最新動向/市場予測

ヘルスケア産業のグローバル化

テクノロジーの進化とCOVID-19が与えた影響

世界規模でヘルスケア産業のグローバル化が進んでいます。医療技術そのものの発展は勿論のこと、ICT技術等テクノロジーの進化を受けてこの流れが加速していたところに、2020年初頭以降のCOVID-19による環境変化がこれを後押ししました。ここで改めて世界と日本のヘルスケア産業のグローバル化の現状を整理したいと思います。

ヘルスケア産業のグローバル化

ヘルスケア産業のグローバル化は非常に早いスピードで進んでいる。欧州ではフィンランドの電子処方箋がエストニアでも使用できたり、ASEANにおいてもシンガポール、タイ、マレーシアでは周辺国からの集患に積極的で対象国に出先機関を設置したりするなどクロスボーダーケースが増加してきた。

また、これまで医療の質の偏在が課題とされてきたがこれらにも近年変化がみられる。例えば、1994年に米国でスタートした病院評価システムであるJCI(Joint Commission International)※1の認定施設数を確認してみる。JCIの認定プロセスでは、患者の安全性担保、高品質な医療の提供、院内に継続した改善活動が行われる仕組みがあるかなどを厳しく評価され、認定を受けるには膨大な労力が必要だと言われている。認定機関数は、2013年に世界で600か所程度だったものが、2021年現在では1,000か所を超えている。特に増加が顕著なのがUAEをはじめとした中東地域と中国やタイとはじめとしたアジア地域である。日本の医療機関の取得数は2021年現在30か所程度にとどまっており、前述の3か国にはいずれも及ばない。

アジアを例にとると、これまでアジアのヘルスケアを捉える際には図1のような捉え方を行い、各ステージに合ったヘルスケアを提供すべきとされるケースが多かった。しかし、各国の高齢化のスピードは日本を上回るケースも多いし、IOT技術の発展による各種ヘルスケアサービス、特に遠隔診療の拡大は日本を上回る。JCIの認定数からも明らかなように、ステージ上位国と遜色ないヘルスケアサービスが提供されている都市も多く、かつクロスボーダー案件も増えていることからこれまでと同じ状況がいつまでも続くとは限らない。変化のスピードは加速しているのである。

 

(図1)

出所: Life expectancy:World Health Statistic 2017,WHO, GDP per capita: 2017 The World Bank 平成26年度 医療機器・サービス国際化推進事業「ベトナム・日本式健診センター事業」を基にトーマツ作成

日本のヘルスケア産業のグローバルポジション

次に、日本のヘルスケア産業のグローバルにおける現状を確認したい。例として、医療機器メーカーのグローバルポジションを各社の売上(2019年)で比較すると図2のようになる。

(図2)

出所:経済産業省 「令和2年度 国際展開体制整備事業報告書」を基にトーマツ作成

日系上位3社は近年、トップ10とは言わないまでも安定的にこれらにランクインするが、欧米企業は巨大M&Aやベンチャー投資にも活発で、急激に売上を伸ばす企業も多い。

次にサービス面で見ると、医療機関や介護施設の進出、総合商社の動きも活発になっている。2015年に長野県の医療法人が北京で現地医療機関とリハビリセンター事業を行ったり、2018年からホーチミンにおいて東京の私立大学が現地の国立病院と共同で人間ドックセンターの運営を行ったりしている。2016年には東京都の医療法人が民間企業、官民ファンドの3者で日本側100%出資の病院を設立している。

総合商社の活動はさらに活発で、マレーシアや中国の大手医療グループへの資本参画、インドでの病院運営やインドネシアでの臨床検査事業、マレーシアにおけるマネージドケア事業者の買収などが大きな話題となった。また、昨年は日系商社がインドネシア最大の民間医療グループへの資本参画を行うなどの大型のニュースもあった。※3 この他、中小企業やベンチャー企業の一部がASEANを中心とした地域への進出を行っている。ただし、特にIOT分野などでは現地企業との競争が激化しているようであり、予断を許さない。

ヘルスケアを取り巻く環境変化

上述のように、日本のヘルスケア産業もグルーバルで活躍しているが、環境変化のスピードはさらに早い。ここでは2つの事例を挙げてみたい。

まず1つ目は遠隔診療に関して、日本はようやく遠隔診療が普及を始めたが、グローバルで見ると既に「ただの」遠隔診療を脱している地域がある。インドネシアでは、民間企業が、医師の診察を遠隔で受けられるだけでなく、薬剤の購入や自宅への配送サービスも提供している。米国の民間医療機関では退院後の患者に対してスマートウォッチのアプリを活用した服薬リマインドやバイタルデータを収集し健康管理サービスを提供している。

これらは各国により規制状況も異なるが、IOT技術の発展とそれを利用したサービスの開発スピードは早い。

次にCOVID-19の影響について、これは枚挙にいとまがないが、感染拡大初期に発生した人工呼吸器や個人用医療保護具(PPE)等の供給不足による混乱は記憶に新しい。各国ともサプライチェーンの見直しが求められたが、自国民の保護優先主義の中での新たな取組みが各地で議論されている。物流や購買プロセスにも大きな影響を与えており、既に官民連携でこれらの新しいサプライチェーンの開発に取り組んでいる地域もある。

テクノロジーの進化に加え、COVID-19の影響によりヘルスケア産業構造全体に大きな変化が起こっていることは間違いない。

 

日本のヘルスケア産業の今後

このような環境下、新興国などよりヘルスケアニーズの強い国では大きなイノベーションが起こる可能性もある上、COVID-19の影響で再度明らかになったように、ヘルスケアのサイクルを自国のみで完結することは非現実的であり、各国との連携や変化に対処しないと市場から取り残されてしまう可能性もある。ヘルスケア産業はどのような分野であれ、グローバル動向をを無視できる状況にはないと思われる。

ヘルスケア産業のグローバル化には対処するだけでなく、新たなメリットも考えられる。例えば、新興国で開発したシステムやサービスを日本に逆輸入して日本のヘルスケア産業の質を向上するリバースイノベーションの可能性が秘めている。グローバル戦略を改めて検討する意義は大いにあると考えられる。

 

参考文献

※1:JCIホームページ

https://www.jointcommissioninternational.org/

※2:ワールドホスピタルサーチホームページ

https://www.worldhospitalsearch.org/hospital-search/

※3:経済産業省 「令和2年度 国際展開体制整備事業報告書」

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は掲載時点のものとなります。2021/4

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