対応必須のグリーン電力化、
勝ち筋のシナリオとは

相次ぐカーボンニュートラル宣言、実現にはシナリオプランニング

パリ協定が採択された2015年12月のCOP21をきっかけに、世界は温暖化防止に大きく動き出した。日本でも菅義偉首相が2020年10月26日の所信表明演説で「グリーン社会の実現」と題し、2050年カーボンニュートラルを宣言。日本企業の経営層もカーボンニュートラルへの舵取りが急務となった。

企業の気候変動対策は、パリ協定以前からもあった。しかしそれはCSRや社会貢献の一つという意味合いが強く、情報開示についても過去の実績や数年先の達成目標を示すフォアキャスト目標を提示するだけがほとんどだった。

パリ協定以後、企業は未来における自社のあるべき姿を描き、その姿になるためのプロセスをバックキャストで定めていく必要が出てきた。実現のためには、組織や制度の変革はもとより、不確実な未来に対してシナリオプランニングが求められる。

気候、エネルギーは社会・経済・技術が絡む膨大な不確実性をはらむ

現在の気候・エネルギーにおける未来予測は困難を極める。社会や経済、技術が絡む問題であり、変数が多く公式化が難しいのだ。その難しさは1970年代からシナリオプランニングで数々の勝ち筋を見つけてきたロイヤル・ダッチ・シェルが、現行の温暖化ガス削減目標をもっと高めるようオランダの地方裁判所から判決が下ったことからもわかる。エネルギーにおける未来予測のプロフェッショナルであるシェルの予測を超えていく。それが気候・エネルギーの現在地だ。

「パリ協定以前、気候変動問題は公的機関がやるべきだという風潮でしたが、パリ協定以降はメインプレーヤーが民間企業になりました。GAFA等大手外資企業がこぞって自然エネルギーを導入しているのは、気候変動対策に加えて電力のコストを長期的に抑制する狙いと同時に、資金調達・ブランディングにおいても重要度が増しているからです」と、デロイト トーマツ コンサルティングの小川滋は話す。小川はパブリックセクターに所属し、気候変動・エネルギートランジションの最新動向を見ながら、再エネ証書、排出権取引、グリーンファイナンス、新興国でのCO2排出削減事業の形成など企業へ「攻め」の戦略を提案している。

小川 滋 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー

企業は投資家や金融機関から気候変動対策の着実な実行が求められている。しかもそれは企業単体のみならず、世界各国の取引先を加えたサプライチェーン全体で見られてしまう。

「企業が投資家や金融機関から求められるグリーン経営ができていなければ、資金調達がままならなくなるというケースは欧米で起き始めています。日本も早晩そうなる可能性は高く、企業は資金を集めるという観点からも気候変動と向き合わなければなりません」

自社のパーパスと戦略に沿って国際的なイニシアチブを取捨選択する

「以前から電力のコスト削減などの相談は多くありましたが、昨年11月の菅義偉首相の声明から多種多様な企業からご相談を受けるようになりました」そう話すのはデロイト トーマツ コンサルティングの村野晋介だ。村野はエネルギーユニットに所属し、電力調達コスト削減や最適化を通じた企業戦略の策定を担当。筋肉質な企業体制の構築など「守り」の戦略を担っている。

村野 晋介 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー

「日本企業も気候変動に対応した経営戦略の開示(TCFD)や脱炭素に向けた目標設定(SBT、RE100)などを通じ、脱炭素経営に取り組む動きが進んでいます。ただ、こうした国際的なイニシアチブに参加することで何を得るのかという戦略面を考えた上で選択している企業と、そうでない企業があるように思えます」

たとえば、RE100の条件は企業の事業運営を100%再生可能エネルギーで行うと宣言することだが、当面実現が困難な事業もあるだろう。その場合、無理にRE100に参加する必要があるのかどうかを検討すべきと村野は話す。一方で、機会損失を防ぐという意味合いも含め、参加を検討しなければならないケースもある。

「その事業内容から、一見RE100からは距離があるような業種において、対応を迫られる事もあります。たとえば不動産会社がある建物のテナントを募集していたとします。ここに有名なブランド店が入るにあたり、再生可能エネルギー由来の電力が使用できないと入りませんよ、と言ってくることもある。この場合はこの不動産会社にとってはRE100に参加しているということが、機会損失を防ぐ手立てになりうるのです」

企業は事業を運営し、収益を上げる必要がある。収益を上げるためには売上を増やすという手がもっともわかりやすい。しかし、不確実性の高い経済社会で、リニアに売上を高めていくことは難しい。一方でコストを削減し、利益を最大化することは実現性という点でわかりやすい。

「企業や事業、業種などによって電力の最適なアプローチというものがあります。私どもはまずコスト削減の観点でサポートしていきます。コストが削減できれば、それは投資の原資になります。ここ最近、変わってきたのはこの削減したコストを、グリーン経営の投資にあてる動きが増えていることです」

村野は、その動きとして次に紹介する2つの事例を挙げた。

事例1

小売/スーパーチェーン

小売/スーパーチェーンにおいてグリーン電力調達は、率先して解決すべき経営課題にはなりにくい。
「欧州では自然エネルギーを使っているスーパーを選ぶという消費者行動は増えてきていますが、まだ日本では少ない。自社で再生可能エネルギーを利用する本義とは何かという根本的な部分から設計する必要があります」

そこで村野たちは有機栽培などオーガニック食品に注目し、グリーン電力の調達と食の安全性を紐付ける。

「有機栽培の農地に屋根状の太陽光パネルを設置し、太陽光を農業と発電双方に利用する、いわゆるソーラーシェアリングという事業があります。こうする事で、安全な食品とグリーン電力の双方を調達する事ができ、感度の高い消費者と投資家双方にその取り組みの価値を訴求できます。自社の業種業態の本義と再生可能エネルギーを関連づけて戦略を描く事で、複合的に企業価値を向上させる事が出来るのです」村野は、企業との取り組みの中で「関連付け」を重要視する。

事例2

鉄道事業者

鉄道事業者は新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大で大きく影響を受けた業種だ。そのためコスト削減は喫緊の課題で、電力のコスト削減も徹底して行われている。この削減施策を進める中で、再生可能エネルギーの導入や省エネなどを組み込み、新しい電力のマネジメントを推進している。

「鉄道事業者としてはエネルギーに対して投資を行う上で、地元を非常に大事にします。たとえば、オフサイトPPA(敷地外の遠隔地に設置された発電設備から送配電線を介して需要家設備へ送電した電力を購入する)を検討するにあたり、その電源が地元になければ、社内外で同意を得ることは難しい。そこで、自分たちが何か新しい事をやるのであれば、地元に何が還元できるのかというところからディスカッションしていく。社会環境と自然環境の組み合わせで理解を得ていくことが求められるのです」

本業としてステークホルダーが納得できる部分と再生可能エネルギーをどうつないでいくのか。そしてそのつないだ先に何を見据えているのか。戦略的な設計が重要になってくる。

勝ち筋は「自社のアセット×マーケットの状況」で導き出せる

村野たちが一貫して話すのは「企業ごとに求めることも求められることもカルチャーも違う」ということだ。結果として、解もまた同じものになることは少ない。カーボンニュートラル社会の実現に向け、企業は日本、そして世界の状況を見据えながらより自社にフィットしたエネルギーシナリオの構築・電量消費実態の把握、プランニングが求められる。

「難しいのは制度やルールなどの外部環境によって、戦略・戦術両面で方向転換が必要になることが多々あるということです。そのため、単なる自社の中だけの経営分析や事業分析では立ちゆかなくなります」と話すのは、デロイト トーマツ コンサルティングの福嶋勇太だ。福嶋は小川と同じパブリックセクターに所属し、再生可能エネルギーを蓄エネや資源循環等の観点とも組み合わせながらビジネスに活かす「攻め」の戦略を担当。足元の業績を見ながら長期的な視点でどう儲けていくのか、シミュレーションなどを活用して定量的に分析し、企業や官公庁のグリーン電力化を推進している。

福嶋 勇太 デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー

「この先どのような価値を社会に提供していくのか?自社にどのようなアセットがあるのか?あらためて事業全体を俯瞰して、アセットの棚卸しをした上で、マーケットニーズや関連制度といった外部環境の分析とかけ算で考えていくことが重要です」

福嶋と村野は、その上でシナリオプランニングとマネタイズの設計をしていく大切さを説いた。

「この2つを達成するためには、テーマ横断かつ業界横断で考えられる人材や組織が求められます。例えば環境の担当者が環境の視点だけで考えるのではなく、経営やITの視点も織り交ぜて考えるといったことが必要になります。つまり、組織構造の改革はもちろん、内外の連携をどのようにしていくか等、事業ポートフォリオ全体にも及ぶ変革が求められることになります」と福嶋が話すように、事は会社全体の変革と密接につながってくる。そしてそれだけのことをする価値があると3人は話す。「先行者利益を考えれば、今から着手することで会社はより持続的でレジリエンスな組織になるでしょう」

デロイト トーマツのエネルギー分析ツールでシナリオプランニングの精緻化

「先ほど事例でもご紹介したスーパーのような業種は、安いものを提供することが使命と考えがちな事業モデルといえます。コスト削減は徹底し、追加コストにはシビアになる。それはそれでいいのですが、このモデルは『安いことが消費者にとって喜ばれる』という大前提あってのものです。『サステナブルであることが消費者にとって喜ばれる』という前提が異なるものになった場合、果たしてその社会構造に『ただ安い』ということが評価されるかどうかを考えなくてはなりません」

村野がこう話すように、社会の価値観は常にアップデートされ、近年はその更新頻度は増してきている。「グリーン電力は価値観だけでなく、企業経営に密接に結びつく喫緊の課題。これは未来の話ではなく、今から手を打つべき話なのです。だからこそ、私たちはツールを用いてシナリオプランニングを行っています」

デロイト トーマツには次世代のエネルギー社会像を定量的に分析することが可能な、独自開発のシミュレーションツールがある。これは将来のエネルギー需要やエネルギー供給・輸送設備の技術データなどをインプットすることで、最も経済合理性のある技術の組み合わせ(電源構成等)を解として出力する。

「このツールを使うことで、電力を供給する事業者の場合は、将来どのアセットの稼働率が下がり、再生可能エネルギーがどのように求められてくるのかなどの将来像を示すことができ、適切なプランニングが行えます。電力を利用する事業者の場合でも、例えば電力に関するコストが2倍、3倍になっていく道筋を見た上で、全体としての費用感を検討し、戦略に落とし込むことが可能になります」と福嶋は話す。

「電力を需給してきた事業者も、電力を供給できる事業者になれる時代ですから、事業の1つの柱としてエネルギーを検討する価値は十分にあります。自社のアセットを使ってどのような事業を立てることができるのか、その事業が将来どれだけ需要があるのかもツールを通じてプランニング可能です」と村野も続ける。

「グリーン電力は30年かけて行うような長期間にわたる社会的な大変革です。20年前、IT革命が行われ社会が大きく変わったように、このグリーン電力もグリーン革命というべきものです。大きなビジネスチャンスであると同時に、2050年カーボンニュートラルの世界の中心を担うことになろう20代、30代といった若い世代を改革に巻き込んでいく事も中長期の移行の中で必要不可欠なことです」と小川が話すように、パリ協定を見据えると2050年、2075年という目標年に立ち向かうには、若い世代の力が必須となる。

最高経営責任者(CEO)の平均的な任期は代表的な米企業3000社で7年弱、英企業100社では5年半にすぎない。パリ協定の長期的な時間軸とはあまりにかけ離れている中で、若手を巻き込み、会社の中にこの取り組みを浸透させていく必要がある。3人が話すようにこれは「未来の話」ではない。今の経営層は任期という概念を取り払い、グリーン革命の礎たるファーストペンギンになれるかどうか。試練の時は今まさに来ている。



デロイト トーマツ グループのグリーン電力調達コンサルティング
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