ナレッジ

連載【保険ERM基礎講座】≪第10回≫

「不確実性とERM(その1)」

近年、企業経営を取り巻く環境が大きく変化し、リスクが複雑になりつつあります。デロイト トーマツ グループでは、保険毎日新聞に保険会社におけるERMつまり、「保険ERM」を分かり易く解説した連載をスタートしました。(執筆:有限責任監査法人トーマツ ディレクター 後藤 茂之)

出典:保険毎日新聞(2月18日発刊号)

≪第10回≫ 不確実性とERM(その1)

1. 不確実性と保険制度

保険と不確実性は不可避な関係にある。もう一度基本に戻り、不確実性との関係について整理しておきたい。保険は、多数の者が保険料を出し合いプールし、保険事故が発生し、生じた損失を埋め合わせるため、そのプールから保険金を給付する制度である。ここで、保険の価格(保険料)決定について考えてみる。2つの要件が必要である。1つ目は、保険契約者に支払うことを期待されている保険金コストと保険会社が保険制度を運営するために必要と考えられている期待運営管理コストを用意するのに十分な保険料であること、2つ目は、リスクを伴う保険事業に出資する投資家に対して、期待収益を提供しうる保険料である必要がある。この2つが成立しなければ、経済制度としての保険の仕組みは継続できない。このような保険料のことを、「公正保険料(fair premium)」と呼んでいる。IFRS PhaseⅡ草案(2010年7月)は、保険契約を定義しているが、その前提条件として、保険事故や支払保険金の不確実性の存在を挙げ、次のように言及している。(1)保険事故が発生するかどうか(発生可能性)、(2)保険事故がいつ発生するか(発生時期)、(3)保険事故が発生した場合に、保険者はいくら支払う必要があるか(保険金の水準)である。

2. 経済学からみた不確実性

経済学の視点から保険の意義を整理してみる。保険会社からみれば、前述のとおり大数の法則により、「個の不確実性」を「集団の確実性(安定的な期待コスト)」に変化させることで成立するビジネスである。一方、保険契約者(購買者)からみると、保険事故によって所有する財の価値の毀損や死亡・疾病による収入の喪失といった価値変動にさらされずに済むという効果を得るために、保険を購入する。いわばリスク回避型の保険契約者が、リスク中立型の保険者との間で結ぶ危険分散取引とみることができる。1921年にフランク・ナイトは、われわれの直面する不確実性、つまり確率的状況(probability situation)を3つのタイプに区別した。それは、サイコロの「1の目」の出る確率が1/6のように数学的命題として捉えうる状況(第1のタイプ)、過去のデータから統計的・経験的に確率が決まる状況(第2のタイプ)、事例がユニークであり、確率計算が不可能な状況(第3のタイプ)、の3つの分類である。(図表参照)

3. 保険リスクにおける不確実性要因

保険会社が引き受ける危険は、ナイトの分類上は、確率論・統計学的に表現可能なリスクではあるものの、利用可能な過去のデータですべての将来を説明できるものではないため、実際の保険会社が抱えているリスクには不確実な要素が内在している 。それ故、リスクポートフォリオの多様性を高めることにより、不確実性の要因を相殺(分散効果と呼ぶ)して、その影響を低下させる努力を行っている。

4. ORSAプロセスへの参考

保険会社が引き受ける危険は、ナイトの分類上は、確率論・統計学的に表現可能なリスクではあるものの、利用可能な過去のデータですべての将来を説明できるものではないため、実際の保険会社が抱えているリスクには不確実な要素が内在している 。それ故、リスクポートフォリオの多様性を高めることにより、不確実性の要因を相殺(分散効果と呼ぶ)して、その影響を低下させる努力を行っている。。

 

※つづきは、PDFよりご覧ください。

(PDF、1,595KB)

ナイトの不確実性の3分類

出典: 酒井泰弘『ケインズ対フランク・ナイト』2015年、ミネルヴァ書房、P.89の表をベースに執筆者が一部補足説明を追加した。

保険ERM態勢高度化支援サービス

デロイト トーマツ グループでは、保険ERM態勢に関し、基礎的な情報提供から、各社固有の問題解決まで幅広く関わり、Deloitte Touche Tohmatsu Limited(DTTL)のグローバルネットワークを駆使し、最新の情報と豊富なアドバイザリーサービスを提供します。

保険ERM態勢高度化支援サービス
(ブロシュア、PDF、384KB)

保険業界における支援サービス

保険インダストリー関連サービス
(ブロシュア、PDF、212KB)

お役に立ちましたか?