Posted: 18 Jan. 2023 10 min. read

専門外からAI分野への新たなチャレンジ

Deloitte AI Institute │Spirits #5

近年、AIの性能は凄まじい勢いで向上しましたが、それにともないAIが適用可能な場面も拡大の一途をたどっており、金融・製造・運輸・小売・不動産・教育などありとあらゆる方面で、課題を解決し、変革を進める起爆剤としての役割が期待されています。ただし、実際のビジネスの課題は常に複雑なものであり、どれだけ高性能なAIをもってしても、業務への深い理解なくしては企業が本当に必要とする結果を得ることはできません。AIの専門家だけでなく、各業界のビジネスに熟知した人材のAI分野への参入が強く望まれています。

 

デロイト トーマツ グループの Deloitte AI Institute には、人とAIが協調する社会「The Age of With」の実現に向けて、日夜精魂を傾けつづける先駆者たち「AI Spirits」が多数在籍しています。このインタビューシリーズでは、そんなデロイト トーマツの「AI Spirits」1人ひとりに焦点を当て、AI導入の最前線とその魅力についてお伝えします。

 

第5回は、データ分析やAI技術に将来性を感じ、金融業界でコンサルタントとして活躍した経験を携え、昨年AIの世界に飛び込んできたフレッシュな人材であるデロイト トーマツ コンサルティングFSI Division Growth & Innovation の胥(ショ)に話を伺いました。

 

 

データの力で説得力のある提案を

 

― 自己紹介をお願いします

 

デロイト トーマツ コンサルティングFSI Division Growth & Innovation Unitに所属しています。金融業界の顧客に向けて、AIとデータ分析を使用するプロジェクトのデリバリーをメインの業務としています。

 

― 中途入社とのことですが、転職の動機はどんなことでしたか

 

前職もコンサルタントで、金融系の顧客に向けて業務改善を提案していました。その業務の中で、データ分析プロジェクトを経験したことがきっかけで、AIやデータ分析に興味がわき、これからのキャリアの方向性をそちらに定めたいと思いました。

 

私は物事をはっきりさせたい性格で、主観よりも客観を重視したいタイプなんです。前職で経験した業務改善プロジェクトでは主観的な視点をベースにせざるを得ないことが多く、人それぞれ意見が異なるため、提案内容に説得力を持たせるのが難しいと感じていました。しかし、データを根拠にするなら、客観性を持たせることができるので、自信をもってより説得力のある提案をできるのではないかと考え、これらの技術に注目しました。

 

― 学生時代はどんなことを学んでいましたか? 

 

社会学を専攻していました。社会学はいわば、社会で当たり前になっていることを「なぜそうなったのか」考える学問です。業務改善のコンサルティングも、顧客の社内にある「当たり前」を「本当にこれでいいのか」と再度検証する仕事です。社会学の経験がコンサルタントにつながりました。

 

― 転職先にデロイト トーマツを選んだ理由は?

 

2つあります。1つは、新たな領域であるAIとデータ分析に関連する仕事ができて、かつこれまでの職歴も活かせるからです。金融は大きな業界であり、これからAIやデータ分析の導入がより一層進むと思われます。AIやデータ分析に特化した企業も多数ありますが、そういった企業ではこれまでのコンサルタントとしての経験が十分に活かせないと考えました。

 

もう1つは、専門分野を定めることで、その分野での成長を見込めそうだと感じたからです。面接を通じて、デロイト トーマツではそれぞれのコンサルタントが専門分野を持ち、活躍していることを知り、「ここなら学べることが多いな」と感じました。自分で自分の成長を期待したのです。

 

いまは入社から1年が過ぎました。自分が希望していたAIやデータ分析の活用プロジェクトを経験させてもらいましたが、一緒に働くチームメンバーたちはそれぞれ高い専門性を持つエキスパートなので、毎日、キャッチアップの努力をしながら過ごしています。

 

 

― 自分自身ではどのような専門分野を極めたいですか

 

AIやデータ分析を取り入れたコンサルティングを専門にしたいと考えています。文系出身なのでコンピュータサイエンスのコアな領域では、技術系の方にはかなわない部分もありますが、コンサルタントとしての技術と合わせて成長していければと考えています。とはいえ、コンピュータサイエンスやプログラミングの基礎知識となる範囲は一通り系統的に学んでおきたいと思っています。

 

自然言語処理でお客様から寄せられる声を分析

 

― 業務では、どのようなAI技術を扱いましたか?

 

保険業界の顧客の課題解決の試みとして、どのような自然言語処理技術が有効か検討しました。その過程で、まずは自然言語処理そのものを顧客に紹介し、解決策となるアイデアを整理しました。

 

対象業務はお客様から寄せられたアンケートの分析です。いまはどの業界でもお客様の声を大事にしており、なかでもフリーコメントは貴重な情報源となりますが、フリーコメントなので人間が1件ずつ処理すると相当時間がかかってしまいます。そこでAIによる自然言語処理を用いてコメントをグループ化したり、有益な示唆があれば抽出することを検討しました。

 

― 人間の手間を減らすためにAIを活用するわけですね

 

AIは完璧ではないので、何らかの処理を行う際は、常にその処理が正しくないリスクもあります。処理前に人間がチェックするのも1つの方法です。しかし人間が処理のチェックに多大な労力を使うのであれば本末転倒なので、いかに人間の手間を減らせるかが重要です。

 

また、AIは過去の人間の判断を学習し、それをもとに処理を実行する技術ですので、どうしても100%正解にはなりません。そのためAIの学習は常に更新を繰り返し、ブラッシュアップして、AIをより賢くするプロセスも重要です。

 

 

― 自然言語処理技術では、そのほかにどのようなことが可能ですか? 

 

先ほどのフリーコメントの例の「グループ分け」や「内容の抽出」などのほかに、最近では「言葉からの画像や動画の生成」が簡単にできるようになり、ホットトピックになっています。金融機関の顧客に紹介するAIの最新動向としては、このようなものは業務への適用がまだ困難と判断して今回は紹介を見送りましたが、この分野は急速に進化していますので、近いうちに有益なユースケースが出てくる可能性もあると考えています。

 

現時点で業務に活用できそうな自然言語処理技術としては、プログラム(コード)の自動生成があります。どのような処理をさせたいかを言葉で記述すると、サンプルコードを生成するというものです。多少の修正は必要かもしれませんが、人間がスクラッチから書くよりは早くて効率的です。

 

― 今後、自然言語処理にはどのような発展が見込まれますか?

 

これまで自然言語処理で課題となってきたのは「連続性」なのですが、最近では徐々に連続性を考慮したアウトプットが得られるようになりつつあり、とても興味深いです。

 

具体的に言うと、これまでも単語から画像を生成することは可能でした。「魚が好きな猫」と入力したら、それらしい画像を生成できます。しかしインプットするテキストが小説のように長文だと、連続性や一貫性を保つのが困難という問題がありました。例えば、生成した画像を小説の挿し絵として使う場合、先の「魚が好きな猫」が別の場面では魚を食べているとしたら、同じ姿かたちの猫の画像を生成しなくてはなりません。

 

近年では自然言語処理で連続性の扱いが飛躍的に向上しており、文章の読解だけではなく、文章から(連続する画像を生成することになる)ビデオを生成することにもつながっており、今後に期待できそうです。

 

 

多彩な学習の機会とチームワークの恩恵

 

― 入社後の社内研修ではどのようなものを受講しましたか?

 

私は3種類の研修を受けました。1つ目はコンサルティングの基礎についてのもので、主に入社後の1ヶ月間で集中的に受講しました。前職もコンサルタントでしたが、方法論などは独学でしたので自己流の部分も多々ありました。そこで、この研修を絶好の機会と捉え、かなり基礎的なことも含めて講師に大量に質問を投げました。ここまで本格的に基礎からコンサルティングの技術を学んだのは初めてのことで、とても貴重な経験でした。

 

2つ目は語学研修です。私の母国語は中国語なのですが、こちらでは日本語と英語の研修を受講しています。3つ目はAIやデータ分析についてなど、専門分野についての研修です。そのほか、研修という形ではないですが、個々のプロジェクトの中で得るものも大きいと感じていますし、デロイト トーマツ内ではナレッジをシェアする場が設けられているので、そういった部分でも学びの機会は多いですね。

 

 

― 職場はどのような雰囲気ですか?

 

印象的なのは、メンバーの専門性の高さです。私が顧客と話す際は、まだあらかじめ決められたアジェンダに頼る部分が大きいのですが、顧客からは突発的な質問を受けることもあります。私なら回答に窮するような難易度の高いテーマでも、多くのメンバーがあらかじめ準備していたかのようにすらすらと回答する姿を見て、私もそうなりたいと思っています。

 

メンバーとのつながりにも助けられています。前職では1人でプロジェクトを担当することが多く、自分の判断が正しいのか間違っているのかわからないことも多々ありました。一方、デロイト トーマツではチームを編成してプロジェクトに当たるため、チーム内でデイリーに進捗をシェアして、「これはよかった」とか「もう少し改善の余地がある」などのフィードバックをもらえます。どこを調整すればいいのか明確になりますし、自己肯定感の向上にもつながると思います。自分に自信がないと顧客にも伝わってしまいますが、マネジャーと確認し、状況を整理して、「これならいける」と確信を持った状態で顧客と対面することができています。

 

また、マネジャーの指示とフォローのバランスもとても良いと感じています。まず私が内容を考え、後からマネジャーがレビューによって軌道を修正してくれるのですが、作業を細かく指示するのではなく、かといって放任するのでもないバランスのよい指導を受けられていることが、自分自身の成長につながっていると思います。

 

「1+1」が「2」ではなく、それ以上となるようなチーム構成

 

― 職場の文化で気に入っているところは?

 

自分がやりたいことをやらせてくれることです。私は学生時代や前職ではAIを専門としていませんでしたが、「AIをやりたい」ことを伝えたところ、基礎的な学習を経たうえで、AIのプロジェクトに関わる機会を得ることができました。とてもうれしいです。もちろん何でも希望どおりとは限りませんが、デロイト トーマツでは、ある程度準備したうえで希望を出せば尊重してもらえることが多いと思います。

 

チームで助け合う文化も気に入っています。先のプロジェクトでは金融業務の専門家、AIの専門家などが結集しました。互いに専門分野を持ち、補いあえるようなチーム構成になっているため、「1+1」が「2」ではなく、それ以上となるような効果が出ていると思います。

 

これは多様性の観点からも重要です。同じ分野の専門家だけでは見落としがあるかもしれませんが、多様な分野の専門家が集まると新たな視点が加わり、新しい価値が生み出せる可能性が高まります。

 

 

― デロイト トーマツで活躍できそうな人はどのようなタイプだと思いますか?

 

個人的には、知的好奇心があり、成長欲求が高い方ならば、絶対にデロイト トーマツに来たほうがよいと思います。私がまさにそうでした。

 

私は日本では、外国人で、文系出身で、女性です。AIやテクノロジー分野には、外国人は多いのですが、女性はまだまだ少ない印象です。私自身、テクノロジー系のバックグラウンドを持っていませんでしたが、挑戦してみたくて一歩を踏み出して現在に至ります。もし「テック系に興味あるけど、自分にできるかわからない」と迷っているのなら、一度は挑戦してみたほうがよいと思います。

 

先ほどお話したように、私自身の最初のキャリアは金融が専門でした。いま、金融業界でのAI技術の活用方法を考えることができるのは、そのときの業界知識と経験があるからです。何らかの業務知識や経験をお持ちであれば、そこにテクノロジーを加えることで必ず新たな道を開くことができると思います。これからはどんな業務分野でもAIやテクノロジーが重要になりますので、興味があれば挑戦してみることをおすすめします。

 

 

テニスでは「いま、このボール」に全集中

 

― 趣味や気分転換では何をしていますか?

 

1年ほど前からテニスを始めました。中国には部活がなかったので、これまで1つのスポーツを長く続けたことはなく初めての体験です。

 

テニスでは「いま、このボール」「いま、この瞬間」にフォーカスしないといけないので、それが学びにつながっています。仕事や日常では、少し前のことを「こうしたほうがよかったかな」と反省や後悔することが多いのですが、テニスでそれをやるとボールが打てません(笑)。いまに集中することを仕事でも活かしていきたいと思います。

 

基本的には週に1〜2回、スクールに通っています。けっこう打ち返せるようになりましたが、まだ初級です。テニスの先生に「いつ初級から脱出できますか」と聞いたら「あなた次第です」だそうです。上達したら先生から「中級に行けますよ」と声をかけてもらえるそうですが、今のところ言われていないので……まだみたいです。

 

デロイト トーマツにもテニスクラブがあるので、同僚とテニスをすることもありますし、昨日は前職の同期と一緒にテニスしました。そのうちテニスを通じた交流も広がるといいなと思います。

後は、3〜4年前から猫を飼っています。自宅で仕事をしていると、たまにキーボードに乗ってきて邪魔をされるときもありますが、とても癒されています。

 

― 最後に、読者にメッセージをお願いします

 

デロイト トーマツ グループおよびDAIIは多様性がある組織です。完全にテック背景ではない方でも、いままで自分が積んだ業務経験の中で、AIをどうやって活かしていけるのか関心があれば、この領域で活躍できると思います。