AI時代に求められる、
従来とは異なる
ガバナンスの高度化

データアナリティクスをベースにガバナンスの高度化へ寄与する

あらゆる業界でデジタルトランスフォーメーション(以下、dX)が進展している。dXの推進にはAI・デジタル技術の発展が不可欠だが、企業にはこの発展に呼応したガバナンスの高度化が求められている。さらに、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大の影響を受け、企業は出社、対面形式での働き方や、印刷書面、押印ベースでの事業活動から急速なデジタル技術活用が事業継続に必要となり、その活用を前提としたガバナンスのあり方を見直さなければならない状況に直面した。

デロイト トーマツ グループはこのような状況に先立ち、2012年にデロイトアナリティクスを立ち上げた。グループが提供するあらゆるサービスへのアナリティクスの適用、先進分析手法やビッグデータ分析・活用基盤の研究開発を行い、これらを活用したガバナンスの高度化に取り組んでいる。

テクノロジーの利活用が進み求められる日本企業のガバナンスの高度化

日々進化する自動運転技術、レジ決済なしで利用できる小売店、カメラ映像から個人を認識し、識別するシステム――AIの優位性に着目し、サービスに導入する取り組みが猛烈なスピードで進んでいる。AI・デジタル技術の活用が競争力の源泉になるという理解は企業の間にも浸透しており、既に利活用に着手している企業は増加の一途だ。この傾向は、デロイト トーマツが日本に拠点をおく企業向けに行った「AIガバナンス サーベイ 2019」で、56%がAIを「利活用している」「利活用に向けた取り組みを始めている」と回答していることからも明らかだ*1。

しかし、AI・デジタル技術は時代の先端を行くものであり、既存のルールの枠には収まりきらない。それ故に、既成概念では「見えないリスク」や「未経験のリスク」が発生する可能性が有る。企業はこの不可視のリスクを「見える化」することで、増大するリスク・不確実性を能動的にコントロールしていくガバナンス機能が必須となる。ここでいうガバナンスとは、取締役会や監査役の役割など業務に限った狭義の意味合いではない。企業経営や事業運営において執行機能をサポートする経営企画やリスク管理部門、コーポレート機能を担う法務・コンンプライアンス、情報セキュリティ、リスクマネジメントや内部監査部門を含めた役割や業務を広義のガバナンスと捉えている。これは、今後の時代を乗り切るためのガバナンスのあり方そのものだ。

例えば、内部統制は事業活動において必要とされる経営管理機能を提供するものだが、財務報告のためだけの内部統制と捉えられがちなケースもある。このような捉え方だと、企業が市場から求められる要求に質・速度の両面において対応できなくなることも多い。ガバナンスの高度化には、従来のような問題発生後の報告ではなく、リスク・不確実性を的確かつ先行的に把握し、経営の意思決定に寄与していく能動性こそが求められるのだ。

この能動性には、社内・社外にある膨大なデータ、リアルタイム情報を基に、これまで見えなかったものを利活用する力が必要となる。そのためにはテクノロジーの活用は避けられない。当然、テクノロジー活用を前提にして企業経営を推進している執行サイドと相対するガバナンスサイドにも、デジタルやテクノロジーへのリテラシーが求められる。ガバナンスサイドが従前のままだと、企業の成長を阻害する要因になり得る状況になってしまうのだ。リテラシーの向上を含めたガバナンスサイドの成長・変革がガバナンスの高度化に必要であり、企業の持続的成長を後押しすることになる。

監査×データアナリティクスの可能性を探る、デロイトアナリティクス

デロイトアナリティクスは、監査・保証業務、リスクアドバイザリー、ファイナンシャルアドバイザリー、コンサルティング、税務・法務など、グループが提供する全サービスを、データアナリティクスで支援するデータ分析のプロフェッショナルチームだ。データ分析というコンピテンシー、スキルを中心に据え、メンバーが創出できる価値を鮮明にしつつ、組織づくりを推進。立ち上げ当時6名からスタートし、現在の陣容は130名まで拡大した。dXの進展、そして日本企業の課題・ニーズの変容に応じてタイムリーなサービスを提供している。

デロイトアナリティクスが変容する日本企業の課題に則し、リスクの解像度を向上させた最近の事例としては「デフォルト予測スコアリング」がある。これは営業担当者の日報から企業の倒産確率を予測するものだ。一般的に倒産確率予測は融資先の決算情報と格付けから予測していたため、3~12カ月に一度という頻度でデータを取得し、直前になって実際に倒産するか否かが分かる状況であった。金融機関や企業は、倒産する可能性を見込んで貸倒引当金を計上するが、与信担当者や営業担当者は個別の企業の倒産をある程度分かっていても、組織としては倒産を事後的に把握することになる。

そこで「デフォルト予測スコアリング」は、データソース、リスク識別手法、アウトプットを全方位的に見直し、高頻度かつ低リードタイムで適宜データを取得。得られたビッグデータから予測モデルを構築することで、デフォルト(債務不履行)する可能性が高い企業を、デフォルトの6カ月前に推定することを可能にした。具体的には、テキストマイニングを活用し、営業活動の記録(担当者の日報等)を分析、スコアリング。デフォルトと関連の強い文章の特徴を視覚化し、機械学習と組み合わせて予測していく。この予測は、監査においては貸倒引当金の検討に活用され、アドバイザリーにおいては企業の与信や融資のモデル高度化に貢献できる。ビジネスモデルやビジネス環境が日々変わり、不確実性が高い現在のようなビジネス環境でも、財務リスクの解像度を向上させて適時・適切な経営の意思決定へ寄与することを可能にしたモデルケースとして注目が高まっている。

何よりも、今般のCOVID-19感染拡大による経済の減速が事業リスクや信用リスクを増大させる方向に作用することが見込まれる中、過去の緩やかな景気回復基調をベースにしたデフォルト予測モデルでは予測できないリスクを把握できるという。

既存の枠組みでは捉えきれないリスクと、どう向き合うか

COVID-19感染拡大の影響でデジタル技術の活用がより一層普及し、ポストコロナにおいても、こうした技術の活用は一般化すると考えられている。今後、企業はデジタル技術を活用することで未知の領域に果敢に立ち向かうと同時に、既存事業を含む経営全体を本質的に変化させていく必要が一層求められる。

dXやテクノロジーを活用した変革を安心・安全に推進させるためには、テクノロジーが持つ固有のリスクを把握する必要がある。その具体例としてAIの「学習データにより変化するアウトプット」問題などがある。これはチャットボットに対して意図的に非倫理的なデータを学習させ、差別的な回答を返すようにしたり、偏向した採用データの学習によって意図せざる選考結果が導き出されたりといった事例が報告されており、その課題解決が求められているのだ。適切な学習データをいかにして用意し、AIへの学習の責任を誰がどう負うべきなのか、議論は始まったばかりだ。

また、私たちの生活でAIが活用される局面が増えるほど、正解のない新しい問題も増えていく。倫理・道徳的な対応への指針が求められることもあるだろう。それはAI時代のトロッコ問題ともいうべきものだろう。

トロッコ問題とは、線路上を走るトロッコが制御不能になり、そのまま進むと5人の作業員が死に、5人を救うためにポイントを切り替えると1人の作業員が死に至るという局面で、線路のポイントに立つ人物はいかなる選択をするべきかという問題だ。AIが制御する自動運転が浸透したら、歩行者を死に至らしめるか、歩行者を救うために搭乗者が死ぬのか、という事態もあり得る。いずれの判断をするにせよ、それをAIが機械的に判断してよいのか(倫理)、それは商品性や法令、規制面から許容されるものなのか(経営)、ということを経営者は意思決定していかなければならない。社会に貢献しつつも企業に競争優位をもたらす先進的な商品やサービスの開発は、常に「それは正しいことなのか」という判断をこれまでも当然に求められてきたが、これまでと違うのは、それが外見的には判断が困難な「AI」や「モデル」という形で実装されることである。

AI固有のリスクを識別し、アルゴリズムだけではなく倫理、法令遵守の面からの制御も求められるのが現在で、このような状況下では新たなガバナンス構築が必要となる。これらの前提を踏まえ、デロイトアナリティクスの取り組みは進んでいる。

「見えないものが見えてくる」データアナリティクスが存在感を発揮する時代

ビジネス環境が激変し不確実性も高まる中、急速に進展するテクノロジー、イノベーションはガバナンスのあり方を大きく変えつつある。今は「見えないリスクを見えるようにしなければならない」状況が迫っている。だからこそ「見えないものが見えてくる」というフレーズを掲げて立ち上げたデロイトアナリティクスの意義が高まる。
これまでガバナンスサイドはモニタリング機能として後追いになりがちで、それは執行サイドに過誤がないという前提でのモニタリングだった。しかし、AIの時代においては、執行サイドが取ろうとしているリスクの大きさや影響範囲を理解することさえできない状況にもなりかねない。誰もが先を読み切れない状況において、企業のガバナンスは後追いでは問題だ。この新たな環境下で的確にガバナンスするための専門性や必要な知見をガバナンスサイドにも構築し、自ら現状を把握して先を読み、経営の意思決定に寄与していくべきだろう。

新しい技術は日々発展を遂げ、進化を止めることがない。デロイトアナリティクスは、テクノロジーの活用に先進的に取り組み、ガバナンスの高度化を支える組織として進んでいく。

*1 AIガバナンス サーベイ 2019
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/news-releases/nr20200124.html

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