Deloitte Insights

デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2024 #3 生産性指標の見直しの必要性

人間のパフォーマンスが中心になる時、従来の生産性指標は十分か?

人間を仕事の中心に据えると、私たちは従来の生産性から解き放たれ、新たなデータや人工知能を活用した人間のパフォーマンスを測定する考え方へとシフトします。

数年前に組織の生産性と効率を改善しようと試みた際、日立では、労働時間内により多くの仕事をこなす方法や、生産プロセスの時間を削減するための方法ではなく、全く新しいアプローチに挑戦しました。このアプローチでは、労働者により少ないリソースでより多くの成果を出すよう強要することや、リーダーが役割を十分果たしていない労働者を見つけ出すために一挙手一投足を監視する必要もありませんでした。

日立は、労働者の幸福をモニタリングすることにしたのです。

日立は対象者にウェアラブル端末と付随するモバイルアプリを用意し、心理的資本(自信とモチベーション)、心理的安全性、および経営目標との整合性を高め、人工知能を用いて1日の幸福感を増加させるための提案を行いました。¹

初期的な結果は驚くべきものでした。労働者の心理的資本は33%上昇しました。心理的資本の増加は、労働者のエンゲージメントの増加、職業満足度の向上、および離職意向や心身の疲労の低下をもたらすという、特に意味深い改善結果となりました。²また、利益は10%増加しました。³コールセンターでの1時間当たりの売上が34%増加し、小売売上が15%増加しました。更に、参加者の大半が「幸せ」だと述べました。⁴これは、急速に仕事が進化する時代において、組織のパフォーマンスを引き出す重要な要素は、もはや従来の生産性指標に結びついていない可能性があることを示しています。

従業員の幸福度の測定と構築に焦点を当てた日立の取り組みは、従業員のパフォーマンスを測定し、改善するという従来の取り組みからのシフトを表しています。従来の取り組みでは、労働時間、作業時間、生産物、従業員1人あたりの収入等、生産性指標に焦点を当てる傾向がありました。労働者のパフォーマンスを一連のアウトプットとして測定する伝統的な方法は、組織の視点だけを反映しています。それに対し、新しいアプローチは、労働者を1人の人間として考慮し、労働者が組織にどのように貢献するかという視点を持つことができますし、そうあるべきです。

 

知識から行動への飛躍(図1)は、ますます人間中心となっている労働環境の中で成功を収めたい組織にとって重要です。個々の労働者の活動(例えば、働いた時間や受けた電話の数等)と具体的な結果(顧客満足度や研究開発プロジェクトの商業的な可能性)とを明確に繋げていた線引きは、今では薄くなり、複雑なコラボレーションのネットワークと、従来の生産性指標では容易に測れない洗練されたスキルが求められています。ある1回あたりの通話時間や生産された製品数等の従来の指標が最も適用できるように思われる、フロントラインや物流、製造環境等の領域においてもテクノロジーやAIがそれらのタスクを自動化するためにますます利用されています。その結果、労働者は技術的なスキルよりも、創造性やクリティカルシンキング、コラボレーション等の抽象的なスキルを必要とする、複雑な問題解決に取り組むことができるようになります。例えば、農業では、自律型ドローンを使用して種を植え、肥料や殺虫剤を散布し、害虫や環境被害を確認することができます。⁵その後、労働者はテクノロジーを管理してプロセスを最適化することで、時には例外的な対処は必要となるものの、それ以外にも作物の健康と維持のための持続可能な戦略を開発するために新しいスキルを学ぶ時間を作ることができます。

 

個々の労働者の活動と具体的な結果とを明確に繋げていた線引きは今では薄まり、複雑なコラボレーションのネットワークと、従来の生産性指標では容易に測れない洗練されたスキルが求められています。

 

同時に、一部の組織では、従来の収益や利益等の指標を超えて、個々の労働者、チームやグループ、組織、そして社会全体に利益をもたらす共有価値をどのように創出できるかを考えています。この新しい環境の形成に舵を切る組織は、生産性を考慮する古い方法から、人間のパフォーマンスの新たなパラダイムを受け入れ、変革を行う組織である可能性が高いです。

組織が人間のパフォーマンス指標の再考を優先するべきであることを示すサイン

  • 長期的な組織の結果よりも、仕事の成果物の指標を主に測定している
  • リーダーたちは、利用できるデータの量に圧倒され、本当に重要なことを測定することに焦点を当てたいと考えている
  • 技術への投資を行っているのにも関わらず、伝統的な生産性の成長が横ばいになっている
  • 労働者は「生産性劇場」に囚われていて、忙しくしている、生産的であることをアピールするためにタスクを行っている
  • 労働者は、絶えず活動を監視されているという認識、または現実により疲弊している

伝統的な生産性指標の再考

あらゆる業界のリーダーたちは、現在の労働環境における生産性指標の限界を認識し始めています。デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2024の調査回答者の74%が、伝統的な生産性に代わって、労働者のパフォーマンスと価値をより良く測定することが非常に重要、または極めて重要であると述べました。しかし、変化には時間がかかっているようです。回答者のわずか17%が、彼らの組織が活動や成果物だけではなく、組織内の個々の労働者によって創出される価値を評価することが非常にまたは極めて効果的だと述べました。

  • 新しいデジタル技術が、膨大な作業と労働力のデータへのアクセスを可能にすることで、新しい測定システムへのシフトは簡単に実現できるかのように思われます。組織が人間のパフォーマンスの結果を調べ、それが何によって引き上げられるかを分析する能力は、彼らがこのデータを収集、測定、分析する能力の急激な成長によって支えられています。そして、機械学習や人間の判断を支援し、データを実行可能な提案へと変換します。この種のデータ収集と分析に利用可能なリソースには、以下のものが含まれます。
  • 電子メールや協働プラットフォーム、社内SNS、共有カレンダー等の職場のツールや技術は、人間や組織のシステムがどのように機能しているかについてリアルタイムで分かるパッシブデータを生成します。大手グローバル石油エネルギー会社は、匿名化されたコラボレーションデータ(電子メール、カレンダー、会議やチャットデータ)を分析し、500人の企業法務部門内のチームがどのようにコラボレーションしているかを調査しました。この組織では、より多くのコラボレーションを促進するために、これらの調査結果を使用して職場の再設計に取り組みました。⁶
  • 組織ネットワークの分析は、組織における人と人との繋がりやコラボレーションを測定するために使用できます。とあるグローバル金融サービス企業は、女性の活躍を推進するための取り組みの一環で、組織ネットワーク分析を使用して、女性従業員の社内外のネットワークの規模と質と、昇進の可能性の関係を明らかにしました。⁷
  • ウェアラブル端末、バッジスキャン、脳科学技術、生体認証センシングツール、拡張現実(AR)ヘッドセット、精密な位置情報センサーや接続デバイスは、労働者の行動と相互作用に関するデータを生成できます。例えば、フィンランドの鉄道会社では、出社とリモートワークを融合したハイブリッドワークに移行し、物理的なスペースをより最適化したいと考え、占有センサーを使用して労働者の動きと使用スペースを測定しました。このデータは、組織が5階建から2階建へと建物のスペースを縮小したことで、不動産コスト削減を支援し、労働者が少ない移動で重要な職場の資産へのアクセスを可能にしました。⁸
  • コード品質やコールセンターとのやり取りの際の感情のトーンを評価するアルゴリズム等、AIを活用した音声またはオーディオ分析は、労働者と機械やAIシステムとの相互作用から生成され、ビジネス運営の様々な側面を評価するための貴重なインサイトを得られます。MetLifeでは、カスタマーサービスエージェントが週平均700件の電話を受ける中、AIコーチングがエージェントをより「人間らしい」会話を行うことを支援し、顧客満足度を13%増加させました。⁹

前進している組織がある一方で、従来の生産性を超えたパフォーマンスに対する視点の拡大を妨げている潜在的な課題は何でしょうか。

外部の利害関係者からの圧力。人間のパフォーマンスを測定するためのより良い方法を見つけたいと望んでいるにも関わらず、シニアリーダーは現在の高いインフレ、利益率の縮小、景気後退等の迫り来る脅威の中で、生産性と効率性の向上を示すよう外部の利害関係者から圧力を受けています。¹⁰その結果、シニアリーダーは、目に見えにくい望ましい成果(例えば、労働者の幸福の向上)ではなく、短期的な収益の成果達成に焦点を当てるようになる可能性があります。

何を測定するかについての不確実性。データが多いからといって、自動的に結果が向上するわけではありません。多くの組織では、データを分析し対処する能力が、データを収集する能力を下回っているため、データの海の中で迷子になっていることに気づいているかもしれません。その結果、データは膨大でもインサイトが不足する事態に陥り、リーダーはどの指標が最も重要で、どのアクションが本当にパフォーマンスを向上させているのか分からなくなる可能性があります。

生産性パラノイア。新型コロナウイルスのパンデミックの間、多くの組織は、キーボード入力やマウス操作等をトラッキングする新しい従業員監視ツールをいち早く採用し、誰がどのような作業をどの程度の時間行っているかを可視化しました。これは、これまで常にトラッキングしてきたものと同じ生産性の基準です。しかし、新しい働き方には新しい指標が必要です。今、一部の組織は、この監視の強化をめぐって労働者と対立していることに気づいています。生産性パラノイア (リモートワーカーの生産性が低いという懸念¹¹) は、今日の作業環境における効果的なパフォーマンスについての重要な議論には発展せず、監視状態と信頼の崩壊につながる可能性があります。

結果の可視性の欠如。多くの組織は依然として、労働者の成果よりもインプットとアウトプットの測定に焦点を当てています。組織が人間のパフォーマンスを測定し始めると、組織と人間の持続可能性に対して価値を生み出すビジネスの成果や人間の成果 (どちらも従業員によって異なる場合があります) の2つの領域をトラッキングすることができます。

そこから一歩前進するためには、技術の急速な進歩と優先順位の変化によって変わりつつある職場において、どのような対策が重要であるかを根本的に再考する必要があります。もし、リーダーが組織内の人間の可能性を開花させ、イノベーションを実現したいのであれば、生産性だけに焦点を当てるのではなく、パフォーマンスをより広い視点で見ることに焦点を移していくべきです。

人間のパフォーマンスの新しい方程式

組織にとって利用可能な業務データと労働力データは前例のない量となっており、それによって引き起こされる多くの可能性は、重要な問題提起です。従来の生産性指標が職場での重要性を失っているのであれば、組織は人間のパフォーマンスを有意義に評価するために何を測定すべきであり、これらの新しい指標はどのように運用されるべきでしょうか?

新しい数式では、ビジネスと人間の持続可能性のバランスが重要です。つまり、組織と労働者の両者に共有され、相互に補完し合う成果を作り出すことです。ビジネスの成果は、仕事の品質、価値、または結果、およびそれがどのように組織に価値をもたらすのかを定義します。人間の持続可能性は、組織が人々に対して人間としての価値を生み出す程度を定義します。それにより、彼らはより健康で幸福な生活を手に入れることができます。つまり、スキルと雇用適性の向上、持続可能な賃金の良い仕事や昇進の機会、より強い帰属意識、公平感、目的を持つことができるのです。

結局のところ、組織は基本的に2つの産業で競争しています:組織自身が取り組んでいる産業と人材管理の産業です。リーダーは、人間の成果とビジネスの成果の関連性を活用し、これらの2つの産業で成功する可能性を高めるべきです(図2)。

 

組織が収集した労働力に関するデータを、全ての人-個々の労働者、チームとグループ、組織、そして社会全体-が利益を得るために使用する時、シェアード・バリューが生み出されます。各レベルで生み出される価値は、それらの間を移動することができ、他のレベルで生み出される価値を強化し、増幅させることができます。

例えば、日立が実施した労働者の幸福度向上の取り組みでは、個々の労働者レベルで価値を創造することが、企業レベルでの価値、すなわち売上と利益の増加に繋がったことが容易に分かります。これはゼロサムゲームではありません。元々コストの節約や品質改善のような、利益を達成するために設計された組織の取り組みでも、労働者の満足度とパフォーマンスを増大させるのにも役立つことがあります。例えば、大手エネルギー企業は、近年オフィスの移転を計画する際、どのグループがどのように交流しているかを分析するために、職場のバッジデータを使用しました。その結果、機能横断チームがより分散するにつれて、インフォーマルな交流が少なくなり、代わりに頻度の低いフォーマルな会議に過度に依存していることがわかりました。組織はこの調査結果を用いて、チームメンバーの再配置を計画する際によりインフォーマルな交流の機会を作り、チームの帰属感とワークフロー効率を5.3%向上させました。¹²

大手自動車部品サプライヤーにおいて、この共有価値の相互作用がどのように働いたかを考えてみましょう。この企業はAIを活用したビデオ分析を導入し、工場の運営をより可視化することで生産性を向上させました。分析の結果、ライン上の物理的なステーションの配置が作業の遅れや、労働者の疲弊を引き起こしていることが分かりました。組織はこの調査結果を活用してステーションを再配置し、アイドリング時間と全体の生産時間を減少させました。この分析は組織が労働者の福祉に直接影響を与えるような意思決定に役立ち、容量計画、品質改善、労働力管理、プロセスエンジニアリング等の分野も改善されました。工場のオペレーションプロダクトマネージャーも、ライン作業者の幸福度、健康状態、生産性の向上を確認することができました。

組織は、人間のパフォーマンスを測る機会に恵まれている

労働と職場のデータが組織内の人間のパフォーマンス改善を促進するために使用されている例が多くあるにも関わらず、一般的には労働者と組織を互いに対立させる傾向があります。仕事や労働力のデータの収集と利用に関しては、従業員はどのような種類の監視にも一様に反対しており、経営陣は利用可能な全ての指標をトラッキングしたいと考えていることが多いです。しかし、デロイトの組織の定量化に関する研究は、これが必ずしも事実ではないことを示唆しています。労働者と経営陣は、労働と職場のデータが組織だけでなく労働力に利益をもたらす方法で結果を改善するのにどのように役立つかについて、驚くほど似たような意見を持っています。¹⁴

定量化された組織

Deloitte Quantified Organization調査は、組織が何を測定するべきか、ただ単に何を測定できるかだけでなく、戦略的に測定することが何を意味するかを調査しています。シニアのグローバルビジネスの経営陣との詳細なインタビューや2,000人の労働者とリーダーのグローバル調査、50件以上のケーススタディと30件の異なるユースケースの分析を通じて、 Quantified Organization調査 は、新たなデータ源とAIツールが責任をもって使用されることで、労働者、組織、そしてより大きな社会に共有価値を生み出す方法を示しています。

例えば、労働者とリーダーの大部分は、新たなデータ源がビジネスと労働者の成果に肯定的な影響を及ぼしていることに大きく同意しています(図3)。¹⁵

 

更に、組織がどのデータ源を収集すべきで、どのデータ源を避けるべきかについても、彼らは大きく同意しています。例えば、各グループの4分の3以上が、従業員のメールやカレンダーからデータを収集することに抵抗を感じていません。しかし、位置情報の追跡やSNS、個人メール等の外部サイトのレビューを含む他のデータ源の取得には慎重になるべきだと各グループが感じています。¹⁶

このような基本的な見解の一致は、リーダーが人間のパフォーマンスを測定する上で、仕事と労働力のデータの可能性を引き出すための重要な機会を示しているかもしれません。最近のQuantifiedOrganization調査では、労働者が組織のデータ収集努力に対して比較的高い信頼を置いていることが示されていますが、同時にその信頼は不安定であることが分かっています。労働者は、自身の組織がデータを責任ある方法で利用しているという点で、リーダーよりも自信を持っていない傾向があります(70%対93%)。¹⁷

ここで重要なのは、データがどのように収集・利用されているか透明性を持って伝えること、また労働者が参加または不参加を選択する機会を与えることです。特に安全上の目的で位置追跡技術の使用に労働者が反対するシナリオを想像するのは難しいかもしれませんが、例えば、危険な場所に立っている時に機器を無効化する等の安全対策に位置追跡技術を使用する場合等があるでしょう。しかし、リーダーが労働者の信頼を築き、データ収集努力を通じて共有価値を創造する投資を続けなければ、組織が価値を認識する前に機会が閉ざされてしまうかもしれません。

労働者と組織は、仕事と労働力のデータの使用について、一般的に想像するよりも見解は一致しているように見えますが、このデータの使用は依然として複雑です。新たな指標を導入し、新たに利用可能になった労働力データを使用して人間のパフォーマンスを捉える時、組織は誰に対して何を透明にするべきかを慎重に考慮する必要があります。これには、労働者の同意、労働者への利益提供、その他の責任あるデータ収集の実践等、様々な重要な要素を考慮することが必要です。これらの取り組みは、潜在的な利益を考慮すると不可欠です。Quantified Organizationの調査データに基づく予測的な結果分析によれば、データ管理への組織のアプローチへの信頼は、ビジネス成長の確率をおおよそ50%向上させると示唆されています。¹⁸

人間のパフォーマンスに焦点を当てるための基盤整備

仕事と労働力のデータを使用して人間のパフォーマンスを測定するためのシフトはまだ初期段階にあり、組織はどの指標が自分たちの業界や組織の特定のニーズに最も適しているかまだ悩んでいます。回答者の過半数(53%)は、自分たちの組織が従来の生産性を超えて労働者のパフォーマンスと価値を測定するより良い方法を特定する初期段階にあると同意しました。わずか8%の人たちが、自分たちの組織がこの分野をリードしていると述べました。しかし、組織は今すぐ人間のパフォーマンス指標に向けたシフトの基盤を築くためのステップを踏み出すことができます。

  • 労働者と共に指標と解決策を共創することが重要です。組織は、労働者に人間のパフォーマンス指標の優先順位を提案する機会を与えることや、データが示す洞察に対して労働者が反応する機会を提供することで、組織は労働者データの使用に対する信頼を築くことができます。このようなパートナーシップの一例を考えてみましょう。ある石油ガス会社は、壁に取り付けられたカメラを使用して、メンテナンスおよび製造施設での労働者と設備を観察し、AIは集約された匿名のビデオデータを生産性のパターンに関するインサイトに変えました。労働者は最初から関与し、データ収集に参加することを選択し、AI分析の結果を閲覧し、データを使用して自身の経験と結果を改善するための問題解決に協力しました。あるデータのインサイトにより、従業員はより頻繁に休憩を取ることで疲労を最小限に抑えることができました。これはまた、彼らの生産性を向上させる決定でもありました。¹⁹
  • 測定できるものだけではなく、測定すべきものを測定することが重要です。組織にとって最も重要な人間のパフォーマンス指標は、業界、地域、従業員、および組織の現在の運用方法によって異なり、ビジネスと人間の持続可能性の結果の適切なバランスを見つけるには、試行錯誤が必要になる可能性があります。例えば、コールセンターでは、生産性は通常、通話毎の時間や販売数等によって測定されます。しかし、人間のパフォーマンスが主要な焦点になると、顧客満足度、保持率、アップセリング等の指標によって、コールセンターマネージャーは従業員のパフォーマンスをより正確に把握できるようになります。組織は、データ収集の努力の「理由」に焦点を当て続け、それは本当に測定する必要があるのか、そしてなぜ必要なのかを自問する必要があります。例えば、安全性や労働者の疲労に焦点を当てた物流の指標は、必ずしも間違った指標ではないかもしれませんが、労働者の条件を改善する意図で測定されると、より人間中心になる可能性があります。Deloitte Quantified Organization調査によれば、労働力データの使用に関する事前に決められた戦略的目標の欠如は、組織がデータを収集し活用する意図を労働者が信頼しない原因と関連していることが明らかになりました。²⁰データ収集と使用のための明確な目標を設定し、それを組織の戦略と目標に直接関連させることは、労働者の信頼を獲得し強化することに大いに役立ちます。
  • これらの実践をパフォーマンス管理のアプローチにあてはめます。従来のパフォーマンス管理は、労働者に対して明確で現実的でない期待があったり、人間の判断によるエラーの可能性があったりする場合、困難なプロセスとなることがあります。例えば、年に1度しか行われないパフォーマンスレビューでは、最近の活動のみが評価に含まれるため、最新情報により偏った評価が生じる可能性があります。組織が人間のパフォーマンスに向けてシフトをするにつれて、組織のパフォーマンスのアプローチは、「管理」から「開発」へと進化すべきです。AIツールは、リーダーがパフォーマンスを再定義するのに役立つでしょう。これらのツールは、事実に基づいたパフォーマンスレビューを促進するために偏見のないデータを収集するだけでなく、生成AIツールは、複数のデータソースを要約し、統合するために重要な役割を果たします。AIがパフォーマンスレビューでどのように使用されるかについて、リーダーが労働者に明確に伝えることで、この種のデータドリブンシステムは透明性を保つことができ、信頼を築くのに役立ちます。更に、AIは労働者の追加のコーチとして機能し、確立されたパフォーマンスの結果に基づいてパーソナライズされたフィードバックを提供することができます。
  • 新しい指標をタレントライフサイクルの他の領域のプロセスに適用します。組織が人間のパフォーマンス指標の使用に移行する際には、このデータをどのように最適に活用して、個々の労働者の仕事と経験を向上させるかを慎重に考えるべきです。組織は、どの要素に焦点を当てるべきかを検討し、チームリーダーがそれらの指標について、労働者およびチームとどのように話し合うかを調整するべきです。このプロセスは、組織とチームが、どの指標は、どのようなコンテキストで伝えられることで、求める人間の成果とビジネスの成果が生まれるかを明らかにするための実験から始まります。
    責任あるデータとAIの取り扱いを確立します。責任あるデータの取り扱いは、労働者が個々の個人データが組織全体でどのように共有されるかについて理解し、組織がデータ利用に関するグローバルな規制要件を遵守することに役立ちます。このような実践には、収集されるデータの種類とその理由についての可視性を高める、プライバシーとデータの完全性に関する懸念を尊重する、可能もしくは必要な場合は労働者の同意を求める、等が含まれる可能性があります。データの集約と匿名化は、労働者のプライバシーを保護するのに役立ちます。AIは人間のパフォーマンス指標を評価し改善するための貴重なツールですが、適切に使用しないと組織の評判やパフォーマンスに損害を与える可能性もあります。このため、組織はAIの潜在的なリスクと報酬を管理するために、多次元的な倫理的フレームワークを用いるべきです。²¹
  • 新興技術の利用についての不安を取り除くために、今から計画を立てましょう。Quantified Organization調査では、労働者はメールやカレンダー、その他従来的な技術のデータ収集に対しては、比較的安心感を覚えていることが示されましたが、ウェアラブル端末やXRヘッドセット等の新興技術からキャプチャされたデータについては、はるかに不安感を覚えています。²²それでも、多数のリーダーは、今後数年間でこれらの技術をデータ収集に使用することを期待していると述べています(図4)。これはリーダーと労働者を対立させ、組織の信頼を脅かす可能性があります。リーダーは、プライバシーに対する労働者の懸念を考慮に入れ、プロフェッショナルとパーソナルのデータ収集の間の線引きを強化するために、どのようにしてこのギャップを埋めていくのか、今から計画する必要があるでしょう。

 

人間のパフォーマンス:労働者と組織を強化するための進化するアプローチ

利用可能な仕事と労働力の膨大なデータを、人間のパフォーマンスの意味ある指標に変換するためにはまだ初期段階です。しかし、今こそ行動すべき時です。先見の明のある組織は、労働者と共に人間のパフォーマンスの指標やデータの方針と実践を共同で作り上げ、リアルタイムでそれらの指標を測定または特定する方法を見つけることができます。また、このプロセスを通じて信頼を育むことができます。組織がこれを怠ることで、トップダウンで政策や実践を押し付けることや、時代遅れの労働者のパフォーマンスの測定基準に依存し続けることによって、人材の魅力と定着に潜在的な課題を引き起こす可能性があります。また、生産性のパラノイアが引き起こす福祉や精神的健康への思わぬ影響、そして組織の価値創造に実際に貢献している要因についての深刻な誤解が生じる可能性もあります。

その代替案ははるかに魅力的です。組織が人間のパフォーマンスを実践に取り入れ始めると、ビジネスの成果を強化し、組織が関わる全ての人々にポジティブな影響を与えることができます。

調査方法

デロイトのグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2024は、世界95カ国の様々な業種・業界における14,000人のビジネス・人事リーダーを対象に実施されました。基礎データを形成する広範囲な調査に加えて、今年は労働者とリーダーそれぞれに特化した調査の視点を反映し、リーダーの認識と労働者の現実とのギャップを明らかにすることを目指しました。リーダー向けの調査は、最新の組織・人事課題に関するリーダーの考え方を理解するため、Oxford Economicsと共同で、世界中の経営者と役員1,000人を対象に実施されました。更に、これらの調査データは、複数の先進的な組織のリーダーとのインタビューによって補足されています。これらの洞察により、本レポートのトレンドが形作られました。

Endnotes

1 Satomi Tsuji, Nobuo Sato, Keita Shimada, Koji Ara, and Kazuo Yano, “Happiness planet: Support system for promoting management objectives in partnership with employees,” Hitachi Review 70, no. 1 (2021), pp. 78–79.

2 American Psychological Association, “Psychological capital: What it is and why employers need it now,” August 21, 2023.

3 Suchit Leesa-Nguansuk, “Hitachi’s AI for employee joy,” Bangkok Post, February 7, 2020.

4 Tsuji, Sato, Shimada, Ara, and Yano, “Happiness planet,” pp. 78–79.

5 Bernard Marr, “The best examples of human and robot collaboration,” Forbes, August 10, 2022.

6 Paulina Borrego, Multinational energy company improves culture & retention through office redesign, case study, Humanyze, January 19, 2023.

7 Greg Newman, “How organizational network analytics is transforming diversity and inclusion through data,” HRZone, July 10, 2019.

8 Joy Trinquet, “It’s a tall order: Digital twins deliver modernity to out-of-date buildings,” Verdantix, August 18, 2022.

9 Alejandro de la Garza, “This AI software is ‘coaching’ customer service workers. Soon it could be bossing you around, too,” Time, July 8, 2019.

10 Deloitte, “Fall 2023 Fortune/Deloitte CEO survey insights,” accessed December 2023.

11 Jean Brittain Leslie and Kelly Simmons, “The paradox of “productivity paranoia”: 6 ways to trust employees without sacrificing results,” Quartz, April 17, 2023.

12 Alexa Lightner and Paulina Borrego, Energy company improves culture & productivity after strategic M&A, case study, Humanyze, March 21, 2023.

13 John Sprovieri, “Video analytics help auto parts assembler improve cycle time,” Assembly Magazine, December 18, 2022.

14 Deloitte, “Unlocking the potential of the Quantified Organization,” 2023.

15 Ibid.

16 Ibid.

17 Ibid.

18 Ibid.

19 SLB, “Digital equipment monitoring with OneStim,” May 2, 2018.

20 Deloitte, “Unlocking the potential of the Quantified Organization,” 2023.

21 Deloitte, “Trustworthy AI™: Bridging the ethics gap surrounding AI,” accessed December 2023.

22 Deloitte, “Unlocking the potential of the Quantified Organization,”

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