最新動向/市場予測
医療機関における訪日外国人対応
今後増加が見込まれる外国人に対して医療機関でどのような準備をすればよいのか
2019年まで増加の一途をたどった訪日外国人数の増加は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて減少しましたが、2022年5月現在、感染症対策の整備に伴い、入国基準の緩和が活発に議論されています。これに伴い訪日、在留といった形式を問わず、外国人の受診は今後再び増加することが容易に想像されます。医療制度や受診時の慣習などは国によって異なるため、これらを踏まえた準備が必要です。
訪日外国人数の増加
訪日外国人数は、図1に示すように、2019年の3,000万人超まで増加を続けてきました。特に2015年頃からの伸長スピードは非常に速いものでありました。2020年の新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、この傾向に変化があったものの、2022年5月時点では、いわゆる水際対策の緩和が活発に議論されています。各国の対応に鑑みても今後訪日外国人の入国数が再び増加することは容易に想像できます。また、法務省の発表によると、在留外国人数は令和3年末時点で約276万人とのことでしたが、技能実習制度の拡大などに伴いこの数も今後増加することが予想されます。
外国人患者の受入れの準備にあたって、言語は勿論のこと、日本のような皆保険制度がない国や地域が多く、医療費に対する考え方の違いなど受診時の慣習に大きな差があるケースが多々あります。まずはこういった文化や慣習の違いがあることを理解し、スムーズな受診に向けた準備が必要だと思われます。
厚生労働省の「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」について
これら文化の異なる外国人患者の受診をスムーズに行えるように、厚生労働省では、平成30年度~令和2年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業))「外国人患者の受入環境整備に関する研究」(北川雄光 慶應義塾大学病院長・医学部外科学(一般・消化器)教授)において、「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」※1を作成し公開しています。このマニュアルの中では、外国人患者受入れに関する制度や円滑な受入れのための体制整備に関して詳細に説明しているとともに、場面別での対応方針の説明などがなされています。外国人患者の受入れにとても参考になると思われます。また、図2のような外国人患者の受入時の簡易チェックリストなども公開されていますので是非ご活用ください。※2
外国人受け入れ時の課題対応
さて、上述のマニュアルなどを参考にすればスムーズな受入整備が整えやすくなるとと思いますが、どうしても幾つかの課題の発生が予想されます。代表的なものとしては、希少言語対応と未収金の発生ではないでしょうか。これに関しても既に構成労働省が「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」※3を展開していますし、未収金対応に関しては、直接的な回収ではないものの、厚生労働省が出入国在留管理庁と連携して、保険医療機関から一定額以上の医療費の不払いのある訪日外国人受診者の情報を収集し、出入国在留管理庁へ共有する仕組みの運用を令和3年5月10日から開始しています。※4 これは将来の未収金の発生防止につながるものと思われます。また、緊急対応などが求められる際には、これも厚生労働省が提供している「医療機関における外国人対応に資する夜間・休日ワンストップ窓口事業」※5などを活用いただくと良いと思います。
最後に
今後再び日本に入国する外国人の数は増加し、それに伴い全国の医療機関において外国人患者対応が求められることが予想されます。個々の医療機関が初めから自力でこれらに対する体制整備を行うことは非常に大きな労力が必要ですが、厚生労働省をはじめとした省庁等が、今回ご説明したようなツール類、サービスなどを展開していますので、これらを効率的に活用いただければと思います。
参考文献
※1 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000173230_00003.html
※2 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202921_00012.html
※3 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/newpage_00015.html
※4 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000202921_00012.html
※5 https://www.onestop.emergency.co.jp/
執筆
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/5
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