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コーポレートの仕組み改革(2) 共有アセットの価値最大化

人材を基点とした共有アセット再構成の仕組みが、企業変革を促進し価値を最大化する

人材・テクノロジー等のグループ共有アセットを再構成し、提供価値を最大化していくことが企業変革には不可欠となる。デジタルテクノロジーを活用し、人材の「スキル可視化」、「スキル再活用」、「定型業務の省人化」、「新たなスキル開発」、「モチベーション向上」を進め、人材パフォーマンスを最大化していく新たな仕組みが重要となる。固定資産や知財等の保有アセットの圧縮・再活用を進めることで、改革原資を捻出できる。

コーポレートの仕組み改革を推進し企業変革を加速させていくために、(1)企業・組織間連携の最大化(2)共有アセットの価値最大化、(3)専門機能の付加価値化の三つの柱がある。今回は、(2)共有アセットの価値最大化について、重要となるポイントに触れていきたい。

グループ企業・組織間連携を高める2つのマインドチェンジ

アセットが戦略実現の基点に

人材・テクノロジー等のアセット活用が企業変革のカギとなる背景には、「アセットの戦略実現の手段から基点への転換」がある。かつて人材やテクノロジーは、戦略を実行するための「手段」だった。まず戦略があり、組織が戦略に従い組成され、人材は戦略を実現するために活動した。テクノロジーも戦略に基づきオペレーションを実行する手段の位置付けだった。 

しかしデジタル化の進展により、テクノロジーの価値や活用の幅が飛躍的に高まり、テクノロジーの優位性が戦略上の重要な差別化要素となった。個人の価値観の変化・多様化や企業と従業員の力関係の変化も相まって、企業は戦略・オペレーションを人材基点で構築しなければならなくなった。これは昨今「働き方改革」が注目される本質的な背景とも一致する。 

保有から再活用へ

人材・テクノロジーが戦略実行の「基点」となる以上、アセット価値を最大化できれば戦略実行・企業変革もより大きな効果が見込める。ポイントは、「今」という時間にフォーカスし、既に有するアセットをレバレッジし再活用することだ。 

高度成長期終焉後、経営における資産・機能の分離、いわゆる「持たざる経営」が始まり、自己資産の保有/分離の意思決定が経営上の重要論点となった。一方、事業環境が激変する中、資産がすぐに負債化してしまうことも、負債化していた社内アセットが資産に再び化けることもある。国内の工場や製造管理技術者は、まさにこの典型だ。将来的にどこを保有しどこを切り離すかの議論と同時に、現在有する資産を「今」の時点でどう再活用し、新しい価値を見出すかも重要な視点となる。 

育成からパフォーマンス最大化へ

人材開発も同じ発想で考える必要がある。これまでは中長期的な時間軸の中で、いかに人材を育成し能力・スキルを高めるかが課題だった。雇用の流動性が高まる中、今後は人材が現在有している能力・価値を最大限活用する、パフォーマンス最大化が変革を進めるカギとなる。 

これに対し、「現有社員の能力・スキルが絶対的に足りない」とのマネジメントの声をよく耳にする。但しそういう企業ほど、社員の能力・スキルや今後企業に求められるケイパビリティ(能力・スキル)を可視化し体系的に把握することをしていない。現有社員のスキルや企業に求められるケイパビリティが具体的に分からない状態で、どうしてそれが足りないことが分かるのだろうか。

アセット価値最大化に向けた6つの仕組み

企業変革実現には、環境変化に合わせて有するアセットの構成自体を変化させていくことが必要となる。今後は、人材というアセットを基点に、以下六つの仕組みを体系的に再構築することが有効だ。

1. 人材の汎用的スキルの可視化 

個人のスキルは、汎用的なスキルと会社固有のスキルに分解できる。汎用的スキルは業務や会社が変わっても本来生かすことができるものであり、会社固有スキルは業務や会社が変わると活用できなくなる。一見意外に感じられるかもしれないが、会社にとって今後より重要となるのは、個人の汎用的スキルの方だ。 

汎用的スキルは、具体的には3つに分類できる。 

・業界最新動向の知見やバリューチェーンの深い理解など、情報のインプットに関わるスキル
・ロジカルシンキングや傾聴力など、情報の処理に関わるスキル
・リレーション構築力やプレゼンテーション力など、アウトプットに関わるスキル  

これらを個人単位で体系的に可視化し整理することが重要だ。

2. 個人のスキルを再活用

一方、企業が変革を進め新しい事業・サービスを立ち上げる上で必要となるケイパビリティも、業務を実行する人材のスキルレベルにまで分解し可視化する必要がある。近年多くの企業が「モノ売りからサービスへ」のビジネスモデル転換を進めようとしているが、収益モデルをどう変えるかは議論しても、どういう人材スキルが今後必要になるかは具体化できていないケースが多い。 

個人の汎用的スキルと企業の必要スキルを可視化できれば、スキルを基点に人材の再配置を検討していくことができる。社員の汎用的スキルを新たに生まれる業務に再活用することで、スキル強化を図ることが可能になる。企業側も、人材スキルを再活用し企業変革を加速できるだろう。最配置に際しては、可能な限り各人の「強み」となる汎用的スキルをレバレッジする視点が重要となる。  

3. 個社固有の定型業務の自動化/省人化 

一方、自社ITシステムを使った情報入力といった個社固有の定型業務は、できる限り自動化/省人化することが不可欠だ。社員は、今の企業で働くことでどういうスキルが身に付くかを敏感に察知し判断している保有する汎用スキルを活かし職場で感謝されている社員や、新しい汎用的スキルを身につけられる業務に従事する社員の満足度は高い。一方、現在の職場でしか生かせない業務、誰でも行える業務を行っている社員は、退職リスクが高い。 

汎用的スキルの強化につながらない特殊業務や定型業務は、デジタルテクノロジーを活用して徹底的に省人化することができる。昨今はRPAやCognitiveコンピューティングの登場により、大きな投資をかけずとも軽い仕組みで省人化が可能となってきた。テクノロジーを最大限活用することで、人材の負荷軽減と業務コスト低減の両方を同時に達成でき  

4. 省人化で空いた工数で新しいスキル開発 

スキルの再活用と業務の自動化/省人化を進めても、企業変革を実行する上で絶対的に不足しているケイパビリティ/スキルは依然存在する。不足ケイパビリティ/スキルをM&Aや採用を通じ外部から獲得することは企業変革にとって不可欠な一方、現有人材のスキル開発も合わせて行う必要がある。 

開発・育成には時間がかかると良く言われるが、何を育成したいか漠然としているケースが多い。開発すべきスキルと目的が明確になれば、育成もピンポイントで効果的に行うことができる。ここでもデジタルテクノロジーの活用がカギとなる。EduTech等の機動性の高いテクノロジーの有効活用は、スキル開発コストとスピードを圧倒的に高めることにつながるだろう。

Education Technology: テクノロジーを活用した新しい教育  

5.人材のモチベーションを高める 

人材パフォーマンス最大化は、これまで見てきた人材の能力・スキル向上に加え、人材のモチベーション向上が両輪となる。本来の能力・スキルが高いにも関わらず、適切な業務が与えられない、職場環境が本人に適さない、上司から十分に評価されない等の理由で、力を発揮できない人材は多い。 

アセット価値を最大化するためには、スキル強化だけでは不十分だ。環境を整えモチベーションを高めることで初めて、パフォーマンスを最大化することができる。働き方改革は、各企業にかなり浸透してきたが、今後は人材パフォーマンス最大化の視点から、スキル強化やモチベーション向上の仕組みと連携した働き方の制度設計・施策推進が重要となる。 

6. 保有アセットの圧縮・再利用による改革原資創出 

こうした一連の仕組み改革を進めるために、投資/改革原資が必要になる。一方、事業環境変化に伴い企業が有する固定資産・知財等の価値と活用方法も変化してきている。仕組み改革を機に資産の棚卸しを実施し、今を基点にアセットを再活用する仕組みを構築することが求められる。具体的には、遊休資産の売却や別用途への転換、知財・ノウハウのキャッシュ化等を通じ、改革原資を捻出し、それをアセット価値最大化のために再投資することが重要である。 

かつて日本企業の強さの象徴であった終身雇用・年功序列等の人事システムは、日本企業が高度成長期にオペレーションを活性化させ、人材というアセットパワーを最大化する仕組みであった。しかしいつしか制度の保持自体が目的化した結果、仕組みに安住する人材が増え、負の側面が目立つようになった。従来の仕組み/人事システムに代わる、人材パフォーマンス/アセット価値を最大化させる新たな仕組みが日本企業の変革には求められている。

 

コーポレートの仕組み改革 寄稿記事

企業変革を加速させるコーポレートの仕組み改革

(1) 企業・組織間連携の最大化

(2) 共有アセットの価値最大化

(3) 専門機能の付加価値化

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