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ナレッジ

人工知能で人間の未来の才能を解き放つ

AIで拡張された能力を持つ事とは

近年における人工知能(AI)の技術的発展とそれに伴う組織のオペレーションプロセス改善、企業のビジネスモデル変革、競争環境の不連続な変化による業界構造の再編成、“The Age of With” がまさしく現在進行形で実現しています。AIドリブンによるタスクの自動化や高度化、業務プロセスそのものの変革により、現在のタスクが陳腐化して時代遅れになり、ビジネスやオペレーションがAIに置き変わることは避けて通れません。その結果、インサイトの導出が自動化され、インサイトに基づく取り組みが行われ、適切なタイミングで適切な人の手に関連情報が届くことになるのです。それでは、どうすれば人間とAIのコラボレーションが実現できるのでしょうか。

本レポートは、”Unleashing talent with the future of artificial intelligence” をベースにデロイト トーマツのプロフェッショナルが加筆した「日本版のコラム」である。

The future of work/仕事の未来を考察する

AIやコグニティブアナリティクス技術を早期に採用する企業の幹部は、熱心な支持者であり続けています。デロイト の State of AI in the Enterprise 2nd Editionによると、これらのアーリーアダブターたちは初期のAIプロジェクトでかなりのリターンを報告しており、今後さらに多くのプロジェクトを計画していると報告しています1。事業や取引の場所がデジタル空間へとシフトしており、さらにエコシステム内の企業間取引やマーケティング・セールス、それを支えるバックオフィス、在庫管理から配送・販売までのサプライチェーンなどあらゆる企業活動がデジタルでつながる潮流が加速しています。さらにはインターネット社会の進展で、交友関係、健康状態、購買に関わる情報にとどまらず、天気や交通など、私たちの生活のあらゆる情報が多岐にわたりデジタル空間内で捕捉されています。このようなデジタル空間へのシフトにおいて、AIの利活用、データの利活用において極めて重要なポイントであり、ビジネスにおけるテクノロジーの利活用を推進する上では決して避けられないポイントとして位置付けられております。

現在、世界規模でAIの開発競争が進んでおり、AIの実社会への実装、普及が進んでいます。AIの普及はさまざまな経済的、社会的問題を解決、緩和する大きな可能性を持つ一方で、賃金格差や失業といった労働問題を中心に不確定な問題が発生する可能性についても懸念されています。AIは、今日の経済の至る所に普及しつつあり2、マクロ要因だけでなく、ミクロ要因までにも影響を与えつつあります。実際、AIを必要とする仕事の割合が2013年から2018年までに450%増加しました。そして専門家たちはAIの導入によって、世界のGDPが15兆7000億ドル増加すると予測しています3

企業がアナリティクスとAI技術を基盤として将来の成功を築きたいのであれば、スキルを調達する新しい方法を検討する必要があることは明らかです。デロイトが2019年に発表したGlobal Human Capital Trends 2019の報告書には、この問題に取り組むための方法がいくつか示されています。これには、従来のフルタイムの従業員ではなく、従来の貸借対照表には記載されていない「ギグワーク」または代替的な労働形態の台頭が報告されています。以前はニッチ産業でのみ提供されていたギグワークは、現在労働力の最大34%を占め、この数字は2020年末までに43%に達すると予測されています。AIと代替的な労働の仕組みが相まって、労働力の増大をもたらしており、組織が仕事の設計方法や労働力の適応方法を根本的に見直すことが困難になっています。この大きな課題に加えて、職場に導入されるソリューションとツールのスピードと複雑さ、そしてAIが単なる技術以上のものであることを理解する必要性があるのです。

一方でテクノロジーの進歩や市場の変化に拠ることなく社会的課題・文化的背景を深く理解し、新しいテクノロジーを創造的に適用することは人にしか出来ないことです。ビジネスの戦略的優位性を高めるためには、人間が持つ想像力、共感、好奇心、創造性、社会的な倫理感などを含めた “リベラルアーツ” を用いて、時には新たなプロダクトやサービスに対する社会の受容に伴う批判的な思考を受け入れながら、AIと協調する文化を育てることが大切であることが再認識されています。 言い換えると、AIの浸透とともに人とAIが一体となって業務を遂行する人間中心設計(HCD;Human Centered Design)としたシステムがこれからの時代には必要とされているのです。

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Jobs of the future/将来の仕事

AI能力を持つ人材への需要が集中していることが、”The Age of With”における大きな課題です。デロイトのState of AI in the Enterprise 2nd Editionの調査では、アーリーアダプターの31%がAIスキルの欠如を懸念しています4。私たちはグローバルで掲げているコンセプトである”The Age of With”のうち、“Age”を「社会」と意訳しました。これは、昨今のCOVID-19を起因とする New Normal(新しい日常)への転換など、前例のない社会課題に取り組むためには、前述の通り、人とAIが協調する共同体や企業組織への変革にデロイトが大きく貢献していくと言うメッセージがより直接的に伝わると考えたからです。つまり、「The Age of With 人間とAIが協調する社会」の概念により、デロイトは、真のデジタル変革(dX)を実現するのです。

現在、世界のAI専門家の数は22,000人強と推定されており、雇用の増加は資格のある人材の供給を上回っています5。企業がAIと分析技術を基盤として将来の成功を築きたいのであれば、スキルを調達する新しい方法を検討する必要があることは明白です。デロイトのGlobal Human Capital Trends 2019では、代替労働者の「ギグワーカー」を見つけることを含め、これに取り組むいくつかの方法を示唆しています。例えば、AIを利用したチャットボットからビデオインタビュー、ターゲットを絞った求人広告まで、さまざまな技術を戦略的に活用するアプローチ6もう1つのアプローチは、この分野で優秀な人材を見つけ、維持する能力の高いAI技術ベンダーとの提携です。例えば、Googleは2017年に世界最大級のデータサイエンス専門家ネットワークであるKaggleを買収しました。

人間の労働者が仕事を増やし、より高いレベルの機能を果たし、より良い情報に基づいた決定を下すことができるようにすることで、職場におけるAIが仕事をより意義深いものにする可能性があります。AIは人間がこの共同作業にもたらす経験・判断・共感を、テクノロジーができることの最良の部分と融合させる新たな働き方を生み出すことができるのです。デロイトの調査によると、調査対象となった経営幹部の78%が、AIをベースとした従業員の増強が新しい働き方を促進すると考えています。組織は、従業員の満足度を維持し、職場に関連する労働力スキルを開発し、育成することに焦点を当てる必要があります。この労働力スキルには、人間の経験に関連するスキル、複雑なシステム思考、仮説に基づいた問題解決などが含まれます。生涯学習者を支援するためにも、組織は準備をしておくべきです。

一方で人々は新しいスキルを学び、仕事の責任を進化させる機会を常に求めています。例えば、デロイトのGlobal Millennial Survey 2019では、ミレニアル世代の2人に1人(49%)が今後2年以内に現在の仕事を辞める予定で、そのうち63%が昇進の機会や学習・開発の不足に不満を持って退職を計画していることが明らかになっています7。このような背景から、AIが強化された職場で従業員が成長するスピードを維持することは、従業員を幸せにし、会社に留まらせるための重要な方法だと言えます。AIはテクノロジーが実現することの最良の部分と、人間がこの共同作業にもたらすものとを融合させる新しい働き方を生み出すことができる新たなツールとしての役割も果たしていく事でしょう。

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In the Age of With, which human skills are irreplaceable?/かけがえのないヒューマン・スキルとは?

これは、ビジネスとアカデミアのリーダーたちが取り組んでいる根本的な問題です。私たちは、人間とAIのコラボレーションのこの初期段階において、永続的な人間のスキルが何であるかを理解し始めているところです。

デロイトの調査によると、調査対象となった企業の62%が自動化を積極的に使用しており、トランザクション型の作業を排除して反復的なタスクを置き換えていること、47%が生産性を向上させるために既存の作業方法を強化していること、36%が作り直していることを明らかにしています8。日常的な作業の実行において、機械が人間の代わりとなるにつれ、ジョブは進化し、人間のスキルと能力の新しい組み合わせを必要とするようになっているのです。

人工知能 (AI) の進歩が続いているとはいえ、人間が特に得意とするスキルにはAIはまだまだ追いついていません。そのスキルの1つは共感する能力、もう1つは複雑な問題解決です。

人間のスキルである想像力は、心的な像、感覚や概念を、それらが視力、聴力または他の感覚を通して認められないときに作り出す能力と定義されており、今日の機械には真似できないスキルです。非常に斬新かつ直線的でない方法で考える私たち人間の傾向は、機械でできることが証明されているような「答えを導き出して問題を解決する」というアプローチだけでなく、どの質問に答える価値があり、どの問題に解決する価値があるかを優先させる力を与えてくれます。

しかし、機械がどのように進化していくのかを予測することは不可能です。デロイトとの会話の中で人間と機械がどのように連携していくのかについてMITのトーマス・マローン教授は、数百年前には、人間しか算数ができなかったことを指摘しています。しかし、機械が人間よりもはるかに優れた算数を行うことができるようになった今、私たちはもはや算数の計算を人間のような活動とは考えていません。このように、かつては人間にしかできなかったことをAIが行うようになると、それまで人間の仕事と捉えられていたことが当たり前のようにやめる日が来るでしょう9

AIソリューションで満たされた職場において必要とされる不変のヒューマンスキルを特定することは、難題ではありますが必要な仕事です。人間の関与の必要性が失われることはなく、想像力のような強力で奥深い能力の価値は過小評価できません。結局のところ、相対性理論の表舞台に出てこなかった科学者でさえ、「芸術家は想像力を自由に働かせることができる。」と自負していたのです10。このように、AIの進歩が続いているとはいえ、人間の関与の必要性はなくならず、自ら周りの問題を自分の危機として捉え、「新しいもの」概念を創り出す、「新しいサービス」を創設する,「新しい組織形態」を創造する等々,“新しい何かをカタチにすると言った、”創造性”は人間が特に得意とする領域であり続けます。

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1. Deloitte State of AI in the Enterprise, 2nd Edition, 2018.
2. The AI Index 2017 Report, AI Index Steering Committee, One Hundred Year Study on Artificial Intelligence (AI100), Stanford University, Stanford, CA, November 2017.
3. PwC Sizing the prize: What’s the real value of AI for your business and how can you capitalize?, 2017.
4. Brad Smith, Intuit,
https://money.cnn.com/2017/05/24/news/economy/gig-economy-intuit/index.html, May 24, 2017.
5. JF Gagne, 2019 Global AI Talent Report, Element AI, 2019.
6. Deloitte State of AI in the Enterprise, 2018
7. Deloitte Global Millennial Survey, 2019.
8. Deloitte Global Human Capital Trends Survey, 2019.
9. Jim Guszsza, Jeff Schwartz, “Superminds: How humans and machines can work together,” Deloitte Review, Issue 24, January 28, 2019.
10. George Viereck, “What Life Means to Einstein: An Interview by George Sylvester Viereck,” The Saturday Evening Post, October 26, 1929.

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