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医師の働き方改革が収益に与える影響と効果 VOL.3

「医師の働き方改革」が収益に与える効果を考察したいと思います。

これまで医師の働き方改革の成功事例を見ても、医師の負担軽減や効率化にはつながったという成果は聞こえますが、その先の収益が安定化した、増大したという事例はあまり話題に入ってきません。令和6年は、診療報酬改定と医師働き方改革の法施行が同時に施行される年であり、「医師の働き方改革」という視点に絞って、収益に与える影響を整理しておきたいと思います。

医師の働き方改革が収益に与える影響や効果VOL.3

■真に医師の働き方改革を行うならば、書面上の話だけではなく、診療現場を改革しなければなりません。その労力・負担は、ぜひ収益につなげて頂きたいと思います。

処置/手術の休日加算1・時間外加算1・深夜加算1は算定されていますでしょうか。本加算は、働き方改革を医師業務に直接的に結びつけるもので、働き方改革に踏み込んで取り組んでいる医療機関とそうでない医療機関の差異が最も出るところかと思います。加算の趣旨としては、予定手術前の夜勤・当直・緊急手術を1人年4回以内に制限するものです。この当直後の予定処置・手術の制限は、医師働き方改革とも連動しており、同改革でも始業から46時間で連続18時間のインターバルを勤務表の予定段階で付与しなければなりません(ただし、当該加算の「当直」は、宿日直許可有り無しの区分を明示していないため、宿日直許可をとって夜間9時間インターバルのある医師であっても当直明けの予定処置・手術に制限を受けることが、本加算の特徴であり、その点では医師の働き方改革以上の対応が必要とも言えます)。筆者がこれまでディスカッションしてきた医師も、研修医や専門医に関わらず、当直で不眠のまま手術・処置を行うことに強い不安やリスクを訴える方が多数おられましたので、働き方改革という視点では、この加算を取る意義はとても高いと考えます。

しかし、医師不足や収益上の理由から、当直明けの休息確保になかなか踏み切れなかったケースも多いかと思います。また、令和6年改定により、交代制かチーム制を行うことが必須となり、ハードルが上がったような印象があります。

チーム制は、休日について主治医以外の当直医・当番医で対応する必要があるほか、オンコール当番医師が夜勤時間帯に診療(手術とは限らない)をした場合に、翌日を休みとしなければなりません。つまり、オンコール当番中の夜間診療の有無を当日に把握して、「夜間に診療した」と申告があれば、直ちに外来や手術の人繰りや調整をしなければならないということです。現実的に考えて、当日朝に担当医を入れ替えることはとても困難だと思いますが、オンコール明けの予定手術については、予め第2助手かその他要員でシフトを設けておき、直前で当該医師が「休み」となっても、計画段階上は他医師で対応できる体制が必要かもしれません。ただし、上記体制でオンコール明けの予定手術者には対応できたとしても、手術以外のDuty業務の代わりは見つけにくいと推察します。その点では、交代制の方がコントロールしやすいかもしれません。ただ、交代制は夜勤翌日の日勤を免除する必要があるほか、日勤から連続で夜勤に入る場合は夜勤時間帯の勤務医師を2人以上にしなければならない等がネックです。夜勤帯に2人体制とすれば、その分、日勤帯が手薄になりかねないため、まずは日勤と夜勤を連続させないような勤務パターンを検討し、勤務表に落とし込んでシミュレーションするべきかと思います。なお、勤務パターンは現場医師の協力が不可欠です。現場医師からは恐らく、大枠賛成・各論反対派が多いと思いますが、少なくても経営側や事務側から勤務パターン案の提示を行い、議論をリードしていかなければこの加算対応は難しいと思います。

上記の施設基準の時点で「とても無理だ」と思われる医療機関も多いかもしれませんが、当該加算を算定できれば、休日深夜の手術は点数が2.6倍(加算は1.6倍)となり、手術数や1,000点以上の処置の数によりますが、年間数千万円の収益増につながるかもしれません。働き方改革での医師の負担と当直明けの手術実施による医療安全リスクをダイレクトに軽減し、収益を増やす。処置/手術の休日加算1・時間外加算1・深夜加算1の算定は、労力以上に得るメリットは多いのではないでしょうか。
 

■医師1人の離職で収益は年8千万円減に。まずは「働き方」が理由で医師を離職させないようにすることが働き方改革と収益対策を考える基本だと考えます。

時間外休日労働を年間960時間以上で36協定の上限を設定するためには、都道府県から特定労務管理対象機関(連携B・B・C水準)の指定を受ける必要があるのはご承知のことかと存じます。ただ、指定準備には多くの書類やマニュアル整備が必要であるほか、労働時間を抑えることによる入院・処置・手術対応件数の減少、ICTや勤怠システムの導入・維持コスト、当直体制見直しに係る給与費負担、短縮計画施策に対する診療科・医師側との交渉、医師増員の人件費・・・などが必要になります。

もちろん、これらのリスクや労力をかけてでも、医師がバーンアウトしないよう勤務環境を改善しようと願う病院長にこれまで何人も出会いました。しかし、大半は、指定申請は行わず、現状のままでいこうと判断するケースが多いのではないかと思います。

実際、令和5年の入院・外来医療等の調査評価分科会の調査(令和4年11月1日時点・N数2502)では57%の病院長クラスが医師等の勤務状況について『現状のままでよい』と回答としています。また、B水準・連携B水準・C水準指定のための申請件数は、令和6年3月末時点で全国484病院(*1)に留まっています。一般病院は全国約7,100施設(*2)であり、急性期一般入院基本料1を算定する病院数が全国1,464施設(*3)であることから考えると、まだまだ、公に医師の働き方改革に取り組もうと考える医療機関は少ないのではないか、と思料します。

恐らく、多くの医療機関では、帳簿上の勤務時間数を調整して時間外休日労働を年間960時間(月80時間)未満とすることで、4月以降を乗り切ろうと考えるかもしれません。ただし、過少申告の強要や虚偽申告は、違法行為になる可能性があります。さらに、過少申告せざるを得ない状態が続けば、医師の病院や病院長に対する求心力は低下します。筆者が過去に出会った循環器内科の医師も、「患者のためにリスクや責任を負って昼夜対応しているにも関わらず、それらの時間を『労働がなかった』と修正されるのはとても憤りを感じる」と述べていました。別の医療機関でも、表向きの離職理由は、ライセンスの取得や育児などポジティブな内容だと聞かされていたのですが、離職した医師の同僚医師に聞けば、実は過重労働が辛かったことが真の理由である、と教えてもらうケースもありました。このような不満を抱えた医師を自然増加させていくことは、一定時期に医師が大量離職するリスクを抱えることにもなりかねません。

医師が1人抜ければ、診療収入は平均値で年8千万円ほど減少します(全国公私病院連盟の調査*4では、医師1人1日当たり診療収入のうち、DPC病院は33.6万円(入院21.9万円/外来11.7万円)でDPC以外病院は37万円(入院25.6万円・外来11.4万円)であったため、年間240日勤務の場合、DPC病院では医師1人8,064万円/年でDPC以外病院では医師1人8,880万円/年となる)。これが大量離職となれば、限界利益にも影響が大きく、諸経費や他職種人件費の維持にも影響します。金銭が理由での離職であれば、賃上げや原資配分という短期施策で応対できる余地はありますが、金銭以外での離職が続けば早期挽回も難しく、経営的なダメージもより大きくなると推察できます。そのため、本来的には医師を「働き方」で離職させないことが収益対策の基本であり、これからは、そういう環境整備ができた医療機関に、診療報酬や医師増員などの付加価値が付いてくるのだと思います。
 

(*1)参考:医療機関勤務環境評価センター_受審申込受付状況 令和6年3月25日現在
(*2)参考:厚生労働省_令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況
(*3)参考:株式会社日本アルトマーク_2020年2月21日
(*4)参考:出所:一般社団法人全国公私病院連盟_令和5年病院運営実態分析調査の概要 〔令和5年6月調査〕

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③ その他、医師の働き方改革に関してのご相談

執筆

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/4

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