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病院DX推進に向けた体制の整備

DXを成功させるための人材像と、その役割を考える

電子カルテ等医療情報システムの普及率は高まる一方、医療従事者の業務負荷は相変わらず高く、働き方改革の実現にも困難が予想される状況です。そんな中、業務のあり方を根本的に見直す取組みとして、病院DXには昨今大きな関心が寄せられています。病院DXとは何か、また、その推進に必要な人材や体制はどのようなものか、そのアプローチを含めて考えます。

高い関心を持たれる「病院DX」

「医療業界のIT化は、他業界に数年遅れで進む」などと言われることがあります。この背景には、機微な診療情報を取り扱う医療情報システムとして、革新的であることよりも安全かつ安定的であることが求められてきたという経緯があると考えます。

ただ、そのような医療業界においても、さほど他業界から遅れることなく、DXの推進に取り組む医療機関が増えていると感じます。先日当法人にて行った、医療情報システムに関連する業務に携わる医療機関職員向けのセミナーでは、DXに係る何らかの取組みを既に行っている、或いは行わなければならない立場にある、と回答いただいた方が、全体の70%超という結果でした。いかに病院DXが皆様の関心事であるか、如実に分かる結果であると思います。

病院DXに医療機関の皆様が高い関心を持っているという事実は、今後のデジタル活用に対する医療機関の期待の表れであろうと考えます。同時にそれは、今後健全な病院経営を行うに当たっては、これまでとは次元の違うデジタルの活用方法を考えなければならないという、経営層の強い危機感の表れなのかもしれません。

 

「病院DX」とは何か

高い関心を持たれている病院DXですが、具体的にはどのような取組みなのでしょうか?経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」には、次のように定義されています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」

これを医療機関に当てはめると、少なくとも①データ・デジタル技術の活用、②業務プロセスの変革、という一連の流れの実現が必要ということになりそうです。つまり、例えば、これまで紙で運用していた伝票をシステム化した、というような「業務を単にデジタル化した」ものではないということです。

歴史的に医療機関のデジタル化は、検査部門や医事部門など、各部門の業務効率化の目的で進められてきました。やがてオーダリングシステムの出現で指示伝票・会計伝票はデジタル化され、電子カルテの出現と合わせて診療録類もデジタル化されました。その結果、指示伝票・会計伝票を診療科から各部門や会計窓口に伝達する業務、或いは紙カルテを必要部署に払い出し、記載後に保管庫に戻すという一連の業務は概ね姿を消しました。このように、デジタル化の効果として業務プロセスの変革が実現されること、これがDXの第一歩になります。

 

これまでとは異なるデジタル化の進め方

電子カルテを始めとする医療情報システムの導入率は年々高まり、平成29年度の医療施設調査によると400床以上の医療機関での電子カルテの導入状況は85%を超えるまでになっています。このようにデジタル化が進む一方で、医師や看護師が大量の記録・書類作成業務に追われている状況、或いは部門間連携は電話による会話ベースのコミュニケーションが主体となっている状況はあまり変わっておらず、医療スタッフの負荷軽減には至っていないことが多いと考えます。

このような状況は、従来の業務を基本的に踏襲する形でデジタル化が進められたことに起因しており、現状打破のためには、デジタル化の在り方を根本から見直す必要があります。これまでのように、既存のシステムや機器で対応可能な範囲を見極め、デジタル化と運用対応の折合いをつけるという、言わば「ソリューションベース」の進め方ではなく、課題は課題として根本的な解消を図る、「課題ベース」での進め方が必要なのです。

 

医療機関を取り巻く技術的動向も変化してきています。これまでは、医療情報システム側で想定していなかった課題への対応を検討した際に、システム側の機能追加や改修が必要となり、都度時間と費用がかかることが常識でした。しかし、クラウドサービスの発展や、高い汎用性を持つ様々な基盤ソリューションの進化(RPA、データ連携、DWH…)に伴い、該当のシステムで解消できない課題を、別のサービスやソリューションの活用で解決に導く、という方向性が現実的なものになってきました。例えば、電子カルテ上のデータを参照しながら各学会のWebサイトへ症例登録を行う、といった類の業務を、DWHとRPAの組合せで自動化する、という取組みが容易に可能となっています。

 

「病院DX」推進に向けた体制の整備

課題ベースでのアプローチを行うに当たっては、そのスキルを持ったプレイヤーが必要になります。経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」を参考にすると、次の3区分のプレイヤーが必要になると言えそうです。

一つは、業務とシステムの双方に理解が深く、課題の本質の見極めと改善に資する対応方針を立案できる「デザイナー」。

次に、技術的な観点で対応方針のフィージビリティを判断し、設計や一定の開発が可能な「ディベロッパー」。

そして、これらのプレイヤーによる業務改革への取組みの責任者となり、「デザイナー」「ディベロッパー」の取組みを強力にバックアップする「マネジャー」です。

 

重要なのは、各医療機関でどのプレイヤーがどれだけアサイン可能かを把握し、不足部分をどう補完するかを含めて、病院DXの推進体制を整備することになります。各々のプレイヤーが独立している必要はありませんし、ベンダーやコンサルタント等、外部人材を活用し不足するスキルを補完しながら進めるべきと考えます。併せて、中長期的な取組みとなることを踏まえると、医療機関内でもDX推進に資する人材育成を視野に入れた取組みとする方が良いのは言うまでもありません。

このように、病院DXは情報システム部門で完結する取組みではなく、人材育成まで含めた院内全体での取組みとなります。従って、取組みの責任者たる「マネジャー」に関しては、業務改革に伴う様々な部門との調整といった重要な役割が求められます。病院DXの実現に向けて、院内でも相応の意思決定権限を持った、経営層やそれに近しい職員の方に、是非「マネジャー」として参画し取り組んでいただきたいと考えます。

 

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/11

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