Well-being社会を目指して
グループを挙げて社会に貢献

社会への強い貢献意識を創業時より継承してきたデロイト トーマツ グループ。次世代に向けて「Well-being社会」の実現をAspirational Goal(目指すべき社会の姿)として標榜している。「GX」を推進していくうえで、同グループが果たせる役割とは何か。デロイト トーマツ グループCEOの永田高士氏に話を伺った。

デジタル化とコロナ禍が浮彫りにした課題

―今、日本企業にはコロナ禍で浮彫りになったデジタル化の遅れと、カーボンニュートラルの実現への対応という社会的な課題が突きつけられていますが、どう見ていますか?

 まず、近年、急激に起こった社会の変化は2つあります。1つはデジタルです。これには、デジタイゼーションとデジタライゼーションがあります。前者はAIなどの新しいテクノロジーを使って効率化していくこと。後者はAIやテクノロジーを使ってビジネスモデル自体を変革することだと定義されています。日本では後者の部分が圧倒的に遅れてしまっています。イノベーションのシーズを持っているベンチャー企業を育てようと、色々な取り組みが行われてきましたが、米国のGAFAのようなプラットフォーマーは育ちませんでした。そういう意味では、デジタルに関する遅れをどう取り戻すかがこの10年間くらいの課題だったと思います。

 そして、コロナ禍によって日本のデジタライゼーションの遅れはより顕著になり、待ったなしで取り組まなければならない課題となっています。官民などのステークホルダーが連携して、日本全体での取り組みが必要です。カーボンニュートラルについても同様で、これまで欧州が先導してきたClimate Sustainability(気候変動と持続可能性)の課題解決を、日本全体であるべき姿を描きながら協働することが求められていると感じています。

社会に変革をもたらすカタリストとしての役割

―そうしたなかで、御社の役割についてはどう思われますか。

 当グループは、もともと日本の戦後の復興に国際的な監査が必要との考えの下、初の全国規模の監査法人として設立されました。皆で力を合わせより良い経済社会を目指し、理想の実現に邁進しよう、と志を高く掲げてきた歴史があります。

 このためグループの根底には社会的公正の実現に対する強い使命感があります。では、我々に何ができるのか。コンサルティングや会計監査を行っている当グループは、5つのビジネスに1万5千人の多様なプロフェッショナルがいます。その総合力を用いて、異なる専門性をつなげることで独自の価値を発揮できると考えています。言い換えると、我々は黒子ではあるものの、社会の課題解決を目指す業界や企業などのプレーヤーたちにとってカタリスト(触媒)の役割を果たすことで、変革を加速することができると考えています。

メンバーの想いに基づく「Well-being社会」の構想

―カタリストという考え方は面白いですね。触媒ということは、御社は変化しないのでしょうか。

 コロナの影響で、昨年から社会規範や資本主義の在り方が問われています。そういった中で当グループへのクライアントや社会からの期待も変わってきていると感じました。つまり、プロフェッショナルグループであっても、企業と同様に社会に根を下ろす、企業市民としての面があります。そのことを強く意識しつつ、我々自身が社会価値の創造をより能動的に行うことが必要と感じました。

 具体的に何を目指すのか、その答えを検討するうえで大事にしたのが、我々の社員・職員の考えです。例えば、東日本大震災では多くのメンバーが自ら手をあげ、熱心に復興支援に取り組んできました。これはとても私達らしい社会との関わり方だと思います。他にも、地域コミュニティや教育に関わりたいと活動する者など、社会への貢献を実践しています。

 次世代につなげる取り組みにするためにも、彼ら彼女らの意見に耳を傾けたいと、2020年の秋頃、プロジェクトチームを立ち上げました。そこで、幅広く社内のメンバーの考えを知るためのアンケートを実施するなどして意見を集めたところ、様々な形で社会に貢献したいと考えているメンバーがとても多いことがわかりました。そういった思いを紡いでいくうちに「Well-being(ウェルビーイング)社会」という構想が浮かんできました。

 Well-being社会とは、私たち一人ひとりを起点とする個人のレベル(Personal/パーソナル)、私たちが属する地域コミュニティの集合体である社会のレベル(Societal/ソシエタル)、そして、それらすべての基盤である地球環境のレベル(Planetary/プラネタリー)という3つのレベルのWell-beingから成り立ちます。3つのレベルでのWell-beingを相乗的に高めていくことが必要不可欠であり、全ての人々の主体的な関与を通じてその成果を実感し、共に分かち合うことができている社会であると考えます。

デロイト トーマツ グループ CEO。1995年監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)入社後、監査、M&A・事業再生などのコーポレートファイナンスや、コーポレートガバナンス、リスクマネジメントなどに従事。デロイトトーマツ グループ ボード議長、グローバルのデロイト トウシュ トーマツ リミテッドのボードメンバーを歴任し、2018年6月より現職。

―3つのレベルについて、それぞれどのような活動をしていきますか?

 「Planetary Well-being」に関する活動の中心には、本書のテーマであるGX (グリーン・トランスフォーメーション)の推進が真っ先にあげられます。

デロイト トーマツが目指す3つのレベルから成る「Well-being社会」

グループ全体の取り組みとして昨年12月にCEO直轄のClimate Sustainabilityイニシアチブを立ち上げました。エネルギーや気候変動関連分野に知見のあるコンサルタントやESGの専門家などが、官公庁や企業などに対してサポートや提言を行ってきた経験も活かしながら、企業のみならず社会全体の変革を目指した活動をしています。カーボンニュートラルの実現には、イノベーションを起こす技術を持っているだけでなく、それをビジネスや暮らしの現場においてしっかりと社会実装できるかどうかがポイントになります。それには、投資のための資本調達や実装するための社会ルールの整備もしなければなりません。あるべき姿や、それらを実現するための現実解を、実務に裏打ちされた構想力をベースに導き出していくことができるのが当グループの強みだと思います。

 また、「Societal Well-being」に関する活動を加速する目的で、今年4月に、『一般社団法人デロイト トーマツ ウェルビーイング財団』を設立しました。当財団を通じて、人のウェルビーイングの向上に直接関わる教育・スキル開発や就業機会の創出、さらに、その前提となる様々な社会的不公正の是正などの活動に継続的に取り組んでいきます。その第一歩として、財団としての助成先の公募を2021年8月に開始しました。人のWell-beingの向上につながる社会課題解決を担う事業を助成対象に、複数の組織・団体からなる共同体への助成を実施することで、多様なプレーヤーの熱意や知恵を結集した協働による「コレクティブ・インパクト」の実現を促していく方針です。

 そして、「Well-being社会」実現に向けたあらゆる取り組みの起点となるのが、「Personal Well-being」です。当グループのようなプロフェショナルファームの最大の財産は人材であり、一人ひとりのメンバーのWell-beingを向上させることは、経営の最重要テーマと言っても過言ではありません。しかし、「Personal Well-beingとは何か」と考えたとき、それは個々人の主観によって異なります。だからこそ、一人ひとりが、自分の個性や興味・関心に応じてWell-beingを追求できるような仕組みや環境を整え、個々人の主体的な選択やアクションを後押しすることに力を入れています。具体的には、あらゆる人材が安心・安全に働くことができ、一人ひとりのメンバーの多様な個性や違いが十分に尊重される環境づくりを奨励すると共に、能力発揮の様々な機会を提供しています。例えば、起業をしたいという人材を支援するプロググラムもあります。当グループでは、社内起業ベンチャーを公募して優秀なプロジェクトをサポートする「D-nnovator」という取り組みを進めています。この中からもDXやグリーンエナジー関連の優れたプロジェクトも生まれてきています。

常に中立的な立場で誠実性や倫理を保つ

―御社のそうした活動は、コンサルティングや会計監査の企業としては珍しい取り組みですね。

 外部の方からは、私達の通常業務とこうしたWell-beingに関わる活動が対極に見えるようで、「両立させるのは大変ですね」と言われることもあります。しかし、デロイト トーマツのDNAには、社会的公正の実現を通じてビジネスと社会に貢献するという強い使命感が織り込まれています。こうした使命感を共有しつつ、コンサルタント、会計士、データサイエンティストなどの多様な専門性を有するメンバーが縦横無尽につながり、知恵を出し合って、組織がアメーバのように自己変革を遂げていくことが理想形だと考えています。大きな目指す方向は一緒で、アプローチの仕方や時間軸が異なる活動の集合体であり、当グループは現在、こういった活動が上手く調和し、高度に変化・成長する組織になっていると思います。

 もうひとつ大事なことは、グループ共通のEthics & Integrityのカルチャーです。我々が目指しているWell-being社会は、人とひとの相互の信頼と共感がベースにあることで構築できます。当グループにおいてその根源となるものがEthics & Integrityのカルチャーであり、これは我々の職業における信頼性の維持・向上のためにも不可欠です。我々は中立的な立場にあり、特定のステークホルダーの利益のために働いているのではなく、職業専門家としてのIntegrity(誠実性)やEthics(倫理)を保つことは最も重要だと考えています。規範を明確に設け、グループメンバーで共有し、優れたメンバーを表彰するなど力を入れています。

デロイト トーマツ グループは同社の「Well-being社会」実現に向けた活動をコーポレートレポート「デロイト トーマツ グループ Impact Report 2021」(2021年10月末発行予定)などで紹介している

―多面的な活動を行っていますが、どのような推進体制なのでしょうか。

 CEOならびにボード議長のほか、関連するボードメンバー、グループのマネジメントなどで構成される「WorldImpact & Well-being Council」を中核に据えて、様々な取り組みをグループ横断的に推進する体制を整えています。デロイト トーマツ ウェルビーイング財団に加え、教育、スキル開発、就労支援などの分野でポジティブなインパクトの創出を推進する「WorldClass」、業務から発生するGHG排出量について2030年までにネット・ゼロエミッションの達成を目指す「WorldClimate」など、デロイト全体で取り組む活動を推進するためのワーキンググループを設置しています。メンバー同士が、興味・関心に応じてつながり合い、クライアントや地域社会とも様々な形で連携・協力することで、Well-being社会実現を目指す活動の輪がさらに大きく広がっていくことを期待しています。




日経MOOK『グリーン・トランスフォーメーション戦略』(日本経済新聞出版)より転載。

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