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資本効率性重視の経営における財務リスク管理のフレームワーク

資本効率性重視の経営における財務リスク管理のフレームワークについて、図解を用いて詳しく解説します。

1. 資本効率性重視の経営へのシフト

2014年度末が近づき、今後の経営上の目標に関する様々な声が聞こえはじめてきている(図表1)。これらの中で、筆者が着目しているのは、資本効率性重視の経営へのシフトである。これまで日本企業は、景気低迷により惹起され得る資金流動性の低下に備え、現預金残高を増やし、資本を厚くする傾向を示してきたが、資本効率性重視の経営はこの傾向とは異なるものであると考えられるためである。

図表1: 2014年度の状況と2015年度におけるアクション

2. 資本効率性を高める財務戦略の難しさ

資本効率性の指標として、例えば自己資本利益率(ROE)を考えてみる。ROEは、純利益を自己資本で割ることにより計算される。したがって、ROEは、純利益の増加や自己資本の圧縮により増加する。資本に着目すると、自社株買い等により資本を圧縮する方法が考えられる。
ここで財務部門がまず気になるのは、どの程度まで資本を圧縮するのか、言い換えると、どの程度の資本の厚みを維持していれば、リスクが顕在化した場合においても財務の健全性を維持できるのか、ではなかろうか。2007年の米国サブプライム問題に端を発した100年に一度ともいわれる金融危機により、金融機関が融資枠を絞り、資本の薄い企業が痛手を負ったことはまだ記憶に新しい。しかし、何が起こるか分からないという将来への不安、100年に一度ともいわれる危機の再来の不安に苛まれ、資本を圧縮せずにいると資本効率性は改善しづらくなろう。それでは、どのように万が一の危機に対する不安を解消するのか。筆者は、この「万が一」の危機における損失をロジカルに定量的に把握することこそが、不安の解消に繋がると同時に、厚い資本のうち「余剰」と考えられる部分の把握、ひいては従来の財務リスク管理を超えた新しい枠組みを導入するうえで重要なのではないかと考える。

図表2: 資本圧縮と余剰資金分析のイメージ

3. 財務リスク管理のアプローチ

~「万が一」の事態における不利益をどのように見積もるか~

リスク管理の分野では、リスクという言葉を、不確実性と定義することが一般的である。この「不確実性」には、何が起こるか分からないといった将来の不確実性が該当する。財務リスク管理のアプローチの一つとして考えられるのは、一定の前提のもと、(1)避けたいが起こる可能性のある危機とその危機を引き起こす要因を識別・特定し、(2)許容できる危機の程度を経営戦略等に鑑み決定・設定し、(3)要因と危機とをロジカルに説得力を持って結び付け、「万が一」の事態に備える、という枠組みを構築することである。そして、「万が一」の危機の程度が許容限度を超える場合には、(4)として、許容限度を超えないような対応を検討する必要がある。また、財務部門が所管する事項の特定も重要である(例えば、財務部門は為替レートや部材価格の変動をカバーする等)。
そして、この財務リスク管理に関する枠組みの構築において最も重要なのが、経営陣も含めた全社レベルでのコミュニケーションである。自社が晒されているリスクは何か、その中で財務部門がカバーするリスクは何か、将来についてどのような前提を置くのか、といったことは、財務部門のみで決められる性質のものではなく、全社レベルで決定し共有することが重要である。

図表3: 財務リスク管理のアプローチ

4.既に始まっているリスク管理フレームワークの構築

こうしたリスク管理の枠組みは、金融機関では一般にされているものであるが、一部の事業法人においても浸透してきている。具体的には、経営陣とのリスク許容度の共有や、リスクに晒されている金額(エクスポージャー)の把握と管理方法の策定などといった全社レベルのものから、個別事業のリスク管理に関するもの(例えば、部材単価の変動性が高く、その結果事業収益が変動しやすいのだが、財務部門として、変動性の低減にどのように貢献できるかといった事項)まで検討が行われてきている。
どの程度まで精緻な枠組みを構築するのかは、商流や資金流の特性、リスクの量、財務部門が有するリソース等に拠るであろう。しかし、まずは自社が晒されているリスクの識別と特定をしっかりと行い、避けたいが起こる可能性のある危機がどの程度なのかを把握した上で、資本効率性の改善の方向性を議論することが重要であろうと筆者は考える。

(当該記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではないことをお断りしておく)

著者: 有限責任監査法人 トーマツ 金融インダストリーグループ 
マネジャー 山内洋幸

4. 既に始まっているリスク管理フレームワークの構築

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