Posted: 10 May 2021 3 min. read

カーボンニュートラル、科学技術による最短距離の実現に向けて

【シリーズ】サイエンス・テクノロジー×ビジネス 産学連携と社会実装

持続可能な地球環境に向けて、カーボンニュートラル(CO2排出量ネットゼロ)の実現が求められている。日本政府は、2030年までに温室効果ガス※1の排出量の46%削減(2013年度比)といった大胆な目標を新たに打ち出したが、その達成を実現するには関連プレイヤーが一丸となって取り組んでいくことが肝要だ。

当シリーズでは、日本における科学技術イノベーションの現状を踏まえ、産学連携や社会実装に繋げるための要点を具体的な課題と解決策の案を交えながら解説していく。

政府の方針では、CO2排出量削減とCO2吸収の様々な技術を組み合わせて2030年の目標をクリアした上で、2050年までにカーボンニュートラルを実現することが見込まれている。今後、排出源における課題等を整理した上で、個々の技術をどのように社会実装していくのかについて、分野毎に道筋を立てていく必要がある。しかし、既存の技術や取り組みの積み上げ(フォアキャスト)によるCO2排出量削減策が主流となってしまうと、複雑な要因が絡む長期的な目標設定が難しくなり、また、今後の技術開発に左右される部分が大きい新技術の優先度が低く見積もられる傾向となってしまう。そのため、カーボンニュートラル実現の最短経路を示すには、現在の取り組みを積み上げる「フォアキャスト」ではなく、目指す目標から逆算する「バックキャスト」の考え方を用いるべきと筆者は考える。

バックキャストの考え方を適用し道筋を明確にするためには、既存技術だけでなく、今後開発される新技術の開発状況を取りまとめることが必要である。その第一歩として、各技術のCO2削減効果、投資対効果、実現可能性等を整理した技術リストを作成し、これをカーボンニュートラルに向けた具体的なアクションプランにつなげることが考えられる。例えば、CO2分離回収技術※2による2050年のCO2削減量は世界全体で約80億トン※3と試算※4されている。2020年の世界全体のCO2排出量は315億トンであったことから、その四分の一の削減が見込まれる有望な技術と考えられるが、その普及のためには経済合理性や更なるコスト低減・エネルギー効率向上、社会インフラとしての構築、法制度の改正などを含めた大規模な対応が必要になるだろう。

 

カーボンニュートラルを最短距離で実現するためには、既存・新規を含めた様々な技術の優先度をつけ社会実装のための具体的な取り組みを進める一方で、技術開発、ビジネス連携、制度設計等を進める多様なプレイヤー同士が相互に協力していくことが肝要である。ただし、現状としては、必ずしも関連するプレイヤーの利害関係が一致しておらず、連携の幅が限定的な面も多く散見される。そこで利害関係が異なるプレイヤー同士の連携の牽引役として、調整機能を担う中立的な人材/組織の存在があることが望ましい。そこではビジネスや制度に関する内容に加え、技術的な内容も情報として集約・検討されることから、ビジネス及び技術等の両面に精通したハイブリッド人材の存在がカギとなる。

そのようなハイブリッド人材もしくは中立的な立場である組織が中核となり、様々なプレイヤーを有機的に組み合わせることが、カーボンニュートラル実現に向けた動きを加速させるだろう。

※1:CO2、メタン、一酸化二窒素、フロン類等が含まれ、総排出量の約9割近くがCO2である(全国地球温暖化防止活動推進センターWebサイトから参照)ことから、温室効果ガス削減に係る取組はCO2排出削減を中心に取り組まれている。

※2:排出されるCO2を分離し、吸着等を用いて回収する技術。燃焼後に CO2を分離・回収する Post-Combustion、燃焼前にCO2を分離・回収する Pre-Combustion、そして純酸素で燃焼し、燃焼中に分離・回収するOxy-Combustion(Oxy-fuel、酸素燃焼法)の 3 通りが2021年時点では確立されており、排出源から排出されるCO2の濃度や圧力といった物性に応じて最適な手法を選択し実施される。

※3:2018年におけるエネルギー起源の日本の温室効果ガス総排出量は、CO2換算で約10.8億トン(経済産業省、2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(令和2年12月))

※4:革新的環境イノベーション戦略(案)(経済産業省、令和2年1月21日)

産学連携を強力に後押し~サイエンス・テクノロジーの研究成果を堅実に社会実装する~

デロイト トーマツが科学技術とビジネスに精通したハイブリッド専門家組織を組成、研究成果の事業化を支援

プロフェッショナル