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紛争鉱物

金融規制改革法による取り組み

紛争鉱物規制への対応において留意しなければならない事項についてその概要を解説する。

紛争鉱物と米国の規制

紛争鉱物とは何か?

 紛争鉱物とは、虐殺や略奪、性的暴力などの非人道的な行為を行う武装勢力が闊歩する国において産出される鉱物を購入することで、武装集団の資金源となり、さらなる紛争を招くおそれがある鉱物を指す。

 米国の金融規制改革法では、コンゴ民主共和国(DRC)及びその周辺国から産出される鉱物のうち、スズ、タンタル、タングステン、金が対象として挙げられ、これらは携帯電話、パソコン、自動車の部品、宝飾品など、さまざまな用途で使用されている。

 

米国 金融規制改革法による規制

 米国では紛争鉱物の問題に対し、非人道的な行為を行う武装勢力の資金源となることを防ぐため、2010年7月21日に成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)1502条において紛争鉱物に関する規制を盛り込んだ。

 この規制では「米国での上場企業=証券取引委員会(SEC)登録企業」に対し、製品の機能又は製造に紛争鉱物を必要とするかどうかをチェックし、開示することを求めている。

融規制改革法1502条の対象範囲

開示対象となる鉱物

 金融規制改革法1502条では、以下の4つの鉱物について「DRC 及び周辺国で産出された紛争鉱物」であるかの開示が必要となる。

 なお、開示対象となる紛争鉱物は、法律上国務長官が指定することができるため、その他の鉱物も、今後追加される可能性がある。

 I.スズ鉱石(Cassiterite)

  合金、平板、パイプ、ハンダとして使用。

 II.タンタル鉱石(Columbite-tantalite)

  電子部品、携帯電話、コンピュータ、デジタルカメラ、超硬合金工具、ジェットエンジン部品製造のための合金に使用。

 III.タングステン鉱石(Wolframite)

  ワイヤー、電極、照明、電子機器、暖房機器、溶接機器などの接点として使用。

 IV.金鉱石(Gold)

  貴金属や、電子・通信・宇宙航空分野で使用。

 

開示が求められる企業

 開示が求められる企業は、米国における上場企業(SEC 登録企業)が対象となる。日本企業のうちSEC 登録会社は30社弱であり、金融機関など明らかに対象外の会社が含まれるため、直接対象となる会社は限定される。

 しかし、直接の適用はないが、世界各国のメーカー(米国上場企業)のサプライチェーンに組み込まれた製錬所、精錬所、素材・部品メーカー、商社などの企業は、紛争鉱物が含まれているかどうかの問い合わせを受けるだけでなく、外部監査の対象になることもある。

SEC規則案における対応の概要

SEC では、2010年12月15日に1502条に基づく規則案を公表した。

 SEC 規則案では、SEC 登録企業に対し、次の3つのステップで対応するよう求めている。

 

ステップ1:報告義務があるか?の判定

      製品の機能または製造に紛争鉱物が必要かどうか

ステップ2:原産国調査の実施

      合理的な原産国調査を実施し、DRCまたは周辺国産出の紛争鉱物かどうか

ステップ3:デューデリジェンス手続きの実施と紛争鉱物報告書の提出

      アニュアルレポートへの開示と紛争鉱物報告書を作成し提出する

3つの対応ステップ

ステップ1 報告義務があるかの判定

 ステップ1では、まず対象企業が製品の機能又は製造において、紛争鉱物の対象となる4種の鉱物が「必要」であるかどうかを判断する。

 「必要」であると判断した場合は、ステップ2に進む。

 なお、「必要」であるかの判断については以下に留意する必要がある。

 I. 製造には、製造委託契約(contract to bemanufactured)をしている場合の委託元会社も含まれまれるため、小売業であっても製造を委託し、自社ブランドで販売している場合は対象に含まれることになる。

II. 「必要」の判断に使用量の多寡は関係しない。

III. 最終的な製品に含まれない場合でも、製品製造プロセスに意図的に含まれ、かつその製造プロセスに必要な場合は対象となる。

IV. 製品製造に使われる工具や機械に含まれる紛争鉱物は対象とならない。

 

ステップ2 原産国調査の実施

 ステップ2では、対象となる紛争鉱物に対して「合理的な原産国調査」(reasonable country of origininquiry)を実施し、紛争鉱物がDRC 又はその周辺国において産出されたものであるかどうかを判定する。

 なお、調査の結果「DRC 又は周辺国産出でない」と判定された場合、その旨をアニュアルレポート本文において開示することになる。

 「DRC 又は周辺国産出である、又は不明」と判定された場合は、ステップ3に進む。

 「合理的な原産国調査」の例としては、「陳述書」(Representations)を紛争鉱物の処理施設からサプライヤー経由で入手することが例示されている。ただし、入手した「陳述書」が信頼できるかを、例えば外部第三者による監査などで確かめる必要があると記載されている。

 また、「合理的な原産国調査」では、以下に留意する必要がある。

 I. 大量に使用している鉱物だけを対象として判断することは出来ない。

II. DRC 又は周辺国の産出である証拠が無いというだけでは、DRC 又は周辺国産出の紛争鉱物がないとの理由として不適切である。

 

ステップ3 デューディリジェンス手続の実施と紛争鉱物報告書の提出

 「合理的な原産国調査」を実施した結果、DRC 又は周辺国産出の紛争鉱物を使用している、またはDRC 又は周辺国産出の紛争鉱物を使用していないと特定できない場合は、会社がデューディリジェンス手続を実施し、独立した監査人による外部監査を受ける必要がある。

 デューディリジェンス手続を実施した結果、以下の内容をアニュアルレポート上で開示し、紛争鉱物報告書の提出が必要となる。

 I. 紛争鉱物を製造等に使用している旨又はそれが判断できない旨

II. 紛争鉱物報告書とそれに対する監査報告書をアニュアルレポートに添付している旨

III. 紛争鉱物報告書とそれに対する監査報告書を掲載しているウエブサイトのURL

 

その記載内容は以下の通り

 I. 紛争鉱物の産地まで遡るサプライチェーンに対して実施したデューディリジェンス手続の内容

II. 紛争鉱物を使用した製品名、当該鉱物の産地国名、当該鉱物を処理する施設(精錬所等)、産出鉱山又は産出地を特定するための取り組みについての可能な限り具体的な記述

III. 公認会計士等による監査を受けた旨とその監査報告書

デューディリジェンス手続とOECDガイダンス

ステップ3で求められるデューディリジェンス手続について、SEC 規制案では特定の規格やガイドラインに基づくことを規定しないとしつつも、国際的に認められたガイドライン等に則ってデューディリジェンス手続を実施することを推奨しており、ガイドラインの例としてOECD ガイダンスを示している。

 OECD ガイダンスの補足文書では、サプライチェーンを構成する企業を川上企業と川下企業とに分類し、異なる取組みを提案している。

 

川上企業:鉱山、精錬所

 • 保有鉱物に関する内部統制の確立  紛争地域での採掘、輸出等の状況の評価と情報共有

•リスク評価結果の川下企業への提供

•精錬所の独立第三者によるデューディリジェンス手続の監査

 

川下企業:貿易・流通業者、製造業者(部品、完成品、OEM)、小売業者

 •サプライチェーンの精錬所のデューディリジェンス手続を「可能な限り」識別、レビューし、当ガイダンスに沿っているかを評価

•業界で実施する精錬所のガイダンス準拠評価の枠組に参加

デューデリジェンスのプロセス(OECDガイダンス)

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