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【連載企画】医師の働き方改革の進め方

第3回:医師の働き方改革の概要とポイント

2024年4月から36協定で定める医師の時間外労働に上限が設けられます。違反すると労働基準法第32条に抵触することとなり罰則が科せられる可能性があるため、医師の働き方改革は医療機関において避けて通れないテーマです。しかし、無理な施策の導入や他院の模倣では本質的な解決にならないことに加え、医師からの反発や患者家族への悪影響が生じる可能性があります。このような背景の中、デロイト トーマツ ヘルスケアが考える医師の働き方改革の進め方を紹介させて頂きます。

医師の働き方改革の概要

この記事をお読みの方の多くは、既に医師の働き方改革に関して少なからずご存知のことと思いますが、ここでは改めて医師の働き方改革の概要を復習します。まずは、2024年までに医師の時間外労働を短縮しなければならない訳ですが、大きく3つパターン(A,B,C水準)が定められています。「まずは」と記載したのは、2024年以降も医師の働き方改革は継続するためです。これについては後述します。

A水準では、年間の時間外労働時間の上限が960時間(休日労働時間を含む)となっています。この水準は、一般の労働者の時間外労働時間の上限(特別条項付36協定における複数月平均(2か月ないし6か月の平均))に近い内容になっており、1か月当たりに割ると80時間の上限になります。また、1か月の上限時間は100時間未満となっています。この水準も、一般の労働者の上限時間100時間(同様に特別条項付36協定)と同等の水準が設定されています。ただし、医師の業務では、緊急手術の対応など、月100時間の時間外労働を超えても働かざるを得ないケースがあるため、その場合は面接指導し、就業上の措置を行う必要があります。

本来的には、全ての医師に対してこのA水準を適用することが理想なのですが、2024年時点では約1万人の医師が不足すると推定されており、かつ医師の偏在の問題があるため、B水準が設けられています。B水準の医療機関は、三次救急や救急搬送の多い二次救急指定病院、がん拠点病院などが対象になります。時間外労働の上限時間は年1860時間であり、現状の勤務医の1割がこの時間を超えているため、この水準まで時間削減してもらいたいという考えから設定された時間数となっています。加えて、連携B水準も追加され、大学病院や地域医療支援病院などのうち、医師の派遣を通じて、地域の医療提供体制を確保するために必要な役割を担う医療機関が対象になります。

また、医師は高度な技能が必要となるため、集中的に技能向上させるための期間が必要となります。そのため、C水準(C-1研修医・専門医、C-2高度技能を取得する期間)が設けられています。この水準の適用は、医療機関を特定し、特定の医師に限定されています。

同時に追加的健康確保措置が設けられています。連続勤務時間制限が28時間、勤務間インターバルを9時間設ける必要があります(一部努力義務)が、手術などによりどうしても守れない場合は、代償休息を設ける必要があります。また、時間外労働が月155時間を超える場合は、労働時間の短縮のための具体的な取組を講じる必要があります。

医師の働き方改革は2024年までの取組ではなく、その後2035年度末には、B水準が廃止され、A水準とC水準のみになることになっています。また、C水準の上限時間は中長期的に見直しを行って、上限時間が見直されることが予定されています。

 

宿日直許可がポイント

医師の働き方改革を進めるにあたって、重要なポイントとなるのが医師の宿日直許可になります。急性期病院の中には、医師の宿日直許可を必ずしも得ていない状態の中で、宿日直対応としている医療機関が少なからずあります。

労働基準法第41条における宿日直とは、常態としてほとんど労働する必要のない勤務(労働時間ではない)であり、宿直は週1回、日直は月1回が限度とされています。また、賃金は宿日直勤務を行う者に支払われる賃金の1日平均額の3分の1以上であればよいことになっています。このように、宿日直対応は一定の制約があるものの医療経営面においてメリットがあるのですが、この宿日直対応を可能な状態にするためには、労働基準監督署長の許可が必要となっています。

この宿日直許可基準は、特に急性期病院にとっては適用し難いものであったのですが、令和元年に、医師等の宿日直勤務の許可基準が見直され、より現場に沿った内容に変更されました。例えば、「少数の要注意患者の状態の変動に対応するため、問診等による診察等や、看護師等に対する指示・確認を行うこと」など、宿日直時に起こりそうな具体的な活動を行った場合でも、それが軽微なものであれば宿日直として認められることが明確になりました(令和元年 基発0701第8号)。また、一つの病院単位での許可ではなく、診療科別の許可であったり、一部の時間帯のみの許可である場合でも可能とするなど、比較的柔軟に許可が得やすくなったと考えられます。

 

変形労働時間制の検討は必須

宿日直許可が得られれば、医療経営面でもメリットがあり、医師にこれまでどおり働いてもらうことが可能となるケースもありますが、宿日直許可が得られない場合は、宿日直として働いていた時間が全て時間外労働になり、これまでも多かった時間外労働が更に多くなることになり、人件費も増加するというインパクトを受ける恐れがあります。

医師の働き方改革を進める手段として、一部業務のIT化であったり、タスクシフト・タスクシェアといったことが推奨されていますが、1stステップとしては、今の労働実態の詳細を把握した上で、変形労働時間制の導入を検討されることが望ましいと考えます。

変形労働時間制とは、労働基準法上で定められている労働時間制度であり、いくつかの種類の制度(フレックスタイム制や裁量労働制など)が存在するのですが、その中でも医師については1か月単位の変形労働時間制度が適用しやすいと考えられます。毎日の労働時間の上限が8時間ではなく、特定の日は12時間働き、早く帰れる日については半日で勤務終了するような働き方ができるようになります。1か月を平均して労働時間が40時間以内であれば、時間外労働手当が発生することなく働いてもらうことが可能になります。

次々回の本メルマガで改めて事例をご紹介する予定ですが、先進的に医師の働き方改革を推進されているとある医療機関では、医師の労働時間の詳細の記録をとった結果、想定以上に夜間に休憩していたり、短時間で終わることができるはずの会議時間が長引いていたりしていることが判明しました。このような実態を把握することが次の施策につながる重要な情報になります。ちょっとした工夫や調整で時間外労働を削減しつつ、更に変形労働時間制度の導入によって、これまで100時間超であった時間外労働時間を100時間未満に減らせてしまうことがありました。このように、労働実態を把握した上で、変形労働時間制を上手く組み合わせることで、現在の働き方を大きく変更することなく、医師の働き方改革で求められている上限時間内に収まるケースもあるため、最初の一歩として検討を進めることが望ましいと考えます。

 

おわりに

今回は、医師の働き方改革の概要と宿日直許可基準や変形労働時間制度について簡単に触れました。

次回掲載予定

次回は、経営的観点からの医師の働き方改革について述べたいと考えています。

是非ご覧いただければ幸いです。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2022/1

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