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住友ファーマのDX人材育成プログラムをデロイト トーマツ グループが支援

データ活用の基本知識を身につけ、主体的に行動できるように

DXでビジネスを躍進させていこうとする機運が高まっています。DXの実現には、多数の課題を乗り越える必要があり、組織においてデータを活用するスキルやリテラシー、継続的に取り組むためのマインドセットが求められます。DXに取り組まれている多くの企業において、DXを推進する人材育成に注目が集まっています。

デロイト トーマツ グループは、組織のDX推進のひとつとして、DX人材育成プログラムを提供しています。今回は、デロイト トーマツの人材育成プログラムを実施した住友ファーマ株式会社の皆さまと、デロイト トーマツのプロフェッショナルとのオンラインでの対談を実施し、経緯や感想をお伺いしました。

 

―本日はありがとうございます。まず、今回住友ファーマ様がDX人材育成に取り組む背景を教えていただけますか。

住友ファーマ株式会社 データデザイン室 兼 IT&デジタル革新推進部 菅原様:

住友ファーマでは2017年にIT部門を「IT&デジタル革新推進部」へと改称し、デジタルやDXを意識した取り組みを進めてきました。IT運動会や社外講師によるデジタル技術紹介セミナーなど、デジタルの楽しさや効果を体験してもらうことで、DX推進への賛同者を増やすための取り組みを進めています。中期経営計画ではデジタル革新を主要な取り組みとして掲げています。またバイオベンチャーのロイバント社との戦略的提携により、先端テクノロジーと高度な技術者も獲得しました。もはやDXは遠い世界で起きていることではなく、当社の中で動き出していると実感しています。そうしたなか、より多くの社員を巻き込み、より高みを目指そうとDX人材育成プロジェクトが始まりました。DXの教育施策を行うにあたり、思いつきや勢いに頼るのではなく、確かな基礎知識を身につけ、意識して行動できるようになることを目指しました。 
 

―製薬業界や住友ファーマにおけるデジタル革新やデータ分析の必要性の高まりについてはどのようなお考えでいらっしゃいますか?

住友ファーマ株式会社 菅原様:

もともと製薬の開発プロセスは年単位で時間がかかるものです。そのスピードを高めるにはデジタルやデータドリブンの力が必要です。近年ではリアルワールドのデータ解析から注目すべき副作用やリスクを分析することも頻繁になりました。医薬品の開発では過去からデータを活用しているものの、予測の面ではまだ改善の余地があるという声も社内から出るなど、データ分析の感度は高まっています。

製薬業界各社では医薬だけではなく、ヘルスケアにも手を広げようとする動きもあります。しかしそうした領域ではスタートアップも参入を狙っており、テクノロジーを駆使していかないと戦えません。
 

―実際に受講された方におうかがいします。受講された動機には何がありましたか?

住友ファーマ株式会社 メディカルインフォメーション部 小森園様:

患者さん向け指導箋や医療従事者向けのインタビューフォームなど、医薬品の適正使用推進のための資料の作成や提供をしています。普段、患者さんや医療従事者の方々との直接の接点がないので、私たちの活動が本当に貢献できているのか把握が難しいと感じていました。データをうまく使うことで私たちの活動の貢献度を評価できると思い、受講させていただきました。

住友ファーマ株式会社 ファーマコビジランス部 菅様:

医薬品の安全性情報を扱っています。近年、大量のデータを扱う機会が増え、DXで何とかしなくてはと感じています。実際には高度なスキルを持つ薬剤疫学の専門家がデータ解析を行っていますが、薬剤疫学の専門家ではない私たちもデータを扱うことが身近になってきています。DXの知識や解析技術を身につけて会社の強みに貢献したいと思いました。

住友ファーマ株式会社 医薬品質保証部 西岡様:

安心安全な医薬品を安定的に供給するため、医薬品全般の品質保証に関わっています。部内には「データ」や「IT」と聞くと身構える人もいますが「大丈夫だよ。少しずつ実践すれば対応できるよ」ということを伝えられるように、知識を得られたらいいなと思って受講しました。実際に部内でITやデジタルへの心理的ハードルを下げる取り組みをしており、次第に実を結んだらいいなと思っております。


(左から)住友ファーマ株式会社 小森園様、西岡様、菅様

 

―ありがとうございます。それぞれがご自身の業務の中でITやデータの活用をお考えだったのですね。それでは、デロイト トーマツ側の視点から、今回の研修の狙いと概要を教えてください。

デロイト トーマツ 藤川:

製薬企業に限らず、既に多くの企業がデータ分析やデータ活用をある程度は経験されている時代になっています。昨今では、データ分析やデータ活用をさらに広げていくための基盤作りや、プロセス改善に進んでおり、直近では多くの企業が人材育成を検討されています。

今回の研修は対象を「全社員」、「管理職」、「業務部門の志望者」で分けました。全社員向けはデジタルリテラシー向上、管理職向けはDXの取り組みを監督する力の養成、業務部門の志望者向けはデータサイエンティスト入門編というように、内容はそれぞれ異なるものです。例えば管理職向けは、データの利活用を管理・監督するための全体の把握や評価に力点を置きました。

研修内容は、住友ファーマで働かれている皆様がイメージしやすい事例を取り入れています。DX概論ではデロイト トーマツで製薬業界を担当するライフサイエンスの専門家とも協力して講座を練り上げていきました。感染症対策のため全てオンライン開催となりますが、受講者が多く基礎的な内容の講座はe-learningで、受講生が限られる高度な内容のものは双方向でのコミュニケーションを行うためクラスルーム形式(Zoom開催)としています。また、実践力を高めるために、講座修了者にはアセスメントテスト(課題)に取り組んでいただいたほか、「よろず相談」という形で業務適用のためのアフターサポートも提供しています。
 

―住友ファーマ様から、デロイト トーマツが提供するDX人材研修にはどのような特徴がありましたか?感じられた魅力など、お聞かせください。

住友ファーマ株式会社 菅原様:

ポイントは3つあります。1点目は、「当社行動指針に沿った信頼できる提案内容」です。できあいのコンテンツではなく、当社行動指針の「ちゃんとやりきる力」が随所に引用され、自分事として研修に向き合いやすくなるよう設計されていると感じました。

2点目は、「研修受講者の実践力を後押しできる高い視座」です。研修受講は目的達成の通過点であり、それぞれの現場でDXを通じてビジネス価値を生み出す状態をゴールと据えられており、実践に向けたサポートを強く感じています。

最後に、「研修の可能性を広げる専門家ならではの豊富な知見」です。テクノロジーの知識を教えるだけではなく、テクノロジー活用とともに自分も変革させ、同僚や会社、社会を巻き込んでいくアプローチも習得させる講座だとうかがい知ることができた点は、ご提案いただいたときから魅力的でした。

―実際に受講されてどのような効果が得られましたか?

住友ファーマ株式会社 菅原様:

全社員向けは、6時間のeラーニングを体系的に学習することで、社内でDXに関する共通理解を深めることができました。これでDXへの期待感のずれが小さくなり、今後のDX施策をスムーズに進めていけそうです。管理職向けは、データ分析概要などで難易度は高かったものの、今後部下からのDX提案を受け止めるための土台構築に寄与できたのではないかと期待しています。志望者向け講座の修了生からは、自身の職場ですぐ実践するとともに、積極的にデータに触れる機会を探していると聞いています。自主的な意欲があると強いですね。将来の活躍が楽しみです。

住友ファーマ株式会社 小森園様:

全社員向けはワークもあり、良かったです。部門全体で一緒に受講できたら、もっとよかったのにと思いました。志望者向けはデータドリブン組織の重要性や在り方を勉強するよい機会になりました。これらを理解し、実践することで、日々の業務の生産性や品質が向上し、よりよい価値を社会に提供できることに繋がると実感できました。今回の受講で、今まで勉強していなかった統計学などは再度自己学習でスキルを定着させていきたいと考えています。楽しくデータに触ることができましたし、業務でも積極的にデータに触れる機会を作れたらと思っています。

住友ファーマ株式会社 菅様:

志望者向けの研修には統計学もあり、昔業務で少し関わったことはあるものの、自分にはまだ弱点であると感じられた点は収穫でした。研修で理解すべきところは分かりましたし、プログラミングにも関心があるので、研修が終わってからも今回研修で学んだ分野の学習にしっかり取り組んでいきたいと思っています。

住友ファーマ株式会社 IT&デジタル推進部 引地様:

研修を通じて社員の興味関心が高まっているのを実感しています。しかし、理解にはまだ個人差があります。例えばAIを万能なテクノロジーだと思う社員もいれば、AIの活用方法を理解した上でデータにあたりをつけて解析を依頼する社員もいます。興味関心が高まっている今こそ、この研修をきっかけに波紋が広がるようにDXやデジタル活用に対する理解が促進されることを期待しています。

住友ファーマ株式会社 人事部 原様:

今回の研修で大変良かったのは、新たな領域に挑戦することです。DXというと難しそうで、尻込みしてしまうところがありますが、どんどん挑戦していけばますます便利になり、成果も上がるということが伝わったと感じています。当社は企業理念として「人々の健康で豊かな生活のために、研究開発を基盤とした新たな価値の創造により、広く社会に貢献する」と掲げています。新しい価値創造には新しいことに挑戦すること、そのための風土醸成に研修が後押しになると思います。

デロイト トーマツ 久保:

教育を通して行動変革を起こすには4段階あります。第一段階で「理解」、第二段階で自分のものとして「共感」が加わります。ここまではある程度受身の研修でもいいのですが、この先が難しくなります。第三段階で「主体化」すなわち自分事として受けとめ、第四段階で「行動化」つまり自分自身の行動や実践に繋げます。今回の研修では志望者対象のコースもあり、難しい段階を乗り越えられるようにうまく展開できてよかったと感じています。

 

住友ファーマ株式会社 西岡様:

研修では、取り組むことが難しい第3段階以降についても注力されていたのを感じました。例えばファシリテーションに役立つものなど、DXとは直接関係なさそうでも実践に繋がるものも含まれていたからです。会議を円滑に進めていくためのデジタルツール活用、例えばWindowsのタイマー機能でカウントダウンを行うとか、BGMを共有することでリラックスさせるなどちょっとした工夫ですが、ファシリテーションを効率的に行うための実践力が養えました。このような体験が主体的な行動や実践につながると思います。
 

―今後の展望や期待について教えてください。

住友ファーマ株式会社 原様:

それぞれ所属が本社、工場、営業、研究など多岐に分かれ、DXを画一的に進めていくには難しいところもあります。そういったなかでも、みなさんがさらに知識をブラッシュアップして、いろんなことに挑戦していただきたいと思っております。

住友ファーマ株式会社 小森園様:

先程も申し上げましたが、私たちは医薬品の適正使用を推進するために活動しています。この活動をデータで見える化すれば、私たちの貢献度を客観的かつ定量的に評価するためのPDCAを回し、より価値のあるものを提供できるようになると考えています。まだ具体的なデータは手元にありませんが、見える化のために使いたいデータはいくつかあります。データ利活用により私たちの活動が真に“患者中心(Patient Centricity)”の活動となることを目指し、世界中の人々の健康に広く貢献したいと考えています。

住友ファーマ株式会社 菅原様:

DXの取り組みはこれまでも多く行ってきましたが、DXの知識とマインドを会社全体に定着させるにはまだまだ学習の継続が必要です。志望者を対象としたデータサイエンティスト研修の修了者から次年度講師を輩出させる仕組み、相互に学び合うコミュニティなど、力強い人材育成サイクルを作って行きたいと考えています。そうするとことで、DXの難しい段階を越えられやすくなると期待しています。

社員が各種研修での学びを現場で実践し、成功体験で自信をつけて、学習を継続し、上司・部下・同僚で互いにスキルを高めあい、たたえ合う。変化の激しい世の中でも、楽しみながら改善を指向し、健やかな社会づくりのために価値を提供し続ける。そんな姿を実現したいです。近年医療現場で患者さんの症状をVRで体験いただくようなデジタルソリューションの提供も始めており、これからさらに色々なアイデアが出てくるでしょう。

デロイト トーマツ 藤川:

DX人材の育成に課題を抱えていらっしゃる企業は多くいらっしゃると認識していますが、単純に研修だけで知識を詰め込むのではなく、業務にいかに活用していけるか、全社的なDXに寄与するかなど、高い視座をもって取り組んでいく必要があると考えています。そのような観点も踏まえ、今後はデロイト トーマツ グループの専門性を活かした価値提供ができるよう取り組んでいきたいですね。


(左から)住友ファーマ株式会社 引地様、菅原様

<住友ファーマ株式会社の皆さま>


菅原 秀和 様(データデザイン室 兼 IT&デジタル革新推進部)    


原 敬幸 様(人事部)


引地 翔裕 様(IT&デジタル革新推進部)


小森園 千愛 様(メディカルインフォメーション部 育薬グループ)


西岡 大地 様(医薬品質保証部 海外・開発QAグループ)


菅 陽子 様(ファーマコビジランス部 管理評価グループ)

 


藤川 智暁 / Tomoaki Fujikawa
有限責任監査法人トーマツ デロイトアナリティクス
マネジャー

大手システムベンダーにてデベロッパー、ITアーキテクト、PMとして製造業のクライアントを中心に活躍。データ分析チームに移籍後、複数の分析プロジェクトをリードする経験を経て分析コンサルタントとして現職。製造業向けのデータに基づく品質管理改善、異常検知等の経験を有する一方、最近では企業におけるDX推進人材育成やサーキュラーエコノミー実現のためのデータ管理・分析に関する助言も行う。

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