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国の医療情報を確認する仕組みを地域はどう活用できるか
国はデータヘルス集中改革プランの一つとして「全国で医療情報を確認できる仕組み」の整備に取り組んでいます。一方で、全国の多くの地域においては、医療情報等の共有により、切れ目のない安心な医療を提供できる仕組みとして地域医療情報連携ネットワークが既に整備されているところです。一見すると同じような仕組みに思われますが、幾つか異なる点があります。ここでは、両者の違いや、国の仕組みを地域医療情報連携ネットワークがどう活用すべきかを解説します。
全国で医療情報を確認できる仕組みとは
国は保健医療情報を患者や全国の医療機関等が確認できるための仕組みとして、2021年3月から特定健診情報、10月から薬剤情報を確認できる仕組みの整備に取組んでいます。更に、2022年夏を目途に運用開始を目指し、手術・移植や透析等、対象となる情報の拡大を予定しています。この仕組みにおいて患者の保健医療情報を医療機関等が確認するためには、医療機関等へ来院時にマイナンバーカードにより本人確認と本人から同意を取得する必要があり、患者が開示する医療機関等を選択することができる仕組みとなっています。
地域医療情報連携ネットワークとの違いとは
「医療情報連携ネットワーク」と「全国で医療情報を確認できる仕組み」との違いは、大きく「情報閲覧が可能な患者の範囲(患者の網羅性)」、「参照情報の鮮度」、「閲覧情報種別」の3つ挙げられます(下表参照)。
まず、「情報閲覧が可能な患者の範囲(患者の網羅性)」については、「地域医療情報連携ネットワーク」では、当該ネットワークへの参加に同意した患者(住民)の情報であり、同意患者数は全国民の約2.0%※1 程度であることから、一部の患者に限られています。それに対し「全国で医療情報を確認できる仕組み」では、レセプト情報を対象としているため、医療機関等への来院時にマイナンバーカードにより本人から同意が得られれば、医療機関では全ての患者の情報の閲覧が可能となります。
続いて、「参照情報の鮮度」については、「地域医療情報連携ネットワーク」では、概ねリアルタイムで情報連携しているため、直近の医療情報であっても医療機関等において参照することができるのに対し、「全国で医療情報を確認できる仕組み」はレセプト情報の参照となるため、診療年月の約1.5月前の情報が最新の閲覧可能な情報となります。
最後に、「閲覧情報種別」については、「全国で医療情報を確認できる仕組み」が現状ではレセプト情報の一部に限定されているのに対し、「地域医療情報連携ネットワーク」は、各地域により異なりますが、主に検体検査結果や画像情報などの診療に係る情報を参照することが可能となっています。
※1 ICT を利用した全国地域医療情報連携 ネットワークの概況(2018年度版)(日医総研ワーキングペーパー)を基に試算
全国の医療情報の仕組みをどう活用できるか
前述の通り、「地域医療情報連携ネットワーク」と「全国で医療情報を確認できる仕組み」にはそれぞれ特徴が異なります。前者は直近の情報を含め、幅広い医療情報等を参照できる一方、参照可能対象患者数が少なく、同意患者(住民カバー率)を確保することができることが理想的ではありますが、全国の平均運用年数である約6.49年※2 の間に確保した同意患者数は全国民の約2.0%であることを踏まえると、今後も急激な増加を見込むことは難しいことが想定されます。後者は本人同意の下ではありますが、全ての患者の保健医療情報を参照できる一方で、直近の情報を参照ができず、また参照可能な情報も限定的されます。
来院頻度の高い患者に対して、直近の医療情報を参照することで効率的・効果的な診療へ役立てることができると想定され、一方で来院頻度が低い患者は毎回症状が異なり、必然的に参照できる医療情報は過去のものになります。そのため、例えば、地域の住民が安心して医療を受けられる体制を構築するためには、住民に広く「地域医療情報連携ネットワーク」への参加の同意を取得するのではなく、まずは必要性が高い患者(住民)にターゲットを絞った広報活動により同意患者を確保し、その他患者に対しては当面は「全国で医療情報を確保できる仕組み」で提供されるレセプト情報を参照していくことも一つの方法だと考えられます。つまり、地域においては「地域医療情報連携ネットワーク」だけで全てをカバーするのではなく、国が検討している仕組みを活用しながら地域の医療体制を整備していくことも今後は検討していく必要があると考えます。
※2 ICT を利用した全国地域医療情報連携 ネットワークの概況(2018年度版)(日医総研ワーキングペーパー)
最後に
「全国で医療情報を確保できる仕組み」においては、現在健康・医療・介護利活用検討会において、医療等現場のニーズを踏まえながら、順次参照できる情報の範囲を増やしていくことが検討されていますが、医療情報を参照するためには、医療機関等においてオンライン資格確認等システムを導入する必要があるため、国に対してはその普及促進を図っていくことが期待されます。
「地域医療情報連携ネットワーク」においては、全てを自らが実施するのではなく、国の取組(取り扱う情報、システムの普及等)との住み分けを検討することにより、限りある医療資源の中で効率的に地域医療が提供に繋がるとともに、構築費用や保守費用の抑制にも繋がり、当該ネットワークが自立的・持続可能な仕組みとなっていくことを期待しています。
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2020/11
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