Posted: 12 Jun. 2023 2 min. read

新時代?Apple Vision Pro発表で感じた未来

Welcome, Apple. Seriously.

6/6未明に実施されたWWDC2023にて、遂にApple独自のHMDとしてApple Vision Proが発表されました。さっそく話題となっているApple Vision Proについて、バーチャルリアリティ領域のプロフェッショナルが発表内容をどのように理解して評価しているのか、どのような期待が持てるのかなどについて、ご紹介します。

6/6 WWDC2023にて遂にAppleからHMDが発表

日本時間6/6(月)未明、Appleの新機能や新製品が発表される開発者向けイベントWWDC2023にて、Apple初のヘッドマウントディスプレイ(HMD)であるApple Vision Proが発表されました。開発者、起業家、記者はじめ様々な立場の人がSNSやメディアで情報発信され、Apple Vision Proは大きな話題となっています。本ブログでは、Apple Vision Proの発表について、VR/AR/MRの専門コンサルタントがどう評価しているのかご紹介します。あくまで発表情報を受けての個人の見解ではありますが、一つの観点として参考になる部分があれば幸いです。

Apple Vision Pro概要
詳細はAppleの公式発表および各メディアを参照頂きたいのですが、前提として発表されたApple Vision Proの概要を紹介します。

Vision ProはPCやスマートフォンとの接続を必要としないスタンドアロンのHMDです。バッテリーは本体に組み込まず、有線で外部から給電します。ディスプレイはmicro-OLEDで、解像度は片眼4K。チップについては、近年のヘッドセットのスタンダードであるクアルコム製チップではなく、Appleが独自開発したM2チップとR1チップを搭載します。OSも独自のVisionOSとなるそうです。発売時期はUSで2024年、日本では2024年末となる見込みで、予定価格は$3,499です。高額ではありますが、演算系やディスプレイ、各種センサーカメラなどの性能を考えると、ハイエンド機としての妥当な価格と思われます。

上記以外にも空間オーディオ、LiDARによる空間トラッキング精度などユーザのUXを高めるために重要な機能が多数盛り込まれています。Appleブランドということもあり、UXには非常に高い期待が持てると感じています。

 

コンサルタントの目線が捉えたコンセプト、注目要素

Apple Vision Proは空間コンピューティングの実用性検証機?
詳細な機能やUXの評価は各専門家やメディア、実際に体験された方にお任せするとして、Apple Vision Proのコンセプトは一言でいうと”空間コンピューティングという概念で長時間利用して実用性が出るか検証する汎用型の実験機”ではないかと分析しています。まずコントローラを排した時点でゲームは主な用途から外れます。さらに発表で使われた"Spatial Computing"という表現の通り、Apple Vision Proは空間を活用して既存のディスプレイを超えた表示を実現することに主眼をおいています。これは単に3Dやバーチャル空間を前提としたコンテンツだけでなく、既存の2Dコンテンツも空間に自在に配置することで新たな価値を提供することも見込んでおり、既存のapple製品向けアプリのパブリッシャーも参入しやすい仕様です。参入障壁を下げて既存の実用的なアプリも呼び込み、ユーザが様々な用途で長時間利用出来るようにすることで、汎用機としての実用性を確かめられるようにしているのではないでしょうか。

高価格ゆえか、まずは一人一台ではなくHMDをつけていない人が多数という環境で利用するという前提が見え隠れするのも面白いです。デバイスのフロント部分に着用者の目が表示される機能が組み込まれています。Apple Vision Proのユーザ同士だけでなく、ユーザとそれ以外のコミュニケーションもケアしているのは、VRに重きをおいてきた既存HMDとは大きな違いです。

 

Apple ID連携が実は最大のゲームチェンジ要素か
個人的に一番ビジネス的な価値を感じたのは、Apple ID連携です。iPhoneやMacと共通のApple IDが使えるので、XRデバイスのユーザ/サービス提供企業の両者にとって大きな課題であった、アカウント登録/ログイン/決済が容易になるとことのインパクトは非常に大きいです。各種既存のサービスとの連続性やHMD上でのアカウント登録手続きの煩雑さ、決済処理の問題がなくなれば、より早く簡単にHMD上でのビジネスを展開することが可能になるでしょう。

 

Apple Vision Pro発表のインパクト

最後になりましたが、今回のApple Vision Pro発表のインパクトは、非常に大きいです。XR領域の専門家の一人として、今回の発表には興奮と安堵を感じました。AppleがXR領域に多大な投資をして、技術開発を進めてきたことは広く知られていましたし、ARKitやLiDARなど既にいくつかの偉大な関連機能の提供もしていました。しかしHMDを本当に販売するのかについては、期待の高さから例年”今年こそ発表されるぞ”と噂になりつつも実際には発表されない流れが続いており、どこか疑わしい気持ちでいたXR業界関係者は多いと思います。XR自体が幻滅期に入り、また不景気の影響もあり投資も縮小しつつあったXR業界にとっては、このタイミングでのApple Vision Proの発表は業界の活性化という観点でも非常に大きな役割を果たす発表だったと捉えています。やはりAppleほどのブランド的な信頼のある企業の参入は大きく、新しいディスプレイ技術による未来の姿をより描きやすくなったと感じています。もちろん、このデバイスがすべての課題を解決する訳ではないでしょうし、一気に普及が進むとも限りませんが、次世代の"ディスプレイ"がより身近になる未来への大きな一歩であると思います。

Apple Vision Proの日本発売はまだ少し先ですが、デロイトはXR, メタバース領域に関するコンサルティングサービスを引き続き提供していきます。Apple Vision Proの登場も踏まえた戦略策定はもちろんのこと、それ以外の戦略・企画から導入まで、多様なプロフェッショナルにより幅広くご対応できますのでお気軽にお声がけください。

 

稲葉 貴久/Takahisa Inaba
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー
一般社団法人Metaverse Japan  Lab研究員
日本バーチャルリアリティ学会上級バーチャルリアリティ技術者

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