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B2Bの提案型営業を実現する組織営業力

Front Office Transformation

グローバル化、デジタル化、製品のコモディティ化が進む中で、製品とサービスのイノベーションだけで売上向上を図ることには限界がある。プロダクトアウトからマーケットイン、そして顧客との共創の時代へと変化していく環境において、競争優位は、「顧客のために、何を製造して安価でタイムリーに提供できるか」から「顧客にどんな価値を提供できるか」というテーマがより重要になってきている。販売、サービスという領域において、営業と営業を支える組織の在り方をどう見直していかなければならないのか?

■ 営業活動を取り巻く競争環境の変化

競争環境は多岐に渡る社会変化によって、絶えず変化している。

製品の “コモディティ化” は、ものづくりを垂直統合から水平統合へ構造変化させた。従来日本企業は、すべてのバリューチェーンを内製化または系列化して、すり合わせにより競争優位を発揮していたが、有力なグローバル企業はバリューチェーンを見直し、特定の機能に特化することで、強みを提供している。 

市場は ”グローバル化” が進み、複数の企業が特化した事業機能で手を組み合って、世界規模のエコシステムを形成するようになった。戦略的アライアンスによって、パートナー企業との関係を構築するために、上位層での意思決定は重要度を増し、調達プロセスにおいても、交渉前にすでに決まっていることが増えるようになった。営業にとっては、顧客が購買プロセスに入る前から顧客に入り込み、経営視点で新しい気づきやビジョンを与える提案力が求められるようになっている。

経営の ”デジタル化” は、企業間の競争力に徐々に格差を生んでいる。市場の変化を察知して素早く対応するためにモバイル、ソーシャル、IoTへの対応を果たした企業は、アナリティクスによって膨大な情報を新たな価値の源泉に変えている。グローバル企業はそれらの情報をクラウド上に蓄積し、世界中の形式知を必要なタイミングで営業活動に活用している。AIによる営業支援によって受注率向上を狙う企業も現れ出しており、今後、AI活用は持てる企業と持たざる企業よって大きな競争力の差を生むことになるだろう。

他にもビジネスを取り巻く環境はボーダレス化、モバイル化、オムニチャネル化など様々な変化(多元的パラダイムシフト)に直面し、複雑化した問題にスピーディーに対応しなければ競合優位性を確立できなくなっている。

■ 顧客価値の変化

多元的パラダイムシフトの中で、顧客は自身にとって何が有益な付加価値なのかを徐々に変え、高度に専門化された製品や試作品のような特別仕様品とアフターサービスに高い価値を感じるようになってきた。

日本のものづくりは一流で、製造工程で高い付加価値を生み、日本企業は単機能のハードウェアで世界を席巻してきた。しかし、現在はほとんどの機能がスマートフォンに内在されてしまい、ハードウェア単体での技術革新は、太刀打ちできない状態となっている。

多元的パラダイムシフトの中では、”新製品” ・ ”高スペック” はあまり価値を持たなくなった。新製品を生むことを重視した従来の技術重視型イノベーションでは、シーズにマッチする顧客を発掘しなくてはならず、競争優位性を確立する前に新たな技術にとって代わられたり、圧倒的資本を持つ企業に市場を即座に奪われたりしてしまう。

現在は、ビジネスの中心に顧客を据えて、「新たな顧客価値(=市場)の創出」がイノベーションの重要要素となる。この「市場創造型イノベーション」では、顧客価値、競争優位の源泉は顧客に近いバリューチェーンの川下(マーケティング・セールスやサービス)にシフトしている。

■ 自社の提供価値(Value Proposition)の再定義

顧客が期待する価値に対して、競合他社と比較して、圧倒的に差別化した価値の提供ができているだろうか?競合にはできない自社のみが提供できる価値をValue Propositionと呼ぶ。変化する顧客のニーズにValue Propositionを提示できるかどうかによって差別化が図られることになる。

これまでに顧客のニーズを掴む営業の取り組みとして、”プロダクトアウト型” から ”ソリューション型” へ営業スタイルを変化させてきた。これは提供価値の定義を「魅力ある製品/サービスの提供」から「顧客の課題/ニーズに沿った解決策の提供」に変化させた結果である。営業には製品知識に加えて、「課題を的確に捉える能力」や「課題の解決策を提示する能力」が求められるようになった。

先進企業はさらに ”顧客共創型” へと進化させている。パートナーとして顧客に入り込み、価値提供に直接貢献しながら、顧客の顧客にビジネル領域を広げてアプローチするようになっている。提供価値を「顧客のビジネス最大化への寄与」と再定義することで、共創が新たな価値を生み、ビジネスチャンスを創出することができるようになる。営業には「バリューチェーンを経営視点で設計する能力」が求められている。

Value Propositionの定義を顧客中心に見直すことによって、付加価値の高い川下の活動に資源を集約し、価値を創出し続けるための構造改革が不可欠となる。

■ 営業力強化実現のために克服すべき課題

どの企業もこれまでに営業力強化には取り組んでいるが、「定めたルールに沿った行動ができていない」「登録されるデータの信ぴょう性が低い」「キーマンが異動してしまい定着できていない」など、期待した効果が出ていないとの声は多い。従来のビジネスプロセスの延長線上にある営業改革であれば、”現在” の課題を分類して組織横断やチャネル横断などの切り口で対応策を計画してきただろう。

Value Propositionを再定義して新たな価値提供を目指すうえでは、”将来” の変化によって起こりうる機会と脅威をいかに早くとらえ、市場を創るために自社に変革を起こすことが課題である。リーダーは変革の必要性を常に訴え続け、組織に変革の流れを生み出さなければならない。

営業部門は市場の変化を敏感に捉え、経営資源を最適化させ、柔軟な組織体制を構築しなくてはならない。また営業には、変化し続ける環境に追随し、先回りするために、「顧客・市場を知るマーケティング能力」・「収益を生み出すビジネスケース提案力」・「社内のリソースを全て引き出すコーディネータ能力」が必要になる。

■ 営業力強化の対象と観点

”将来” に向けてイノベーションを生む営業組織となるためにはどのような点を強化していけばよいだろうか。デロイト トーマツは営業力強化の観点として、4つの視点で改革施策を精査する。 

(1) CONCEPT

目指すべき営業像が何かを具現化する必要がある。ぜひイノベーティブな営業像をイメージしていただきたい。「成約率倍増」「販売売上10倍増」「EC販売率50%」のように、一見すると無謀とも思われる目標が、大胆な営業力強化には重要である。壮大な目標に向けて誰を顧客と定義し、定義した顧客を中心に据えてどのような価値を提供するのか、提供価値の再定義が必要となる。 

(2) ORGANIZATION

目指すべき営業像が大胆であるほど改革の裾野は広がり、営業組織の枠を超えて全社的な取り組みとなることが多い。近年でもグローバル規模で攻めの姿勢を強めた総合電機メーカーが営業リソースを大幅に増やす事例が示すように、限りある経営資源をどのように最適化していくのか、リーダーの判断が必要となる。営業組織は事業部単位から顧客単位の組織に見直し、ビジネススピードの向上のために、権限や役割の見直しが必要になる。営業組織のみならず、グローバルでの機能配置の見直しや経営モデル全体の検討も必要となる場合もある。 

(3) PROCESS

業務の標準化や見える化といった従来型の改善レベルのプロセス変更では効果は出ない。顧客を中心に据えた営業活動に向けて、営業担当者の顧客対面時間やマーケティング活動の時間を確保するための組織的マネジメントが必要となる。ある企業の営業部門では、担当者の活動の6割以上を営業間接業務の時間を割き、付加価値を生む業務に注力できていないことが課題であった。営業支援の専門部署を立ち上げ、シェアード化して全社の営業活動を創出させた例もある。プロセス管理においては、マネジメント層の意識改革はどの企業においても最重要事項である。営業プロセスの過程で設定したKPIを計測して担当者とマネジメント層、マネジメント層と経営層が対話することを期待するが、形骸化を避けるためには取り組みの意義の浸透が必要である。すぐに改革効果が出る企業となかなか効果が現れない企業があり、組織的風土などによって異なる。 

(4) IT/TOOL

必ずしも新しいITの導入は必要ではない。しかし新たに定義した営業プロセスの見える化は着地見込を計る営業の将来管理には必須である。営業はマーケティング・セールスやサービスといった顧客に近い活動で得られた情報を技術部門に共有して、競合に先駆けて仕様化し顧客に提供することが求められる。現在では、CRMシステムにIoTベースで製品から得られた構造化データと、営業担当やカスタマーセンターによって蓄積された非構造化データを掛け合わせて分析し、バージョンアップを実現させているハイテク製品も多い。

■ 営業発のイノベーションに向けて

イノベーションとは、従来、「技術革新」と表現されてきたが、顧客の期待が ”技術” から ”価値” に変化したことによって「価値革新」へと定義が変わった。営業は顧客のもっとも近くで期待価値の変化を捉えることができているだろうか?

営業は多様化した顧客の期待を超える価値を提供する一方、社内に向けて目指すべきビジネスの方向性を示し、価値の提供に必要なリソースを引き出すコーディネータとしての役割が求められる。営業部門が新たな価値創造をけん引し、全社で「顧客に提供できる価値は何か」を研鑽する取り組みを続けることで、新たな市場変化の波にも耐えうる組織風土が構築されるだろう。

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