調査レポート

農業ビジネスの環境と企業の参入実態

昨今、農業が大きく注目されつつある中、本稿では日本農業を取り巻く環境を整理するとともに、企業の農業ビジネス参入実態など、農業ビジネスの動向を明らかにする。

日本農業を取り巻く環境

農林水産省によると、農業・食料関連産業の国内生産額は2010年時点で約94兆円あるが、市場推移を見ると農業生産をはじめ、関連産業の市場規模は年々縮小傾向にある。(図1参照)

生産現場では農業従事者の高齢化が進んでいる。「2010年世界農林業センサス」によると、65歳以上の農業従事者割合は、2005年時点で58%であったが、2010年時点では62%となっている。また、日本は2013年7月からTPP(環太平洋経済連携協定)交渉の場へ参加したことで、農産物の関税撤廃も検討され始めている。
このような厳しい環境の中、政府は成長戦略のひとつとして、「攻めの農林水産業」を掲げ、農業・農村全体の所得の倍増を目標とし、新たな直接支払制度をはじめ、本格的改革が検討されている。 

図1 農業・食料関連産業の国内生産額

企業の農業ビジネス参入動向

国内外を取り巻く食糧情勢、および国の政策転換をビジネスチャンスととらえ、企業が農業分野に参入する例が近年増加しつつある。2009年12月の農地法改正以降、参入法人数は増加を続け、2012年12月時点では1,071法人が参入している。(図2参照)

企業の農業参入分野として大きく3つの分野がある。(図3参照)

1.生産分野:農産物の生産をはじめ、種苗・肥料の供給、農薬・農機具・植物工場等の生産資材提供等に関する分野

2.流通分野:農産物、農産加工物の流通、加工、販売、外食等に関する分野

3.関連分野:農産物の生産・流通に直接関わらないものの、農業に密接に関わっている商品やサービスを提供する業種(IT、金融、教育、レジャー、エネルギー、人材サービス等)に関する分野 

図2 一般法人の農業参入の動向  参入法人数の推移

図3 農業ビジネス領域

参入分野別における農業ビジネスへの取り組み

参入分野によってそれぞれ異なる特徴がある。(表1参照)
生産分野であれば、自社の強みを生かしながら生産分野に参入する傾向がある。
たとえば、食品製造業、流通業、サービス業は、自社が必要とする農産物の安定的確保を目的として参入する場合が多い。また、製造業は、自社固有の技術を活用して参入する場合が多い。
流通分野では、市場流通とは別の流通網を構築する傾向がある。
たとえば、農業生産者が独自に農産物を加工・販売する6次化や、卸との提携による市場外取引、通信会社が自社の通信網と野菜の会員制宅配事業とのシナジーを目的とした参入等が見られる。
関連分野では、BtoB向け事業とBtoC向け事業とがある。
BtoBでは、生産事業にて蓄積したノウハウに基づく農業コンサルティング、農産物の栽培状況を管理するクラウドサービスの提供、農業従事者の育成・派遣、農業融資等、新規就農者支援から農業の高度化支援に至るまで様々な農業支援ビジネスが広がっている。BtoCでは、遊休資産を活用した貸し農園、園芸福祉等、農業を差別化要素とし、自社ビジネスの利用を促している。

表1 主な農業ビジネス参入事例

分野

業種

農業ビジネスに対する取組み

参入年度

生産分野

自動車製造

大規模ハイテク温室でミニバラ、ポインセチアなどを生産

1999

食品製造

山東省莱陽市に進出し、農業生産を開始

2006

流通

食品ごみを堆肥にして、直営・提携農業に供給し、収穫された作物を自社で販売

2008

流通分野

商社

国内最大米卸、ならびに米国穀物卸と資本提携し、コメ流通ビジネスに参入

2008

流通

2015年までに、世界の中小農家から直接調達し、各店舗で販売する計画を発表

2010

情報通信

会員制宅配会社を子会社化

2012

関連分野

鉄道

会員制貸し農園の運営

2007

建設用機械製造

キャベツの栽培を開始し、生産者へのコンサルや設備提供による農業支援も実施

2010

システム

GPSを活用した農業事業者向けクラウドサービス

2012


弊社調査による

農業ビジネス参入上の課題

一方、農業ビジネスに参入しても、農業特有の課題に悩まされる企業は多い。農業生産分野参入企業のうち、50%以上の企業が「販路の開拓」と「収益性の向上」を課題としている。(図4参照)
この結果から、強みや固有の技術を活用して参入しても、バリューチェーン全体における供給体制が整っていなければ、事業化が難しいことが想定される。現に生産分野から撤退した企業は、販路開拓不足や農産物ならではの生産・在庫管理の難しさ等が撤退要因となっている。 

図4 農業参入企業(新設企業)へのアンケート調査

終わりに

国内農業を取り巻く環境は厳しさを増している反面、国が推進する農業強化策をビジネスチャンスととらえ、農業関連ビジネスに参入した企業、または関心がある企業は増えている。しかし、現段階で農業における成功モデルを構築しているプレーヤーはごく一部に限られている。
今後、農業で成功するためには、先行事例を収集しつつ、自社固有の技術の活用・シナジーを見極め、バリューチェーン全体でとらえたビジネスモデルを構築することが肝要である。

※本文中の意見に関わる部分は私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではございません。 

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