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地域における最適な救急医療提供体制の構築

救急医療需要の増加及び医師不足の状況下で求められる救急医療提供体制の構築に向けた取組み

医師不足が生じている中、各医療機関が単独で救急医療提供体制を構築することは、今後の地域医療を担う上では限界が生じる可能性があります。 こういった中、公立・公的病院等の地域の中核病院を中心として複数の医療機関や救急隊等が連携することによって、地域単位での最適な救急医療提供体制の構築が求められます。

現状の救急隊の出動件数及び医療機関収容時間の推移

全国の救急隊の出動件数は近年増加傾向となっています。

出所:「平成21年版 救急・救助の現況」・「令和元年版 救急・救助の現況」(いずれも消防庁)を基に作成。なお、令和2年は速報値(消防庁「令和2年中の救急出動件数等(速報値)」より)。

この増加傾向は特定の地域だけではなく、全ての都道府県で平成20年から令和元年にかけて同様に見受けられます。

救急出動の中でも特に多いのが高齢者の病変に伴う出動であり、全国的に、高齢化に伴って、救急出動要請が増加していることが伺えます。

ただし、令和2年度は救急出動件数が減少している状況でした。これは新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う「衛生意識の向上」「不要不急の外出の自粛」の結果、急変、交通事故及び一般負傷等の減少に繋がったことなどが要因として考えられています。特に軽症患者は令和元年度と比較して搬送件数が15.9%減少しています。

また、脳梗塞などでは発症後迅速に医療機関に収容されることが望まれる中、救急隊が連絡を受けてから現場に出動し、患者が医療機関に収容されるまでの時間は延伸している状況です。より詳細に見ていくと、「入電~現場到着」、「現場到着~医療機関収容」のいずれの時間もこの10年間で延伸していることが伺えます。

出所:「令和元年版 救急・救助の現況」(消防庁)、出所「平成21年版 救急・救助の現況」(消防庁)を基に作成

その理由としては、以下の点が指摘されています。

「入電~現場到着」の延伸について

救急隊員数は増加しているものの、救急隊員の増加割合より、出動件数の増加割合の方が大きいため、最も近隣の救急自動車が出動できない場合がある

「現場到着~医療機関収容」の延伸について

特に夜間、休日では、専門医が不在であること等によって医療機関側に受入態勢がなく、搬送先の医療機関の探索に時間を要する

救急自動車が患者を収容可能な医療機関を探索している間は、他の現場には出動できないため、結果として「現場到着~医療機関収容」の延伸が、さらなる「入電~現場到着」の延伸に繋がると考えられます。

令和2年度の各時間ついては、2021年4月時点では公表されていませんが、総務省によると新型コロナウイルス感染症への対応(防護服やゴーグルの着用等)などを背景に、対前年比で延伸していることが言及されています。直近では、新型コロナウイルス感染症患者の受入可能な病床がひっ迫していることを鑑みると、「現場到着~医療機関収容」はさらに延伸していることが見込まれます。

 

今後の救急医療需要と救急医療提供体制の見込み

前述のように救急出動件数は、近年では高齢者の急病により増加している傾向です。このような背景から、今後の救急医療需要は、全国的な高齢化の進展に伴って引き続き増加していくことが予想され、令和2年度版消防白書では、2030年に向けて救急出動件数及び搬送人員はともに増加することが見込まれています。

 

出所:「令和2年版消防白書」(消防庁)

一方で、救急医療提供体制の観点では、全国自治体病院協議会の「医師の働き方改革に関するアンケート調査(2019年5月)」によると、2024年から医師にも適用される「働き方改革」によって時間外労働時間が960時間超の医師を減らすためには、平均で1.2倍の医師数が必要との結果が示されています。

このように、救急医療の需要と救急医療提供のミスマッチが拡大することにより、「入電~医療機関収容時間」が更に延伸する可能性があるため、今後は、これらのミスマッチを解消するための取組みが求められると考えられます。

各医療機関では、「医師の働き方改革」による医師不足の対策として、タスクシフティング等による業務の効率化等を進めていくものの、医療機関だけの対策では不十分な可能性もあることから、厚生労働省の「令和元年 医師の勤務実態調査」及び「医師の働き方改革の地域医療への影響に関する調査(令和2年2月~3月)」で、「自院における取組の推進だけではなく、夜間等の救急医療の集約化、地域の医療提供体制についても併せて検討する必要性」について指摘されています。

 

入電~医療機関収容時間の短縮に向けた各取組みについて

このような中、救急医療の需要と救急医療提供のミスマッチを解消する取組みとして、自治体や医療機関で様々な取組みが行われています。

行政・自治体の取組み例

行政・自治体の取組みとしては、「入電~現場到着」時間の短縮に向けて、適正な救急自動車の利用や入電後に救急隊員が効率的に現場に到着することを目的とした取組みが挙げられます。
また、「現場到着~医療機関収容」時間の短縮に向けて、救急隊員が収容先の医療機関を迅速に探索できるようにICTを活用した取組みが挙げられます。

医療機関の取組み例

医療機関の取組みとしては、近隣の医療機関で連携して地域の救急患者を受け入れる取組みが挙げられます。これらの取組みが救急隊に共有されることで、「現場到着~医療機関収容」時間短縮に期待できます。

医療機関では救急患者を受け入れることで「地域医療体制確保加算」や「救急医療管理加算」の算定など、収益増加の効果も得られますが、医師が不足している状況では自院のみでの対応が難しい場合もありますので、今後は、医療機関、自治体や救急隊が連携することによって、地域単位で救急患者を受け入れる取組みが重要になると考えられます。

地域単位で救急医療提供体制の最適化に取り組む場合には、現状の地域の救急医療需要と救急医療提供体制をデータ分析によって把握し、分析結果を参考に関係医療機関間で役割分担の協議等に取り組むことが有効です。具体的には下表のような分析内容に基づいて、複数医療機関での受け入れルールの設定や救急隊との情報共有などの地域単位の救急医療提供体制の最適化を進めることとなります。


おわりに

医師不足や新型コロナウイルス感染症の流行という環境の変化に伴い、地域での救急医療の在り方についても従来とは違う新たな対応が求められると考えられます。「地域に貢献するために救急患者は受け入れたいが、自院だけではどのように取り組んだらいいのかわからない」、「現場職員だけでは対応に割ける時間がない」といった悩みを抱えている医療機関も多いかと思います。

医療機関における業務の効率化に加え、地域の救急医療提供体制の再構築を支援した実績のあるトーマツグループでは、様々な領域の知見を有する実務経験豊富な専門家を有しており、医療機関が抱える課題に応じてチームを構成し、課題に取り組むことができる業務体制を整えています。また、多くの医療機関に対するアドバイザリーサービスでの実績や医療政策含めた幅広い知見も豊富に有しております。

新型コロナウイルス感染症による未曽有の状況下において、課題を検討するのに十分な人員や時間がない、あるいは、具体的な改善策の立案が難しいといったお悩みがありましたら、ぜひお気軽にご相談下さい。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/5

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