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公立病院経営強化の推進に係る財政措置のポイント解説

公立病院経営強化の推進に係る財政措置の概要と拡充された措置について探る

公立病院経営強化の推進にあたり、財政措置について「公立病院経営強化の推進に係る財政措置等の取扱いについて(通知)」(総財準第74号令和4年4月1日)(以下、「通知」)が公表されました。 これまで行われてきた公立病院に対する財政措置を踏まえながら今回の財政措置の概要を確認し、また新たに拡充された財政措置のポイントについて解説してきます。

公立病院経営強化の推進に係る財政措置の概要

公立病院経営強化の推進に係る財政措置の大きな特徴として、「再編・ネットワーク化」から「役割・機能の最適化と連携の強化」へ主眼が変わったことと、「医師の働き方改革への対応」が挙げられます。

今回の通知によって新設された財政措置はありませんが、「機能分化・連携強化に伴う施設・設備の整備に係る措置」、「医師等を派遣する医療機関に係る特別交付税措置」において財政措置の内容が拡充しています。

 

公立病院経営強化の推進に係る財政措置等の概要

出所:総務省「公立病院経営強化の推進に係る財政措置等の取扱いについて(通知)」より作成

「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」(以下、「ガイドライン」)では、新公立病院改革プランの記載項目として掲げられていた「地域医療構想を踏まえた役割の明確化」、「再編・ネットワーク化」、「経営形態の見直し」の項目は「役割・機能の最適化と連携の強化」、「経営形態の見直し」の項目の中で記載項目として掲げられていますので、関連する財政措置はこれまで通り継続しています。

一方、「新興感染症の感染拡大時等に備えた平時からの取組」、「デジタル化への対応」はガイドラインでは新たな記載項目として掲げられていますが、他に補助金制度が設けられているためか財政措置としては新たな制度は設置されていません。

また、財政措置を受けるためには経営強化プランの策定が要件となっている点は新公立病院改革プランと同様です。なお、令和4年度及び令和5年度においては、令和5年度までに経営強化プランを策定するための作業に着手していることをもって、経営強化プランの策定要件を満たすものとされています。

 

新公立病院改革プランの記載項目と公立病院経営強化プランの記載項目の比較

 

出所:総務省「新公立病院改革ガイドライン」、「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」をもとに作成

拡充された財政措置

ガイドラインでは、「医師の働き方改革」と「医師の偏在対策」の視点から、基幹病院に対して、「中小病院等への積極的な医師・看護師等の派遣」を求めている点が特徴的であり、財政措置においても機能分化・連携強化に伴う公立病院の施設・設備の整備費や医師等の派遣元・派遣先医療機関で負担する給与費や経費等について拡充されています。

(1)機能分化・連携強化に伴う施設・設備の整備に係る措置

機能分化・連携強化に伴う公立病院の施設・設備の整備費に充てる病院事業債(特別分、以下同様)について、元利償還金の3分の2を一般会計からの繰入れ対象とするとともに、その元利償還金の40%について普通交付税措置の対象となります。

病院事業債の対象となる機能分化・連携強化に「複数病院の統合」が該当する点はこれまでと変わりはありませんが、「複数病院の相互の医療機能の再編」が「複数病院の相互の医療機能の見直し」に変わり、求められる要件が以下に変更されています。

・基幹病院への急性期機能の集約

・基幹病院以外の病院等の急性期から回復期等への機能転換等

・基幹病院から基幹病院以外の病院等への医師派遣の増加、遠隔診療等の支援

・基幹病院以外の病院等による基幹病院の術後患者等の受入体制の構築

・医療情報の共有等による医療提供の連携体制の構築

「再編・ネットワーク化」から「役割・機能の最適化と連携の強化」へ主眼が変わり、「医師派遣の増加」や「術後の患者等受入体制の構築」が要件となった点が特徴的です。財政措置を受けるためには上記5つの要件を全て満たす必要がありますが、「基幹病院への急性期機能の集約」や「基幹病院以外の病院等の急性期から回復期等への機能転換等」といった医療機能の再編の要件を満たすことで財政措置を受けられるため、積極的な機能再編には財政的な支援が拡充されているといえます。

この要件変更に伴い、基幹病院が医師派遣の増加及び遠隔診療等の支援を強化し、救急医療等の地域において必要とされる不採算地区病院の機能を維持する場合に限りますが、複数病院の相互の医療機能の見直しに必要となる基幹病院の整備費が対象経費に追加されました。

また、今回の財政措置から病院事業債の対象となるシステム関係の経費について新たに2つ追加されています。まず、関係病院等間の医療情報の共有に必要となる情報システム等の整備費が対象経費に追加されました。例えば、病院間連携で複数病院合同カンファレンスを行うためのICT環境の整備費に本財政措置を活用できると期待されます。

そして、医師等の働き方改革に必要となる情報システム等の整備費も対象経費に追加されました。医師を派遣した場合、派遣元病院が派遣先病院での医師の勤務実態を把握できないということがよく聞かれます。派遣元病院は派遣先病院での労働時間も含めて医師の時間外労働の上限規制を遵守することが求められますので、連携先病院と協力して勤怠管理システム等を導入する場合の整備費に本財政措置を活用できると期待されます。

 

機能分化・連携強化に伴う施設・設備の整備費に充てる病院事業債(特別分)の対象経費

 

出所:総務省「公立病院経営強化の推進に係る財政措置等の取扱いについて(通知)」より作成

(2)医師派遣等に係る財政措置

公立病院等からの要請を受けて医師等を派遣する場合、非常勤の医師等の給与費等について特別交付税措置の対象となります。

これまで措置の対象となる医療機関は、公立病院及び公的病院でしたが、新たに公立診療所も対象となりました。これにより、例えば、基幹病院に急性期機能を集約し病床数を削減した結果、診療所となった医療機関においても、財政措置の対象になることが想定されます。ただし、派遣元病院と派遣先病院が相互に医師等を派遣する場合、及び同じ地方公共団体が設置する医療機関から医師等の派遣を受ける場合は財政措置が受けられませんので留意が必要です。

また、これまで医療職の派遣に係る特別交付税措置の対象となるのは医師のみでしたが、看護師、薬剤師、臨床検査技師その他の医療従事者も特別交付税措置の対象となる職種に追加されました。新型コロナウイルス感染症のワクチン接種では都道府県立病院等の地域の基幹病院から多数の医師や看護師等を派遣していたことから、今後新型コロナウイルス等の新興感染症の感染拡大時に備え、連携体制の整備のために本財政措置を活用できると期待されます。

財政措置の対象となる経費についても、医師等を派遣している期間に、派遣元病院が支出する医師等の給与費(派遣に伴い当該医師等に支給する手当は除く)の他、派遣元病院において看護師、薬剤師、臨床検査技師その他の医療従事者が派遣により不足する期間に、派遣元病院の医療提供体制を維持するために新たに雇用する非常勤の看護師等の給与費も財政措置の対象となりました。例えば、医師の働き方改革への対応のために看護師、薬剤師、臨床検査技師、医療事務作業補助者等へタスクシフト/シェアするためには、知識・技能を習得するための研修等への参加が必要ですが、研修等へ参加している間、看護師等が不足する分を他の病院から看護師等の派遣を受ける場合、その派遣を受ける非常勤の看護師等の給与費に財政措置を活用できると期待されます。

さらに、派遣元病院における財政措置の金額は、従来から「基準額(単価×派遣日数)」と「一般会計繰出額×0.6」のいずれか少ない金額と規定されていますが、この一般会計繰出額に乗じる割合が「0.8」に引き上げられています。

 

(3)その他の財政措置の見直し

施設整備費に係る病院事業債の元利償還金に対する地方交付税措置の対象となる建物の建築単価は、1㎡当たり36万円から40万円に上限が見直されました。

また、「不採算地区病院等に対する財政措置の拡充の継続について」(事務連絡令和4年4月1日)により、令和3年度に講じた不採算地区への繰出金に係る特別交付税措置の基準額を30%引き上げる見直しは継続されることになりました。

 

経営強化プランの策定等に係る財政措置

「機能分化・連携強化に伴う施設・設備の整備に係る措置」と「医師派遣等に係る財政措置」に関して今回の通知で財政措置が拡充されましたが、「経営強化プランの策定等に係る財政措置」は新公立病院改革プランの時と同様に、経営強化プランの策定とその後の実施状況の点検・評価等に要する経費について財政措置を活用できると期待されます。経営強化プランは令和4年度または令和5年度中に策定することが求められています。令和4年度及び令和5年度においては、経営強化プランの策定作業に着手していることで本財政措置の要件を満たすことになりますので、経営強化プランの策定時には本財政措置の積極的な活用が望まれます。

 

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/5

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