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医師の働き方改革が収益に与える影響と効果 VOL.2

「医師の働き方改革」が収益に与える効果を考察したいと思います。

これまで医師の働き方改革の成功事例を見ても、医師の負担軽減や効率化にはつながったという成果は聞こえますが、その先の収益が安定化した、増大したという事例はあまり話題に入ってきません。令和6年は、診療報酬改定と医師働き方改革の法施行が同時に施行される年であり、「医師の働き方改革」という視点に絞って、収益に与える影響を整理しておきたいと思います。

医師の働き方改革が収益に与える影響や効果VOL.2

■医師事務作業補助者の配置と育成は、「空いた時間で“医師”に何をさせたいか」という経営効果とセットで議論できていますか?

医師事務作業補助者は定着率が低いと言われてきました。非正規という雇用形態や処遇の悪さがその要因と想像します。ところが、令和4年改定において、医師事務作業補助体制加算1を算定する場合、3年以上の医師事務作業補助者としての勤務経験を有する者を、配置区分ごとに5割以上配置されていることに改定されました。給与単価に充てる原資という意味でも、令和6年改正ではさらに各配置基準の点数が増額されています。仮に許可病床350床、新規入院患者年8,000人の医療機関が医師事務作業補助体制加算1を算定する場合、15:1であれば最低23人が必要となり、15:1点数1,070点×10円×新規入院患者数の金額を最低人数の23人で割れば、1人年372万円程度は診療報酬で賄えそうであると概算上は推察できます。

しかし、医師事務作業補助者は、診療看護師や非常勤医師と異なり、医師の直接業務を委譲するものではありません。上記で試算した年収も点数が増額されたとはいえ、日本人の平均的な年収は約399万円/年(厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査の概況」より、日本人の賃金の中央値に平均賞与を加えた額)であることから、診療報酬だけではまだ届いておらず、人員を確保するほど、医療機関側の持ち出し原資もあろうかと思います。そのため、医師事務作業補助者の正職員化促進や人件費を増加させるほど、経営的にはより費用対効果を問いたくなるのではないでしょうか。

タスクシフトを「単なる間接業務の人件費」ととらえればコストでしかありませんが、しっかりと経営メリットを得るには、まず、タスクシフトによって、どのような費用対効果を得たいのかを明確にすることが重要だと考えます。具体的には、医師事務作業補助者を雇用して配置する前に、病院経営側また診療科の長が、「タスクシフトで〇時間の空白ができた場合、対象医師に何をさせたいか」という“医師”を主語とした経営上のゴールを予め明確にしておくべきではないでしょうか。例えば、医師事務作業補助者を活用して、空いた外来時間の枠に紹介患者対応を入れ、紹介対応件数を増やした事例があります。また、医師の休息時間確保が目的であれば、医師の削減された時間外休日労働時間分の手当額と医師事務作業補助者人件費の医療機関側の持ち出し原資で損益を見ておくべきかと思います。いずれにしても「対象医師に何をさせたいか」というゴールによって、医師事務作業補助者の必要人数や専門性、配置先は変わるはずですし、費用対効果の試算方法も単純な加算収益:人件費ではない計算になろうかと思います。

次に、不可欠な取組みとして、各医師が抱える業務を標準化することが挙げられます。医師業務を他職種に確実に切り出すには、診療科による業務のばらつきなどを整理して言語化し、医師免許を持たない者が理解できるように標準化していかなければなりません。そのためには、診療科や医師の協力が不可欠であり、「標準化」という負担のかかる論点であっても好意的に協力してもらえる診療科のキーパーソンをきちんと見極めておくことが重要かと思料します。また、筆者個人の意見としては、ある程度、業務以外に医師が抱える雑務も標準化の対象に含めるべきではないかと思います。雑務対応というのは、年配医師の秘書として小間使いするという意味ではありませんが、医師は院内にいれば診療業務や書類業務以外の雑務で色々手間をとられることがあろうかと思います。「医師事務作業補助」はその職種名が体現する通り、いかに医師の事務作業が軽減されたかという結果で評価されるべき職種と考えます。よって、医療機関によっては、医師の過剰な期待に対して属人的な業務を受けないよう「タスクシフトできないこと」をルール化するケースもあるかもしれませんが、「できない業務」を「できる業務」に変え、職種の存在価値を高めていくことが重要ではないでしょうか。そのため、医師の事務業務以外に雑務も含めて、標準化していくべきではないかと考えます。

そのように標準化できれば、医師事務作業補助者の離職にも対応しやすく、最終的に特定の医師事務作業補助者に依存せず、チームで対応することも可能になるのではないかと考えます。ただ、医師事務作業補助者の定着率だけを重視して施策を打ってもうまくいかないケースはあります。例えば、どれだけ医師が丁寧に協力しても、医師事務作業補助者側に理解力や業務遂行力が伴わないケースもあろうかと思います。一般論で考えても、ある程度組織化すれば、優秀な人材とそうでない人材に分かれてくるのはよく聞く話です。ちょうど、令和6年診療報酬改定にて、医師事務作業補助者を定期的に評価することが要件化されました。例えば、医師事務作業補助者を評価する際、職種上のステークホルダーとなる医師から多面評価(フィードバック)を受ける仕組みを設け、定期的に医師とコミュニケーションをとれるようにしてはどうでしょうか。そうすることで、医師側の依頼態度や指示状況の把握も含め、医師がどういう思いで医師事務作業補助者にタスクシフトを依頼しているかをリアルに把握し、リストに漏れている対象業務があれば随時拾い上げていくことも可能になろうかと思います。

評価結果を通じて、最終的には、標準化した定型業務を効率的にこなす人材層をキープするとともに、より高度な業務を担える人材のグループを育てていくことも必要ではないかと考えます。特に、多忙な診療科ほど重症度や予定外の緊急性が高く、標準化や定型化が困難な業務も多いと想像します。そういった診療科に対して、専門性を有する複数の医師事務作業補助者がサポートできれば、より医師も臨床に集中でき、波及効果も大きいかもしれません。専門性を重視した体制を作るには、医師事務作業補助者を医師個人に専属化させるのが手っ取り早いかもしれませんが、専属の医師事務作業補助者に業務が集中して新たな知見を学ぶ時間が確保できなくなるほか、ノウハウが属人化していると当該補助者の離職とともにその知見は失われます。よって、専門看護師や認定看護師のようなキャリアパスを開発しつつ、同じキャリアにつく専門・認定医師事務作業補助者には、定型業務について他の医師事務作業補助者にタスクシフトさせ、逆に付加業務として、診療科横断での医師事務作業補助者の教育や専門業務のマニュアルへの落とし込みを検討するワーキングのリーダーなどの役割を付与していくのはどうでしょう。医師からの事務作業を受けるだけでなく、医師事務作業補助者間でのタスクシェアも行い、結果としてノウハウの属人化を回避し、人材育成につなげることも、是非ご検討いただければと思います。

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執筆

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/4

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