、無意味になりつつあります。そして、所有権のみならず、労働者データとは何か、そのデータの透明性、データドリブンな洞察の相互利益についての議論は、データが新しい “通貨” になりつつある中で増加しています。
  • 労働者の交渉力の活用:労働者がより意味のある仕事、柔軟な職場モデル、よりパーソナライズされたキャリアパスを求めている中で、組織が唯一の意思決定権限を持つことを前提とした従来の仕事、労働力、職場モデルは廃れつつあります。労働者の交渉力はこれまで脅威と見られていたかもしれませんが、先進的な組織は、労働者のモチベーションと共創を活用して相互の利益を高め合う方法を模索しています。
  • 労働力のエコシステムの解放:多様な労働力のエコシステムを育成する価値は非常に大きいですが、多くの組織はあらゆるタイプの労働者(ギグ、フリーランサー、請負業者、従業員等)に、どこで、どのように、誰のために働くかについての発言権を与えていないため、人材へのアクセスと旧来の管理パターンから抜け出せずにいます。はるかに複雑で、従来とは異なる労働者構成になっていることが多い現実世界の人材プールに合わせて戦略と施策を適応させる組織は、成長、イノベーション、敏捷性を加速するためのスキルと経験にアクセスできるようになるでしょう。

これらの新しい企業形態は現在の仕事からの大幅なシフトを必要とするため、組織が労働者との共創を必要とするというトレンドに対処する準備が遅れていたことは驚くべきことではありません。私たちの調査によると、データの所有について非常に準備ができていると答えた組織は僅か19%、労働者の交渉力については17%、労働力のエコシステムについては16%でした。組織がイノベーションを活用し、これらのトレンドをもたらす可能性のある個人、ビジネス、社会の成果を向上させるために、この準備不足のギャップを克服することは重要です。

 

影響を考慮した設計:人間の成果を優先する

境界の無い世界の最終的な原理は、集団的願望に依存します。組織は、ビジネス、労働者、株主だけでなく、より広範な社会にも影響をもたらすべきです。今年調査に参加した組織のうち半数以上は、自身が働いている社会と、より大きな繋がりを作ることを望んでおり、2018年のグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンドで定義したソーシャル・エンタープライズは、ビジネスの世界で引き続き中心的な力を持つことを示しています。

気候、平等、人的リスクなどの重要なトピックの周辺に価値を生み出す個別のプログラムを構築するだけでは、もはや十分とは言えません。これらは、この新しいビジネスの世界で成功する組織の能力における基本です。今年のグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査では80%以上の組織が、パーパス、多様性・公平性・インクルージョン(DEI)、持続可能性、そして信頼を最重点分野として回答しています。
 

このレポートの以下3つの章は、組織と労働者が人間の成果をどのように優先しているかを示しています。

  • 公平な結果のために大胆なアクションをとる:組織がダイバーシティのみを指標とする考え方は失われつつあり、組織は代わりにDEIを成果として見る必要があると捉えています。これらの結果は、3つのポイントに焦点を当てています。まず、組織がどのようにして人材にアクセスするかに関する公平性。次に、開発プログラム、メソッド、ツールによって人材を活かすこと。そして、組織のあらゆるレベルでどのように人材を昇進・昇格させるのかという点です。組織は、その活動や努力に対する責任よりも、より大きな社会目標を支援する公平な成果の達成能力に対する責任を負うことになるのです。
  • サステナビリティにおける人的要素を進化させる:社会全体の利益とは切り離して考えられる利益を持つ、完全な自律的存在として組織をとらえることの境界は曖昧になってきています。組織は、政府、グローバルの連合、コミュニティ、少なくとも現在と将来の労働者から、持続可能性の問題に対処するよう、強いプレッシャーにさらされています。労働者は、組織が目に見える成果をもたらすために、持続可能性に関する美辞麗句は過去のものにすることを求めています。その結果、組織は、労働力と仕事自体に持続可能性を適用することによって、これまでの戦略や行動には殆ど存在しなかった人的要素に焦点を当てなければなりません。
  • 人的リスクへの関心を高める:組織は従来、労働者がビジネスにもたらす潜在的なリスクという狭いレンズを通して人的リスクを考えてきました。新しい世界では、組織は、コンプライアンスや報告を超えて、人的リスクに対する見解を拡大し、広範な一連のリスクがどのように人々に大きく影響を与え、また、大きく影響を受けているかを考慮する必要があります。これらのリスクは、企業の長期的な存続可能性に重大な影響を与える可能性があり、全ての経営陣は十分に理解し、取締役会は最終的な説明責任を負う必要があります。

 

境界の無い世界をリードする

正しく理解すれば、境界の無い世界は混沌や混乱ではなく、無限の可能性の一つになります。古い境界線が変化、消滅するにつれて、組織と労働者はこれらの原理を発展させます。新しいガイドラインを設定し、より自律性を生みだし、新しい可能性をイメージし、組織、労働力、社会における互いの価値を達成します。しかし、そのためには新しい考え方を採用する必要があり、過去の仕事、労働力、職場の運用モデルを手放し、スピードや機敏さ、実験、イノベーションに焦点を当てたこれまでより流動的で人間的な未来を受け入れる必要があります。

 

「境界という言葉の別の定義はフロンティアです。フロンティアは、企業や組織において、最も新しく、最も革新的で、最も価値を創造する機会のある場所を表します。限界や制約を生み出すものではなく、新たな価値創造、イノベーション、創造性の源泉として境界を捉え直すことが根本的な課題であり、機会なのです。」

-Chris Ernst, CLO, Workday

 

新たな成果を達成することを目的として労働者やチームを動員するためには、組織のあらゆるレベルで新しいリーダーシップ能力が必要となります。しかし、今年のグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査では、リーダーが混乱した世界を乗り切る能力を持っていると答えた組織は僅か23%でした。彼らは、リーダー層の進化していく労働力を管理する能力について懸念を示しており、リーダー層は拡張する労働力を包括的に指導する準備ができている、または労働力に関する意思決定を行う際に、より広範な社会的および環境的リスクを考慮する準備ができていると回答した組織は15%未満にと留まります。また、仕事の設計や遂行そのものにも懸念を示しており、リーダー層がテクノロジーを使って仕事の成果やチームのパフォーマンスを向上させる準備が非常にできていると答えたのは僅か16%、組織に適した職場モデルを開発する準備が非常にできていると答えたのは僅か18%でした。

どこを、どのように際立たせるか、仕事を前進させるために採用する考え方に焦点を当てた新しいリーダーシップ像が求められるでしょう。具体的には、以下が必要になります。

  • 実験を利用して、より良い解決策を周知し、学習を促進し、価値を加速させる。
  • 共創を通じて、より広いエコシステム全体で労働者との深く親密な関係を築く。
  • 人に関するアジェンダを念頭に置いて、意思決定の影響を完全に理解するために、意思決定の範囲を広げる。

労働者と協力し、可能性にチャレンジする人は、持続可能な業務モデルを作ることができ、人々にとってより良い仕事をし、人々の仕事をより良くすることが可能です。

 

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