「公平性」を重要視──
デロイト トーマツのDEI 、
実践者に聞くそれぞれの答え

PROFESSIONAL

  • 栗原 健輔 有限責任監査法人トーマツ 金融事業部 シニアマネジャー
  • 髙畑 有未 デロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社 DEI マネジャー
  • 権 普美 デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 アナリスト

近年、ダイバーシティ&インクルージョンに加えて、「公平性」の意味を持つエクイティを加えた「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(以下DEI)」の概念が世界に広がりつつある。

デロイト トーマツ グループ(以下デロイト トーマツ)も、DEIを「社会変革につなぐための必須手段」と位置づけて社内外で推進し、クライアントにも多様な観点からの価値を提供している。具体的にどのような取り組みを行い、プロフェッショナルの働きやすさやウェルビーイングにどのような影響を与えたのか。現場の声を拾ってみよう。

「材料を混ぜ合わせただけでは、美味しいケーキにならない 」

デロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社 DEI マネジャーの髙畑有未(たかはた・ゆみ)氏。

「DEIはケーキに例えるとわかりやすいかもしれません。小麦粉や砂糖、チョコレートといったさまざまな材料が並んでいるのが『ダイバーシティ』。それらがケーキという新たな形に焼き上がった状態が『インクルージョン』ですが、材料を適当に混ぜ合わせただけではおいしい特別なケーキになりません。その特性を理解した上で適切なレシピで本来の素材の持ち味を活かす必要があります。それが『エクイティ(公平)』の考え方です。

特に私たちは、個々の違いを強みにするべく、『平等』ではなく『公平』な機会の提供に向けてDEIを推進しています」(髙畑氏)

そう切り出したのは、デロイト トーマツでDEIを推進する髙畑有未氏だ。もともと髙畑氏はグループ内の海外と日本間の人材をつなぐ部門で働いていた。また前職でも多文化が入り混じる最前線で仕事をしていて、それ故に感じることがあった。

「デロイト トーマツには多様な特性を持った人が大勢いるのに、その『違い』が『強み』としてフルに活かされていない印象がありました。そう感じていたときにグループのDEIチームと協議する機会があり、まだまだできることがあると感じたのです。

多様な人材が個性を発揮し、周囲との共感を持ちながら生き生きと働ける環境づくりを目指して施策を行っています」(髙畑氏)

DEIチームは、ジェンダー、LGBT+、多文化共生、障がい者インクルージョンなどさまざまな切り口で施策を展開。中でも評価が高い施策が「パネルプロミス」だ。これは社内外のイベント、フォーラム登壇時のパネリストを「40%(男性):40%(女性):20%(多様性推進の調整枠)」の比率にしようとする取り組み。ジェンダー平等の観点はもちろんのこと、これまでプレゼンスが低かった属性・特性の人を20%含むことで、議論や視点の多様性をさらに推進したいとの思いがある。

「多様性ありきで人選すると経験が少ない人も選ばれるのではないかという声もあります。しかし、イベントの意義そのものが問われるニューノーマル下において、人々が求めるのは『新たな視点や自身では得られない気づき』ではないでしょうか。

パネルプロミスの波及で、多様性がイノベーションを創出することにもつながると考えています。まだ100%実現できているわけではないですが、この取り組みへの認知度は高まってきました」(髙畑氏)

これまでの社内外での取り組みが評価され、2021年12月には、日本のD&Iをリードする企業を表彰する「D&I Award 2021」にて、ベストワークプレイス認定と大企業部門でセミグランプリを受賞。今後もDEIを重要経営戦略の一つとして位置付け、一人ひとりに焦点を当てた支援や機会の提供を進めていく。

女性が活躍できる社会へ。男性メンバーが始めた草の根活動

「子どもたちの将来のためにジェンダーギャップを解消したい」(栗原氏)

デロイト トーマツでは、パネルプロミスの他にもDEIを後押しするさまざまな制度を整備中だ。ただし、いくら制度があっても、その意図を全員が理解し活用できる環境や文化がなければ絵に描いた餅になってしまう。

現場レベルで女性活躍推進・ジェンダー平等をめぐる課題を解決しようと、半年ほど前から草の根で女性活躍推進活動を展開しているのが監査法人 トーマツの栗原健輔氏だ。なぜそのような活動を行っているのか。きっかけは自身の子育て体験にあった。

「私の妻は総合職で、子どもが2人。保育園の送り迎えは半分ずつ分担しています。

最近はリモート勤務も増えていますが、お迎えの担当の日は、仕事が残っていても夕方5時半に一旦強制終了。そして子供たちが寝た後に、再び業務を行うような生活が続いていました。毎日を乗り越えていくのに必死で、私も妻もキャリアを諦めることなく持続可能な働き方をするにはどうすればよいのかを考えるようになりました」(栗原氏)

有限責任監査法人トーマツ 金融事業部 シニアマネジャーの栗原健輔(くりはら・けんすけ)氏

そのヒントを得ようと、NPO法人ジャパン・ウィメンズ・イノベイティブ・ネットワーク (J-WIN)が主催する外部イベントに参加。そこで、女性活躍が進まないのはマジョリティである男性が女性活躍推進に無関心だからだと気づく。その学びをデロイト トーマツでも広げるため、グループを横断した社内イベントを開き始めた。

「これまで複数回開催していますが、グループ内のさまざまな人に声をかけてスピーカー役になってもらっています。そしてスピーカーには、自分の所属する部門やチームの勉強会を開くこともお願いしています。変えるべきは『当事者の意識と行動』です。無関心な人にこそ届くように、グループ内で裾野を広げているところです。

また、女性が活躍できる社会は全ての人にとっても働きやすい社会だと思います。新しい働き方を考えていきたいですね」(栗原氏)

栗原氏は2021年、社内でグループ共通の価値観「Shared Values」を体現者した人に贈られるShared Values AwardのFoster inclusion賞を受賞した。社内投票で決まるこの賞に選ばれたのは、栗原氏らの活動が社内に浸透してきたことの証左だ。実際に、2018年に50%台だったデロイト トーマツの男性育休取得率は2020年に80%近くにまで向上しており、定量的にも成果があらわれ始めている。

さて、栗原氏はもともと仕事と子育ての両立に苦心していたところに女性活躍推進活動が加わったことになる。さぞかし大変かと思いきや、本人は充実一途だ。

「まだまだ道半ばですが、活動を進める中で『男性側から女性活躍推進を進めたいという話を聞いて勇気が沸いた』と言ってもらえることもあり、少しでも周囲にポジティブな影響を与えられたと実感できた時は特に嬉しく思います。

原動力は子どもたちの存在。残念ながら日本のジェンダー・ギャップ指数の順位は120位(※)と先進国と大きな差がある。親としても、子どもたちが将来バリアに阻まれて活躍できないような世の中にはしたくない。子どもたちが自由に活躍できる選択肢を用意することが自らの使命だと感じています」(栗原氏)

※世界経済フォーラムによるThe Global Gender Gap Report 2021より

実現のために「一緒に考えよう」

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の権普美(クォン・ボミ)氏。

実際に多様なバックグラウンドを持つプロフェッショナルは、デロイト トーマツの環境やカルチャーをどのように捉えているのだろうか。ファイナンシャルアドバイザリーに所属するクォン・ボミ氏は、入社3年目の若手メンバー。両親が韓国人で、韓国、日本、アメリカなどで暮らしたバックグラウンドを持つ。入社後すぐにグループ内の有志が集まる「地域イニシアチブ(旧復興支援室)」に参画し、ウェルビーイング社会に向けた対話イベントなどを主体的に企画している。

「学生の頃から環境問題や地方創生に関心がありました。ただ当時は無力で、東北の復興支援もいち学生の立場で現場を知り、周りに発信することくらいしかできていませんでした。

一方、デロイト トーマツなら地域に寄り添った形でインパクトの大きな活動を持続的に行うことができる。入社後すぐに手を挙げて、地域を創造する地元経営者を支援する人材育成塾を担当することに。2020年から2021年にかけて福島県田村市の女性起業家2人の事業構想支援にメンターとして伴走し、自身も成長することができました」(クォン氏)

入社3年目ながら多様な活動を行うクォン氏だが、仕事をする上で職位や年次、経験の有無を意識することはあまりないと話す。

「問われるのはあくまでも『個人』としての意見。1年目から『あなたの意見を言いなさい』と鍛えられました。バックグラウンドがどうであろうと、自分らしさを多様な形で表現しながら、自身の力量を試し、発揮できる会社だと思います」(クォン氏)

自分らしくいられるのは、周囲の理解があるからでもあるとクォン氏は続ける。

「地域創生やウェルビーイング推進活動は、すぐに効果が出るものではありません。周囲の人は、長い目で見て、それがクライアントやデロイト トーマツのためになることを理解し支援してくれています。

先日も、グループCEOの永田に『こういう活動をしたいから、仲間を集めるためのリソースが欲しい』と直接メールしたら、『一緒に考えよう』と返事がきました。デロイト トーマツには、上司や同僚、部門外の人も含めて支えてくれる人たちが大勢いる。これは本当に心強くて、私自身のウェルビーイングにもつながっています」(クォン氏)

デロイト トーマツでは、一人ひとりが自分らしくいられる環境やカルチャーが整いつつある。では、その先には何があるのか。最後にDEIチームの髙畑氏に今後の展望を聞いた。

「デロイト トーマツ内がインクルーシブになればそれでいいとは考えていません。私たちの施策が、クライアントや地域のみなさんなどさまざまなステークホルダーとの関わりの中で化学反応を起こして、社会に対してインパクトを与えられることが理想です。そのための取り組みを今後も続けていきます」(髙畑氏))

多様な人材が安心・安全に働くことができ、個々の興味や関心に応じてウェルビーイングを追求できる環境づくりを重視しているデロイト トーマツ。そこから生まれる一人ひとりの「こうありたい」や「やりたい」を起点とした主体的なアクションが、より良い社会への連鎖につながっていく。










転載元:BUSINESS INSIDER JAPAN


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