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撤退マネジメントとその会計実務 第4回(完) 各種撤退手法と会計上の論点

『旬刊 経理情報』2018年11月10日号(No. 1528)

会社が対象事業の撤退を決断すると、まず情報収集による基礎的な分析を行い、分析に基づいて論点を抽出し検討する必要があります。最終回となる第4回では、いくつかの代表的な撤退手法とその会計処理について紹介します。

最終回となる第4回では、いくつかの代表的な撤退手法とその会計処理について紹介する。

撤退手法の決定にあたっては、何を戦略上重視するかが影響する。

1.資本改善の手法と会計処理

不採算事業または不採算事業会社(以下「対象事業」)から撤退する場合、事前に資本改善が必要となることが多い。例えば、対象事業の債務超過状態を解消することにより、撤退手法の選択肢が増える可能性がある。国・地方によって法制度が異なるため、資本増強実施にあたっては、慎重に調査・検討することが求められる。
代表的な資本改善手法は次の4つの方法である。

(1)増資
金銭出資による資本改善策の一つである。増資には、議決権出資と無議決権出資(種類株式など)がある。足元で運転資金や設備投資資金のニーズがある場合に選択される。

(2)デット・エクイティ・スワップ(DES)-現物出資方式-
現物出資方式による資本改善策の一つである。債権者は貸付債権を現物出資し、その対価として株式の交付を受ける。債務者側にとっては、有利子負債比率を減らしつつ資本増強も可能となるため、資本改善をしつつ有利子負債の金利返済負担軽減を実行できる。債権者側にとっても債権放棄をせずに(議決権)株式を保有しておくことで、将来的にキャピタルゲインの獲得、経営関与によるモニタリングが可能になる。外部借入をDESする場合には、株主構成が変化する可能性があり、また、国によっては債務者側に債務免除と同等の課税が発生する場合があるため、慎重な検討が必要となる。

(3)疑似DES-新株払込方式-
新株払込方式による資本改善策の一つである。現物出資方式によるDESとの違いは、先ず金銭増資を実施し、その金銭をもって有利子負債が返済される点にある。そのため、いわゆる債権者と出資者が同じである必要はない。例えば、親会社が対象事業に追加出資を行い、対象事業はその資金をもってグループ外部に対する有利子負債を返済することで、現物出資によるDESと同様の効果を得つつ、利害関係を簡素化することができる。債権者との交渉難易度が高い場合などに有効である。なお、一時的であれ資金が必要となるため、親会社側で資金調達を検討する必要がある。

(4)債務免除(債権放棄)
有利子負債の債務免除を行い、その免除益をもって資本(留保利益)を増強する手法である。債権者にとっては損失負担となることから、交渉のハードルは高い。債務者にとっても、債務免除益に対し課税が発生する可能性があり、繰越欠損金の利用を含めた各国税制の確認が必須となる。

2.撤退手法

撤退手法の決定にあたっては様々な要素を考慮のうえ決定する。以降では、一般的な手法を(1)~(8)において紹介する。実際には複数の方法を並行して検討・実行準備することが一般的であり、いくつかの方法を組み合わせて実行されることもある。例えば、売却プランの実行と並行して清算準備を行い、一定のタイミングで売却から清算に移行するなどが挙げられる。また、段階的に規模を縮小しながら、既存の設備を他の用途に転用し、事業規模を縮小のうえ最終的に売却または他の拠点への移転による統廃合などへ移行するケースが挙げられる。

対象事業がJVの場合、情報アクセスなどにおいて制限が多く、子会社の撤退と方法選択で違いが出ることがある。
対象事業の展開地域によっては、市場が成熟しており事業売却が比較的容易であるケースもあれば、逆に清算がスムーズなケースもある。

さらに、手法選択と時期の選択にあたっては、①リスク遮断(損失の打ち止め)を優先するか、②業績を改善し企業価値を向上させたうえで一定のリターンを得ることを優先するかなど、会社の戦略も関連する。

なお、税務については、様々な条件(取引形態、地域(国・地方)、その他事情)により取り扱いに違いがでることが一般的である。したがって、個別具体的なスキームに応じて、撤退検討の初期段階より慎重に検討する必要がある。

(1)分社化
撤退の検討対象となる事業は、複数の子会社にまたがって機能を有していることが多く、また、管理会計上、収益性の高い事業に埋もれていることもある。そこで、実際に撤退するかどうかにかかわらず、対象事業を他の事業から切り離し、情報を可視化する必要がある。管理会計上の分離にとどめることもできるが、事業の自律的運営を高めるために、撤退以前の再生局面で実際に分社化されることもある。

(2)事業譲渡
対象事業のみを切り出し第三者に売却する手法である。事業譲渡にあたっては事前に分社化を行い、関係する子会社の資本構成を予め整理しておくことが有効である。また、事業譲渡の場合、カーブアウトする対象事業およびそれに付随する機能を切り出す必要がある。例えば、検討初期段階ではスタンドアロン項目の特定・対象人員の識別・共通機能の切り分けがある。

(3)JV組成
第三者との間でJV契約を締結し、その契約に応じて持分を保有することにより経営関与を一定程度維持する手法である。JVを組成することにより他社との協業シナジーによる競争力が強化でき、価値の再生が図れる効果がある。また、完全撤退に拒否反応を示す顧客への対応にも効果がある。一方、段階的撤退手法の一つとしても用いられ、一定期間のJV期間後にJV先または第三者に自社の保有する持分を完全譲渡することで撤退を完了する事例もよく見られる。ただし、JVの相手先によってはコントロールが利かなくなり、最終的なリスク遮断を失敗するケースもある。

(4)IPO
持分の一部を市場に売り出すことで、対象事業再生のための資金を外部から調達する手法である。将来的には対象事業の収益性が改善したタイミングで、キャピタルゲインを得て完全な撤退を行うことも可能である。IPOを選択した場合、対象事業には独立上場企業としてのガバナンス機能整備が求められる。そのため、グループ内で管理機能をシェアしている場合などは留意が必要である。また、IPOには一定の準備期間を要するうえに上場準備コストが負担になることにも留意が必要である。

(5)持分売却(相対)
対象事業の持分を第三者に一部またはすべて譲渡することにより、対象事業から撤退する手法である。持分売却も事業譲渡と同じく、グループ内で管理機能などをシェアしている場合、当該機能の取り扱いを検討する。対象事業がJVの場合、JVの相手先と先ず交渉し、オプションとして第三者売却を検討する。会社とJVの置かれた状況(例えば、JVからは撤退するがその地域で引き続き営業を継続したい、相手先と対象JVは解消するが他のJVは続けたいなど)次第では、相当程度、時間がかかる可能性がある。

(6)MBO
対象事業のマネジメントが対象事業を買い取る手法である。対象事業のマネジメントが投資ファンドなどとSPCを設立し、そのSPCに事業を譲渡する方法などが使われる。マネジメントとしては、責任をもって事業価値を改善することで、最終的にはキャピタルゲインによるリターンを得ることができる。他の手法とも共通するが、親会社と対象事業のマネジメントの間に、撤退プロセスで利害衝突が特に発生しやすい点に留意が必要である。

(7)縮小
緊急性の高い不採算製品や拠点から徐々に事業収束させ、事業規模を縮小させながら財務体質を強化する手法である。その結果、その後のアクションをスムーズにできる。この手法は、製品ラインナップが多すぎるなど、ビジネスに一貫性がなく再生も撤退もいずれにも集中させにくいケースにおいて有効に機能する。

(8)解散・清算
対象事業を清算管財人のもとで整理し法人格を消滅させる手法である。法規制が様々なため、必ず当該国・地域の法制を専門弁護士と協議する必要がある。清算は、売却先が見つからないケース、事業ノウハウを競争事業者に売却するわけにいかないケースなどに選択されることが多く、マネタイズによるリターンが望めないことが多い。地域によっては、清算完了までの期間が長い可能性がある点に留意が必要である。

3.事例紹介

撤退手法が実際に用いられた事例を4つ紹介する。

(1)ノンコア事業の分社化
A社では、X事業の収益性改善を長らく経営の検討課題としていた。当初は一部門として経営改善努力をしたが、一向に業績が改善しなかった。そこで、X事業の自律性を高め、数値への責任を明確にするためにX事業を分社し独立の事業体とした。その後、X事業は自律的経営による数値責任が明確化した。

(2)JV化後の売却
B社では、経営環境が悪化しているY事業を抱えていた。経営環境悪化の一因は、Y事業の製品がコモディティ化しており、同業他社との競争が苛烈を極めたことにもよる。同業他社もB社と似たような環境下にあった。そこで、B社は同業他社との間でJVを組成し、Y事業を移管した。一定期間後に経営環境が改善していることを確認のうえ、B社はJVを解消し、その株式をすべてSPCに売却し撤退を完了した。

図表1:Y事業撤退までの推移
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(3)JVを解消し中国事業から撤退
C社は、20年前に成長を始めた中国におけるビジネスの拡大を図り、外国企業D社とのJVを組成した。その市場が成長を始めた当初10年間は予定通り順調に成長していたが、その後に事業成長の緩やかな減退とともにJV契約が負担となってきた。さらにJVの情報収集もままならなくなっていた。そこで、C社は、D社に全持分を売却した。また、別のケースではE社がC社と同様の状況にあり、同じく売却を望んだが、相手先企業との交渉が頓挫し、結果的にバックアッププランであった清算による事業撤退を実施した。

(4)生産拠点の統合
F社は、買収と投資を繰り返しながら生産拠点規模を拡大し続けていた。その結果、国内製造拠点が過剰になり、固定費負担が重くのしかかった。そこで、F社はすべての製造拠点と商流を見直し、複数あった製造拠点の統廃合を実施した。

4.各撤退手法に共通する会計論点

事例紹介にて紹介した手法ごとに様々な会計論点が存在するが、ここでは撤退を検討する多くの会社において共通してよく議論となる論点について、日本基準とIFRSの比較の形でいくつか紹介する。

図表2:IFRSにおける損益計上ポイント
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(1)売却目的保有資産への振替と非継続事業
IFRSでは一定の要件を満たすと、対象事業を事業用分類から売却目的保有分類に振り替えることが求められる。このタイミングで売却を前提とした公正価値に評価のうえ、必要に応じて減損を認識する。取引ごとに振替のタイミングを慎重に判断することが求められる。減損にあたっては、のれんを優先的に減損処理し、決算日に公正価値の回復が見込まれるなど減損の戻入の検討を行う場合にものれんについては価値の回復を行わない。また、売却目的保有に分類された時点で使用による減価を前提とする減価償却費の計上は停止される。計画の中止などで売却目的保有に分類されなくなった時点で事業用分類に戻し入れられる。

対象事業の廃止がさらに非継続事業に該当すると判断された場合には、継続事業と表示を分離したうえで別途注記開示を行う必要がある。

日本基準には同様の規定はないが、減損の兆候の事例に、事業の廃止又は再編成、早期の処分、用途の変更などが挙げられており、撤退の意思決定等に伴い固定資産の減損が生じる可能性はある。

(2)損失の引当計上
① 売却損/関係会社整理損
対象事業を売却、または関係会社を清算するにあたり、見込まれる損失の引当計上を行うことがある。IFRS・日本基準ともにそれぞれの引当金の計上要件に従い、引当計上の要否、金額を検討する。引当金の考え方については、両基準に差異があるため論点検討にあたって留意を要する。

② 清算費用
清算にかかるコストが見積られる状況にある場合は、清算に関する意思決定等のトリガーイベントのタイミングを考慮して、各基準に則り清算費用の引当を検討する。

③ その他
売却などの撤退アクションにより将来コストが見込まれる場合には、偶発損失として引当計上を検討する。特にリストラ損失引当金、不利な契約などが争点となりやすい。

(3)連結除外時
① 連結除外損益の計上
対象事業が子会社の場合、持分の売却実行・清算結了時に連結子会社から除外される。日本基準の場合、売却取引実行日(みなし実行日あり)または清算手続完了時点で連結除外処理を行う。IFRSの場合、売却取引実行日にみなし実行日の規定はない点に留意が必要である。

② 包括損益(為替換算調整勘定)
見落としがちだが、連結除外時に包括損益がすべてリリースされる点に留意が必要である。特に為替換算調整勘定については、保有期間が長い子会社の場合に多額に当期損益に影響が出ることがある。日本基準上、減少する持分割合相当を当期損益に振り替えるが、IFRSでは連結除外時に全持分相当を振り替える点に留意が必要である。また、IFRSでは包括損益リリース時にその包括利益の取り扱い方針に応じて当期損益へ振り替えるか、剰余金を直接加減するかが変わってくる。

(4)残存投資簿価
保有する持分をすべて売却せずに一定割合を保有する場合、残存簿価を評価する必要がある。日本基準では、残存投資を個別財務諸表の帳簿価額で評価し、IFRSでは新たな投資として、支配喪失した日の公正価値で残余投資を評価する。ただし、日本基準の場合も、有価証券等の期末評価として評価減の可能性がある点に留意が必要となる。

5.最後に

不採算事業からの撤退は、事業構造改革・経営改善の一歩にすぎず、不採算事業からの撤退検討と同時に会社の成長・飛躍につながるようなコア事業の育成・投資による成長が必須となることはいうまでもない。痛みを伴う撤退を果断なく、タイミングを逃さず実行し、縮小均衡に陥らないことが肝要である。本シリーズがその一助となれば、筆者としては望外の喜びである。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
グローバルリストラクチャリングアドバイザリー

バイスプレジデント 曹 賢淑
バイスプレジデント 渡邊 敬太

(2019.7.30)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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