ナレッジ

コーポレートの仕組み改革(1) 企業・組織間連携の最大化

グループ企業・組織間連携の仕組みを再構築することで企業変革を加速させる事ができる

グループ企業・組織間連携を高め、アクション・オペレーション変革を生み出す仕組み改革を実現するため、コーポレートは「管理から支援へ」と「報告から共有へ」の二つのマインドチェンジが必要である。変革のカギとなる機能をコーポレートに集約し、経営の意思決定上重要なKPIは全社で共有できる仕組みを構築する。それ以外の機能や意思決定は事業側/ローカル側に移譲することで、企業・組織間連携を最大化できる。

コーポレートの仕組み改革を推進して具体的なアクションにつなげていくために、(1)企業・組織間連携の最大化(2)共有アセットの価値最大化、(3)専門機能の付加価値化の三つの柱がある。これからそれぞれの改革の柱について重要となるポイントに触れていく。まずは(1)企業・組織間連携の最大化である。

グループ企業・組織間連携を高める2つのマインドチェンジ

グループ企業間・組織間のストラクチャーと、存在する様々な仕組みを変革することで、企業同士、組織同士の連携や協業を加速させオペレーションを高度化していくことができる。しかし多くの場合、仕組み改革は利害調整や役割明確化を目的に行われ、アクションの変革を主眼に置いていない。

企業変革の目的は企業行動を変えていくことであり、仕組み改革は個人の行動や組織のオペレーションを変えていくことにある。

仕組み改革は行動変革を生み出し、それがマインドの変革を生み出す。マインドチェンジが進むことで自然に行動自体も変化し定着化する、この好循環サイクルを生み出すことが仕組み改革の一番のポイントである。行動変革とマインド変革は相互補完の関係にあるが、グループ企業間・組織間連携最大化を進める上で重要となるマインドチェンジが二つある。

マインドチェンジ(1) 管理から支援へ

本社が事業部門を管理する、グループ本社がローカル企業を管理することは、役割としては当然のことだが、「管理する仕組み」はうまく機能しない。自身が「管理される側」に立った際を思い返してほしい。業績の芳しくない状況を管理される際は、できる限り情報を表に出したくなく、報告も後回しになるものである。このように、管理される仕組みはアクションに結び付きにくいのである。 

それであれば、業績を良くするための支援、例えば他グループ会社での成功事例や専門的知見を提供してもらえた方が、アクションに結びつきやすいことは自明だろう。コーポレートやグループ本社が事業部門やローカル企業を支援するためには、支援する側に事業部門にはない情報や知見が必要になる。コーポレートに専門的な能力・スキルを蓄積し体系化し、変革を推進しようとするパワー自体が、会社全体の行動変革につながる効果もある。

マインドチェンジ(2) 報告から共有へ

企業間・組織間で定常的に行われている月次進捗/営業会議といった報告は、その過程でバケツリレーのように情報が減じられ、本当に必要な情報は隠され、情報の鮮度も価値も失われるケースが見受けられる。ガバナンスや経営管理の目的は、状況(チャンスとリスク)を早めに捉え、即座に意思決定を行いアクションに繋げることにある。経営の意思決定やアクションを打つために必要な論点やKPIをコーポレートとして明確に定義し、整備することが重要だ。論点やKPIに関連するデータ・情報は、階層構造による報告を廃し、関係者全員が可能な限りリアルタイムで共有できるダッシュボードといった仕組み作りが必要となる。 

共有の仕組みが出来上がれば、共有された情報・プロセスに基づき関係者全体で意思決定が行われるが、その際の情報量と判断プロセスは、少な(単純)すぎても多(複雑)すぎても機能しない。デジタルテクノロジーを効果的に活用し、必要な情報だけを企業間・組織間で共有できる仕組み・インフラ作りが、成功のカギとなる。

機能・意思決定の集約と移譲・分離を使い分ける

オペレーションやアクション変革を加速させる企業・組織間連携の仕組みは、四つの変革要素が存在する。 

・グループ企業体のストラクチャー・拠点配置
・機能・組織配置
・ガバナンス・意思決定
・経営管理 

これらを最適に配置・設定することで、連携を最大化させる仕組みを構築していく必要がある。具体的な絵姿は個社ごとに異なるが、カギとなるポイントは共通である。

改革のカギとなる機能はコーポレートに集約

変革の必要性が高い要素(機能)、変革により価値が高まる要素は大きく三つあり、コーポレートに可能な限り集約・一元化していくべきである。一つ目の要素は、グループ人材を活かす仕組みである。但し人材の管理・マネジメントではなく、人材のパフォーマンスを最大化する仕組み作りである。デジタル化により顧客を個で捉えアプローチできる時代に、企業側の価値の提供主体である従業員も個で捉えてアプローチすることで、個のパフォーマンスを最大限に高めていく仕組みが必要だ。 

二つ目は、溜まったデータの活用である。デジタル化が進む現在において、顧客やオペレーションに関するデータ活用は企業変革にとって不可欠であることは言うまでもない。蓄積されていくさまざまなデータを使える状態に整え、活用できる仕組みが重要となる。その際、特定事業に閉じない企業横断的なデータにフォーカスすることがポイントだ。すべてのデータを集約管理しようとすれば、データ集約自体が目的化してしまい、本来の目的であるデータ活用まで至らなくなってしまう。 

また、コーポレート専門機能の中で、蓄積したノウハウを集約・一元化して価値を高めることができる要素としては、調達やファイナンスといった従来機能に加え、M&A推進、顧客理解、ナレッジ共有、イノベーション創出等が挙げられる。これらが三つ目である。現在の機能・組織の切りではとらえられない、新しい仕組みが必要となる点がポイントである。

 

共通して見るべきKPIを設定する

 

経営の意思決定やアクションを打つために必要な論点・KPIを定義し、KPIの進捗を企業・組織間で共有することも重要だ。KPIに関するデータ・情報がコーポレート、事業部門で常に共有されていれば、報告の必要がなくなり、会社全体がKPIを達成するためのアクションに議論が集中できる。 

筆者が属するコンサルティング業界の経営管理は、KPIに基づく仕組みが徹底されている。そこでは、KPIが変わればそれに応じて組織・個人の取るべきアクションが大きく変わる。企業変革においてKPIはアクションを変えるための最重要項目であるが、意外と後回しになっているケースがみられる。アクションにつながるKPIの設定は、最も即効性のある改革手段である。またデータ・情報を自動取得し共有するためには、前述したデータマネジメントプラットフォームの構築が不可欠となる。情報共有のためのテクノロジー投資は徹底的に行うことが必要だ。

日々の意思決定は可能な限り現地に移譲

変革のカギとなる機能がコーポレートに集約され、見るべきKPIが共有できる仕組みができれば、日々の事業運営に関わる機能、ガバナンス・意思決定はできる限り事業・地域側に移譲し任せることができる。特に新しい事業に取り組む際は、既存事業の枠組みとは独立した企業体、組織体とし、通常の事業運営に関わる意思決定やガバナンスは分離することが重要となる。コアとなる機能・仕組みをコーポレートで共通化した上で、その他の事業運営は切り離すのである。 

この考え方は、グローバル本社/地域統括会社の運営についても同様である。統括会社は、管理しようという強い思いが機能設計に表れる結果、屋上屋となり管理がより難しくなるケースが数多く見受けられる。前述した重要機能の集約化とKPI共有による経営管理は、統括会社に主要ミッションとして責任権限を集約させる。あとは、財務・税務面のメリットを享受できる企業体・組織のストラクチャー構築を進めることで、具体的な財務効果を創出できる、付加価値の高い統括会社が作られる。その上で、日々の事業運営はローカル側に任せることで、適切なガバナンス体制も構築できるのである。

 

コーポレートの仕組み改革 寄稿記事

企業変革を加速させるコーポレートの仕組み改革

(1) 企業・組織間連携の最大化

(2) 共有アセットの価値最大化

(3) 専門機能の付加価値化

お役に立ちましたか?