Posted: 16 Jul. 2021 3 min. read

問われるプラットフォーマーの人権対応

近年、配車や民泊、フードデリバリーサービスあるいはSNSや検索エンジンといったプラットフォームビジネスの運営者(プラットフォーマー:PFer)が人権に対する責任を問われる場面が増えている。PFerの責任が問われる人権侵害の中には、PFer自身による直接的な人権侵害だけでなく、サービスのパートナー(例:配車サービスのドライバー)やクライアント企業による人権侵害、さらに、顧客(例:SNSユーザー)同士の間で発生する人権侵害に関わる問題なども含まれる。

具体的には、性別や人種、年齢、郵便番号に基づくターゲティング広告・求人広告が差別的だとして訴えられたケースや、顧客に差別的対応をした宿泊施設を掲載していることに対して宿泊マッチングサイトが非難されたケース、SNS運営会社の不十分なヘイトスピーチ対策に対して400社以上の広告主が広告停止に踏み切るケースなど、多種多様なものがある。現在、このような事例は、欧米を中心に起こっているものの、日本においても人権関連の報道やSNS上での炎上事例も増加するなど、市民の人権認識は急速に高まっており、対岸の火事とは言えなくなっている。

 

企業の人権侵害に関しては、2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」が国連人権理事会で採択されて以降、欧米を中心に企業に対して人権対応を義務化する法律が制定され、人権対応の責任が求められるようになっている。日本でも、昨年10月に同原則の実施に係る「国別行動計画(NAP)」が策定され、国内においても法制化を視野に入れた対応が必要となってきている。

 

また、COVID-19により不平等や格差、労働者の安全等の問題が顕在化し、これに対してSocial Justice(社会的公正)を実現することが世界的な重要課題になっている中で、企業に対してもビジネスを通じてこうした課題を解決するパートナーとして貢献することが、従来以上に求められるようになっている。特に、PFerに関しては、そのビジネスの普及率の高さや社会的影響力の大きさ、直接的・間接的に関与するステークホルダーの範囲の広さなどから、人権に関わる諸課題への積極的な対応が求められているのだ。

 

では、人権侵害を起こさないために、PFerにはどのような対応が必要となるのだろうか。

 

そもそも、プラットフォームビジネスは規模の拡大により利益率が上がるビジネスであるため、新規顧客拡大のためのサービス開発や技術導入を急ぐあまり、コストとなる人権対応は優先順位が低くなりがちである。デジタル事業も同様で、日進月歩のテクノロジー・イノベーション競争の中で、人権の観点は見落とされがちになっている。そのため、労働者の権利の保障や人種・性差別など、目新しい人権課題ではないケースにおいても、訴訟や炎上してからのアドホックな対応でモグラ叩き状態になり、経済的な損失を引き起こしている。したがって、サービス・技術導入に際しては開発段階から人権に配慮した設計することが必須だ。

 

また、人権課題への社会的な関心のレベルや範囲は、社会情勢に応じて動的に変わっていくものであるため、足下をすくわれないためにも、既存のビジネスにおける潜在的な人権課題の影響を常日頃から把握して、課題の顕在化につながる予兆を絶えずモニタリングしておくことが必要だろう。人権課題の特定・対応にあたっては、当事者抜きで的外れな議論とならないためにも、ダイバーシティ観点で偏りのない人選や、被害者との対話を行うなど、当事者の視点を重視して参画を確保すべきである。

 

人権侵害に対するPFerへの対応要求度合は、それぞれの国での市民の関心度や、資本市場の関心・政府の対応度などにより異なるものだ。これまで、日本では大きな問題に発展することは少なかったが、冒頭述べたような機運を踏まえるならば、これまでの常識がこれからも通用し続けるという保証はどこにもない。まずは、人権に関する欧米のルールや世論・NGO等の最新動向を継続的にモニタリングし、今後顕在化しうる影響を把握し、対応方針を検討しておくことが必要だ。

 

他方、人権侵害しないための対応のみではなく、人権課題の潮流を取らえて、ビジネスチャンスへと転換しているPFerも存在する。例えば、昨年の日本進出が話題となったフィンランドのフードデリバリーサービスWoltは、ギグワーカーに対して、最低時給を保証することでパートナーを増やしている。また、Amazonは、年間100億ドルを超えると推計されるアメリカの視覚障がい者のオンライン消費市場において、視覚障がい者が検索や購入しやすい画面を構築して評価を得ている。日本国内でも、コンテンツ共有サービスのnoteが、コンテンツに広告をつけずに購読に対して課金することで、コメント欄が誹謗中傷等で荒らされない仕組みづくりでユーザーを拡大し、国内月間アクティブユーザー数が6,300万を超えるなど注目されている。

 

COVID-19を機に世界でSocial Justice(社会的公正)の実現へ向けた企業の参加に対する社会的要求が高まっており、プラットフォームビジネスは、その影響力の大きさから人権への対応が必須となっている。PFerやデジタル事業者は、人権侵害による自社ビジネスへの負のインパクトを認識し、人権の観点からビジネスを俯瞰して継続的なモニタリングをしてリスクを早期に解消するとともに、積極的にビジネスチャンスに活用していくべきである。

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沖田 直子/Naoko Okita

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デロイト トーマツ グループ アソシエイト

デロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社 Research & Knowledge Management(RKM)所属。経済団体、総合系コンサルティングファーム、DTCを経て現職。主にサステナビリティ関連のマクロ情報、業界動向、企業情報の調査・分析に従事。

福岡 杏里紗/Arisa Fukuoka

福岡 杏里紗/Arisa Fukuoka

デロイト トーマツ グループ シニアコンサルタント

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社所属。戦略コンサルティング部門 モニターデロイトにて、IT・メディア、電気、建設、製薬など様々なクライアントに対し、CSV/サステナビリティを機軸とした経営変革を支援。近年は人権をテーマにしたサステナビリティセンシングも扱う。ほかに、気候変動や循環経済、ヘルスケアをテーマとした中長期経営計画策定、新規事業戦略立案、既存事業変革・実行支援に従事。