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スマートシティにおけるヘルスケア

スマートシティの概観と、スマートシティでヘルスケアに取り組む際の留意点

近年、スマートシティに取り組む地域や自治体が増えてきています。スマートシティでヘルスケアサービスを提供することにより、住民の健康促進、地域や都市の医療・介護サービスの質向上等が期待できます。一方で、地域や自治体がスマートシティでヘルスケアサービスを展開する場合の難しさも見えてきました。今回は、スマートシティでヘルスケアサービスを展開する際の留意点について紹介します。

スマートシティとは

近年、スマートシティに取り組む地域や自治体が増えてきています。スマートシティの概念は技術の進展に伴い変化しているものの、下記のように定義できます。

「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」
出所:国交省、平成30年8月、スマートシティの実現に向けて【中間とりまとめ】

スマートシティでは、情報基盤、センシング技術、モバイルデバイス、AI・IoT等を用いて、地域や自治体における生活利便性の確保、行政運営の効率化、地域活性化、住民の健康促進、交通弱者への交通手段提供等を実現します。

 

スマートシティの構成要素

スマートシティの実現にあたっては、戦略策定、関連法令への配慮、ステークホルダー間の調整、システム対応等、下記のようなスマートシティの構成要素をそれぞれ検討していく必要があります。

スマートシティのサービスは、システム上の仕組み(都市OS、スマートシティアセット)を構築しただけでは実現できず、戦略に基づいた運営(スマートシティ戦略、都市マネジメント)をして初めて住民に届けることができます。

 

出所:内閣府、スマートシティリファレンスアーキテクチャホワイトペーパー(2020年3月31日)を参考に作成

スマートシティにおけるヘルスケアサービス

スマートシティにおけるヘルスケアサービスはどのようなものが考えられるでしょうか。

住民の健康促進を目的とした場合は、歩数等の活動量に応じた健康ポイント付与、住民の健康・生活情報の分析による疾病予防・予測、保健サービスの効率化等が考えられます。
医療・介護の質向上・効率化を実現する場合は、電子カルテを含む診療・検査情報の共有、搬送先情報の共有による救急搬送の迅速化、ライフログ等を用いた高齢者の見守り、日常の身体情報をモニター/アラートすることによる疾病の重症化予防、遠隔医療の実現による容易な医療アクセスの実現、医療・介護データ分析による政策立案への活用等が考えられます。

健康・医療・介護を含めたヘルスケアサービスは、データ・機能・サービス提供先の掛け合わせで様々なサービスが考えられます。スマートシティの推進主体(自治体、地域の企業や自治体から構成する協議会、デベロッパー等の民間企業等)は、スマートシティでヘルスケアサービスを提供することで、住民の健康促進や地域における医療介護サービスの質向上・効率化を実現することができます。

スマートシティでヘルスケアサービスに取り組む際の留意点

スマートシティにおけるヘルスケアサービスの展開に関わる中で、スマートシティでヘルスケアサービスに取り組む際の共通する課題が見えてきました。今後、スマートシティでヘルスケアサービスに取り組む地域や自治体は、下記事項に留意してヘルスケアサービスに取り組むことが望まれます。

(1) 多様なステークホルダーとの協調・調整

スマートシティは多様なステークホルダーが参加するため、関連する事業者だけでなく、業界団体、研究機関、国、住民等、多様なステークホルダーとの丁寧な協調・調整が必要となります。
また、スマートシティの推進主体も縦割りとならないよう体制の整備が重要です。特に、自治体の場合、新たにできたデジタル推進部門と、医療・介護・保健福祉を扱う部門との連携が取れずに本来の課題に向き合えない事例がありました。スマートシティの実現に向けて、自治体内部で横に連携できるよう体制を整備しておく必要があります。

(2)住民への周知広報

スマートシティでICTを活用したヘルスケアサービスの仕組みが実現したとして、それを利用する住民が当該サービスを知らない場合や、利用するのを躊躇している場合は当該サービスの効果は限定的なものとなってしまいます。そのため、住民への説明や周知広報が重要となります。

(3)ヘルスケア関連の制度やデータの取扱いへの配慮

ヘルスケアサービスの提供にあたってはヘルスケア分野の関連法制度となる健康増進法、医療法、介護保険法、高齢者の医療の確保に関する法律、診療報酬制度、介護報酬制度等への配慮が必要となります。
特にヘルスケアサービスでは、診療情報や健診結果等の要配慮個人情報を扱うことが多いため、交通や農業等の他のスマートシティサービスと比較して、個人情報の取得についての同意や、データの匿名化等のデータの取扱いについて配慮が必要となります。

データの取扱いについては、データ活用方法や、データ取扱い主体によりますが、個人情報保護法、個人情報保護条例、次世代医療基盤法等への配慮が必要となります。

これまで国の行政機関、独立行政法人、民間事業者、自治体についてそれぞれ異なる法令が適用されていましたが、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」による個人情報保護法の改正により自治体は2023年5月19日までに全国的な共通ルールが適用されます(国、独立行政法人等については2022年4月1日から施行)ので、状況を見極めて対応する必要があります。また、PHR(Personal Healthcare Record)については、経済産業省・厚生労働省・総務省が2021年に取りまとめた「民間PHRを事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」(以下、「民間PHRの基本的指針」とする)へ配慮する必要があります。

(4)国のICT動向との整合性

現在国ではデータヘルス改革が進められており、オンライン資格確認等システム、電子処方箋、マイナポータルでの健診・健診情報の閲覧、マイナポータルと民間PHR事業者とのAPI連携等、保健医療情報に関わるICTの整備が進められています。こうした国のICT動向を把握した上で、スマートシティのヘルスケアサービスで活用するシステム上の仕組みを検討しないと、国が提供するサービス・機能と重複してしまったり、国が提供するICT機能を十分に活用できずコストが高くつく恐れがあります。

(5)システム上のセキュリティ要件への配慮

医療情報を扱うシステムについては、3省2ガイドライン(厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」、経済産業省・総務省の「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」)のセキュリティ基準を考慮する必要があります。また、住民の健康情報を扱うシステムについても「民間PHRの基本的指針」のセキュリティ基準に配慮する必要があります。

上記のスマートシティでヘルスケアサービスに取り組む際の留意事項を、スマートシティの構成要素に当てはめると下記のようになります。



おわりに

スマートシティ戦略においてヘルスケアサービスに取り組む際は、本稿で紹介した各種留意点に配慮しながら事業を推進して頂けたらと思います。
デロイト トーマツ グループでは、各領域において内部に実務経験豊富な専門家を有しており、地域・自治体・医療機関が抱える課題に応じてチームを構成し、課題に取り組むことができる業務体制を整えています。スマートシティにおける有効なヘルスケアサービスの実現に向けた戦略立案、課題対応等お悩みがありましたら、ぜひ気軽にご相談下さい。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2022/1

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