Posted: 02 Nov. 2022 5 min. read

日本のロケット開発・運用の今後

~イプシロンロケット6号機打上げ失敗からの考察~

筆者
谷繁樹林  Tanishige, Kirin
満田和真  Mitsuda, Kazuma

 

概要

2022年10月12日、イプシロンロケット6号機はJAXA内之浦宇宙観測所から打ち上げられた。しかし飛行中に地球を周回できないと判断されて指令破壊が行われ[1]、残念ながら打上げに失敗した[2]。JAXAの打ち上げるロケットの指令破壊は、H-IIAロケット6号機以来、約19年ぶりとなるほど、これまでの打上げの成功確率は高いものであった[3]。

現在JAXAでは対策本部が設置されている[2]。詳細は今後の原因調査の結果を待つことになるが、フライト状況や打上げ失敗原因を整理したうえで、現時点[4]で考えうる影響や論点を提示する。これらも踏まえながら、日本のロケット開発・運用の今後について考察していきたい。

フライト状況

10月18日および10月28日の文部科学省の委員会において、JAXAから打上げ失敗原因の調査状況が報告された[5][6]。これらの報告によると、イプシロン6号機のフライト状況の概略は下記の通りである。
 

  1. イプシロン6号機は2022年10月12日9時50分43秒に予定時刻通り打ち上げられた。
  2. 3段式ロケットのうち、第1段・第2段の燃焼は計画通りに行われた。
  3. その後は第2段/第3段の分離や、第3段モータの燃焼が行われる予定であったが、第2段/第3段の分離可否判断時にロケットが目標姿勢からずれていた。そのため衛星を地球周回軌道に投入できないと判断され、9時57分11秒に地上からロケットへ指令破壊信号が送出された。
  4. 指令破壊後のロケット破片は、あらかじめ計画された第2段の落下区域(フィリピン東の海上)に落下しているものと解析されている。


 

打上げ失敗原因の特定状況

前述のJAXA報告によると、第2段の姿勢制御を行うガスジェット装置(RCS)2系統のうち1系統が機能しなかった。これが姿勢異常の原因だと特定されている。一方でガスジェット装置異常の要因は2つまで絞られているものの、特定には至っていない。そのため引き続き詳細要因分析と絞り込みを進めるとしている。

 

今後のロケット開発・運用への影響

衛星を喪失した事業者や大学・研究機関には重大な影響が生じているところであるが、ここではロケット開発・運用への影響に焦点を当てる。
ただし具体的な影響に関しては、JAXAによる当日の記者会見でも言及を避けているように[7]、現時点で断定できるものはなく、今後の原因調査の結果報告が待たれるところである。

イプシロンロケット

まず日本の基幹ロケットとしても位置付けられているイプシロンについては、当然今後の原因調査の結果を受けて対応策を協議していくものと思われる。折しも現行のイプシロン強化型は6号機が最終であり、2023年度からイプシロンSとして初号機を打上げ予定であった[8]。

今後の打上げは、新型の実証機と、打上げ再開(Return to Flight)号機という2つの要素を考慮して検討が進められていくものと想定される。

H-IIA・H3ロケット

同様に基幹ロケットとして位置付けられているH-IIAや開発中のH3については、固体ロケット・ブースタなどをイプシロンと共通化している[8]。今回、第1段・第2段の燃焼は計画通りに行われている。したがってH3への影響については、記者会見でも「直接的な影響はないと思われる」が「可能性をあらかじめ排除せずにしらみつぶしで検討する」としている。

また前述のJAXA報告では、H3の地上燃焼試験は計画通りに11月に実施予定としている。


 

今回の教訓から得られる日本のロケット開発・運用における論点

日本の基幹ロケットはH-IIA・H-IIB・イプシロンと着実に打上げ成功を重ねてきたが、改めてロケット開発・運用の難しさが浮き彫りとなった。

今後を考える上で、ここではその難しさについて、いくつかの論点を提示する。

いかに多くの機体データを取得するか?

現時点でガスジェット装置異常の要因が絞り込めていない理由としては、関係するいくつかの機器の作動状況をフライトデータから判別できていないことが挙げられる[5]。

とはいえロケットに取り付けるセンサを増やせばよいという単純な話ではない。データを取得するための地上局や、場合によっては通信衛星など、周辺設備を含めた設計・開発が必要となる。例えばSpaceXのように打上げ時のオンボード映像を高画質でライブ配信するためには、それ相応の通信設備が必要となるはずである。

トライ&エラーの難しさをどう克服するか?

1機あたり数十億円以上するロケットは、(潤沢な開発資金があれば別だが)フライト試験でのトライ&エラーを繰り返すことはハードルが高い。実運用として本物の衛星を搭載した打上げの中で実績を積んでいくのが現実的な進め方となる。

打上げ成功を繰り返すと実績も積めて正のループに入ることができる。一方で、打上げに失敗すると、その後の打上げ機会を逸してしまう負のループに陥る恐れもある。


今回の打上げ失敗から負のループに陥ることなく、迅速な原因調査や信頼性向上に向けたシナリオ構築などを進め、再び正のループに戻していく必要がある。

また日本においても、スタートアップなどによる新たなロケット開発が進行中である。資金や経験・実績が少ない中で、いかに正のループを回していくか、民間企業だけではなく国としての支援の在り方も含めた検討が求められるであろう。

日本の宇宙輸送システム全体をどう強化していくか?

さらに視座を高めると、日本の宇宙輸送システム全体のあるべき姿に関する議論へと発展する。自立的な宇宙へのアクセス能力を今後とも確保していくために、民間発の新たなロケットを含めた包括的な議論が必要となるであろう。

日本の宇宙輸送システムの在り方に関しては、改めてさらに深堀していきたい。
 

[1] 飛行経路が計画からずれて地上に被害を与える恐れがある場合、地上の安全を守るために、地上から破壊指令を送って飛行を中断させる。
H-IIAロケット6号機 事故はなぜ起こったのか?(最終アクセス 2022年11月1日):https://www.jaxa.jp/article/special/h2a6/safe_j.html

[2] イプシロンロケット6号機の打上げ失敗に伴う対策本部の設置について(最終アクセス 2022年11月1日):https://www.jaxa.jp/press/2022/10/20221012-2_j.html

[3] H-IIA 6号機の打上げ失敗以降、H-IIA・H-IIB・イプシロンの合計で53機の打上げに成功していた。

[4] 本記事は2022年11月1日時点の情報をもとに作成している。

[5] 宇宙開発利用部会 調査・安全小委員会(第41回) 会議資料(最終アクセス 2022年11月1日):https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2019/10/1422174_00003.htm

[6] 宇宙開発利用部会 調査・安全小委員会(第42回) 会議資料(最終アクセス 2022年11月1日):https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2019/10/1422174_00004.htm

[7] イプシロンロケット6号機に関する記者会見(最終アクセス 2022年11月1日):
https://youtu.be/_NFV4Cxx7So

[8] イプシロンロケット6号機プレスキット(最終アクセス 2022年11月1日):https://fanfun.jaxa.jp/countdown/files/epsilon6_factbook_1017.pdf

 

 

プロフェッショナル

谷繁 樹林 /Kirin Tanishige

谷繁 樹林 /Kirin Tanishige

デロイト トーマツ グループ シニアコンサルタント

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社所属。大手重工メーカーの設計職を経て現職。航空宇宙分野などの技術領域の知見をベースとして、製造業を中心に技術戦略・マーケティング戦略策定や、オペレーション改革、テクノロジー導入などEnd to Endで幅広い領域のコンサルティングに従事。