難民の背景を持つ留学生の就労支援 ブックマークが追加されました
デロイト トーマツ グループの有志メンバーは、独立行政法人国際協力機構(以下、JICA)が実施する「シリア平和の架け橋・人材育成プログラム(Japanese Initiative for the future of Syrian Refugees:JISR)」(以下、JISR)を通して来日したシリアの若者に対して、社員のスキル・知見を活かし、ボランティアで就労支援のサポートを2021年から実施しています。現在、本取り組みは株式会社LIFULLやPERSOL Global Workforce株式会社の有志メンバーと協働で実施しており、企業連携による支援の相乗効果創出や社員同士の交流にもつながっています。
つながる・ひろがる人の輪 -JISR就労伴走支援サポートチーム-https://www.jica.go.jp/Resource/syria/office/others/jisr/20220915.html
JISRとは、2016年5月に日本政府が表明した中東支援策の1つで、祖国で就学機会を奪われたシリア人の若者に教育の機会を提供するものです。シリアと日本の架け橋となる人材を育成することをゴールとし、シリア危機により国外へ避難せざるを得なかった難民の背景を持つシリア人を大学院で受け入れています。参加者(以下、研修員)は22~39歳の方々で、国内トップレベルの大学を卒業した優秀な人材です。日本全国各地の大学院が受け入れ先となり、これまで79名が本プログラムを通して来日しています。
当初は留学生として来日した研修員ですが、シリア内戦は未だ解決に至っておらず、プログラム終了後母国への帰国が叶わない状況です。そのため、日本での就職が一つの選択肢になってきます。しかし、本プログラム期間は、来日後研修1年+大学院課程2年の計約3年となっており、慣れない環境下で当該期間内に学位課程の修了、日本語学習、就職活動を進める必要があることに加え、多くの日本企業では、就職において日本語能力試験最難関のN1(論理的にやや複雑な文章等を読み理解できること・自然なスピードの会話を理解できること)相当の日本語力が求めるケースも多く、研修員は時間・文化・言語など様々なハードルを乗り越えなくてはいけません。一朝一夕で日本語力を急激に向上させることは困難なため、JICAでは、日本語学習機会の提供に加え、インターンシップ先の紹介や企業との交流会などを実施し、研修員の人となりやスキル・経験を企業に認知してもらうような機会を多数設けてきました。それでも本人が希望する専門性を活かした就職の道が全員に開かれているわけではありませんでした。そのような中、本プログラムの就労支援責任者を務める可部州彦氏と当社の担当者が出会い、研修員と面談をしたところ、日本の就職活動の性質や、履歴書や面接の作法に対する理解を深めることが有用な就労支援の1つになるのではないかと考え、有志メンバーを中心にサポートを開始しました。
現在、1名の研修員に対して株式会社LIFULL、PERSOL Global Workforce株式会社、デロイト トーマツの3社から有志メンバーが2~3名のチームを組み、各社が本業での強みをいかしつつ、研修員と合意したペース(週次等)でオンラインミーティングを重ね、履歴書の確認や模擬面接、日本語の会話練習などを実施しています。サポートの期間は約6か月と比較的長期にわたっており、履歴書の添削や模擬面接を機械的に複数回実施して終了するのではなく、自己分析のサポートや就活の状況のヒアリング、苦労していること含めて普段の何気ない会話の中で双方の信頼関係を構築しています。JICAによると、サポートの結果、自身の専門性を活かした内定先を獲得する研修員が増えてきたと言います。
デロイト トーマツ本社で研修員と対面イベントを実施した時の様子(2023年8月)
本サポートはコロナ禍に開始されたこともあり、デロイト トーマツではフルリモートの勤務が続いていました。そのため、この取り組みがプロジェクトやユニット外の方と繋がれる機会になると共に、普段関わることのできない社外の方ともコネクションにもなり、一つのゴールに向かって協働できたことに社内からポジティブな声が多数あがりました。
サポートをする上で、研修員のモチベーションを保つ声掛けや、アドバイスの意図を明確に伝えることを意識しました。研修員の就職活動が難航し、学業との両立にストレスを感じている場面もありましたが、落ち込んでいるように見えたときは、常に前向きな言葉をかけるよう心掛けると共に、私たちがアドバイスした内容がどのように面接時に活かせるのかを伝えました。その際、研修員にとって日本語は第二外国語であるため、彼らが何を伝えようとしているのかを正しく理解することにも注意を払いました。
研修員が内定を獲得し、サポートメンバーに「内定をもらえたのは、皆さんのサポートのおかげだよ」と感謝の言葉を伝えてくれた時は、私たちが常に前向きな言葉をかけてきたことが、自信につながっていたことを実感し、大変嬉しく思いました。今後もサポートの機会があれば、前向きな言葉を常にかけることを心掛けていきたいと思います。
本ボランティア活動では、サポートメンバーとしてだけでなく、事務局メンバーとして約3年活動してきました。
その中で学んだことが「コミュニティの偉大さ」です。異なる文化の中で生活・大学院の勉強・就活を両立するハードな状況では、たとえ優秀であっても精神的ストレスを感じることが多くネガティブになってしまう姿がしばしば見られます。
そんな中で、サポートメンバーとの雑談や対面イベント、JISR内の縦コミュニティが彼らのモチベーションを向上させ、内定獲得まで走り切ることができた姿を見て、コミュニティの力を強く感じました。
研修員とのつながりは私にとっても新たなコミュニティとなり、とてもモチベートされた貴重な経験となりました。参加してよかったです!
JISRサポートチームは、企業の視点とニーズを踏まえた伴走支援を通じて、研修員の自発的な就職活動を成功に導く架け橋です。例えば、日本での就職活動に戸惑う研修員が多く、「なぜ強みをアピールする場で弱みを聞かれるのか」といった疑問が頻出していました。当初、JICA-JISRチームメンバーでは、十分な回答ができませんでした。しかし、サポートチームの皆さんから自身の経験や業界知識を活かし、企業視点からアドバイスがなされ、研修員は多くの疑問を解消し、自信を持って就職活動に臨むことができました。その結果、研修員は高度人材として様々な分野で活躍し、多様な価値観を活かし、積極的に社会貢献に取り組んでいます。従来の就労支援にサポートチームの支援が加わったことで、JISR研修員は確実に日本での就労の機会を獲得しており、彼らの活躍はJISRプログラムの評価にもつながっています。サポートチームの活躍から生まれたこれらの結果は、JISRプログラムの評価向上にも繋がりました。2023年の第2回グローバル難民フォーラムで上川外相の各国向けスピーチでは、JISRプログラムの就労率に具体的な言及があり、高い評価を得ました。サポートチームとの出会いは私にとって心強いものであり、共に研修員の未来のために協働できたことを誇りに思います。
JISRサポートチームは、祖国の状況から卒業後も母国への帰国が難しい現実に直面する研修員に対して、親身に寄り添った支援を行っています。民間企業有志メンバーとの協働は、JICAにとっても比較的新しい取組ですが、特に日本における就職活動の性質や、履歴書や面接の作法に対する研修員の理解を深めることに大きく貢献していると感じています。有志メンバー間で知恵を出し合い、ご自身の経験や知識を生かして定期的なアドバイスを行うことで、精神的にも彼らの支えとなっています。同チームが関わることで、取組がより多くの人に理解され、プロボノ促進やシリアへの理解醸成、JICA事業の理解にもつながっていることを嬉しく思います。関わってくださった皆様全員に、この場を借りて改めて感謝申し上げたいと思います。