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アナリティクスを始めるための5ステップ

2014.10.14

アナリティクスで成果を出す企業がとるアプローチを、5ステップに整理し、紹介します

ビジネスアナリティクスにより付加価値を得るには、まずデータサイエンティストや最先端テクノロジーを準備する必要があると考えている方も多いだろう。しかしデロイトの調査(注1)では、必要なすべてのリソースをそろえてからアナリティクスに着手した企業は稀であり、リソースはもとより時には経営陣の理解さえ得られない状況でもアナリティクスに取組み、成果を出している企業があることが明らかになった。

こうした企業は、アナリティクスを活用しなければ(論理性や数値精度の観点で)適切な回答が得られない状況に直面し、手持ちのリソースでとりあえず着手した、つまり必要に迫られて開始した状況だろう。

実際の現場で起きているこの状況にこそ、アナリティクス活用と成功のポイントが隠されていると考えられる。それは、適用範囲およびゴールさえ明確になればすぐにスモールスタートし、小さな成功体験を積み重ね、改善を繰り返していくアプローチである。本記事では、このアプローチを研究・汎用化し5ステップに整理したものを紹介していく。

過去にアナリティクスに取組んだが結果が思わしくなかった方、今後アナリティクスの活用を計画している方のアナリティクスにおける最初の成功体験を得る指針となれば幸いである。 

アナリティクス計画から実行までの5ステップ

ステップ1:アナリティクスのゴール設定

このステップは、ゴールを明確に描くことが目的である。直面しているビジネス課題に対して、何を達成したいのかできるだけ数値を用いて明文化する。達成すべき状況を設定するには以下3つの質問を行い、十分な回答が用意できているか確認する。

  1. 達成すべき数値や出すべき答えが明確に定義されているか?
  2. アナリティクスの期待成果がビジネスアクションと結び付けられているか?
  3. 投資効果を測定する要素が入っているか?

上記の質問に対して明確な回答が得られた場合に限り次ステップに着手すべきである。そうでない場合は、アナリティクス以外のアプローチも視野に入れて再検討すべきである。

ステップ2:現状評価

ステップ1ではゴールとその確からしさを確認した。ステップ2では、現状評価する。このステップでも以下の質問に答えることから始める。 

  1. 既に持っているアナリティクスリソース(ヒト、ITインフラ、データ)で今回の適応範囲に対応可能か?
  2. 対応可能でない場合、不足するリソースは何か?
  3. アナリティクスに対する経営層のリテラシーおよび期待感はどの程度か?
  4. アナリティクスの結果を将来、実現する仕組み(システム、業務プロセス等)が既に存在するか?
  5. アナリティクスに投下できる人材、IT・分析インフラ、コスト、時間はどのくらいか?
  6. アナリティクス実施に関するステークホルダーは誰か?

上記の質問に回答する際、できるだけ多くの部署・関係者にヒアリングを実施する。情報の抜け漏れを防ぐことはもちろんだが、この段階から情報共有を行うことで後々協力を得られやすくなるというメリットもある。

この時点でリソースに問題を認めても取組みを止める必要はない。なぜなら、デロイトの調査(注1)ではアナリティクスに着手済みの企業ですら3社に1社がデータ収集や分析技術、インフラ、人材に課題を抱えていると回答しているからである。リソース不足をアナリティクス実施の障壁ではなく、超えるべき課題として捉えるべきである。

ステップ3:ロードマップの作成

これまでに、向かうべきゴールの確認と現状評価を行った。ステップ3では、現在地点からゴールまでのギャップを把握し、それを埋めるためにロードマップを作成する。次の3点についてギャップを明らかにする。

  1. 役割ポジションと人材像
  2. ITインフラとアナリティクスソフトウェア
  3. 社内の期待度と支援

次に、上記で洗い出された各項目に優先順位をつけ、それを獲得するまでのタイムラインを作成する。この時点で精緻なロードマップを作る必要はない。ここではあくまでパイロットスタディに着手できる粗いロードマップで十分である。なぜなら、次ステップの中で問題点や想定違いを洗い出しロードマップは精緻化されるからである。

ステップ4:パイロットスタディとベンダー選定

次は現状の限られたリソースの中でパイロットスタディを行い、思い描いたアプローチが本当にうまくいくのかどうか、期待効果はいかほどか見極める。例えば、需要予測であれば2~3の商品に限定したり、マーケティングROI評価であればインターネット広告に限定したりすることがパイロットスタディの例になる。テストを行う際のポイントは以下になる。

  1. ビジネス課題を具体的なアナリティクス手法の言葉に変換する
  2. 検証は1つの方法だけではなくいくつかの手法を実行する
  3. 適宜外部の専門家に意見を聞き、アプローチや結果解釈の客観性を確保する
  4. 上記の結果に従い、ロードマップを修正する

以上のポイントを押さえるとステップ3で作成したロードマップの精度が増しかつ、投資を伴う本番ステップ(業務への組込み)に向けた社内説得の成功事例を得ることもできる。

精緻化したロードマップに従い、不足するリソースは外部ベンダーから調達する。自社が属する業界業種への理解および類似ケースの実施経験が十分にあり、結果が出るまでなるべく早いアプローチを持つ協力パートナーを見極める。

ステップ5:継続的な改善

アナリティクスは1度の実行で十分な効果が出るのではなく、継続することで段階的に効果が増していく。やるべきことは継続的な改善であり、次の5つの視点が重要となる。

  1. 戦略
  2. インフォメーションマネジメント
  3. テクノロジー
  4. 人材と組織
  5. プロセス&コントロール

【戦略】 事業戦略におけるアナリティクスの位置付けを明確にし、アナリティクスへの投資の優先順位付けを行う。そして、アナリティクスをどのように組織に展開するのかシナリオを作成する。

【インフォメーションマネジメント】 アナリティクス活用の成熟段階によりデータそのものおよび収集管理方法に対する要求は変化する。したがって、仕組みを維持し続けることを考えるのではなく、アナリティクスの適用範囲とゴールを鑑みて機動的に変化し続ける必要がある。

【テクノロジー】 アナリティクス適用範囲とゴールから、それを達成できる最小コストのテクノロジーを選択するべきである。冒頭に述べた通りテクノロジー自体は成功の必要十分条件ではない。継続的な改善に必要な他の4要素のスコープやケイパビリティを超えるテクノロジー(機能やスペック)は大抵の場合一度も使われない。

【人材と組織】 継続的なアナリティクスの実行には、アナリティクス専門職の創設とそれを組織としてバックアップする仕組みが必要となることが多い。まずはアナリティクスに対して責任を持つ経営層、次いでアナリティクス実施部隊リーダーをそれぞれ明確にすることから始める。

【プロセス&コントロール】 アナリティクスのアウトプットが当初の目論見通り活用されているか、活用されているとしたら適切な方法か(都合が良い結果だけ採用されたり曲解されたりしていないか)、活用されない場合はどこにボトルネックがあるのか、活用過程までを1つのプロセスと定義し、その成果を常にコントロールする必要がある。また、データの収集・保存・アクセス・活用に関するポリシーの作成とその運用コントロールも行う必要がある。

継続的な効果増大に必要な5つの視点

まとめ

アナリティクス立ち上げの5ステップの要諦を紹介した。お気付きの通り、アナリティクスだからといって特別な要素があるわけではなく、一般的なビジネスの立ち上げと同様のステップを踏襲している。アナリティクスを価値あるものとするには、天才的なデータサイエンティストや最先端のソリューションが必須条件ではなく、やるべきことを順を追って早く進め、小さな成功体験を積み重ねることが重要となる。

次回は、このステップを実施した際に直面する課題と、それを乗り越えアナリティクス活用を加速させる「ツボ」を紹介する。

Deloitte Analytics 吉沢 雄介

(注1) グローバルアナリティクスサーベイとは、2012年に北米、英国、アジア(日本は含まれない)のアナリティクス担当エグゼクティブを対象にデロイトが実施した調査である。75社を超える企業から回答が得られ、そのうち35社の経営幹部クラスにはデロイトアナリティクスのシニアアドバイザーであるトーマス・H・ダベンポートが直接インタビューを行った。

(注2) 当該記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではない

(注3)当該記事は、日経ビッグデータ掲載記事の、転載です

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