最新動向/市場予測
銀行・証券業界 2023年の見通し
顧客の変化や新たなプレーヤーとの競争、社会の変革に対応するための準備が肝要
金融業界を取り巻く環境や最新の動向を踏まえ、事業分野ごとに将来の見通し・影響を及ぼす要因・金融機関が取るべき打ち手を解説します。
本レポートのトピック
■キーメッセージ
■これまで以上に脆弱で不安定な世界経済に備える
■リテールバンキング:サービス提供と顧客エンゲージメントの新しい方法を構想する
■消費者向け決済:取引の流れにとどまらない深い経済的関係を引き出す
■ウェルスマネジメント:業績向上のための新たな策を生み出す
■コマーシャルバンキング:インサイトやデジタルツールで強化された新たなサービスモデルを設計する
■トランザクションバンキング:未来の世界的な資金の流れを形作る
■インベストメントバンキング:忍耐と創意工夫で困難を切り抜ける
■市場インフラ:差別化された価値の源泉を生み出すことで、新たなアイデンティティを切り開く
■巻末注
キーメッセージ
・今の世界経済は脆く、荒波の中にある。大半の銀行は健全な経営基盤を維持しているものの、ロシアによるウクライナ侵攻、現在も続くサプライチェーンの混乱とエネルギーショック、長引くインフレ、そして金融引き締め政策は、今後の金融業界全体に不規則な影響をもたらす。
・一方、地政学的リスクの高まり、脱グローバル化、決済システムの細分化が、世界を新しい経済秩序に向かわせている。
・これらの要因は、世界の資金の流れに影響を及ぼすことになるであろう。資本や流動性の需要(いつ、どこで、どの様に需要が高まるか)や金融システムのアクター同士の関わり方が今後変化していくと考えられる。
・こうした未知の領域を乗り切るために、銀行は従来の商品、サービス、業界の垣根を見直し、新たな価値創出の源泉を生み出さなければならない。そのような機会は、組込型金融、資産のトークン化、金融テクノロジー、デジタルアイデンティティ、グリーンファイナンスなどの様々な領域で見出せるかもしれない。既にこの取り組みに着手している銀行がある一方で、多くは後れを取っているのではないであろうか。
・パンデミックによって試された銀行経営陣の信念が、再度試されようとしている。そのような状況でも、銀行は、新しい世界経済秩序における金融仲介機関としての自分たちの役割を見失ってはならない。
将来の見通し
世界の銀行業界における今後の見通しは、短期的には混乱が続きそうである。そのような見通しも時間の経過とともに改善していくが、その動向は国によって異なる。
特筆すべきは、銀行・証券業界に属する様々な事業は、マクロ要因からそれぞれ異なる影響を受ける可能性が高いことである。例えば、リテールバンキングの2023年の業績は、金利引き上げによる純金利マージンの拡大を背景に好調に推移すると予想されるが、インベストメントバンキングについては、引受およびM&Aアドバイザリー活動の低迷により業績はおそらく好悪入り混じったものになるであろう。
とはいえ長期的な視点では、各事業が、商品、業界、ビジネスモデルの枠を越えた新たな価値の源泉の探求といった共通のテーマを掲げている。
執筆者
梅津 翔太/Shota Umezu
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ディレクター
外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。金融業界を中心に、中期・長期経営計画策定、DX戦略策定・実行、新規事業立案、営業戦略立案、デジタル業務改革など、幅広いテーマのプロジェクトに従事している。著書に『デジタル起点の金融経営変革(中央経済社)』、『地銀”生き残り”のビジネスモデル~5つの類型とそれらを支えるDX(中央経済社)』がある。また、講演・寄稿実績多数。
藤田 健太/Kenta Fujita
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアコンサルタント
日系メガバンクでの法人顧客向け営業・トレーディング業務及び日系証券会社での仕組債ストラクチャリング業務を経て現職。金融業界を中心に中期経営計画策定、営業戦略立案~実行支援、成長戦略立案、業務効率化支援 等に従事。
日本証券アナリスト協会検定会員