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医療機関でのDXへの取り組み方について

医療機関におけるDXに関して、どのような点に気を付けるべきか考察します。

デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)という言葉が一般的になり、ビジネスの現場でも日常的に使われるようになっています。医療においてもDXへの期待が高まってきていることもあり、今回は、そもそも医療におけるDXとは何なのかを考えてみます。

医療におけるDXの定義

デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)という言葉が一般的になり、ビジネスの現場でも日常的に使われるようになっています。医療においてもDXへの期待が高まってきていることもあり、今回は、そもそも医療におけるDXとは何なのかを考えてみます。

経済産業省が平成30年12月に公開した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」によると、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と定義されています。

医療においては、医療保険制度の中で、公平性・フリーアクセスが求められることもあり、他の医療機関との競争性・優位性よりも、医療提供をいかに効果的・効率的に行えるか、に重きを置くことになります。そのため、この定義を医療に置き換えると、「医療機関が医療を取り巻く環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、患者や社会のニーズを基に、診療・治療といったサービス、経営モデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、文化・風土を変革し、医療提供上の課題解決を行うこと。」と読み替えることができそうです。

 

医療DXの本質

この定義を、近年の医療を取り巻く環境や情報通信技術(以下、ICT)の広がりに照らしながら、もう少し具体的に検討してみます。

まず、「医療を取り巻く環境の激しい変化」ですが、最も顕著なものは、新型コロナウィルスの蔓延に伴う社会そのものの変化であり、このことは議論を待つまでもないでしょう。新型コロナウィルスは、その感染拡大の問題だけでなく、医療現場の疲弊や、持病のある患者・高齢者の医療資源へのアクセスの阻害など、従来からの課題である高齢化社会の進行や、医療従事者の働き方改革の問題を顕在化させました。

次に「データとデジタル技術を活用して、患者や社会のニーズを基に、診療・治療といったサービス、経営モデルを変革する」という点ですが、近年、医療データの利活用やそのデータの発生源としてのICTは拡大・進歩を続けており、一部の大学病院・研究機関だけではなく、市中の医療機関でも、データ分析サービスやAIシステムの利用が現実的なものとなってきています。

これらの状況を踏まえると、医療機関のDXは「業務そのものや、組織、プロセス、文化・風土を変革」し、新型コロナウィルス対策・高齢化社会・医療従事者の働き方改革などの課題に取り組むため、医療データや様々なICTを利活用する、と言い換えることができそうです。

 

DXのための目的と手段

ここで注意が必要なことは、目的と手段を取り違えないことであり、ICTは手段である、ということです。「DXに取り組めば医療の問題が解決できる」のではなく、「医療現場の課題を解決するためにDXに取り組む」ということに注意しなければなりません。

例えば、医療におけるデジタル化の代表とも言える電子カルテの導入ですが、医者がカルテに記事を記載するだけであれば、PCよりも紙カルテにボールペンで記載したほうが早いかも知れません。電子カルテ導入のメリットは、その記事記録がネットワークを介して、「他の医療従事者に即時に共有できる」「過去分を振り返って容易に検索できる」といったデジタルならではの特徴にあります。もし、電子カルテを導入する目的が「電子カルテ化そのもの」にあり、現場の運用効率を考慮しないまま、不要な機能がたくさん付いた高価なシステムを導入するようなことがあると、医療従事者は、パソコンとにらめっこする時間だけが増えてしまい、結果的に現場の業務効率は落ちてしまいます。

電子カルテはあくまで一例ですが、DXが課題解決に取り組むための手段であることを正しく理解し、ICTに投資したにも関わらず、医療機関の課題解決にそぐわない結果とならないように注意しながら検討を行うことの必要性はご理解頂けるかと思います。

とはいえ、DXという言葉が使われる背景には、これまでは解決が難しかった課題、あるいは、社会構造・医療構造の変化、デジタル化の発展に伴い、新たに表れた課題など、デジタルだからこそ、あるいはデジタルでないと解決できない課題も多くみられるようになっています。そのため、とにかく課題を明確にすることにばかりとらわれず、世の中のデジタル・ソリューションをしっかりと把握し、目の前の課題と照らし合わせながら、必要なものを取捨選択する、という方法がDXへの取り組みとしては一つの有効な手法だと考えられます(図表1)。

DXの検討で取り組む具体的なICTの事例

DXの事例として、医療供給体制および働き方改革の観点から、実際に課題解決に繋がりそうなソリューションをいくつか確認してみます。
 団塊の世代が後期高齢者(75歳)に達する2025年問題、その後、高齢者(65歳以上)の人口がピークを迎える2040年頃を見据えたときに、医療の担い手はほとんど増えないと予測されています(図表2)。加えて、新型コロナウィルスの蔓延により、医療のひっ迫は2025年を待たず喫緊の課題となりました。

 

現在でも医療従事者の過重労働が問題視されている中、人手が増えず患者だけが増える状況では、医療従事者の業務を効率化し、これまで以上に専門性の高い分野へのタスクシフトの加速が必要なことは明らかです。

実際にタスクシフトへの取組みとしては、大きなレベルでは、地域医療連携の枠組みの中での医療機関の医療機能分化から、現場レベルでは、医師事務作業補助者の増員など、多数の施策が行われています。

一方で、医療従事者一人が対応できる患者数あるいは実質的な業務時間を増やすための効率化の例として期待されるICT製品・サービスには次のようなものがあります。

・音声入力

大量の画像を効率よく診断しないといけない放射線画像読影の現場などでは以前から使われていた機能が基になっています。以前はPCに専用機器として接続されたマイクに向かって話すことで、キーボードと同様のテキスト入力を行うものでしたが、最近は、スマートフォンを入力デバイスとして、クラウドにある音声変換エンジンを経由してテキスト変換を行うことによる変換効率向上や、一度スマートフォン上に記録してから、改めて電子カルテに転記したりするといった付加機能が提供されています。

電子カルテの導入に伴い、医療従事者が画面に向かってキーボードを操作する時間が増えたことへの対策としてだけでなく、ベッドサイド業務やリハビリ指導時など、PCの携帯が難しい状況でも、スマートフォンとヘッドセットだけで記録が作成できるメリットを評価しての導入事例などは、作業効率化の良い例です。

・スマートデバイス

一部の電子カルテシステムでは、従来からオプションとして導入されていましたが、あくまで電子カルテの入力を補助するための仕組みとしての側面が強かったものです。現在では、 院内の業務連絡やカンファレンスなどをスマートフォン上で実施するアプリケーションなどが開発・提供され、従来のPHSの単純な代替ではなく、画像なども有効に活用した職員間の連絡ツールとして評価が高まっています。

他にも、IoTのハブとしての機能が充実してきており、体温計やスポットチェックモニタのデータの取込機器、輸血や注射の照合機器、ナースコールとの連携による呼び出しの可視化装置など、世の中と同様、医療現場でも1台で様々な役割を担う存在になりつつあります。

今回は2例のみのご紹介ですが、これらの事例の製品・サービスは、DX検討の際に出てくるほんの一部です。実際の製品・サービスは日進月歩であり、医療を取り巻く環境も変化が続いている状況ですので、DXへの取組みに際して、ご自身の医療機関だけでは判断に迷われる場合は、専門家へ相談されることをお勧めします。

 

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/5

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