Posted: 15 May 2024 3 min. read

企業価値向上に向けた価値の創り方の変革

日本の大企業に求められる新たなイノベーションマネジメントとは

企業価値創造経営では社会的価値と経済的価値を統合してより大きな価値を生み出すことが求められる。特に大企業にとって、イノベーションマネジメントは企業価値創造に向けた価値の創り方の変革として、再び重視されている。探索と深化の連動により業種の壁を越えて価値創造を拡張し、事業創出を加速、スケール化するイノベーションマネジメントのあり方を示す。

イノベーションブームに取り残される大企業

イノベーションブームが加速する昨今においても、象徴的にスタートアップ関連の情報が多く飛び交う。大企業が置き去りになっている印象がある。しかし、大企業は、「スタートアップの拡大版」や新たな技術・ビジネスモデルのInvention(発見)を目指すべきではない。社会・顧客への普及やそのためのプロセス、組織文化といった他社が真似できない提供価値や企業価値につながるイノベーションに取り組むべきである。

 

業種の壁を越え、高い企業価値を実現する

株式市場における企業価値、本質的にはPERにおける期待成長率は業種によって一定規定されるものの、業種の壁を越えて高い企業価値を実現する企業が存在する。例えば、味の素は、食品メーカーを超える存在として、自らを食とアミノサイエンスが融合する企業と再定義し、B2Bビジネスに強みを有することと併せて、独自の価値を創造、拡大を掲げている。企業価値創造経営におけるイノベーションでは、領域を越境するような企業全体の変革が求められているのではないか。

イノベーションについて「誰もやっていないこと」を「自らやる」という考えがあるが、それは誤解である。必ずしも自ら事業・サービスを生む必要がないのはGoogleの自前サービスがChromeただ1つだったことからもわかる。パーパスなど自社を基点にイノベーションの方向性を定め、そこに必要な要素を社内外から獲得し、スケールさせていくという企業全体の成長の中でイノベーションを考えていく。

 

中核事業起点で価値創造の場を拡張する

イノベーションの方向性を具体的な企業活動へ組み込むにあたっては、全社としてのフォーカスエリアを定める。大きくは、顧客起点で中核事業の提供価値を拡張する「中核事業の次世代バージョン」と、中核事業の事業資産に新技術を掛け合わせることで新たな顧客を獲得又は創造する「中核事業資産×新技術で新市場への進出」の2つがありうる。環境変化とイノベーションパターンを見極めて、自らを再定義、フォーカスエリアを具体化する。

フォーカスエリアに向かってイノベーションを推進するためには、従来の制約を振り払い、社外と全社のリソース・アセットをイノベーションへ集約することがポイントとなる。例えば、既に成功しているアイディア・ビジネスモデルを活用することで時間を最小化し、自社のリソース・アセットを集中投下するという戦い方がある。

 

イノベーションマネジメントをどう実装するか?

社内外共創のメカニズムを設計、実装する

社内外と共創してイノベーションを推進していくためには、既存事業とは異なるマネジメントが必要だ。他方、既存事業と連動させてイノベーションを加速、スケール化する必要がある。イノベーションマネジメントの設計・実装においては、既存のオペレーションと根本的に異なる活動が並行するということを踏まえ、全社レベルでプロセス、組織・制度等を実務・実践上の仕組みに落とし込むことがポイントになる。そこまで至らず、経営者の掛け声だけで終わることが少なくないのがまだまだ実情である。各項目(要素)に取り組むことに加え、項目間の有機的なつながり、つまりメカニズムを形成することが効果的・持続的なイノベーション創出のケイパビリティを獲得/強化することになる。

仕組みを駆動させていくうえでは、イノベーションの創出で求められる新たな思考・行動様式を定義し、方法論、共通言語、ツールなど共に型へ落とし込むことが有効である。実践を通じて自走力、事業の成功可能性を高めることを可能にする。イノベーション実践のバイブルとして「プレイブック」を整備する企業も増えている。


<プレイブックの構成>

  1. 組織のミッション
  2. 事業創出プロセス
  3. 個人の動き方


また、組織内でスタートアップエコシステムを再現することで、イノベーション人材を惹きつけ、創造的な働き、成長を引き出し、そして新たな人材を呼び込むという循環をつくり上げることで、ケイパビリティを高めることができる。

 

更に、イノベーションを加速させるためには? 

コミュニティによる対話と共創によって価値創出を拡張する

ポスト資本主義社会において経済メカニズムがアップデートされる中で、企業活動におけるステークホルダーとの連携は一層高まる。相互関係を深める場であるコミュニティは、ヒト・モノ・カネ・情報に次ぐ第5の経営資源として捉え直すことができる。大義の下で協調するコミュニティを有機的に機能するエコシステムに昇華させ、ステークホルダーとの共有価値、企業価値を向上させるイノベーションを加速していけると考える。

 

 

執筆者

今西 創太/Sota Imanishi
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ディレクター

VCを経てイノベーションファンド創業に参画、累計50社超の投資及び投資先経営支援に従事。
コンサルティングファームに転じ、長期ビジョン、成長戦略、 事業開発、人材開発、カルチャー変革等の切り口からイノベーションの戦略を立案、実行・実装を推進。

 

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