Posted: 03 Apr. 2023 3 min. read

AIをはじめとする革新技術によりビジネス・エコシステムに行動変容を引き起こす

#dX #Well-being #ESG #Nature Positive #Modeling & Simulation

ネイチャー・ポジティブがもたらす社会の大変革

私たちは、現在、30年後の未来を決める重大な局面に立たされています。気候変動とそれを引き起こす人間システムによる温室効果ガス(GHG、Green-House Gas)の継続的な排出は自然界における生態系や、その一部を担う私たちの生活に広範囲にわたる深刻で不可逆的な影響を生じていることが現在の科学的考察に基づくと否定できないからです[1]。

多様な生物が暮らす森林やサンゴ礁、藻場などの生態系に対する負荷も、人間活動の拡大に伴って増大してきました。生物多様性は気候変動と相互に連関していることが近年様々な研究から明らかになり、世界は気候変動に加え、生態系と生物多様性の危機、いわば地球環境容量の限界 (プラネタリー・バウンダリー; Planetary boundaries)[2]と言える環境課題に直面しています。


生物多様性の保護と再生に気候変動への対応を考慮することで両者への相乗効果が期待できることも最近の研究で明らかにされました[3]。例えば、生物多様性の損失による気候変動(CO2固定量の低下による気温の上昇など)は、更なる多様性の喪失を引き起こします。また、気候変動リスクのみに焦点をあてた対策は生物多様性に悪影響を及ぼす可能性があると指摘されています。このことは生物多様性と気候変動の両方のリスクを考えた対策を実施することの重要性を示しています。

これを背景として、生物多様性の損失に歯止めをかけ、回復に転じさせるというネイチャー・ポジティブ(Nature Positive、以降NP)という考え方が、国連や金融界などにおいて近年広がりつつあります。すでに欧米では、生物多様性は脱炭素、気候変動に続くミッションとして捉えられ、国際会議の場において重要なテーマになっています。

パリ協定や国連の気候変動枠組み条約の目的を達成し持続可能な社会を構築していくために、企業は地球環境変化への対応を経済成長の制約やコストとみなす従来の価値観を大転換し、気候変動に限らない自然関連のリスクを理解し情報開示していくことで生物多様性の保全に貢献するNP企業に成長する機会と捉えることが必要です。

社会課題は、企業経営の在り方、そしてビジネスモデルや制度などの社会構造を変えることが不可欠です。その中で、気候変動や生物多様性を始めとする環境や社会、経済の問題を緩和ないし解決に導く「智慧」の、第4次産業革命がもたらす革新技術(機械学習、AIに特化したスーパーコンピューター(AIスパコン)、メタバース、超小型人工衛星など)をはじめとした先端科学技術による創造が、人類にとってより良い未来の選択につながると筆者は考えております。

 

 

トレンドを自然言語処理で読み解き、シミュレーションで戦略を立てる

デロイトアナリティクスでは、いまだ市場がない分野など、誰も答えがわからない状況のなかで、仮説を立てて答えを見出すためのフレームワークを開発しています。このフレームワークは3段階のアプローチとなっており、1段階目のアセット、2段階目のプラットフォームは私たちが開発し、3段階目はデロイト トーマツのアセットを活用したものとなります。


1段階目のアセットでは、世の中のトレンドや社会動向を高度自然言語処理で読み解きます。過去の文献などをマイニングすることで、この単語が「いつごろ登場して、どのような文脈で使われてきたか」といった定性的な情報を定量的な情報として可視化できるようになります。そして、こうして取り出した情報を、企業や業界をまたぎ掛け合わせていくことで、社会的意義のあるビジョンやストーリーを作ることができます。

2段階目のプラットフォームは、前段階で作ったビジョンを時系列的、空間的に AI を用いたシミュレーションを実施、戦略やリスクを見立てるためのものです。このプラットフォームでは、市場の勃興、規制、新技術に対する社会の許容、経済波及効果などを時系列や空間的に見て、評価、議論できるようにします。さらに、プラットフォームを進化させるために「物理方程式を用いた AI 技術」に着手し始めております。 OpenAI の GPT-3.5 ファミリーの言語モデルを基に構築された対話型 AI チャットボット「ChatGPT」にて、私たちは AI の進化を目の当たりにしました。しかし、私はAI がまだまだ進化すると考えております。AI は人類がまだ発見できていない未知の方程式と「変数」を用いて、法則を理解する可能性があるのです。

3段階目はデロイト トーマツのアセットを用いて、組織が非連続的な成長を遂げるようにアドバイスしていきます。過去の延長で成長するのではなくデータを用いて拡大していく組織を、私たちはAI-fueled Organizationと定義しています。戦略、人材、組織、プロセス、データ、テクノロジーなどの領域で中長期のロードマップや戦略を策定して、組織の成長まで一貫してアドバイザリーを行っていきます。これにより、新組織立ち上げや制度・規制改革といった困難を伴うミッションを、私たちは伴走者としてチームを支えることができるのです。

 

 

ユニバソロジ的世界観

生物多様性は40億年の進化による遺産です。地球進化の過程で、細菌・ウィルスを含む生命はさまざまな環境に適応して進化し、無脊椎動物が爆発的に進化、多様化した6億年前のカンブリア紀を経て、現在は3,000万種ともいわれる多様な生きものが生まれています。これらの生命は一つひとつに個性があり、全て直接に、間接的に支えあって生きていると言えます。

二酸化炭素やメタンガスなどの大気中GHG濃度、成層圏のオゾン濃度、地球の表面温度、海洋の酸性化、海の資源と熱帯林の減少など人類の活動が、数百万年という時間が経過した後においても地球規模で観測しうるような痕跡を残すようになった時代をAnthropocene (アントロポセン;人新世)と呼びます[4]。人類の出現による生物の大量絶滅は、地球に5度起きたという大量絶滅の次である「第6の大量絶滅期」にあたり、直近100年間あまりを人類によって地球環境がコントロールされる時代といえます。人類の活動が生物種の絶滅速度を加速させていることに大半の専門家が同意しているだけでなく、2019年時点の報告では、約100万種の動植物が絶滅の危機に瀕しており、生物種絶滅のペースは過去1,000万年の平均と比べて少なくとも数十倍から数百倍とされています。

人類は生物多様性を急激に減らしており、その結果、人間が引き起こした自然に対する反動は加速度的に変化、地球人口が30年後には100億人を超えようとしている現在において食糧、エネルギー、水、地下資源の争奪戦を引き起こしている現状の社会システムは持続可能であるとは言えません。地球は生命が惑星全体の環境システムに組み入れられた系であり、人間システムもその一部を担い生物多様性と相互に影響しあっているという考え方(ユニバソロジ的世界観[5])は、言い換えれば、地球上の生命全体が生き延びていく事業へと企業が変革して初めて社会が持続的成長の実現が図れるものといえます。

 

[1] Wang-Erlandsson, Lan, Tobian, Arne, van der Ent, Ruud J., Fetzer, Ingo, te Wierik, Sofie, Porkka, Miina, Staal, Arie, Jaramillo, Fernando, et al. (2022). A planetary boundary for green water. Nature Reviews Earth & Environment 3 380-392. 10.1038/s43017-022-00287-8.

[2] IPCC(2021), 第6次評価報告書“Climate Change 2021: The Physical Science Basis”

[3] 地球環境戦略研究機関 (2021),「生物多様性と気候変動 IPBES-IPCC合同ワークショップ報告書」,10.57405/iges-11634

[4] Crutzen, "Geology of Mankind," in Nature, 415, 2002, p.23.

[5] 毛利 衛 (2011)、「宇宙から学ぶ: ユニバソロジのすすめ」、岩波書店