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リスクナレッジの進化と保険ERMの発展

リスク社会は常に変化し、保険ERMも常に進化させるもの(2015.7)

リスク社会は常に変化しているからこそ、保険ERMも常に進化させていかなくてはいけない。そのためには、保険ERMを的確に実践していく必要があり、リスクについての知識を深めなければならない。

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我々が身を置いているリスク社会は、常に変化している

保険ERMには、「リスク」と「不確実性」の峻別が重要
  • 地殻変動エネルギーの蓄積、グローバル経済の不均衡やバブルの発生、科学技術の進展がもたらす新たなリスクの登場(ex.気候変動等)等、様々な変化が起きている。これらの変化は、企業活動にとって、当初想定した環境やシナリオと現実が乖離することを意味し、技術革新、規制や法的責任の変化、地政学的変化、金融危機、自然災害の発生等による変化に基づき、戦略や事業計画の見直しを迫る。
  • 今日、リスク管理は業種のいかんを問わず重要な経営技術と位置付けられている。しかし、保険会社は、契約者のリスクを引き受けることを業としているため、どの企業よりも、リスクの変化に敏感でなければならない。
  • 保険会社が保有しているリスクポートフォリオは前述の通り常に変化している。保険ERMを的確に実践するためには、「リスク」と「不確実性」を峻別して考える必要がある。

保険リスクには不確実性が介在している

「リスクは繰り返す」のか「リスクは変化する」のか
  • 将来を正確に予測することはできないため、リスクをゼロにすることはできない。しかし、リスクをより的確に理解し、その管理を高度化することでリスクを的確に管理することは可能である。
  • 不確実性(Uncertainty)は事象が確実でないことを指す用語である。経済学では、経済主体が将来事象に対していかに合理的に期待を形成して意思決定を行うことができるかという観点から、生起確率が計測できる事象を「リスク」と呼び、それが難しい事象を「不確実性」と呼び区別している。
  • 保険の対象は、「リスク」と呼びうる事象であるが、リスクを完全に把握することは難しい。
  • 「リスクは繰り返す」と言われる。また「リスクは変化する」とも言われる。東日本大震災は、少なくとも当時、中央防災会議などの機関によって想定されていない規模の災害だった。保険会社が引き受けているリスクの中には、このように不確実性が介在していることを十分認識する必要がある。

リスクの把握には限界がある

現実の意思決定という点の留意
  • 東日本大震災を例に振り返ってみたい。地震や津波の痕跡が堆積物の調査から明らかになっており、遠い昔の痕跡からは東日本大震災規模の地震発生も予測された。その意味では、「リスクは繰り返された」ことになる。
  • ここに非常に難しい問題がある。現実のリスク管理は、一定の時間軸を意識し、かつその時点の社会の価値観、技術水準や経済状況を踏まえて判断されることが多い。現実に、我々の意思決定は、その一般的フレームワークで判断している。意思決定の枠組みを前提にしたリスク評価であることに留意が必要である。
  • 保険ERMの進化を検討する際には、保有しているリスクに対するナレッジを高めていく必要がある。現在利用している情報の限界にも関心を払わなければならない。

リスク評価モデルは、現段階のナレッジの集大成である

リスク評価モデルには、確率論的アプローチが使われる。ここで自然災害モデルについて考えてみたい。

自然災害リスク分析モデルは、複雑な物理現象を表現するものであり、その信頼性も、地震や台風等の複雑な自然物理現象や、これらの外因による建物等の財物への影響の理解に大きく依存し、これらが未だ全て解明されているわけではない。しかし、観測技術やコンピュータ計算技術の進歩にも助けられ、関連情報や知識を蓄積することにより進化してきた。

現在の自然災害モデルは、自然災害の外因の強度を評価するハザードモジュールと、各イベントの各地点における物理的損害を評価する脆弱性モジュールで構成されている。その上で、各種保険条件下で評価するためのファイナンシャル・モジュールが用意されている。

モデルは、一定の前提の下で、損害を推定できることや、たとえば台風の経路がずれた場合の予測分析も可能なことから、保険会社、格付け会社、規制当局等が予想損失を評価する際に有益な手段として活用するようになっている。

モデルの限界を承知した対応が必要である

今日の統合的リスク管理の体系では、内部モデルによってリスクを定量化し、保有資本と対比させながら健全性を管理するのが1つの柱になっている。

ただ、企業が抱えるリスクをすべて定量化することは困難である。これは、(1)リスク計測に必要なデータが十分でないこと、(2)仮に計測できたとしても計測に必要なすべてのリスクファクターを考慮することには限界があること、(3)さらにリスクによってはその構造が明らかになっていないものや認知すらされていない不確実性(unknown riskと呼ぶこともある)が存在すること等がその理由となっている。

それ故、新たに入手した情報やデータを使って、定期的にモデルの妥当性を検証する必要がある。また、定性的アプローチ(たとえば、シナリオを描き、そのインパクトを検証する等)で補完していくことが大切となる。

保険ERMは、リスクナレッジを常に高めていく終わりのない活動である

「リスク管理」とは、文字通り「リスク」と「管理」の結合概念である。

リスク管理も、通常のマネージメントと同様に、(1)計画(Planning:P)、(2)遂行(Do:D)、(3)監視(Check:C)、(4)是正措置(Action:A)というPDCAプロセスを継続的に回していく活動です。このプロセスの中で、リスクナレッジを組織として常に高めていく必要がある。

ハザードは常に変化しているため、リスクには不確実性要因が含まれていることを意識しておく必要がある。

不確実性に直面すると、たいていの人は自分の経験に基づく直観に信頼を置く。また、一般に人は自分の判断に欠陥があるという当惑する事実を直視したくないという傾向もある。

このように、リスクに対する現在のナレッジの限界を承知し、我々の意思決定そのものに潜むリスクについても意識しなければ、リスクナレッジを高めていくことはできない。

保険ERMの取り組みが、終わりのない活動と言われる所以である。

リスクマネジメント・プロセス

保険ERM態勢高度化支援サービス

デロイト トーマツ グループでは、保険ERM態勢に関し、基礎的な情報提供から、各社固有の問題解決まで幅広く関わり、Deloitte Touche Tohmatsu Limited(DTTL)のグローバルネットワークを駆使し、最新の情報と豊富なアドバイザリーサービスを提供します。

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(ブロシュア、PDF、384KB)

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