ナレッジ

急性期病院における後方連携と介護医療院の創設

慢性期機能病床の病床転換におけるポイント

介護医療院の創設と、2018年度診療報酬及び介護報酬の同時改定により、病床機能の再編が進んでいくことが想定されます。慢性期機能病床(医療療養病床及び介護療養病床)を有する医療機関は再編を含む今後の展開、急性期機能病床及び回復期機能病床を有する医療機関は後方連携のあり方を模索していく必要性があります。「連携」をキーワードに、各医療機関・施設が今後の事業展開を検討する上でのポイントを整理します。

慢性期における診療報酬・介護報酬の改定点

はじめに、医療療養病床及び介護療養病床の慢性期機能病床に係わる診療報酬及び介護報酬の改定内容を確認します。

医療療養病床に係わる診療報酬改定は、入院医療の評価体系の再編・統合の方向性及び医療療養病床に係る医療法上の人員配置標準の経過措置の見直し方針を踏まえ、療養病棟入院基本料について看護職員配置「20対1」を要件とした「療養病棟入院料」に一本化し、医療区分2・3の該当患者割合に応じた2段階の評価に見直されました。「25対1」の旧療養病棟入院基本料2に関しては、最終的な経過措置の終了時期を次回改定時に改めて検討することとされ、まずは2年間の経過措置期間が設定されました。

また、在宅復帰の機能をより推進する観点から、療養病棟における在宅復帰機能強化加算に関する施設基準について、一般病棟等から当該入院基本料を算定する病棟に入院し、在宅へ退院した患者の1日平均入院患者数に対する割合の基準値が100分の10から100分の15へ引き上げられた一方で、点数も10点から50点へと評価の充実が図られました。

※クリックで拡大

介護医療院創設へ

2006年の医療制度改革において、患者の状態に即した機能分担を促進する観点から、医療の必要性の高い方々については医療療養病床で、高齢で医療の必要性の低い方々については老人保健施設等で対応することとし、介護療養病床を2011年度末で廃止することが打ち出されました。しかしながら、介護老人保健施設等への移行が進んでいない等の理由から6年間の期限の延長が行われていました。

その6年間の期限が到来する2017年度末が近づきつつあってもなお移行が進んでいない現状から、介護療養病床のあり方の検討が行われました。そして、「介護医療院」を創設した上で、再度6年間の期限の延長が行われ、当該期間の間に地域医療構想調整会議における協議や地域医療介護総合確保基金などを活用した転換支援を行っていくこととなりました。

これを受けて、2018年度の介護報酬改定では、介護療養型医療施設に係わる介護報酬自体の変更は行われていません。しかし、介護療養型老人保健施設では、一定の医療処置の頻度等が基本報酬の要件とされていることを踏まえ、介護療養型医療施設においても医療処置又は重度者の割合が要件化され、当該要件を満たさない場合には所定単位の100分の95へ減算されることになりました(以下、図参照)。

※クリックで拡大

3つの機能を併せ持つ介護医療院の創設

介護医療院は、『「医療」及び「介護」のニーズを併せ持ち、長期の療養が必要となる高齢者に対して、日常的な医学的管理、一定程度の介護に加え、「住まい」の機能を同時に満たす』新たな施設系サービスです。「介護療養病床(療養機能強化型)」に相当する「Ⅰ型」(重篤な身体疾患を有する要介護者らを対象)と「転換老健」に相当する「Ⅱ型」(容体が比較的安定した要介護者らを対象)の2つの類型が設けられています。

また、介護療養型医療施設又は医療療養病床、介護療養型老人保健施設から介護医療院に転換する場合には、療養室の床面積や廊下幅等の基準の緩和に加え、転換後1年間に限り(ただし2021年3月末までの期限)移行定着支援加算が設けられており、介護医療院への転換が後押しされています。

※クリックで拡大

介護医療院の報酬体系は「Ⅰ型」「Ⅱ型」のそれぞれで3区分設定されており、「看護、介護職員の配置の厚さ」や「入所者の状態」に応じて、メリハリがついた評価となっています。

例えば、Ⅰ型介護医療院サービスでは、介護職員の配置が4対1か5対1かの違いに加え、「重篤な身体疾患を有する者及び身体合併症を有する認知症高齢者の占める割合」「喀痰吸引、経管栄養又はインスリン注射が実施された者の占める割合」「ターミナルケア等を実施している者の占める割合」の医療処置又は重症度要件によって区分設定されています。これらに該当しない場合は特別介護医療院サービス費の算定となります。

 

※クリックで拡大
※クリックで拡大

慢性期機能病床の転換意向とポイント

日本慢性期協会では、「医療療養病床25対1」または「介護療養病床」を有している会員病院を対象に、改定内容が明らかになった直後の2018年2月に「介護医療院等への転換意向に関するアンケート」を実施しています。添付の図は解釈通知やQ&Aが出ていない時点での調査結果であるため、3分の1程度は様子見の結果となっていますが、224病院(19,551床)から回答を得て、「医療療養病床25対1」(6,797病床)のうち、「医療療養病床20対1」への転換意向は3,677床(54.1%)、「介護療養病床」(1万2,754床)のうち、「介護医療院Ⅰ型」への転換意向は6,803床(53.3%)と示されています。

※クリックで拡大

「医療療養病床25対1」においては、看護職員配置20対1を満たし、かつ、医療区分2・3の割合が50%以上であれば、新入院料2の算定が可能となりましたが、点数は旧療養病棟入院基本料2が据え置かれていることから、採算性の面からは、医療ニーズの高い医療区分2・3の患者割合は8割以上を確保し、新入院料1を算定できることがポイントになってきます。新入院料1と2では1病棟(平均入院患者40人と想定)でおおよそ年間1,000万円の収益差が生じると見込まれます。

複数の医療療養病棟を有している医療機関においては、別々に新入院料1(医療区分2・3割合80%以上)と新入院料2(医療区分2・3割合50%以上)を算定することはできず、全体で8割をクリアしていかなければなりません。

加えて、在宅復帰機能強化加算が見直されていることから、療養病棟においては、在宅復帰及び在宅療養支援の機能が求められており、一般急性期病床及び地域包括ケア病床等からのポスト・アキュート患者を受け入れて在宅復帰を目指す体制、在宅療養患者の療養を支援する体制等の構築を図っていくことが重要です。

「介護療養病床」の多くは、既存の療養機能強化型と同水準である介護医療院Ⅰ型へ転換すると思われます。「介護医療院」には「住まい」の機能が明確に付加されることから、転換にあたっては現状よりも利用者の生活様式に配慮し、プライバシーの尊重や家族や地域住民との交流が可能となる環境整備が必要となります。「介護療養病床」等から転換する場合、施設・設備に関する基準が、「療養室の入所者1人当たり床面積」は通常8.0㎡以上のところ6.4㎡以上、「廊下幅(中廊下)」は通常1.8m(2.7m)以上のところ1.2m(1.6m)以上に緩和されていますが、「療養室の入所者1人当たり床面積」と「廊下幅(中廊下)」の緩和それぞれについて25単位が減算される(入所者数40人、1単位10円として年間365万円程度の試算)ため、転換する場合には何床設置するかを検討することが肝要と言えます。

「介護医療院」の基本報酬は、介護士配置のほか、Ⅰ型では「重篤な身体疾患を有する者および認知症と身体合併症を有する者」「喀痰吸引、経管栄養またはインスリン注射を実施した者」「ターミナルケアが必要な者」の割合に応じて単位数が区分されています。現在の介護療養病床における療養機能強化型と同様、連携医療機関との関係を構築し、継続的に医療ニーズの高い患者の受入体制を構築することが求められています。

なお、介護療養型医療施設又は医療療養病床、介護療養型老人保健施設からの介護医療院への転換は、総量規制の対象とならないとされています。しかし、医療療養病床からの転換においては、介護費の増大、介護保険料の急騰リスクから都道府県及び自治体の理解が得られない可能性もあります。新規扱いとなる上記以外からの転換等も含めて、都道府県や自治体等と適切に情報を共有し、地域における必要性について考えていくことが重要となります。

 

在宅復帰率の見直しで患者連携の流れが変わる

2018年度の診療報酬改定では医療機関間の連携や在宅復帰の機能をより推進する観点から在宅復帰率の指標の定義等についても見直しが図られました。

急性期病院においては、新急性期一般入院料1の在宅復帰率は、在宅復帰・病床機能連携率と名称が変更されました。そして、従前は、療養病棟や介護老人保健施設は在宅復帰機能強化加算等を取得している施設だけが対象としていましたが、今般の改定により加算の有無にかかわらず療養病棟や介護老人保健施設は対象とされ、急性期一般入院料、地域一般入院料などに転院した患者だけが対象から除外することとなりました。

その一方で、新地域包括ケア病棟入院料1及び2の在宅復帰率では、従前まで対象とされていた在宅復帰機能強化加算等を取得している療養病棟や介護老人保健施設が除外されています。自宅以外では医療・介護併用モデルの有床診療所に加え、介護老人福祉施設及び介護医療院等の居住系介護施設等が対象となっているため注意が必要です。

地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟を有している急性期病院では、これまで地域包括ケア病棟等の回復期病棟を活用したベッドコントロールを実施しているケースが多いと推察しますが、これからは退院先を考慮した転棟がより重要となってきます。また、地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟では、より在宅復帰に向けたリハビリテーションの実施、ケアマネージャーと協力して介護サービスなどを調整していく体制の構築が経営上のポイントになってきます。

※クリックで拡大

求められる地域連携体制の再構築

慢性期機能病床の転換は、改正で見直された在宅復帰率の関係から、医療・介護連携における患者の流れに変化を生じさせるでしょう。例えば、医療療養病床では、急性期病床だけが連携先として見做されますが、介護医療院へ転換すると地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟等の回復期病床、さらには他の療養病棟入院料の慢性期機能病床からの連携の流れを構築できる可能性があります。

今後、急性期病院においては、自病院の病床機能及び連携体制を強化するにあたり、地域の医療病床及び介護施設がどのように転換されていくかも含めて検討することが重要となります。

地域包括ケア病棟から療養病棟及び介護老人保健施設への退院に制限がかかったことにより、これまで急性期病棟から地域包括ケア病棟へ転棟して容体が安定してから他の医療機関の療養病棟や介護老人保健施設へ退院していた患者は、急性期病棟から地域包括ケア病棟経由ではなく直接療養病棟等への退院が求められます。重症度、医療・看護必要度が改定のたびに厳格化されてきている状況においては、後方連携先として早期から受入れが可能な地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟に加え、要介護度は比較的低いが自宅に帰すことが難しい患者を比較的早期から受け入れてもらえる療養病棟、介護老人保健施設等との連携を構築することが求められているとも言えます。

慢性期病院においては、地域医療構想などの動向を踏まえつつ、自らの地域における役割を再度見直し、転換もしくは機能強化を検討していくことが重要となります。

急性期病院との連携を強化してより重症な患者を受け入れていくのか、在宅サービスとの連携を強化して在宅復帰機能及び在宅療養支援機能を強化していくのか、はたまた介護医療院等への介護施設サービスへ転換を図り、「住まい」の機能を果たしていくのか、今後のあり方を慎重に検討する必要があります。

お役に立ちましたか?