Deloitte Insights

デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2023 #9 サステナビリティにおける人的要素を進化させる

人間のサステナビリティは組織のサステナビリティ戦略の前面に押し出される

ビジネス周辺のモノに関するサステナビリティに取り組んでいる企業は多いが、その人的要素に取り組むことが次なるステップとなる。企業文化、人材開発、仕事内容・環境、価値観において人間のサステナビリティを重視することによって、永続的な変化が根付き、成果を上げることが可能となる。

企業によるサステナビリティ問題への取り組みは、主に広報やブランド力向上を目的とするものが多く、その成果についてはあまり考慮されていませんでした。しかし近年の企業運営や製造における排出量の削減等の取り組みは、実際に漸進的な改善をもたらしています。今こそ、人的要素に焦点を当て、人だけが実現可能な要素の組織への導入、適切なテクニカルスキル、ソフトスキルまたは人のスキルの開発の計画、人間にとってよりよい仕事への変化、そして人間のサステナビリティ設計をすることにより、具体的な成果を達成するための次なるステップへ進む時です。それにより根本的で永続的な変化が根付き、成果を上げることが可能となるでしょう。

サステナビリティの問題は社会や地球に現実的かつ実存的な影響を与えることから、人や地球とその繁栄に有意義な成果をもたらすために、組織が中心的な役割を果たすことが求められています。多くの経営陣は有意義な変化を起こすことの重要性および必要性を理解しており、調査対象となった組織の実に70%近くが、よりサステナブルな材料を取り入れたり、エネルギー使用の効率を高めたりしています。しかし、サステナブルな “モノ” に資金を提供するだけでは、サステナビリティの成果は得られません。

多くのサステナビリティへの取り組みは自社ビジネスの周辺に手を出すだけであり、有意義で永続的な変化をもたらす人的要素を無視しているという現実があります。例えば、多くの企業が出張を減らしたり、よりサステナブルな素材に切り替えたりしていますが、それらの行動だけではサステナビリティを労働力や仕事自体に根付かせることはできません。企業のエネルギーや社会的影響を根本的に形作る、サステナビリティの文化を育むことが必要です。人間が重要かつ永続的な変化を導くのです。

サステナビリティ関連用語集

サステナビリティとは、将来の世代が自らのニーズを満たす能力を損なうことなく、現在のニーズを満たすことです。 持続可能性には、組織が長期的な存続、収益性、および成長を達成するために必要な全てが含まれる。経済的、社会的、技術的進歩が自然と調和して起こるようにするとともに、全ての人間が健全な環境の下、その可能性を発揮し、尊厳と平等を保ちながら、豊かで充実した生活を享受できるようにするという望みも含まれる。 「サステナビリティ」は、環境、社会、ガバナンス(ESG)と同義ではなく、むしろそれを包含するものです。

ESGとは組織がサステナビリティのアジェンダに対する進捗状況を監視および報告するために使用するフレームワークです。

  • 環境(Environment):持続可能なビジネス遂行およびサプライチェーン管理を通じて、環境コスト、長期的な気候リスク、自然資本に関する課題に取り組むこと。 排出量の慎重な管理と、水、農業、鉱物、土地、その他の物質を含む天然資源の管理が含まれます。
  • 社会(Social):インクルージョン、賃金の公平性、健康、安全、ウェルビーイング、人権、コミュニティや社会への影響等を向上させる取り組みにコミットすること。
  • ガバナンス(Governance):意思決定の権限、説明責任、報告の透明性に関する取締役会、リーダーシップポリシーと慣行を確立・実行すること。 リーダーシップ、ガバナンス、株主の権利、役員のインセンティブ、企業倫理、行動が含まれます。

トレンドに当てはまるシグナル

  • 良い仕事、良い職場、良いプラットフォームの構築と促進に関して、労働者やその他の利害関係者から説明責任を求められる圧力が高まっている。3
  • 働いているコミュニティから、組織が社会でどのように価値を生み出しているかについて、より透明性の高い説明を求められている。
  • 規制当局や株主から、人間的、環境的、社会的な対策についてより透明性の高い報告をするよう要求されている。
  • サステナビリティに関する取り組みのROIを測定するのに苦労している。

レディネス・ギャップ

グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査では、調査回答者の 84% が、サステナビリティが組織に与える影響を理解し、その取り組みを前進させるためのオーナーシップを定義することが、組織の成功にとって重要であることを認めています。 しかし、自組織がサステナビリティに取り組む準備ができていると回答したのは僅か21% でした。

図1: サステナビリティのレディネス・ギャップ

図1: サステナビリティのレディネス・ギャップ

新しいあり姿とは

サステナビリティを目的、戦略、文化に組み込む:サステナビリティに関する取り組みは、ESG、従業員の健康と安全、企業の社会的責任といった名目のためだけに実施されるようではいけません。目に見える成果につながる行動変革を生み出すには、代わりに、ビジネスの目的や方針にサステナビリティの優先事項が組み込まれる必要があります。サステナビリティにまつわる成果を生み出す際の障壁は何かという質問に対して、企業文化、変化スピード、予算やリソースの不足、対外的な政策や規制等、従来から存在する変化に対する障壁を指摘する回答が圧倒的に目立ちました。 これらの障壁は外部要因に左右されるという点で共通しており、サステナビリティの成果創出においてオーナーシップがあると感じている組織は 30% 未満であるという事実に関連している可能性があります。

図2: 組織のサステナビリティ目標の達成に見られる障壁
図1: サステナビリティのレディネス・ギャップ

重要な変化を起こすには、サステナビリティを組織文化に織り込むとともに、戦略的かつ具体的な意思決定を下す必要があり、組織のリーダーはそれを理解することによって障壁を乗り越えることが可能となります。 これには、組織の企業目的の中核部分としてサステナビリティのストーリーを調整し伝えること、サポート組織と運用モデルを導入すること、サステナビリティ戦略をビジネスと従業員の慣行および仕事自体に結び付けることが含まれます。 これは、インセンティブ、報酬、パフォーマンス管理をサステナビリティの成果に連動させることで達成できます。

サステナビリティにまつわるスキル構築を戦略的に計画する:サステナビリティの成果を達成するには、労働力の中で新しいスキル、能力、経験を培う必要があるかもしれません。注目すべき取り組みも増えています。例えば、LinkedInは2016年から2022年の間に、彼らのプラットフォームで表される組織の間で、汚染防止、環境政策、環境監査等のスキルに対する組織の需要が二桁の大幅な増加を示しました(成長率はそれぞれ57%、58%、67%)。4 デロイト・エコノミックス・インスティチュートは、ネットゼロに移行するため、2050年までに世界で3億人の雇用が増加すると予測しています。5 しかし、サステナビリティにまつわるスキルは、技術的であると同時に人間的でもあります。廃棄物削減や脱炭素化といったスキルはもちろん、それ以上のスキル・能力を持った専門人材が必要になるでしょう。サステナビリティを本当の意味で組織の在り方に組み込むためには、サステナビリティを前進させる文化と、未来視点でのサステナビリティにまつわるスキル・能力を踏まえた労働力計画を実施する必要があります。これには「グリーン」 な能力に加えて、共感や概念的思考等の永続的な人間の能力を浸透させ、より広範なエコシステムの労働者の間でシナリオに基づく意思決定等の新しいスキルを開発する方法を検討することが含まれます。

人間視点での仕事の改善:2021年のデロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンドでは組織が 「良い仕事」 を作り出す可能性について触れましたが、その要件は仕事の質が高く、労働者が発言権を持ち、組織が訓練と能力開発を提供することでした。6 サステナビリティの文脈の中で「良い仕事」とは、労働者の健康、安全、ウェルビーイングが優先され、労働の成果がサステナビリティの成果に貢献するという、より総合的なアプローチといえます。例えば、サステナブルなファッション企業Everlaneは、労働条件、賃金、訓練、サプライチェーン内の工場が環境へ与える影響を定期的に評価し、社会的責任の基準を満たしていることを確認しています。7 2021年には、ミッションステートメントを改定し、環境面のサステナビリティに人間第一の焦点を当て、安全な環境慣行と安全な作業環境の両方を促進することを採択しました。

人間のサステナビリティの計画:多くの組織は、環境管理だけでなく、人間のサステナビリティ、つまり現在および将来の労働者、更に広くは人間と社会のための価値の創造も重視し始めています。これらの組織は、個人の可能性を解き放ち、個人がより健康になり、より熟練し、目的意識や帰属意識と結びつくのを助けています。人間のサステナビリティは、組織自体ではなく、組織に触れる人間やコミュニティにプラスの影響を与えることを目的としているという点で、政治活動や労働者の関与とは異なります。デロイトが2022年に実施した世界的な調査では、労働者の64%が、株主だけでなく、労働者にとって人間として、そしてより大きな社会としての価値を創造する組織により魅力を感じ、そこに留まり続けるだろうと答えています。人間のサステナビリティは、企業のアジェンダの中でも着実に重要度が増しています。ビジネスリーダーの79%は、組織は労働者の人間としての価値を創造し、社会一般に貢献する責任があると考えています。8

価値を創造し維持することが何を意味するのかについての理解は、役員室から周辺のコミュニティへと人間の利益のために移りつつあるのです。

先進的企業による取り組み

  • Hilton:ホスピタリティ産業を手掛ける同社は、人間・組織の両方のサステナビリティを追求しています。パンデミックによる人材不足および人材紹介会社の増加を受けて、同社は仕事を必要とするコミュニティ内での採用活動を実施しました。人身売買の被害者や難民、元受刑者を雇用し、労働者、社会、ビジネスに対する価値を同時に生み出しました。9
  • Interface Carpet Company:世界的な商業用フローリング企業のカーボンニュートラルへの道は、1990年代半ば、同社のリーダーたちが設計哲学、パフォーマンス測定、企業文化に環境面のサステナビリティを取り入れ、企業の中核に据えたところから始まりました。10 同社のミッションは「地球の健康を回復する」 ことであり、これは製品設計、労働者の業績評価、日常業務を推進する相互作用の決定に取り入れられています。同社は既にカーボンニュートラルの目標を達成し、2040年までにカーボンネガティブを実現することを目指しています。
  • Apple:2021年、グローバルテクノロジー企業である同社は、あらかじめ定義されたサステナビリティ目標を達成した場合、役員のボーナスが10%上乗せされるという制度を導入しました。11 この取り組みは、2020年に株主が最初に提案し失敗に終わったものの、その後も同社幹部に掛け合って変更を実現したものです。
  • United States Agency for International Development (USAID) :「グリーンシティ」 プログラムを通じて、地方自治体と協力しながら、包括的なグリーン雇用へのアクセス増加、汚染削減、公平性の向上、発展途上国の多くのコミュニティへのネット・ゼロ・システム構築等を行っています。12
  • American International Group (AIG) :グローバルな金融・保険サービスを手掛ける同社は、より広範なエコシステムを含めたサステナビリティ報告を通じて、徹底的な透明性にコミットしています。13 毎年発行されるAIGのサステナビリティ報告書には、第三者の排出量に関する情報と、全従業員の構成に関するデータが含まれています。組織はまた、そのサステナビリティの価値を日常業務の最大の体系に組み込む、引受のためのサステナビリティに焦点を当てたフレームワークを作成しています。
  • Anheuser-Busch InBev:同社はサステナビリティの取り組みに生態系アプローチを採用しています。14 ビールを生産するために調達した水をきれいにし、調達先の農家の経済的ウェルビーイングを支援するとともに、地産地消の安全なビール作りを支援しています。同社の狙いは、供給者、消費者、コミュニティと共に成長し、共生可能な形でエコシステム内での事業展開することです。

進むべき道

図3: 生き残る、成長する、率先する。

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生き残る

市場での存続可能性の維持



  • サステナビリティの野心、ビジョン、目標、成果に対する説明責任についてリーダーを連携させる
  • リーダーシップのコミットメント、進捗状況、サステナビリティ目標の成果について、内部 (労働力) と外部 (市場) の可視性を確保するための戦略的にコミュニケーションを実施する
  • 業界や組織戦略に関連する従業員のサステナビリティや 「グリーン」 アップスキルの機会を提供する
  • サステナビリティへの投資の結果として、新しい技術、プロセス、ツール、働き方に関連する変化を管理する>

成長する

差別化による競争優位の獲得

  • エコシステムのメンバーとサステナビリティ戦略を共同で作成する(労働者、パートナー、顧客、サプライヤー、ベンダー等)
  • 環境のサステナビリティ、労働者の公平性、健康、安全、ウェルビーイングを推進するために仕事をデザインし直す
  • サステナビリティの戦略とコミットメントに沿って、それを可能にするために、運用モデル、組織設計、ジョブアーキテクチャ、報酬、報酬を進化させる
  • 健康と福祉に悪影響を及ぼすリスクが最も高い仕事に注意を払う
  • 労働者の健康、安全、ウェルビーイングが優先され、労働成果がサステナビリティの成果に貢献する職場では、全体的なアプローチをとる

率先する

根本的な革新と変革による市場のリード

  • 労働力計画アプローチ内で、長期的なサステナビリティ能力を可能にするスキルと専門知識の変化を考慮する
  • 人間のサステナビリティのための設計、および労働力、市場、コミュニティ、社会に対するサステナビリティの意思決定の結果について説明する

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今後の展望

サステナビリティの問題に関して、多くの組織が政府、国際機関、コミュニティ、そしてとりわけ現在および将来の労働力からの高まる圧力に直面しています。そしてその労働力は、組織が実利を優先するのでなく、真剣にサステナビリティに取り組むことを要求しています。デロイト・Z・ミレニアル世代年次調査2022では、回答者の半数近くがサステナビリティの問題に取り組むよう組織に個人的に圧力をかけたことがあると答えました。15 2021年のデロイトの外部調査では、労働者の30%が、より環境的にサステナブルな企業に転職することを検討すると答えました。16 組織は労働者や人材がなくては成り立ちません。意味のある、定量化可能な進歩を早く始める必要があります。この進歩を達成するのに重要な2つのステップは、組織のサステナビリティ戦略に人間のサステナビリティを組み込むことと、サステナビリティの目標に沿った労働力エコシステム全体の行動シフトを促進することです。

内外の利害関係者の圧力とより広範な社会的ニーズの両方を別にすれば、これらの問題に対処する準備ができている企業にとっての利益は明らかです。多くの点で、サステナビリティによって表される問題は、デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2023レポート全体を通じて表面化した一連の課題全体の有用な代理として機能しています。そのような観点から、調査データのより深い統計分析によって、サステナビリティ、インクルージョン、信頼、パーパスの課題に対処する組織の準備状況と、ビジネスと労働力の成果に対する高いパフォーマンスの可能性との間に、明確で予測的な関係があることが明らかになったことは驚くべきことではありません。これは、今年の調査の項目グループの中で最も強力な予測関係です。

最終的な利益に関係なく、多くの組織は短期的な業績よりも長期的なサステナビリティの必要性を優先することに苦労する傾向があります。企業文化変革および予算確保は最も難しい障壁であると調査結果から明らかになっていますが、将来の成功を達成するための重要な要因です。TransLinkの最高財務責任者であるChristine Dacre氏とのインタビューで、彼女は長期的な視点と人間の視点の両方を適用することの重要性を指摘しました。彼女は「この作業には時間がかかり、事前に多額の投資が必要になるため、すぐにメリットが得られると限らない場合は困難な可能性があります。更に、サプライヤー、既存のインフラストラクチャ、既存のテクノロジーを含むエコシステム全体を企業の範囲を超えて見る必要があります。1つの組織が単独で取り組むことはできないため、利害関係者間の多くの協力が必要です」17 としています。

脚注

1. The Closing Window Climate crisis calls for rapid transformation of societies; United Nations Environment Programme, Emissions Gap Report 2022, October 27, 2022.

2. Deloitte, 2022 Deloitte CxO Sustainability Report, accessed December 9, 2022.

3. Jeff Schwartz et al., The worker-employer relationship disrupted, Deloitte Insights, July 21, 2021.

4. LinkedIn Economic Graph, Global Green Skills Report 2022, accessed December 9, 2022.

5. Laila Takeh and Vesselina Naskinova, A blueprint for green workforce transformation, Deloitte, accessed December 9, 2022.

6. Schwartz et al., The worker-employer relationship disrupted.

7. Everlane, 2021 Impact Report, accessed December 9, 2022.

8. Sue Cantrell et al., The skills-based organization: A new operating model for work and the workforce, Deloitte, November 2, 2022.

9. Amber Burton and Paolo Confino, “Hilton is hiring refugees, human trafficking survivors, and the formerly incarcerated to combat hospitality worker shortage,” Fortune, October 14, 2022.

10. Interface, “Sustainability is in our DNA,” accessed December 9, 2022.

11. Eric Rosenbaum, “Apple’s new executive bonus formula is designed for the fast-changing world we live in,” CNBC, January 16, 2021.

12. USAID, “New green cities program: A field support mechanism to advance integrated urban programming,” Climate Links, July 21, 2022.

13. AIG, "Reimagining What AIG Can Do," accessed January 1, 2023.

14. Deloitte, 2021 Global Human Capital Trends special report, accessed December 9, 2022.

15. Deloitte, Striving for balance, advocating for change: The Deloitte Global 2022 Gen Z and Millennial Survey, accessed December 9, 2022.

16. Stephen Rogers, We’ve had a lot of time to think, and we’re thinking a lot about time, Deloitte Insights, April 11, 2022.

17. Deloitte, 2022 Deloitte CxO Sustainability Report.

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